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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
結録天
37/70

地獄

一応補足です。


この話からストーリー的には「桜が桐香の記憶を見ている」というシーンが続きますが、物語は桐香視点で回想という形で書いています。

ですので、ここから数話の間は「」以外の”私”は桐香を指しています。


以上、補足でした。

 ―海沿いの町にある小さな病院

 「名前は桐香。桐の花の香りみたいに上品な大人になってくれるようにね。」

 「うん。良い名前。」

 17年前の5月23日。私は地方公務員の父と地元の中学校教師の母の間に生まれた。それと年の離れた兄がいて、私は浅田家の末っ子だった。


 両親ともに公務員なだけあって真面目で少し堅いところもあったけど、毎年どこかに旅行に連れて行ってもらったり、忙しい中でも小さい私とよく遊んでくれた。特に私が5歳だったときに連れて行ってもらった地元の水族館はよく覚えてる。その時が初めて水族館と言うものに触れたときで、海中にいるような感覚は子供ながらに不思議に思った。その時に買ってもらった妙にリアルなタコのぬいぐるみをすごく気に入って、高校までずっと部屋に置いていた。

 後から思えば私が生まれた場所はごく普通ですごく幸せな場所だったと思う。


 でも、こんな幸福をいつまでも私に享受させるほど神様は優しくなかった。


+++


 ―2017年1月

 「う~・・・、暑い・・・・・・。」

 私が10歳の時、私の人生を大きく変える出来事があった。

 お正月が過ぎて小学校の休みもあと2、3日といった時期のある夜、私は季節に似つかわしくない異様な暑さで目を覚ました。


 「・・・? なんだろう?」

 その暑さと少しの息苦しさに怖くなった私はベッドから這い出て部屋の扉に手をかけた。


 「熱っ! ・・・え、なに・・・・・・?」

 ドアノブは熱した鍋のように熱くなっていてとても素手で掴めるような状態じゃなかった。驚いた私は不安がさらに募って冷や汗が頬を伝った。

 「お母さん! お母さん、来て! ドア開かない!!」

 しかし、何度叫んでも母が迎えに来ることはなかった。そのうち息が苦しくなって、結局私は掛け布団でドアノブをくるんでなんとか扉を開けた。


 「やった、空いた・・・・・・・!? 何これ・・・・・・。」

 そうして私の視界に飛び込んできた光景に私は言葉を失った。

 床や壁は皓々と光る炎に包まれ、天上は黒い煙に覆われている。嫌な匂いととてつもない暑さに私は息をすることさえまともにできないほど苦しかった。


 「・・・お母さん! ねぇ、お母さ・・・」

 「桐香、口閉じろ!」

 「・・・お兄ちゃん!?」

 私が泣きながら火の手が上がる両親の部屋に近づこうとすると隣の部屋にいた兄が私の頭を抱えて私を部屋に戻した。


 「桐香、とりあえずこれ口に当てとけ。学校で習ったろ?」

 そう言って兄は私の頭を撫でながらハンカチを手渡した。その兄は頭から水でも被ったようにずぶ濡れで、明らかに普通ではなかった。


 「お兄ちゃん、これ何!? お母さんとお父さんは?」

 兄は私の手を引いて部屋の窓を開け、ベランダに連れて行った。

 

 「桐香はここで待ってて。しゃがんで、煙は吸っちゃダメだからな。」

 兄はそう優しくベランダの隅に私を誘導し、すぐに家の中に戻っていった。心細くてその背中に付いていきたい気持ちもあったけど、熱い家の中に戻るのも怖くて私はその場にうずくまって窓の外から流れ出ていく黒い煙を眺めていた。



