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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
結録天
42/70

ワンサイドゲーム

 ―バーリングの町の端

 「なんで・・・、この人形って戯縫天(シュフクトール)の・・・・・・。」

 「逃げたくせに・・・、追ってきたのかよ!」

 ゆらゆらと覚束ない足取りでゆっくりと近づいてくる人形。関節なんてものは当然無く、長い腕をぶら下げ、妙にリアルな髪の毛と左右非対称の目玉は恐怖心を冗長させる造形をしている。

 でもこれは戯縫天に人形にされた紛れもない元町民。もしかしたら私が会話を交わしたことのある人かもしれない。そう思うと、人形にされて人を助けることができないと分かっていても闘うには足がすくむ。


 やらないと・・・。私が倒さないともっと多くの人が傷つく。

 私が闘わないと・・・・・・・。


 「・・・桜。」

 震える私の肩に温かい桐香の手が触れた。


 「大丈夫。この人は私が葬るから、桜は先に行ってくれ。」

 「桐香・・・。」

 それでも桐香は優しく笑って、人形に向かって1歩歩を進めた。


 何をやってるんだ私は・・・

 桐香に1人で行かせないって決めたのに・・・!


 「桐香!」

 「・・・!?」

 私は意を決して駆けだして、桐香の横を通り過ぎて人形に向かった。

 刀を抜き、人形が右腕を振り上げるよりも速く体を滑らせ、片足を斬り落とす。バランスを崩して体が傾いたタイミングで思い切り首を斬り伏せた。


 「桜・・・・・・・。」

 「桐香ごめん! また1人で行かせようとした。でも、もう大丈夫だから! もう桐香1人に苦しみも痛みも押しつけたりしないから!!」

 「・・・! ・・・ありがとう。じゃあ、お願いしようかな。」

 「うん!」


 もう逃げない。ちゃんと桐香と並んでこの未来を進むんだ。


 「さっきも言ったけど、とにかく町の人たちの安全を確保しよう。でも、戯縫天だけは気をつけて。」

 「わかった、急ごう!」

 それから私たちは改めて二手に分かれ、私は教会の方に向かった。


 +++


 「はぁ、はぁ・・・、熱い・・・・・・・。」

 町の端から教会まで走って10分くらい。戯縫天はみんなには見えないからその気になれば町の人全員を人形にすることだってできる。でも果たしてそこまでするだろうか。あくまで目的は私たちだから全員見つける労力は掛けないはず。だったらまだ生き残ってる人が・・・。

 「おい! そこの人、助けてくれ!」

 「・・・はい!」


 考えながら通りを走っていると、倒壊した建物から人の声がした。

 「足が挟まってて・・・、って、天使様!?」

 助けを求めていたのは町の若い男の人だった。崩れた瓦礫に足を挟まれて出られなくなってしまったらしい。


 「ありがてぇ、天使様が来てくれるとは俺の運も尽きてないな。」

 「天使ではないですけど・・・、今助けます!」

 男の人は安心したように落ち着きを取り戻した。

 「うー・・・、りゃっ!」

 私は力いっぱい男の人の上にあった家の支柱のような木材を持ち上げてどかした。重かったけど、私1人でなんとかなるくらいだし、幸いにも周りの火が燃え移ってなくて良かった。


 「ふぅ~、助かった。ありがとう!」

 「はい。無事で良かったです。」

 本来だったらこのままどこか安全なところに連れて行くべきなのだろうけど、今この町に安全な場所があるかなんて分からない。もういっそのこと町の外まで行ってもらった方が・・・。

