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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
結録天
38/70

蜘蛛の糸

 ―2022年4月

 私は公立で地元ではそこそこの偏差値の高校に進学した。何かしたいことがあったわけではなく、学費が安くて私の学力でも入れるからと言うだけの理由だ。

 まだ少し肌寒い風が吹く新学期。入学式が終わった1年生の教室では妙な緊張感に包まれていた。


 「あ、あの私、三田心音っていうの。えっと、浅田さん、だよね?」

 「浅田桐香。」

 「せ、席となりだね。今日からよろしくね。」

 「ああ、よろしく。」

 話しかけてきたのは隣の席らしい同級生だった。私が適当に返事をして返すと、その子はすぐに教室を出て同じ中学らしい別のクラスの人のもとへと駆けていった。


 「あ~、やっぱりあの人ちょっと怖いよ~。」

 「そりゃそうでしょ。あの人、菱津中の浅田さんだよ? 他校の人と喧嘩して相手の骨折って大会出れなくしたとか。」

 「え、こっわ。よく話しかけられたね心音。」

 「え!? そんなこと知らないよ! あの人不良なの?」

 「いや、知らないけどそうなんじゃね。」

 

 皆新たな友達を作ろうと放課後も教室を歩き回ったり、スマホを出したりしている。教室という狭いコミュニティで浮くのが怖いのだろう。でも私はそうまでして誰かと関わる気にはなれなくて1人教室を出た。


 中学の時に始めた陸上は高校でも続けている。とはいえこの高校の陸上部はそこまで大変じゃなくて、部活のない日はバイトをして家賃と学費の一部を稼ぐ生活。決して恵まれた生活ではない。ただ、私にとってはそれでもよかった。もう私の人生に私自身が何も期待していないし、ひとりぼっちの空間ですら私には気楽にさえ思えた。


 +++


 ―2022年5月

 「・・・っ、あー。なんで平日なのにあんなに客来るんだよ・・・・・・。」

 入学して約1ヶ月が過ぎた。だいぶ新生活にも慣れてきた連休明けのある日、私は想像以上にバイトの疲労が大きく、肩を落としながら駅で帰りの電車を待っていた。田舎だけあって基本的に電車は1時間に1本。一応時間に合わせて来ていても大抵20分くらい待つことになる。

 私はため息を吐きながら線路の方を向いた古くさい長ベンチに腰を置く。帰ったら少しでも早く寝れるようにと私は膝に鞄を置いて課題を取り出した。


 「なあ、お嬢ちゃん。こんな時間に歩いてたらダメだろ? お兄さん達が送ってあげるよ。」

 「おいおいお前ロリコンか? 子供じゃねぇか。」

 「お前は黙ってろ! さあ、こっちおいで。」

 「あなたたち何なの? いきなり失礼だと思わないわけ!?」

 

 駅の端の方が騒がしい。ちらっと横目をやると小太りとひょろ長の男2人組が小さな女の子に絡んでいるのが見える。

 「・・・面倒くさいな。」

 私はポケットからイヤホンを取り出して両耳に挿した。流れているのは少し前に流行った曲。特段好きなわけではないけど、イヤホンを付けていると外界から離れて1人の空間に居れる気がして好きだった。


 「なあなあ来なよ。」

 「ちょっと、触らないで! って、酒臭っ!!」

 「ひでぇなあ、いいだろ?ちょっとくらい。」

 「やめて!」


 高校の勉強は難しいと思っていたけど、意外と数学とかは中学校の延長みたいな感じで今のところそこまで難しくはない。まあ入学して1ヶ月くらいで急に難易度が上がっても困るんだけど。


