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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
結録天
34/70

孤狼

 ―ウェスタンリード西部、川沿いの通り

 「う~・・・、すっかり真っ暗じゃねぇか。あのクソ教授こんな時間まで手伝わせやがって、人狼事件のこと知らねぇのか?」

 日没から1時間以上経過し、街灯の少ない通りでは数歩先も見づらいほど暗くなっている。ウェスタンリードの西側に位置する通りを1人の学生が背中を丸めて歩いていた。


 「はぁ~、こええ・・・。勘弁してくれよ、マジで。」

 学生は鞄を胸に抱え、恐る恐る歩を進める。


 「ブラウン先輩?」

 「うわっ!! ・・・ってなんだ、リアちゃんか・・・・・・。」

 通りを歩いていた学生は突然背後から声をかけられ、反射的に1歩飛び退いた。

 振り返ると大学の後輩であるリアの姿があり、ほっと胸をなで下ろした。


 「リアちゃんもこんな時間まで勉強? 大変だね。」

 「えぇ、まあ。先輩もお疲れ様です。」

 「そうだ、せっかくだしリアちゃんの家まで送るよ。こんな時間に1人で歩かせるわけにも行かないからね。」

 「良いんですか? ありがとうございます。」

 「いいよ。どうせ途中まで道一緒だしね。」

 (正直言うと1人で歩くとか心臓飛び出そうだったし、誰でもいいから一緒に居て欲しいだけだけど。)

 ブラウンはそのまま一刻も早く帰宅しようと歩き出し、リアはその後を歩いた。


 「しかし怖いよね。夜道で急に現れて証拠も残さず殺すとか、ほんとに人間じゃなかったりしてね。はは・・・。」

 「・・・そうですね。とっても怖いです。」

 リアはそう言って後からブラウンの肩に抱きついた。


 「・・・! リ、リアちゃん!? 何して・・・・・・・。」

 突然の出来事にブラウンは驚き、振り返ろうとするのと同時、喉に違和感を持ち首元に手を触れた。


 そしてその手にべっとりと付いた赤い血にブラウンはさらに驚愕した。


 「・・・・・・!? ・・・な、がっ・・・・・・・??」

 しかし、その吃驚が声になることはなかった。


 (何だ!? 何が起きた・・・!? これは一体どういう・・・・・・・)

 ブラウンは自分の身に何が起きたのか一瞬理解が追いつかなかった。が、数秒後に視界に入った血の付いたメスとリアの恍惚とした表情に全てを悟った。


 「・・・・・・・・・・!!? まっ・・・、っは・・・・・・・。」

 (声が出ない! やめてくれ、殺さないでくれ!!)

 ブラウンは恐怖のあまり腰が抜け、その場に倒れ込んだ。助けを呼ぼうにも喉に激痛が走り、声が出ない。必死に逃れようと膝を突き、這うようにして移動を試みるが体が震えて思うように動かなかった。


 「待ってくださいよ、先輩。」

 リアはゆっくりと歩きながらブラウンの前に立ち、真上から見下した。


 「先輩は学校で数少ない私に優しくしてくれる先輩でした。だから、本当は居なくなって欲しくないけど、会っちゃったんだから仕方ないよね。」

 「・・・あっ、・・・・・・・。」

 (何言ってるんだよ、もっと説明してくれ! 誰か、助けてくれ!!)

 ブラウンは涙を流しながら、悲壮の様相で命乞いをした。

 

 「・・・ふふ。良い表情ですね。それじゃあ・・・・・・・。」


 「・・・リア?」


 「・・・・・・!?」


 +++


 この日、私と兵士はみんなの作戦を無視して街の西側を見回っていた。もちろん考えあってことではあるけど、なんとなく罪悪感を抱きながら、はやく現れるなら現れてくれ、なんて思いながら歩いていた。  

