表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
結録天
41/70

暗闇の中

 ―ドライヒル

 はっ、と意識が戻ったことを自覚する。

 今のは・・・? 今見たものが桐香の記憶?


 寝起きのようなふわふわとした感覚の中で私は思考が定まらず混乱していた。

 「何も知らなかった・・・。桐香の生い立ちも、恵の最期も、何もかも、全部・・・・・・。」

 ふと池の対岸に目をやると、桐香はまだぼーっと立ち尽くしたまま虚空を見つめていた。


 「あ、もう戻ってきたんだ。はやいね。」

 私は声がした方に反射的に振り返ると、池の中心にある岩に腰掛け、気怠そうに頬杖を突く結録天(アクフィル)の姿があった。


 「堕天使・・・。」

 単なる夢ではないだろう。今まで私が見ていたものはこの結録天に見せられたもので、おそらく桐香はまだその続きを見せられている。自尊心を傷つけるためか、桐香のトラウマを掘り起こすためか。何にせよ堕天使というものは本当に姑息で醜悪な手を講じてくる。


 私は意識が鮮明になるにつれて堕天使に対する抑えようのない怒りが込み上げてきた。


 「あなた達の目的のは何なの? 人の心を無造作に傷つけて、一体何がしたいの!?」

 私は刀を握り、少し声を荒げた。


 「目的? 目的かぁ・・・、あんまり考えたことないなあ。私はただ人の記憶を記録してるだけだから。強いて言うなら、その人が自分自身の過去に何を思っているのか知りたい、とかかな?」

 「なっ・・・、そんな曖昧な動機で人を襲うの!? ふざけないで!」

 「やだなぁ。私はここに来た人にその人の記憶を再送してるだけだって、勝手に落ち込んで感傷に浸ってるのはその人たち自身だよ? 彼らが心を閉ざすのは私じゃなくて、いつまでも過去に縛られて前を向けない弱いあなた達のせい。」

 結録天は嘲るような表情を浮かべて言った。


 「悪気はないって、何それ? 今、あなたが私に見せたものなんてそれこそトラウマを再燃させるようなものじゃない!!」

 「だって、それは君たちが私を消そうとするからでしょ? だから君たちには少し意地悪させてもらったよ。とはいえ、私があなたに見せたものは紛れもない事実。それを酷いとかトラウマだとか、それこそ、そこにいるお友達に失礼だと思わない?」

 「・・・っ、それは、そうだったかもだけど・・・。それでも桐香は前に進もうとしてたんだよ! 過去を受け入れて、恵と、私たちと一緒に未来に向かって歩こうとしてたんだよ! もうこれ以上桐香の邪魔しないでよ!!」

 私は思いのまま叫び、姿勢を落として刀を構えた。


 「・・・所詮、人間。どんな言葉を口にしても君もそこの子も過去に囚われたまま、全てを糧にすることなんてできない。君がどれだけ未来に進もうとしても、決して過去は君を離しはしない。変えられない過去は一生君たちの心に救い続けるんだよ。」