 「ああ、悲しいなあ。お兄さん達本当に心配してるだけなんだけどなぁ。」

 「え・・・、いやいや、そんな手には乗らないわよ!」

 「ちっ・・・、もういい! こっち来い!」

 「なっ、離しなさい!!」

 「・・・痛ってぇな。やりやがったな!」

 「ちょっと、痛い! 離して!!」


 「はぁ・・・。」

 まだ少し肌寒い。そういえば連休前に5月に2者面談やるとか言ってたな。進路とか考えたことないけど、適当に就職しますとか言ってごまかしとけば良いか。


 「離して、離して! どこ連れて行くつもり!?」

 「心配すんなって、家まで送ってやるだけだから。」

 「そんなわけないでしょ! 離してよ!」

 「くそ・・・、騒がしいガキだな。こんな時間に歩いてんのが悪いだろうが! 黙って・・・」


 「おい。」


 「・・・あ? 誰だ?お前。」

 「さっきからうるせぇんだよ豚が。その手離せ。」

 なんとなく、ただなんとなく私がそいつらに声を掛けると、小太りの男が小学生の女の子の手首を掴んでどこかに連れて行こうとしていた。


 「なんだよ、勘違いすんなって。俺は今からこの子を家に送り届けようとしてたんだ。」

 「・・・そうか。じゃあ私が代わりに送ってやるからお前らは帰って良いぞ。」

 「ああ!? おいおい高校生が、大人への口の利き方習わなかったか?」

 そう言いながら小太りは少女の手を離して私の前に出た。


 「お? っていうかお前もなかなか美形だな。何だったら今日はこいつで・・・」

 「死ね。」

 男が下品な笑みを浮かべながら私の顔を触ろうとしたとき、私は咄嗟に男の左頬を殴った。

 掛けていた眼鏡は近くの草むらに飛んでいき、男は「げふぅ。」と汚い鳴き声を上げた。


 「豚に対する口の利き方は習ってねぇよ!」

 脳が揺れたのか、よろめいて膝を突いた小太りの顎を私は思いきり蹴り上げた。


 「お、おい、お前大丈夫か・・・?」

 すると一緒にいたひょろ長はすぐに小太りに駆け寄って肩を貸した。

 「す、すまねぇ。ちょっとからかってみただけなんだ、もう帰るから許してくれ!」

 ひょろ長はそう言って小太りを支えながらよろよろと駅の階段を昇っていった。


 はぁ・・・。なんで私こんなことしたんだろ。知らない他人のことなんか放っておけば良いのに。この時間があれば課題の一つくらい終わったかもしれないのに。


 「あの、ありがとう! 助けてくれて!」

 私が面倒くさいことに首を突っ込んだと頭を掻きながら座っていたベンチに戻ろうとすると、背後から少女が声をかけてきた。


 「あなたすっごく強いのね! おかげで助かったわ!」

 「ああ、そう。」

 少女は私の前で目を輝かせてそんなことを言ってくる。


 「私、近衛恵って言うの! 今日のことは一生忘れないわ!」

 「はぁ。っていうかなんで小学生がこんな時間にいるんだよ。お母さんは?」

 「なっ! 誰が小学生だって!? 私は立派な高校生よ!」

 「・・・は?」

 よく見れば確かに制服を着ている。この辺に制服の小学校なんてないからコスプレでもない限り本当に小学生ではないのかもしれない。


 「よく見なさい! どこからどう見ても大人の高校生でしょ!」

 「・・・いや、どこからどうみても背伸びした小学生だけど。」

 「何っ!?」

 何にせよ元気な子供だ。初対面の私に向かってまるで旧知の仲のように話しかけてくる。

 それからしばらく私は電車が来るまでこの恵って子の戯言に付き合うことになってしまった。



 「じゃあ、私帰るから。」

 「あ、うん。とにかく今日はありがとう! そうだ、名前! 名前聞いてない!」

 「浅田桐香。どうせもう会わないだろうし、覚えなくて良いけど。」

 「そんなことない! また会いましょう、桐香!」

 「・・・ああ、そうだな。」

 私は面倒くさくなって適当に返事をして電車に乗り込んだ。


 +++


 翌日

 「おはよう! 昨日はありがとね、桐香!」

 「まさか同じクラスだったとは・・・。」

 いつも通り登校して席に座った私の前に昨日会った近衛さんが駆け寄ってきた。薄暗くてよく見えなかったけど、駅で見た制服は確かにこの学校のものだったかもしれない。というか、どんだけ私周り見てないんだよ・・・。


 「昨日帰った後にね、何か聞いたことある名前だなーって思って考えてたら、同じクラスの子だ!ってなったんだよ。よろしくね!」

 「お、おう・・・。」

 私のあからさまに面倒くさそうな顔の前でも近衛さんは天真爛漫に笑っている。この性格なだけあって、近衛さんはクラスの中でも人気らしい。そんな近衛さんと普段周りから避けられている私が話している光景を物珍しそうに眺めるクラスメイト視線が刺さる。