 「なあ、天使さん。あれ何なんだ? あのでかい人形。今日山から戻って家に入ったら中にいたんだ。暴れ回って、襲ってきて、仕事で使う斧なかったら危なかったぜ。」

 男の人は自分の斧を怪訝そうに眺めながら言った。


 「それは、その・・・・。」

 「そうだ! 妹見なかったか!? って言ってもわかんないよな。茶髪で俺より頭1個分くらい背が低い華奢な奴なんだ。いつもは俺が帰る頃には家にいるんだが・・・。」

 「! その・・・、ごめんなさい。あの人形も、妹さんも、分かりません。」

 「そうだよな・・・。う~ん、安全な場所に逃げてりゃ良いんだが。」

 男の人は頭を掻きながら遠くの方に視線を飛ばしていた。

 家にいつもいるはずの妹がいなくて、その代わりあの人形がいた。つまり、そういうことなのだろう。でも私にはそれを告げることはできなかった。


 「とにかくありがとう! 助かった!」

 「・・・はい。とりあえず町の外に向かってください。今は町の中は危険ですので。」

 「そうだな、わかった!」

 男の人は斧を片手に持ったまま私が来た方向へと走って行った。


 もう起きてしまったことに対して何か考えても仕方ない。今は生きている人のことを優先して・・・・・・。


 男の人の背中を見送り、教会に続く道に振り返ると、遠目にまた人形のシルエットが見える。

 「・・・やるしかない・・・・・・。」

 私は刀を握り、駆けだした。


 「とにかく今はこれ以上の犠牲を出さないことに集中するんだ。もう人形は人間じゃない。闘わないと他の人が傷つけられて・・・・・・・!?」

 そう自分に言い聞かせ、ひと思いに斬り倒そうとその姿がはっきり捉えられるところまで接近したところで私の足は思わず止まった。


 「・・・クレア、さん・・・・・・・?」

 遠くに見えていた人形。金色の糸で編まれた髪に綺麗な青いガラスの瞳。修道女のような黒い衣装は嫌でもクレアさんを連想させる。


 「嘘ですよね・・・。そんなはずないですよね、クレアさん・・・・・・。」

 当然、その人形は私を見ても一切表情を変えることなくゆっくりと私の目の前まで歩いてきた。


 「クレアさん・・・、クレアさん!」

 人形はそのまま右腕を振り下ろす。

 私はそれを避けることができず、腕を頭上で交差させる形でなんとか受け止めるしかなかった。


 「いくらなんでも酷すぎる・・・。嫌ですよ、私。クレアさんと闘いたくなんかない・・・・・・・。」

 そんな私の声を歯牙にも掛けず、人形は左足を引いて、私の腹を蹴り上げた。


 「・・・げふっ・・・・・・・。」

 数m先で呼吸が止まる。


 「はぁ・・・、クレアさん・・・・・・・。」

 視界が滲む。やっぱり私は弱い。いつもいつも後手に回ってばかりで、危機に気づいた頃にはもう遅い。


 「・・・クレアさんはいつも私たちを一番気遣ってくれました。いきなり知らない世界に来て、右も左も分からない私たちを優しく支えてくれた。服も食事も、クレアさんがいなかったら今の私たちはいなかったと思います・・・・・・・。」

 再度、刀を握り立ち上がる。

 

 ・・・相手が誰だろうと闘わなくちゃダメなんだ。


 「クレアさん。ごめんなさい、心配かけて。短い間でしたけど、本当にお世話になりました・・・。」

 私は覚悟を決め、力の限り人形の胴体を斬り裂いた。

 斧で削られたように人形はゆっくりと後に倒れて、それ以上立ち上がることはなかった。


 「・・・ふぅ。」

 私は深く息を吐き、刀を鞘に収めた。


 「・・・早く戻らないと。」

 

 そして再び教会に向かおうとしたとき、ガシャンっ!とは後から衝撃音がした。


 「・・・・・・。」

 振り返るとそこには今までよりも少しふくよかな人形がいた。

 

 「また・・・・・・。」

 もう一人いたのか、と近づこうとしたとき、続けざまに他の建物からも同じ音が響く。

 

 「・・・!?」

 気づけば私は5体の人形に囲まれていた。

 人の姿をしたものから虎のような姿をした動物の人形まで、私を見下すように円形に並んでいる。おそらく戯縫天の指示だろう。バーリングは小さな町だけど、もし過半数の人が文字通り戯縫天の操り人形なら、体力的に戯縫天が出る幕もなく私も桐香も人形に負けるだろう。だから、この先闘っていくなら人形を無視していち早く戯縫天を探すべき・・・・・・。


 ・・・でも、私はその選択をとる勇気はなかった。私がそうしている間にもこの人たちは残った町の人たちを襲い、大切だった人も傷つけてしまうかもしれない。死んでも尚、そんな地獄に閉じ込められているんだ。

 「これを見て見ぬ振りができるほど、私はまだ強くない・・・。」

 

 私は静かに刀を引き抜いた。

 「・・・皆さん、私が今楽にしてあげますからね・・・・・・・。」

 私は全身全霊の力を込めて、人形に対峙した。


 「はぁ、はぁ・・・・・・・。」

 許さない。戯縫天、絶対に許さない・・・!