 そう言って結録天はもう一度本のページを捲った。


 最初から話し合いの通じる相手だなんて思っていない。ただ、怒りのまま素性も知らない相手に攻撃するのが私の性に合っていなかっただけだ。


 でも、もういい。

 「やっぱり私とあなた達は敵同士だ。」

 「・・・!」

 私は一蹴りで結録天の所まで跳んだ。なんだかいつもより体が軽い。感覚的には闘簫天(フルーテル)と闘ったときに近い感じだ。


 「君たちの力なら知ってるよ。1対1とは言え、私じゃ勝ち目はないだろうね。できればさっきので戦意喪失してくれれば良かったんだけど。」

 一瞬驚いた様に見えた結録天だったが、すぐに冷静にふっと私から遠ざかる方向に翼を広げた。


 「逃がさないっ!」

 私の刀をそのまま振り下ろそうとした。


 なんとなく、今ならできる気がする。


 「・・・っ天墜!!」

 「え・・・?」

 空を切った刀の刃なぞるように結録天の右腕と翼が切断される。結録天はそれが意外だったのか、目を丸くし、そのまま為す術なく水面に背中を打ちつけた。


 「なんで!? ここまで使いこなせてなかったのに・・・!」

 結録天は慌てたように左手に持っていた本を開いて凝視した。

 何でかと言われても私にも分からない。でも今はどうでもいい。

 「何があっても、私はあなたを倒さなくちゃいけない! 私の友達を助けるために、これ以上失わないために・・・!」


 思っていたよりも池は浅くて、私の腰くらいの水位しかない。私はバシャン!と水飛沫を上げながら結録天に馬乗りになり、首に切っ先を突きつけた。


 「はは・・・、首を切ったって私は死なないよ。私は・・・。」

 「その本でしょ?」

 「・・・、どうして・・・・・・。」

 「馬鹿な私だっていい加減分かるよ。闘簫天も奉燐天(ディストール)戯縫天(シュフクトール)も、その異能を使うときに使ってた道具がそのまま本体だった。あなたの場合、さっき私と桐香に記憶を見せたことがそうなんでしょ?」

 「・・・。・・・正確には異能じゃなくて権能。どうでもいいけどね。」

 結録天は諦めたように両腕を広げ、抵抗をやめた。


 「そこまで分かってるなら早くとどめ刺したら? もしかして、まだ躊躇ってる?」

 刀を握る私の手は震えていた。この期に及んでまだ人の形をしたものを傷つけるのが恐いらしい。自分でも呆れる話だ。


 「・・・はっ。そんなんだから誰も守れないんだよ。君は友達をさも命より大事な存在みたいに語るけど、その友達を殺した奴の仲間くらい躊躇なく殺しなよ。君、本当はそんなに友達のこと・・・」

 「うるさいっ!」

 私はそのまま刀を首に突き刺した。


 「私が弱くて臆病なことは私が一番分かってる・・・。だから桐香は全部抱え込もうとしちゃうんだ・・・・・・。」

 私はもう一度刀を抜き、振り上げた。


 「だから、私はこうして闘わなくちゃいけないんだ!!」

 刀が水面を叩くとともにボロボロになった紙切れが宙を舞う。

 闘簫天のように体が朽ち、消えてゆく中で結録天が一言小さく呟いた。


 「これで痛み分けだね。」



 「桜・・・。」

 振り返ると桐香は夢から覚めたような虚ろな眼差しで私を見ていた。

 「桐香!」

 私はそのまま池を渡って、対岸の桐香の肩に抱きついた。


 「桐香ごめん! 私何も知らなかった、知ろうとしなかった・・・。桐香が苦しんでることも、恵のことも何も・・・・・・。ごめん・・・!」

 「・・・・・・。」

 桐香は静かに私の肩を優しく抱いてくれた。


 「・・・別に桜は悪くない。桜は知らなくて良いから私は話さなかったんだ。」

 「でも、私は全部桐香に背負わせて・・・。」

 「そんなことない。私は桜たちがいたから頑張って来れたんだよ。みんながいたから重い荷物だって背負って来れたんだ。」

 桐香は私の肩を掴み、目を合わせてそう言った。


 「それに、桜が私のどんな記憶を見たのか知らないけど、私は桜が思ってるほどいい人なんかじゃない。」

 「え・・・。」

 「冷たい人間だって思うかもしれないけど、あの日、白ローブが莉里は死ぬんだって言ったとき、私は「またか」って思ったんだよ。また私の近くから大切な人がいなくなるんだって。もちろん悲しくないわけじゃないけど、私にとってそれは何度も経験してきたことで、今回も、友達の命をそんな軽い言葉で諦めようとしたんだよ・・・。」

 「桐香・・・。」

 桐香は自分で左腕をぎゅっと掴み、俯いて話した。


 「でも、桜と恵は違った。2人はあの、何も分からないような状況でも莉里を助けようって前を向いてた。私はその時、改めて自分の弱さに嫌気が差したよ・・・。」

 桐香は唇を噛みしめ、頭を下げた。


 「だから、ごめんって言わなくちゃいけないのは私の方なんだ・・・。」

 「桐香、でもそれは・・・。」

 「でも、だからこそ私は桜と恵を守らなくちゃって思ったんだ。あの白ローブが何者なのかは知らないけど、私がいた世界の神様は決して甘い救いをくれたりはしないことは知ってる。莉里の命を救うならきっとそれ以上の代償を要求してくる。だから私は2人が私と同じ思いをしないように、運命に殺されないように、残された親友を救いに異世界に行ったんだよ・・・!!」