 「それでね、今まで一回も桐香と話したことないなって。」

 「あの、近衛さん。昨日のことはもう大丈夫だから。」

 「えー、でも私もっと・・・。」

 「席に着けー、HR始めるぞー。」

 変に目立つのが嫌だった私が近衛さんを離そうとしていたら都合よく担任が入ってきた。私は内心ほっとして椅子に深く座った。


 ―昼休み

 「桐香ー、お昼食べよー。」

 「・・・・・・。」

 3限の終わりを告げるチャイムが鳴り、私がいつも通りコンビニで買ったパンが入った袋を手に中庭に行こうと席を立ったとき、また近衛さんがやってきた。朝の私の態度で懲りたと思ったけど、予想外の行動力に唖然として私は何も返すことができなかった。


 「ほら、一緒にお弁当食べよ!」

 「いや、私は1人で食べるから・・・。」

 「お? なになに? 恵と浅田さんって仲良かったの?」

 私たちがそんな会話をしていると、クラスメイトの1人が珍しそうに声を掛けてきた。


 「そうそう! 昨日桐香が助けてくれたの!」

 「へぇ~、浅田さん優しいじゃん。」

 「いや、そんなこと・・・。」

 「そうだよ! 桐香、恐い人たちをゴンッ、バンッって!」

 近衛さんは身振り手振りで興奮気味に話している。

 「すごいね、浅田さん。ヒーローみたいじゃん!」

 「いやほんと、別に正義のためにとかかっこいいこと考えてたわけじゃないから。」

 「でもなかなかすぐに行動できないよ。尊敬しちゃうなー、きっと浅田さんのお母さんもかっこいい人なんだろう・・・。」

 「違う!」

 私は反射的に大きな声が出てしまった。一瞬沈黙した教室でみんな私を見ているのが見なくても分かる。


 「・・・あ、ごめんなさい。ちょっとふざけただけで、気を悪くさせるつもりは・・・・・・。」

 話していたクラスメイトは申し訳なさそうに顔の前で手を合わせた。

 「いや、その怒ってるわけじゃなくて・・・。ごめん。」

 私はばつが悪くなってそのままパンの入った袋を持って教室を出た。


 +++


 さらに翌日

 避けていたのもあるけど、昨日の昼の一件から近衛さんと話すことはなく、午前の授業が終わって昼休みになった。私はまたいつも通り誰もいない中庭のベンチに座ってコンビニの袋から惣菜パンを取り出す。


 「はぁ・・・、少し悪いことしたかな。」

 私は昨日の昼休みのことを思い出して少し申し訳なさを感じた。それでも、まあいいかと自分を慰めるように思い直してパンを口に運ぼうとした。


 「桐香、パン好きなの?」

 「・・・!? 近衛さん・・・?」

 私は突然背後から聞こえた私の名前に驚いてパンを喉に詰まらせた。


 「なんでここに・・・、って今の私の話聞いてた・・・?」

 「話って?」

 「いや・・・、なんでもない。」

 「ところで毎日パン食べてるけど、パン好きなの?」

 「は? いや別に好きで食べてるわけじゃないけど・・・。」

 「えー、じゃあなんで毎日食べてるの?」

 「安いし簡単だから。」

 近衛さんは話のネタというわけではなく、心底不思議そうに聞いてきた。


 「あ、ってそうだ。そんなこと聞きに来たんじゃなくて、一緒にご飯食べよ!」

 そう言って近衛さんは笑いながら昨日も見た弁当箱を私の前に出した。

 「いや、だから・・・。」

 私はまた適当に言い訳を付けて逃げようと思ったけど、教室にも戻りたくないし、他に居心地の良い場所を知らないので仕方なく近衛さんをベンチの隣に座らせた。


 「やったー、じゃあいただきまーす。」

 近衛さんは相変わらず楽しそうに弁当箱を膝に乗せて手を合わせた。

 まあ、つまらない人間だと理解すればどこかに行くだろうと「へー」とか「あぁ」とか適当に相槌を打っていた。だけど、それでも結局近衛さんは昼休みが終わるまでずっと1人で喋り続けていた。