 +++


 「すごいねぇ~、でも桜お姉ちゃんが全員倒すとは思わなかったよ。」

 襲ってきた人形の最後の一人が倒れると同時、いつの間にか通りにいた戯縫天はパチパチと手を叩きながらニコニコと笑っている。


 「・・・不意打ち、しないんだね。」

 「ははは! しないよ、そんなこと! 僕を何だと思ってるのさ~。」

 戯縫天は私の言葉を聞くなり、ゲラゲラと腹を抱えて笑った。


 「はは・・・、まあそんなことは置いといて。始めようか、第2ラウンド。」

 そう言って戯縫天は体の前で手を合わせた。


 「何がゲームだよ・・・・・・。」

 今はこの前と違って2、3歩で戯縫天に手が届く。加えて、周りには人形がいない。客観的に見てチャンスなのは間違いない。でも、桐香の記憶で見た戯縫天は闘簫天(フルーテル)並みの速度で動ける上、あの裁縫針を刺された時点で私は死ぬ。それにあいつが無策で現れるとも思えない。何を考えて・・・・・・。


 「いや・・・・・・。」

 どう攻めるか少し考えようとして、やっぱりやめた。

 私のこの刀じゃ恵や桐香のような器用なことはできない。だったらもう真っ向から行く方が良いかもしれない。

 今は私を信じよう。


 「ふぅ・・・・・・、ぁあ!」

 私は姿勢を低くして構えてから戯縫天との間合いを詰めた。


 「はっ・・・、流石桜お姉ちゃん。」

 水平に払った私の刀を戯縫天は知っていたかのように垂直に跳んで避けた。


 「やっぱり桜お姉ちゃんって単純だよね!」

 「・・・うん。私の良いところだよ。」

 戯縫天はそのまま背中に刺していた大きな裁縫針を取り出して構えた。でも私もそう来るだろうとは予測していた。桐香の記憶と同じ動き。私は素早く刀を逆手に持ち替えてそれを弾いた。


 「・・・!? おっと、いけたと思ったのに。」

 「甘く見過ぎなのよ。言っておくけど、私はあなたの首だけは本気で狙っていけるよ。」

 「はは・・・、恐い恐い。」

 私は私が思っていた以上に未熟らしい。いくら人ではない、法律の範囲外の存在だからって普段の私なら傷つけよう何て思わない。それが人として当然だと思っていたから。でも今、目の前で嘲るように笑う子供の姿をした悪魔が殺したいほど憎い。

 町をめちゃくちゃにして、町の人を殺して、殺させて。恵を殺した。私の未熟な理性じゃこの衝動を抑えることができない。


 「戯縫天・・・、悪いけど私はあなたと話したくもない。」

 私はもう一度戯縫天と距離を詰めた。もちろん決着を付けるつもりで。


 「ははは! いいねぇ、面白くなってきた!!」

 戯縫天は小さい体をぴょんぴょんと弾ませながら何度も私の刀を避ける。でも、どれだけ素早くても闘簫天のような力はない。私はそのまま刀を振りながら壁際まで追い詰めた。


 「許さない・・・。もう逃がしたりはしない!」

 「・・・流石だねぇ、流石僕の最高傑作を一人で壊しただけあるよ。あの村にいた僕のお友達6人も混ぜて作った奴だったのになぁ!」

 「! お前・・・!」

 「ははっ、そうやってすぐ怒る。人間は簡単で助かるよ!」

 戯縫天は私が一瞬冷静さを失ったのを見計らい、私の刀を蹴って、私は刀を落とした。

 