 「父さん! 母さん! 起きてるか!?」

 家の奥から兄の声が微かに聞こえる。

 「くそっ・・・、熱いな。今行く・・・・・・‥!?」

 扉の向こうはまさに火の海だった。火元がどこかは分からないが両親の部屋が一番酷く、生身の人間が入っていけるような状況ではなかった。


 「げほっ・・・、熱っ! 体濡らしてきたのに・・・!」

 「海斗・・・、ダメだ! 無茶するな!!」

 「お願い、桐香を連れて逃げて!」

 「置いていけるわけないだろ! このままいたら死んじまうぞ!!」

 「救急車を呼んだ。もうじき助けが来る、だから父さんと母さんは大丈夫だ! 僕らにとって海斗と桐香は大切な宝物なんだ! お願いだ、先に逃げてくれ!!!」

 「でも・・・・・・。」

 「お願い、お願いだから、2人は生きてっ!!」

 「父さん、母さん・・・、わかった。でも、桐香を外に逃がしたらすぐに戻るから!」



 程なくして兄は私の元に戻ってきた。

 「お兄ちゃん?」

 「待たせて悪い。ちゃんとハンカチ口に当ててて偉いぞ。」

 戻ってきた兄は1人でお母さんもお父さんも一緒じゃなかった。でも、そのことを聞く暇もなく兄は私を抱きかかえた。


 「ちょっと怖いかもしれないけど、しっかり掴まってろよ。」

 「え?」

 そう言うと兄はおもむろにベランダの腰壁に足をかけ、そのまま躊躇することなく庭に飛び降りた。


 「へ!?」

 「っ・・・! ・・・ふぅ・・・・・・。桐香、無事?」

 「う、うん。」

 着地と同時に兄はバランスを崩して地面に手を突いた。ただそれでも私を落とすことなく保護してくれた。よく見ると兄は顔中煤だらけで服も焼け焦げてぼろぼろだ。それどころか飛び降りてから兄の足取りは明らかにぎこちない。なのに兄はそれでも終始私の身体を心配してくれた。小さい私には兄を気遣うことはできず、これ以上頼りになる存在はないとさえ感じていた。


 そうしているうちに赤い光とけたたましいサイレンが聞こえ、消防と救急が到着した。

 それ以降のことは曖昧であまり覚えていない。

 ただ、一つだけ覚えている病院の医師の言葉。


 「申し訳ありません。ご両親の命を救うことはできませんでした。」


+++


 「どうするよ、残った子供達。」

 「お兄ちゃんは大きいけど、妹ちゃんはまだ小学生だしねぇ・・・。」

 「まぁ、陽子さんのところに行くのが順当じゃない?」

 「え。大丈夫かよ。あの人に預けて・・・。」

 「じゃあ、あなたが引き取る?」

 「いや、それは・・・・・・。」

 

 お母さんとお父さんのお葬式が執り行われた日、私はお母さんの姉に当たる陽子さんという叔母の家に引き取られることとなった。


 「ほら、桐香。挨拶して。」

 「お、お世話になります・・・。」

 「いらっしゃい。桐香ちゃん。」

 「それじゃあ桐香のことよろしくお願いします。俺はバイトと両親が残してくれた金で一人で暮らしますから。」

 「偉いわね~、海斗君は。」

 「いえ、ではよろしくお願いします。」

 当時高校2年生だった兄は残りの1年はバイトをしながら就活をして、一人で暮らすこととなり、私は唯一頼れる人と別れることになった。


 

 「・・・はぁ。金が入るとは言え、なんでこんなガキと生活しなくちゃいけないのよ。」

 兄が帰ってのを確認して、叔母さんはため息を吐いて居間に戻った。

 思えば私はこの人に一度も会ったことがない。お正月やお盆のような親戚が集まるようなイベントはもちろん、この人に家に遊びに行ったことも当然無かった。まるでお母さんが会わせないようにしていたかのように。


 「あいつ、勝手に死にやがって。おい、ガキ! 今日からお前が掃除と洗濯やれ。泊めて飯まで食わせてやるんだから当然やるよな!!」

 「え・・・、でもやり方わかんない・・・・・・。」

 「あぁ? ふざけんんじゃねぇ! そんぐらい自分で調べろ、スマホあんだろ!?」

 「あ、ごめんなさい。」

 「チッ、使えねぇガキだ。サボんじゃねぇぞ、サボったら飯抜きだからな!」

 「は、はい・・・。」

 何かを言い返すことなんてできなかった。それは私が初めて見た恐い大人で逆らってはいけないことが本能的に分かる感じだった。


 それからの3年間は思い出したくもない。


 朝起きてゴミを出し、洗濯物を干す。叔母さんを起こして布団をたたんだら食器を洗って登校。学校が終われば叔母さんが帰ってくる前に帰り、買い物と掃除。サボれば怒られる。逃げる場所もない。暴力は日常茶飯事で、私が”悪いこと”をすると叔母さんは私の髪を引っ張り、腹を殴った。

 カップラーメンとプラスチックの容器に入った弁当でできた私の身体がどれだけボロボロになろうと、悪いのは全て私だと教えられた。私に降りかかる痛みも苦しみも全て私が悪いと。