 そして、何の変哲もない角を曲がった先、私の視界には首から血を流して倒れ込む人とその傍らに佇むリアの姿が映った。


 「リア・・・・・・、そこで何してるの・・・?」


 「桜、なんでここに・・・。今日は東側を見回るはずだったんじゃ・・・・・・・。」


 リアは私の姿に気づくと少し狼狽えたような表情を浮かべた。


 「何言ってるの・・・・・・。あ、危ないよ、こんな時間に出歩いていたら。」

 私は目の前の光景が理解できなかった。いや、理解したくなかった。視界から入ってくる情報を拒否する様に私は他の理由を必死に考えていた。


 「そ、そうだよね。リア、その人助けようとしたんだよね。 あの、大丈夫ですか?」

 「近づかないでっ!!」

 「! リア・・・・・・。」

 私は誰でも分かるような最悪の考えを見ない振りをして怪我をしている人の元に向かおうとした。

 でも、リアの声と首を押さえる人の助けを求める目は私の甘い考えを否定するには十分だった。


 「それ以上近づいたら、この人殺すよ。」

 「・・・なんで・・・・・・・。」

 リアは男の人の頭に刃を突きつけて私を脅した。


 「ねぇ・・・、リア、冗談やめてよ。お願いだから説明して? 私の、最低な考えを否定して・・・・・・。」

 リアの乾いた笑い声が嫌に響く。

 「・・・は、はは。何言ってるの。まだわかんないとか、そんなわけないよね。」


 やめて。


 「桜は凶器とか被害者の特徴とか、ここまでいろいろ人狼事件の話聞いてきたでしょ?」


 言わないで。


 「・・・ならもうわかるでしょ。」


 それ以上言わないで!


 「私が人狼だよ。」



 「・・・・・・嘘だ・・・。」


 私はリアの顔を見ることができなかった。時間が止まったような気がした。

 

 「でも、人に見つかったの初めてだよ。やっぱりすごいね、桜は。」

 「嘘だっ!!」

 「・・・!?」

 私はバッジから刀を取り出してリアに向かった。

 驚いて仰け反ったリアの手からメスを弾き、そのままの勢いでリアを壁に押し倒して顔の脇に刀を突き立てた。


 「・・・な、嘘でしょ・・・・・・。」

 私は何が起きたのか分からない様子のリアを無視して空に向かって叫んだ。


 「おい、堕天使! いるんでしょ!? ねぇ、返事してよ! 私だよ、あなたたちを倒しに来たんだよ!!」

 「・・・は? 何言ってんの?」

 私は人狼がリアの意志だなんて信じられなかった。今までのように悪い堕天使がいて、リアの心を操っている。私にはもうそれに縋るしかなかった。


 しかし、どれほど叫んでも堕天使の姿も声すら聞こえることはなかった。


 「なんで・・・。嫌だよ、こんな結末・・・・・・。」

 身近に犯人がいるかもしれないなんてことは散々言われたし、今日だってその可能性を警戒した結果の作戦変更だった。でも、それでもリアを疑ったことなんて一度もなかった。

 ずっと、これから先も友達でいられると思っていた。


 「・・・・・・。」

 私はもうまともに何かを考えることはできなくなっていて、リアも抵抗することなくただ口を噤んだ。


 「ねぇ、せめて教えてよ。どうしてこんなことしたの?」

 「・・・・・・こんな話、したって仕方ないでしょ。」

 リアは私から視線を逸らし、諦めたような声で語り出した。


 +++

 