 それからというもの、近衛さんはことあるごとに私に絡んでくるようになり、私の心安らぐ1人の時間は少なくなってしまった。

 本当に、しつこいくらいに鬱陶しい。


 +++


 そんな日々が2週間くらい続いたある日の部活終わりのことだった。

 

 「おい、浅田! ちょっと来い。」

 「・・・はい?」

 練習が終わり、道具を片付けていた私は3年生の先輩に呼び出された。


 「何でしょうか?」

 「何でしょうかじゃないよ。いつだっけ、連休明けだったか? お前駅で暴力沙汰起こしたらしいな。」

 「え・・・、いやでもそれは・・・・・・。」

 「校内で噂なってんぞ。まあ詳しいことは知らないけど、余計なことしないでくれよ? 私たちにとって大事な時期なんだからよ。」

 「はい・・・。すいませんでした。」

 あの日の出来事、どういう伝わり方をしたか知らないけど、客観的に見たらそうだろう。私自信も周りからどう思われてるかなんて分かってる。


 「はぁ・・・、なんでこんな面倒なことしたかな・・・・・・。」

 私は我ながら自分の馬鹿さに苛立って、小さくため息を吐いた。


 「あ! お疲れ、桐香!」

 先輩に呼び出されてこともあって他の部員よりも一足遅く学校を出ると、校門前で手を振る近衛さんの姿があった。

 人の気も知らないで、こんな時までこいつは・・・。

 私は何か言い返すのも面倒で、ただ無言で脇を通り過ぎようとした。


 「ねぇ、桐香!」

 でも、近衛さんは私の腕を掴んで私を引き留めた。


 「聞いて聞いて! さっき部活してるときにさー・・・。」

 「もう、やめて!」

 今の私を見てもいつもみたいに話し始める近衛さんに私は我慢できなくなって腕を振り払った。


 「鬱陶しいんだよずっと! 何? ちょっと助けたからって友達になったとか思ってんの? 調子乗るなよ!」

 私がそう声を荒げると近衛さんははっとして手を離した。


 「・・・てか、あの日のこと周りに言いふらしてるの近衛さんだよね? 近衛さんがどう思ってるのか知らないけど迷惑なんだよ。なぁ、本当は私のこと馬鹿にしたいんだろ?」

 「そんなこと・・・・・・。」

 「だいたいなんでそんな私に絡んでくるんだよ。周りからどんな目で見られてるのか分かってるのか!?」

 私は感情のまま溜めていたものを吐くように汚い言葉を羅列した。


 「・・・そんなの知らない。」

 「ぁ?」

 「私あのとき桐香に助けてもらったもん! 周りが桐香のことどう思ってたって、私が見てる桐香はかっこよくて優しい人だもん!」

 「・・・は、はぁ?」

 「桐香が私のこと友達って思ってなくても、私は思ってるもん!!」

 それなのに近衛さんは生ゴミの様な悪臭のする私の目を真っ直ぐに見つめ返してきて、少し困惑した。


 「ふざけんなよ・・・。もういい! とにかく私に話しかけるな!」

 私はその目を見返すことができず、踵を返して逃げるように走った。

 

 家の扉を開け、薄ら汚れた部屋の壁に体を預ける。

 「なんだよもう・・・・・・・。」

 私は心臓を握られているような不安と後悔と自己嫌悪から逃げるように目を閉じた。


 +++


 次の日、私がいつも通り登校すると私を見つけた学年主任が私を職員室に呼びだした。

 「浅田、お前校外の人に暴力振るって怪我させたらしいな。」

 「! ・・・はい。」

 私はその一言に最悪がよぎり、憂鬱になった。

 またか。私の人生はいつもそうだ。一度悪くなり始めたら止まらない。だからなるべく誰とも関わらず、迷惑をかけないように生活してきたのに・・・。


 「これがどんなことか分かってるのか? 暴行罪って言う犯罪なんだぞ。これじゃあお前だけじゃなくて、お前の親とか部活の仲間にも迷惑掛けることになるってわかんないか?」