 「桐香ちゃん、全然喋らないよね。感じ悪い。」


 「おい、浅田! くせぇぞ、いつまでそんなぼろい服着てんだよ!」


 「浅田さん、嫌なら嫌って言わないとダメよ。もう高学年なんだから自分のことは自分でしなきゃ。」

 

 子供は自分が生きる環境を選べない。私はきっと生まれる前にすごく悪いことをしたのだろう。いつも悪いのは全て私で、周りの人は見てるだけだった。

 

 成長して、色んなことが分かるようになるにつれて私は人と話すことが嫌いになった。まともに友達と遊ぶことも無くなり、次第に私は孤立するようになった。

 喉に引っかかった「助けて」の言葉は、いつしか泡になって消えていた。


+++


 ―2019年6月

 「・・・何ですか、これ・・・・・・。」

 私が中学校に上がって間もないとき、叔母さんはあるミスをした。

 

 私が部活をしてみたいと話したとき、酔っていた叔母さんは酒缶を私の顔に投げつけた。そうして私の右頬には痣ができて目の下には切り傷がついた。

 そしてそのちょうど数日後に、私が中学校に進学したことを祝いに来てくれた兄がその異常さに気づいた。


 「叔母さん・・・、これどういうことですか?」

 「い、いやね、桐香ちゃんおてんばだから外で遊んでるときに転んじゃったみたいなのよ。」

 「そんなこと・・・・・・。桐香、ちょっとごめん。」

 兄はそう言って私が来ていたシャツの裾をまくった。


 「・・・! なんだよこれ・・・・・・。」

 兄はこれまで何度か会いに来てくれていたけど、叔母さんは見て分かるような傷は付けないし、私がそのことを兄に話すこともなかった。だから、兄が私の体中についた傷を見たのはその時が初めてだった。


 「・・・おい、桐香に何をした。」

 兄はゆっくりと立ち上がって叔母さんの方に向き直った。

 「ちょっと、海斗君!?」

 そのときの兄は見たこともないほど恐い顔をしていて、そのまま叔母さんの胸ぐらを掴んだ。


 「納得できる説明をしろ。この傷は何だ!!」

 「は、離してよ! 大体、勝手に産んどいて死んだら私に育てろとかお前の母親は身勝手なんだよ!! こっちは仕事でストレスたまってんだ!」

 叔母さんは床にお尻を突きながらいつもみたいに甲高い声で叫んだ。


 「・・・そうかよ。」

 兄がその時どんな表情をしていたかは知らない。それ以上叔母さんを責めることなく振り向いて、私の手を引いて玄関を出た。


 「ごめん、桐香。全然気づかなかった・・・、辛い思いさせたな。」

 その声は少し震えているように思えた。

 「お兄ちゃん・・・、どこ行くの? 叔母さんは?」

 「もう叔母さんには会わない。これからは2人で暮らそう。俺も働いて少し貯金ができたんだ!」

 「・・・一緒に?」

 「そうだ。二人で暮らそう! 嫌か?」

 「ううん。嬉しい!」

 振り返った兄の顔は笑っていた。明るくて優しくて、兄はこの世界で唯一私を救ってくれる人だった。


 到着した兄のアパートは狭いし、仕事が忙しいから結局ここでも私がほとんどの家事をすることになった。だけど、それでも私はこの生活が大好きだった。1日で考えたら短い時間だけど、兄と話して、学校では部活もさせてもらえて、毎日が見違えたように楽しかった。


 でも、やっぱり神様は私のことが嫌いらしい。


+++


 ―2020年9月

 夏休みが終わり、吹き抜ける風に涼しさを感じ始めた中2の頃だった。

 「・・・失礼します。浅田さんいますか?」

 「? ・・・はい。」

 給食の後で瞼が重くなる5時間目の授業中。突然ガラガラと開けられた扉から顔を出した担任が私の名前を呼んだ。私はそのまま担任の先生に誘導されるまま廊下に出た。


 「浅田さん、ごめんなさいね授業中に。今電話があって、お兄さんが倒れたらしいわ。」

 「・・・え? 倒れたって・・・・・・・。」

 「お仕事中に救急車で運ばれたらしくて、浅田さん、今日はもう良いから病院に行くよ。」

 「はい・・・。」

 倒れたというのは病気なのか事故なのか、なにより無事なのか。聞きたいことは山ほどあったけど、先生もほとんど状況を知らないらしく、とりあえず祈りながら先生の車に揺られるしかなかった。