 ―約1ヶ月前、ウェスタンリード・リセ大学第2講義棟

 「・・・今日の講義は以上だ。次週まで各々課題をしてくるように。」

 日が傾きかけた夕方の教室に終業を知らせる鐘の音が鳴り響く。生徒達は教師が最後の言葉言うよりも早く机に広げられた教科書やノートを鞄にしまい、帰る準備をしていた。


 「さて、今日は・・・。」

 対照的にリアは机に座ったまま自分で取ったノートを眺めていた。その日に記したことを帰る前に確認することが彼女の日課となっている。


 「・・・よし! 今日も大丈夫。」

 「あら。ホワイトさんもうお帰り?」

 リアが荷物をまとめて立ち上がると同時、3人組の同級生がリアを取り囲むように現れた。


 「な、何? ミリアさん達・・・。」

 「ねぇ、何改まってんの? うちら友達でしょー。」

 3人のうちの1人が強引にリアに肩を組み、ぐいっと体を引き寄せた。


 「ちょっと頼みがあるんだけどさー、聞いてくんない?」

 「・・・・・・何?」

 リアの思考には嫌な予感しか浮かんでいなかった。それでもこの時のリアには大人しく聞く以外の選択肢はなかった。


 「うちら週末予定あってさー。だから、来週までの私たちの分の実習課題やっといて。」

 そう言ってリーダー格の金髪波毛の女はリアの前に解剖ばさみを置いた。

 「マジでネズミの解剖なんかキモくてやってらんねぇよなー。」

 「そうそう。私らって人用の医療の勉強してんだけど。」

 「ちょっと、ほんとのこと言ったらホワイトさん怒っちゃうよーw」

 「あ、ごめーん。聞いてなかったよね。」

 3人はリアを嘲るようにゲラゲラと笑った。


 「・・・ダメだよ。課題は自分でやらなきゃ・・・・・・・。」

 「あ? おい、何様だよ? 口答えしてんじゃねぇぞ。」

 俯きながらぼそっと反撃したリアを威圧するように女は机を大げさに叩き、顔を覗き込んで迫った。


 「こんなに頼んでんだからさー、聞いてくれるよね? こんなの簡単でしょ、あのホワイト先生の子供なんだから。」

 「・・・・・・でも・・・。」

 「てか、さっきからタメ口きいてんじゃねーよ! 年上は敬えって教わらなかったか?」

 女は乱暴にリアの髪を掴み上げ、睨みながら暴言を吐いた。


 「わ、わかった・・・・・・。わかったから、離して・・・。」

 「・・・おっけー。じゃあ忘れんなよ?」

 女はリアの返事を聞いてから突き飛ばすように手を離した。その勢いでリアの鞄の中身が散乱したが、それに一瞥もくれることなく、3人は教室を出た。


 「・・・はぁ・・・・・・・。」

 リアは1人残った教室で床に落ちた荷物を拾い上げ、悔しさと虚しさを吐き出すようにため息を吐いた。

 「いつまでこんなこと・・・・・・・。」

 鞄を肩にかけ、机に置かれたはさみをポケットにしまい、リアは教室を後にした。



 西日に照らされた廊下は暖かい。ただそれとは逆にリアの気分はひどく沈んでいた。

 「・・・ホワイトさん?」

 ぼーっと下を向きながら廊下を歩いていると、リアは正面から来た人に声をかけられた。


 「あ! やっぱりホワイトさんだ。」

 「マーク先輩・・・。」

 マーク=バレット。ウェスタンリードの行政長官であるウィリアム=バレットの長男であり、リアよりも学年が2つ上の生徒。リアと同様に天才と謳われる彼はこの大学の首席であり、将来を約束されたような人物だった。


 「何か嫌なことでもあった?」

 「いえ、まあ・・・。」

 マークがかけた言葉にリアは少し言い淀んだ。


 「またいつもの同級生? 大変だよね、毎度毎度嫉妬の八つ当たりされるのも。」

 「すみません・・・。」

 「なんでホワイトさんが謝るの。何も悪いことなんかないでしょ?」

 マークは落ち込むリアに明るく笑って励ました。

 「そうだ。このあともし時間があるならちょっと付き合ってくれない?」

 「はい・・・。いいですけど。」

 「ほんと? よかった。じゃあついてきて。」

 マークはそう言って手招くような仕草でリアの前を歩き出した。


 その後、2人は雑貨屋や図書館に立ち寄って街の南東に向かった。

 「あの・・・、マークさん、これどこに向かってるんですか?」

 まだ辺りは暗くなっていないが、ウェスタンリードの南東部は比較的人口が少なく、特に店もないためわざわざ出向くような場所もない。少しの不安を抱きながらリアはマークに聞いた。


 「ん~。ま、ここでもいいか。」

 街を離れて人通りがほとんど無い路地でマークは立ち止まった。


 「・・・え? ここですか?」

 「ホワイトさん、聞いて欲しいことがあるんだ。」

 「はい・・・。」

 マイクはリアの方に向き直り、改めるように咳払いをした。


 「ホワイトさん、僕と結婚してくれ!」


 「・・・・・・・はい?」

 リアは予想外の言葉に驚きを隠せなかった。しかし、マークの表情は真剣で、どうやら本気で言っているらしい。


 「その・・・、ごめんなさい。先輩はすごくいい人だとは思いますけど、まだお互いのことだってよく知りませんし、結婚とかはあんまり考えてないというか・・・・・・。すいません。」

 リアは困惑しながらも、素直な気持ちを伝えた。

 

 「・・・・・・・え?」

 だが、さっきまでとは一転して、マークはリアの返答が意外だったかのように目を見開き、表情が消えていた。


 「なんで・・・? 今、断った?」

 「え?」

 「なんでなんで? ねぇ?僕と君だよ? お父さんの子の僕とホワイト先生の子の君ならきっとうまくいくいくよ。お互いを知らないなら今から知れば良いじゃん、なんで断るの?」