 「はい! 終わり・・・」

 「・・・じゃない!」

 勝ちを確信したように無防備な私に刀を突きつけた戯縫天の左頬を、私は一か八か思い切り殴り飛ばした。


 「え・・・。おかしいな・・・。次はいけると思ったのに・・・・・・。」

 「甘く見すぎって言ったでしょ。自分のことしか考えられない、これだから堕天使は簡単で助かるよ。」

 私は刀を拾い、再度構えた。


 「次こそ、確実に・・・!」

 「ふふ・・・、じゃあ僕も本気で殺しに行くよ!!」

 戯縫天は急激に表情を険しくして、一瞬視界から消えた。かと思えば次の瞬間、私の頭上で針を構えていた。


 「・・・! っく・・・・・・。」

 「はははは! 調子乗りすぎなんだよ、桜お姉ちゃん!! 1人で下位天使1翼も狩れたことないような人間が! 僕に勝てると思うなよっ!!!」

 「・・・まずいっ・・・・・・。」

 戯縫天はまるで血相を変えて、私の回りを飛び跳ねながら何度も針を突き立ててくる。目で追うのがやっとのそれは確かに本気の闘簫天と同等かそれ以上だった。

  

 でも、同じなら私は間近で見たことがある。


 「人間と僕とじゃ、存在の質が違うんだよ!!」

 「でも・・・、だとしても、諦める理由にはならないんだよ!!」

 私は体の前に腕の伸ばして刀を立てた。


 闘簫天と一度闘った。どれだけ速くても、的は私1人。どこにいるかじゃなくて、どこを狙ってくるかさえ分かれば対応できる。

 「・・・え、」

 戯縫天は目の前に突き出た切っ先に、咄嗟に体を仰け反らせてバランスを崩した。


 「・・・ここだ・・・・・・。」

 あまりに無防備な体勢。私はその手の中にある針に向かって刀を振り下ろした。


 「・・・待って!」

 だが戯縫天は体を翻して、自らの体を盾にするように針を守った。ただ、それでも私は戯縫天の左半身を深く斬り裂いた。


 「うぅ・・・!」

 腕を伸ばして私も体勢が悪かったからすぐに追撃はできなかった。

 

 「なんで、なんでだよっ!!」

 一瞬振り返って私を睨んだ戯縫天はすぐに踵を返して逃げだす。


 「なっ・・・、待て!!」

 私は当然その背中を追った。

 また逃げられるかと思ったけど、体が破損し、バランスがとれない戯縫天はトップスピードでは動けないらしい。意外にも私はすぐに追いつき、私はその足を完全に斬り落とした。


 「あぁ!! っぐ・・・。」

 戯縫天は完全に体の制御を失って前のめりに倒れた。

 

 「やっと笑わなくなったね。」

 「待って・・・、待ってよ! 僕、子供だよ・・・?」

 「まだふざけるの? 最期くらいしんみりすると思ったのに。」

 私は構わず震えた声で命乞いをする戯縫天の前で刀を振り上げた。


 「ひどいなぁ・・・、僕だって本気でこんなことしたくなかったんだ、やれって言われたんだよぉ!」

 「・・・・・・。」

 ごめん、恵。遅くなった。今敵討つから。


 「ねぇ! 桜お姉ちゃんっ!!」

 「さようなら・・・・・・!?」

 そう刀を振り下ろそうとしたとき、私は突然背中に大きな衝撃を感じた。気づけば私は地面に突っ伏し、何か大きなものに体を潰された。


 「・・・? な、何・・・・・・?」

 「・・・・・・ぷっ、ふふ、ははははははははは!!!!」

 「・・・?」

 私の真横に視線をやれば、倒壊した建物の瓦礫の間から人形の手のようなものが私に向かって伸びていた。いや、ようなものじゃない。ゆっくりと瓦礫をどかしながら、中から腕の長いうさぎの人形が姿を露わにした。


 「・・・うそ・・・・・・・。」

 「ははっは!! 引っかかったー! ねぇ、ねぇどう!? 僕の演技うまかった!? いや~、念には念を入れとくものだね!! 本当に危ないと思ったよ!」

 「・・・は?」

 血の気が引いていく感覚を鮮明に感じる。

 

 「いやいや、危なかった~。でもやっぱり相手が桜お姉ちゃんで良かったよ。単純で、短期で、僕が劣勢だと思ったら油断する。僕を1人で倒せるわけないじゃん! ばぁ~か!! はははははは!!!!」

 「・・・・・・・。」

 言葉が出なかった。油断した? こんなときに? 馬鹿じゃないか、そんなの戯縫天に何も言い返せやしない。戯縫天の言うとおりだ、私は本当にどうしようもない馬鹿だ・・・・・・・。