 そんなことは分かってる。分かってたのに・・・・・・。

 「こんなことが明るみになったら最悪、部活の活動停止だって・・・。」

 「え・・・、待ってください! それだけは・・・。」

 「今更何言ってんだ。自分がしたことなんだぞ? もう子供じゃないんだから自分の行動に責任持って生きろ。」

 「でも・・・・・・。」

 私は喉まで込み上げた言葉を吐かずに飲み込んだ。人を助けるためだったなんて私が言ったって誰が信じるだろうか。もうずっとそうやって生きてきたんだ。ずっとずっと、そうやって、これから先も・・・・・・。


 「先生、それ違うよ。」

 「・・・近衛!? 何でここに居るんだ、今は浅田と話してるから・・・。」

 顔を上げると先生の後ろに近衛さんが立っていた。


 「みんなの課題持ってきたんだよ。それで先生、その話間違ってるって。」

 「間違ってるって・・・?」

 「今話してた駅のこと、桐香はただ知らない人殴ったんじゃなくて、私を助けるためにそうしてくれたんだよ。」

 「・・・は?」

 「連休明けの確か5/9でしょ? 私、ホームで電車待ってたら男の人2人に声かけられて、それで様子がおかしかったから抵抗したんだけど、腕掴まれて無理矢理連れて行かれそうになって。その時に同じ駅にいた桐香が私を助けてくれたんだよ。」

 「ほ、本当か?それ。」

 「ほんとだよ。桐香が助けてくれなかったら私1人じゃ逃げられなかったと思う。」

 近衛さんは少しむっとした顔で先生に真っ直ぐ言葉を投げた。


 「そ、そうか・・・。まあ近衛が言うなら・・・・・・。浅田、とりあえず疑ってすまなかった。それと、そういうことなら今度からもっとはやく言ってくれよ?」

 「はい・・・。」

 「うん。先生も、噂で人のこと判断したらダメだよ?」

 「お、おう。悪かった。」

 先生はそう言ってそれ以上私を咎めることなく解放した。私は結果的に近衛さんの人望に助けられた形になった。


 「その・・・、助けてくれて、ありがとう・・・・・・。」

 私は職員室を出た後、廊下で前を歩く近衛さんの背中に言った。

 「うん! どういたしまして!」

 近衛さんはさっきまでと違って満面の笑みで振り返った。

 「なあ、なんで私を助けたんだ。昨日酷いこと言ったのに。下手すれば近衛さんだって私を庇ってるって疑われたかもしれないのに・・・。」

 私は昨日の放課後のこともあって気まずくてまともに近衛さんの顔を見ることができなかった。


 「なんで、そんなに私のこと追いかけてくるんだよ・・・。」

 「なんでって、だって桐香いつも寂しそうな顔してるじゃん。」

 「・・・!」


 寂しそう・・・? 私が?


 「なんだよ、それ・・・。」

 「それに私もっと桐香のこと知りたいって思ったんだよ。」

 「は・・・?」

 「桐香は私の話をいっぱい聞いてくれるから、私も桐香と話してて楽しくて。だから今度は私がもっと桐香の話聞きたい!」

 「私と話してて楽しい・・・?」

 「うん! だから、桐香が今はそう思ってないなら改めて私と友達になってよ! 駅で私のこと助けてくれた時みたいに、次は私が桐香に寂しい思いなんてさせないから!」

 「・・・なに、言ってんだよ・・・・・・・。」

 気づくと無意識のうちに私の頬には涙が伝っていた。


 「え! 桐香泣いてる!? どうしたの、具合悪い?」 

 「馬鹿・・・、泣いてねぇよ・・・・・・。」

 私は咄嗟にパーカーの袖で目を擦った。

 こんな見た目も中身も小学生みたいな奴なのに、脳天気で私の都合なんて全く意に介さないような奴なのに何故か私は近衛さんのそのたった一言に救われた気がした。



 朝からそんなことがあったせいか、その日の私は少しおかしかった。いつもは1人でいるのが好きでその時間を邪魔されたくないと思ってるのに、昼休みのチャイムとともに私はパンの入った袋を持って近衛さんの席に向かった。


 「ね、ねぇ、近衛さん。よかったらお昼一緒に食べない・・・?」

 

 ただ、私はこの日の’少しおかしい自分’に今でも感謝している。


 

 


 

お読み頂き、ありがとうございます。


次回は10/20投稿予定です。

お楽しみに。

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