 「え、待って。先輩?」

 マークは人が変わったように詰めながらリアに迫った。

 狭い路地、入ってきた方にマークがいるためリアに逃げ場はない。


 「ホワイトさん、わかるでしょ? 大丈夫だよ?」

 「待って、先輩・・・!」

 「なんでわかんないんだよっ!!」

 マークは怒りのままにリアの頬を殴った。そのままリアの体を壁に押しつけるように押さえつけ、リアは鞄を落としてしまった。


 「ねぇ、なんで!? 僕が頼んでるんだぞ! 一市民の君に断るなんて選択肢はないんだよ!!」

 「違う・・・。先輩、こんなことは・・・・・・。」

 「黙れ! 君が悪いんだよ? 君が間違った選択をしたから、正しいことを教えてあげなくちゃ。」

 マークは左手でリアの首を掴んだ。


 「やめて、先輩・・・・・・。」

 (怖い・・・。なんで、私の人生こんなことばっかりだ・・・・・・。)


 もう諦めてマークの言葉に従っていれば助かるかもしれない。

 どうせここで抵抗したってこの先の人生、良いことなんて一つもないかもしれない。

 

 もう、疲れた・・・。


 「・・・先輩、」

 恐怖と苦痛で全てを手放そうと思ったとき、ふとポケットの中で何かが手に当たった。


 (・・・・・・・ミリアさんのはさみ・・・。)


 「マーク先輩、私・・・。」

 「何? やっと気づいてくれた、ホワイトさん?」

 リアはマークが顔を上げたのに合わせてポケットの中からはさみを取りだしてマークの首元に突き刺した。


 「あ・・・・・・。」

 

 「・・・え・・・・・・・?」

 まるで勝手に体が動いたようだった。気づけば刃先が赤く染まっている。

 

 「う、うわあああああああ!!! なんで!? 何これ、何これ!!?」

 痛みとともに首から流れ落ちる血に気づいたマークはパニックになり、咄嗟にリアから離れた。

 やがて動悸と失血でまともに立っていられなくなったマークはその場に膝を突いた。


 「なんで、ホワイトさん・・・・・・・。」

 「・・・違う。私じゃない、私はただ・・・・・・。」

 自分がしたことが段々と現実味を帯び、リアの思考もパニックに陥りかけていた。


 「はぁ、はぁ・・・。助けて、ホワイトさん。リア、助けて!」

 マークは死の恐怖からリアの足にしがみつき、涙ながらに訴えた。


 「助けて、お願い!! 助け・・・。」

 「は、離して!!」

 リアはマークの体を無理矢理引き剥がしてその場から逃げ出した。


 逃げる途中に一度振り返ったときにはまだマークは生きていた。でもあの人目に付かない場所にマークを置いてきたらこの後どうなるかなんてこと容易に想像がつく。

 人を殺した。

 自分でも信じがたいこの事実とこれからの自らの運命を憂う余裕もなく、ただその場を離れたくて必死に走った。


 その夜は勉強をしても何も頭に入らなかった。眠ろうとしても瞼の裏に血塗れのマークの顔が焼き付いて頭から離れない。


 次の日、事件のことは大きな話題になっていて、軍も多くの兵士を導入して動いているようだったけど犯人の手がかりに関する話は出ていないようだった。

 それから私は罪悪感と悔恨から何も手に着かなくなっていた。

 そして、その間、何度もあの顔を思い出していた。ぐちゃぐちゃになりながら助けを求めるあの顔。真っ直ぐに私を見つめるあの顔が忘れられなかった。




 

 「・・・・・・・もう一度、あの顔が見たい。」





 +++


 「・・・・・・。」

 私はその話を聞いて言葉が出なかった。しかし、リアは怒りなのか後悔なのか、声を震わせながら続けた。


 「誰も私のことなんて見てくれなかった。街の人も同級生も学校の先生も。みんな私じゃなくて私の映るお父さんの虚像を見てた。私は生まれたときから私の姿をしてなかった。」