 「ははは・・・。じゃ、今度こそ終りね。また僕の勝ち。」

 完全に体が修復しきった戯縫天はそう言って私の前に裁縫針を構えた。


 「・・・やばい・・・・・・!」

 私は必死に人形の腕を斬り、逃れようとしたけど手遅れだった。振りほどいたときにはもう遅く、戯縫天は目の前にいた。間に合わない。針が眼前に迫るのがスローモーションに見え、私は反射的に瞼を閉じた。


 あぁ、死ぬのか私・・・・・・。


 数秒の静寂。私はゆっくりと目を開けた。死んでない・・・? それを悟るとともに、私の目の前で針が止まっていることに気づいた。そしてその理由も。


 「・・・桐香・・・・・・。」

 私を庇うように立つ桐香の背中。その腕には私の額に刺さるはずだった針が深々と刺さっていた。


 「良かった・・・。間に合った。」

 「え・・・・・・・。」

 桐香は私の方を向いて微かに笑った。


 「いつの間に・・・。まあ、いっか。じゃ、バイバイ桐香お姉ちゃん。」

 そう言って戯縫天は突き刺した針を引き抜いた。


 「なんで・・・、何やってんの、きり・・・」

 「よいしょっと。」

 立ち上がって声を掛けようとしたとき、桐香はおもむろに自分の銃の銃口を顎に当てた。


 「・・・何・・・・・・。何してんの!? 桐香!」

 「離れて、桜。巻き込まれるよ。」

 「・・・は?」

 「なぁ、桜も知ってるでしょ? あの針に刺されたら人形になる。そこから元の姿に戻る方法はなくて、ただのあいつの道具になる。」

 「まさか、桐香・・・・・・。」

 「ごめん、せっかく桜が私を助けようとしてくれたのに。でも、私は人形になって桜を傷つけるなんて考えたくもない。」

 桐香はこんな状況なのに申し訳なさそうに私に謝った。


 「そんな・・・、嫌だよ! 待ってよ・・・・・・・。」

 「泣かないでくれ。私はこれでいい。私の人生はろくでもないものだったけど、みんなに会えて私は救われた。私は最期に大切な人を守れたことが嬉しいんだよ。だから、泣くな・・・、桜。」

 「でも、こんな終わり方・・・・・・。」

 そうしてる間にも、無情にも桐香の左腕はボコッと膨れ上がる。


 「・・・もう時間がない。最後にこれだけ。桜、今までありがとう。桜は私に色々背負わせたって言ってたけど、桜の明るさに頼ってたのは私も同じだったよ。それと、無責任なこと言うけど、莉里のこと、あとは頼んだ!」

 「待って・・・、きりk・・・」


 ドンッ!


 っと一発。私が名前を呼ぶ前に目の前で瞬いた閃光と耳を劈くような轟音とともに桐香の首は消えていた。


 「きり、か・・・・・・。」

 「あ~あ、またやり損ねた。まあでも目標の1人は殺せたし、欲張らず今日は退散するよ。じゃあね、桜お姉ちゃん。」


 信じられない。何が起きたのか。頬に付いたこの生暖かい液体は何なのか。


 「桐香・・・・・・・。ああ、あああああ・・・。」


 私のせいだ。私が馬鹿で弱いから桐香が身代わりになった。



 「あああ・・・、あああああああ」


 

 ほんの一瞬だった。私の油断が招いた結末。なのにこの期に及んで現実味がない。まるで夢と現実がごちゃごちゃになったような感覚。

 それなのに、頭の中には走馬灯のようにぐるぐると記憶が巡っている。



 「あああ、ああ……。」



 恵の最期。桐香が引き金を引く前に見せた笑顔。淋しそうなリアの顔。

 全て私の大切なものが壊れる瞬間。



 「あああああ……。」



 もう、嫌だ。




 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ”ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 心が壊れていく・・・・・・。



 第4章―完―

 

  

お読み頂き、ありがとうございます。


第4章完結です。是非感想等くださると嬉しいです。

加えて、作者の都合で2週間ほどお休みいただきます。

ですので次回は12/1投稿予定になります。ご了承ください。

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