 「お兄ちゃん!!」

 私は病院について病室を聞いた後、先生の制止を振り切って兄の病室に真っ直ぐ向かった。

 病室のドアを開けると病衣を着た兄がベッドに座って窓の外をを眺めていた。


 「桐香・・・、どうしたの? 学校は?」

 「どうしたのって、お兄ちゃんが倒れたって聞いたから早退してきたんだよ!」

 「あぁ~、そうだったんだ。ごめんな、心配かけて。」

 「ほんとに心配したんだから! お兄ちゃんいなくなったら、私生きていけないじゃん・・・。」

 「ははは。嬉しいこと言ってくれるな。そろそろ反抗期でも良い頃なんだけど。」

 幸いなことに兄は思っていたよりも元気で優しく私の頭を撫でた。しかし、その目はどこか暗く、疲れているようだった。


 「それで、何があったの?」

 「・・・うん。ちょっと頑張り過ぎて疲れちゃってね。面目ない。」

 兄は少し申し訳なさそうに微笑んだ。


 「それと、少し仕事を休むことになったんだ。入院しないといけなくて。」

 「入院・・・・・・?」

 「まあ命に関わるようなものじゃないけど、一応ね。だからそんな寂しい顔すんな。」

 「そうなんだ・・・。」

 兄はこんな時まで自分のことよりも私の心配をする。


 「別にそれでってわけじゃないけど、桐香はさ、父さんと母さんが死んだあの火事のことどう思う?」

 「どう、って・・・?」

 兄は話すのを躊躇っているかのように一呼吸置いて話し始めた。


 「正直、この話を桐香にするか墓場まで持って行くか結構迷ったよ。でも、俺が話さなくてもいつか桐香が自分で知ってしまうかもしれない。それに、自分の親のことだから知らないのは悲しいじゃないかって思って。」

 「何? 何の話?」

 兄はあたかも重要な話を始めると言った口調で続けた。


 「実はあの日の火事、たまたまじゃなくて放火が原因なんだよ。」

 「え・・・?」

 「それも犯人は母さんの生徒。火事がある前に母さんが言ってたんだよ。クラスに不登校の子がいて、なんとかみんなと卒業させてあげたいって。電話で話したり、手紙を書いたり、どうすればその子が心を開いてくれるかって毎日考えてた。でも、それなのにそいつは母さんを逆恨みして殺したんだよ。」

 「・・・・・・。」

 兄の口から出た話は想像よりもずっと残酷なものだった。ただ、それよりも優しい兄が私に見せたことないような憎しみに満ちた様な顔が衝撃的だった。


 「その犯人は当時未成年だったから実名が報道されることもなかったし、テレビで話題になることもほとんど無かった。俺が知ってるのは地元のマスコミが言ってたことを警察に問い詰めて知ったからだ。」

 「何、その話・・・・。」

 「ごめんな、こんな話して。でも、桐香にも知っていて欲しかったんだよ。」

 兄は少し息を吐き、いつもの優しい表情で顔を上げた。


 「桐香はまだ中学生だけど、俺もずっと一緒にいられるわけじゃない。だから・・・。」

 「やだよ! 二人で暮らすって行ったじゃん!!」

 「・・・・っははは。そうだな。じゃあこれはいつかの話だ。いつか桐香も自分の力で生きていかないといけないかもしれない。残念だけど、この世界は想像よりもずっと理不尽で、清く正しく生きたって一人の悪人に傷つけられることがある。もしその時、桐香は母さんに似て優しいから心配なんだ。母さんは桐香を優しい人になってって育てたけど、この世界は優しい人間から先に傷つけてくる。だから、強く生きてくれ、桐香。」

 「お兄ちゃん、なんでそんなこと言うの・・・。」

 兄は私の目を見ながらどこか寂しそうに話した。


 それから兄はしばらく入院しないといけなくて、この日は暗く少しカビの匂いがする狭い部屋に1人戻った。


 兄の言葉が引っかかる。どんなに正しく生きようとしたって神様は容赦をしてくれない。思えば私はいつだって誰かに頼って生きてきた。

 強くならなくちゃいけない。兄のようにいつだって冷静で、凜としていて、1人でも生きていけるくらいに。





 

お読み頂き、ありがとうございます。


前書きでも書きましたが、回想の間(あと3話くらい)は桐香視点での話になります。

ややこしくてごめんなさい。


次回は10/13投稿予定です。

お楽しみに。

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