 落ち着いたトーンでどこか他人事のように話していたリアは一転して嬉しそうな表情を浮かべた。


 「でも、私に斬られた人はみんな私を見てたの! 助けて、殺さないでって、みんな真っ直ぐ私を見てくれた。私はあの顔が、あの目が忘れられなかった!!」

 「・・・・・・。」

 「あの日から私はおかしくなっちゃった。いや、もしかしたら最初からおかしかったのかもしれない。もちろん人を殺しちゃいけないなんてことは理解してる。でもあの顔が見たくて、もう何も考えられなくなった。理性と衝動の間で頭がおかしくなりそうで、私は考えるのをやめて現実から逃げたんだよ。そして、最初に自分の意志で人を殺したとき、すごく気持ちが良かった・・・。」


 リアは再びトーンを落として呟くように話した。

 「・・・どうかしてるでしょ? 私は私の欲を満たすためだけに人を殺し続けた。ラットの腹を開くように、淡々と殺した。気づけば私は命の価値も分からないような恐ろしい人狼に成り果てていた。でも、私はそれで良かったんだ。これは私の選んだ道だから、これが本当の私だから誰にも見つからずに殺し続ければ良いと思ってた。・・・なのに見つかっちゃって、やっぱり桜はすごいよ。」

 「リア・・・。」

 言葉とは裏腹に、リアは少し吹っ切れたように微笑んだ。


 「あーあ、私って馬鹿だなー。」

 「・・・嘘つき。」

 「え?」

 「嘘だよ。このままで良かったとか、見つかっちゃったとか、全部本心じゃないでしょ? 本当は誰かに止めて欲しかったんでしょ? あんなにわかりやすいヒント残して、こんな時まで嘘吐かないでよ。」

 私はリアの顔を見れなかった。どんな顔でこの感情をどう表現すれば良いのか分からなかった。


 「・・・・・・はは、本当に桜は。来るのが遅いんだよ。」

 刀を壁に突き刺したまま項垂れて涙を流す私の頭をリアは優しく撫でた。


 そしてリアは私の腰に刺さった信号弾をさっと奪った。


 「あ・・・。」

 何をするかと思ったけど、リアはそのまま信号弾を空に向かって放ち、銃は捨てるように足下に落とした。


 「これで兵士が来るんだよね。犯人が誰であろうと油断したらダメだって言われたでしょ? 最後までちゃんとやらなきゃ。」

 「・・・まって、待ってよリア!」

 私に反してリアは清々しい表情をしていた。まるで苦難を乗り越えたような柔らかい表情だった。


 「どうした! 大丈夫か、桜・・・・・・。」

 慌てて角を曲がって来た兵士は私たちに気づいてぎょっとした。


 「・・・なんだこれ。一体どういうこった・・・・・・・?」

 「あなたが桜の言ってた兵士さんですね。初めまして、私が人狼です。」

 リアは私の身体を軽く押しのけて兵士の方に歩いて行った。


 「人狼って・・・、お前、ホワイトの娘だよな・・・?」

 「はい。リア=ホワイトです。」

 「冗談だろ・・・・・・。」

 兵士は剣の束に手をかけたまま困惑しているようだった。

 だが、すぐに事態を理解して剣を鞘から引き抜いた。


 「・・・・・・・手を上げてその場に跪け。」

 リアはその命令に対して一切抵抗することなく指示に従った。それから兵士はリアの両手首に手枷を付けてゆっくりと立ち上がらせた。


 「リア!」

 私はその様子を呆然と見ていたけど、ふと我に返りリアに声をかけた。


 「待ってるから! 戻ってきたらまたどこか行こう? 私の友達も紹介するし、今度は私の案内で・・・。」

 「・・・ははは。嬉しいけど、それは無理だよ。私は9人も殺したんだ。この国の法を考えれば極刑は免れない。」

 「そんな・・・・・・・。」

 「でも、ありがとう。桜が私のことを友達って言ってくれたこと本当に嬉しかった。遅すぎたかもしれないけど私をちゃんと見てくれる人がいるって気づけた。最期に会えたのが桜で良かったよ。」

 「リア・・・、なんでそんな・・・・・・・。」

 「桜、元気でね。バイバイ。」


 私は兵士がリアを連れていく後ろ姿をただ見ているしかなかった。頭では分かっていても実感なんて湧くはずもなくただ茫然自失と夢か現実かの違いも分からないような光景を眺めていた。


 

お読み頂き、ありがとうございます。


次回は9/22投稿予定です。

お楽しみに。

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