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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
結録天
30/70

日陰にあるもの

 ―ウェスタンリードの宿

 「『桐香へ』・・・、う~ん、ちょっと子供っぽいかな? 『拝啓、桐香様』・・・、いやいや堅すぎるでしょ。」

 ここに来たときは2、3日くらいの滞在と考えていたけど、1週間くらいは留まることになりそうなので、私は桐香に宛てた手紙を書いていた。この街では定期的にバーリングとウェスタンリードを往復する乗合馬車の船頭さんに郵便物を渡すと届けてくれるらしい。


 「『この手紙を読んでいるとき、私は・・・』ってこれはおかしいか・・・。 も~、手紙って何て書き出したらいいの~?」

 この街で起きている事件と堕天使の可能性を桐香に伝えるために手紙を書いているのだけど、どうも書き方が分からない。

 「もういいや、普通に話してるときの言葉で書こう。」


 結局、桐香は今何をしているのか分からない。でも、この手紙を見ればウェスタンリードに来てくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら私は筆を進めていた。


 +++


 ウェスタンリードに来てから3日目の朝、今日も人狼事件の情報を探そうと早速宿を出た。


 「あ、桜!」

 宿のロビーの玄関を開けると、向かいの道でリアが手を振っている。

 「あれ、リア? 学校は?」

 「やだな~、今日は休日だよ?」

 「あ、ああ。そうだっけ?」

 こうも数ヶ月間学校に行っていないと曜日感覚というものがいよいよ怪しくなってくる。

 「ていうか、なんで私が泊まってる宿知ってるの? 言ったっけ?」

 「いや? 街の人に教えてもらったんだよ。こう見えて私は顔が広いからね。」

 リアは誇らしげに胸を張って言った。

 

 「それよりも、聞いたよ。桜、人狼事件の犯人捜してるんだって?」

 「うん、実はそうなの。もしかしたらこの事件に私の探している人が関わってるかもしれなくて・・・。」

 「そうなんだ。」

 「それでさ、リアに聞きたいことがあるんだけど・・・。」

 「・・・何?」

 「リアのお父さんって、今回の事件の被害者の検死をしてるって聞いたけど、その話って聞けたりするかな?」

 「え? ん~・・・、どうだろう、お父さんほとんど休みなさそうだからなぁ・・・・・・。」

 リアは少し困ったような表情で首を捻った。


 「日中は診療とか手術とかで忙しいから、時間があるとしたら夕方の買い出しに行ってる時間とかかな。救急以外の診療は終わってるし、いつもそれくらいの時間にちょっと出かけてたはずだから。」

 「なるほど・・・。ありがとう! 後で行ってみるよ。」

 「う、うん。あんまり期待しない方が良いかもだけど・・・。」

 こないだ会った感じだと適当にあしらわれてしまいそうだけど、根は悪い人じゃなさそうだし、行く価値はあるだろう。


 「さて、夕方までは何をしようか・・・。」

 「それなら、せっかくだから桜にこの街案内するよ!」

 私は腕を伸ばして考えていると、リアは私の前に立ってそんな提案をした。

 「でも、リア勉強は・・・。」

 「息抜きだよ。そんな毎日毎日休まずやってたら良くないよ? 量より質!」

 「お、おお。流石。」

 リアは力強くそう言いながら笑って私の手を引いた。



 リア曰く、ウェスタンリードはカブラル建国後に農作に向かない、いわゆる不毛の土地を学術振興のために切り開いて作られた街らしい。なので歴史も浅く、自然も少ないので観光名所と呼べる場所はないのだが、博物館や美術館のような施設は充実しているらしい。

 私はリアに案内されるままウェスタンリードの街を観光した。よくわからないものがいっぱいの大きな博物館も、博識のリアの解説付きだとすごく面白くて、少し頭が良くなったような気がした。