 桐香はぼろぼろと涙を流しながら胸の内を吐露した。


 「なのに・・・、それなのに、私は恵を守れなかった・・・・・・。」

 桐香は膝から崩れ落ち、うずくまるように地面に手をついた。


 「・・・桐香。ありがとう、話してくれて。ずっと私たちを守ろうとしてくれてたこと伝わってたよ。」

 だから私も胸の中にあるものを全て吐き出そうと、桐香と同じく地面に膝をついた。


 「でも、だからって何でもかんでも自分のせいにしないでよ。確かに私は桐香ほど頭も回らないし、動きも鈍いけど、それでも桐香の助けになりたいって思ってるんだよ?」

 桐香は私の言葉を静かに、頷きながら聞いてくれた。

 「だからさ、恵のこともこれからのことも私に半分背負わせてよ。1人で抱えきれない荷物だって、2人で半分こすればきっと歩いて行けるよ!」


 私は腰を上げ、桐香の顔の前に手を広げた。

 「ほら、帰ろう? そしてこれからは2人で絶対に莉里を助けよ!」

 「・・・うん、ありがとう・・・・・・。」

 桐香は私の手を取ってくれた。その手は酷く震えていて温かかった。


 その場しのぎの慰めの言葉なんかじゃない。これは私の本心で、同時に私自身を戒める言葉でもある。これからは誰かの優しさに甘えたりしない。私自身が桐香を支えられるくらい強くならなくちゃダメなんだ。


 +++


 ドライヒルからバーリングまでゆっくり歩いていたら町が見えてくる頃には空が少しだけ明るくなり始めていた。気づけば結構長いこと眠らされていたらしい。

 「クレアさん、心配してるかな?」

 「だろうね。行き先しか伝えてないのにこんな時間だから。」

 山を下り、平原をしばらく進むと、町の輪郭が段々はっきりとしてくる。


 「・・・ん?」

 と同時に、私はその町並みに違和感を覚えた。


 「ねぇ、あれ・・・。」

 「うん。なんだろう・・・。」

 横を見ると、桐香も同じ思いのようだ。バーリングの方が妙に明るい。それもお祭りのような賑やかなものではなく、明らかに不自然な感じだ。そして、それとは対照的に町の上空が暗すぎる。


 「これって・・・、燃えてる!?」

 「あぁ、急ごう!」

 私たちの安堵は一瞬で焦りに変わった。

 道中でアインスに行く前、闘簫天の笛の音に絆された国軍の兵士が町を襲った時のことが頭をよぎった。一体何が起きているのか皆目見当も付かない。でも、今回はあのときよりも悲惨な状況であることは町の目の前まで来たときに思い知ることになった。


 +++


 「何があったの・・・?」

 崩れ落ちる外壁に散乱する窓ガラス。ゴオゴオと音を立てながら燃え盛る炎はまるで町全体を飲み込んでいるかのようで、至る所から町の人たちのものと思われる阿鼻叫喚が微かに聞こえる。地獄絵図とはまさにこのことだろう。

 

 「何が・・・、誰がこんな酷いこと・・・・・・。」

 「と、とにかく町の人たちの安否を確認しよう! 私は町の広場の方に行くから、桜は教会の方に向かって!」

 「う、うん! わかった!」

 桐香も少し焦っているように見える。それでもあくまで冷静に私に指示をくれた。私もさっきの今で桐香にばかり負担を強いるわけにはいかない。なんとか役に立とうと気合いを入れた。


 「よし! じゃあ、行こ・・・・・・。」

 そして桐香の言うとおりに二手に分かれようとしたときだった。

 ガラガラと瓦礫をかき分けて炎が逆巻く建物から何かが出てきた。


 「・・・! ・・・・・・・これって・・・。」

 「なんで・・・、なんでこいつがここにいるんだよ!?」

 それはゆっくりと歩いて私達の行く手を阻むかのように立ち尽くす。

 嫌な記憶を無理矢理掘り起こすかのようなその造形。現れたものは3m近くある大きな二足歩行の人形だった。


 

お読み頂き、ありがとうございます。


次週で第4章完結です。


次回は11/10投稿予定です。

お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