 その帰りにはリアおすすめのピザのような料理を食べ、久しぶりに気が和らいだ日だった。

 「あ~、おいしかったよ、あの食べ物。」

 「口に合ったなら良かったよ。桜は異国から来てるって言うからちょっと心配してた。」

 「いや、ほんとおいしかったよ。持ち帰りたいくらい。」

 「おお! 絶賛じゃん。」

 良く晴れた昼過ぎの街中を私たちはそんな話をしながら歩いていた。


 「ん? あそこにいるのホワイトさんじゃない?」

 「ほんとだー。っていうか隣にいるの誰?」

 

 そんなとき、街を行く人の中から明らかに私たちに向けられた声がした。

 

 「あれ? ホワイトさんって友達いたんだー。いっつも1人でいるからいないのかと思ってたー。」

 「ちょっと、かわいそうでしょ。隣の人だって嫌々付き合ってるだけかもしれないんだから。きゃはっ。」

 「あ、ごめーん。で、いくらで友達やってるの? 私にも教えてよ、ホワイトさんお金はいっぱいあるでしょー?」


 声の方に振り返ると私より少し年上くらいの女の人が2人、意地の悪そうな笑みを浮かべていた。

 「ねぇねぇ、聞いてるー?」

 「・・・・・・何なのこの人たち。ねぇ、リア・・・。」

 「桜、こっち。」

 「え? ちょっ・・・。」

 ずけずけと近づいてくる2人に眉をひそめてリアの方を見ると、当のリアはばつの悪そうな表情で俯き、そのまま私の腕を引っ張って反対方向に歩き出した。


 「リア、あの人たち誰? あんなこと言って、何も言い返さなくて良いの?」

 「・・・大丈夫。慣れてるから。」

 リアはさっき話していた時とは一転して、奥歯を噛みしめて悔しそうな顔をしながら早足で歩いて行く。その背中はリアとは思えないほど弱々しかった。


 「・・・・・・リアが良くても、私は嫌だよ。」

 「え?」

 私は多少強引にリアの手を振りほどき、2人の方に戻った。

 

 「え? 喧嘩ー? まあホワイトさんと一緒にいるなんてやだよねー。」

 2人は懲りずにニヤニヤと人を見下すように笑っている。


 「・・・あなたたち、リアの何なんですか?」

 「ん? えー、もしかして怒ってる? 八つ当たりとかやめて欲しいんだけどー。」

 見た感じ、この人たちはリアの大学の同級生か知り合いだろう。


 「リアがあなたたちに何をしたのか知りませんけど、理由もなくリアにひどいこと言うのやめてください。」

 「いやいや、ひどいことって何? 私たちはわざわざ話しかけてあげてんだよ? ひとりぼっちのリアちゃんに。」

 2人のうち金髪の方が私の前に来て、馬鹿にするように私の頭に手を置いた。


 「・・・もしかして、リアに嫉妬してるんですか?」

 「・・・は?」

 「いや、だって今日休日ですよ。なんでわざわざ学校のローブなんて羽織ってるんですか? そんなの自分の学位を誇示したような格好で自分より頭の良いリアを馬鹿にするなんて、自分のコンプレックスさらしてるようなものですよ?」

 「あぁ? 何言って・・・。」

 耐えられなくなった私は怒りのままなるべく攻撃的な言葉を紡ごうとした。

 その人は目を眉間に皺を寄せて私を睨む。

 「詰まるところ、嫉妬ですよね? いくら頑張っても年下のリアに勝てないから、言葉でリアを否定しないと自尊心を保てない。そんなんだからいつまでも・・・・・・」

 「っふざけんな!!」

 その人は激昂して私の頬を平手打ちした。

 

 その騒ぎに通りにいた人たちは私たちの方に視線を向けてざわついているけど、その人は構わず私の襟を掴み上げ、声を荒げる。

 「何なんだてめぇ! こっちはお前が到底理解できないようなことやってんだよ! 大学にも入れないような馬鹿猿が、舐めた口きいてんじゃねぇ!!」

 その人は首を絞めんとばかりに右手に力を込めて引き寄せた。


 「・・・そんなに頭良いのに、リアの気持ちは理解できないんですね。」

 「あ?」

 「まあ、それもそうですよね。だって、リアとあなたじゃ理解できるもののレベルが違うだろうから。」

 「黙れっ!!!」

 血管が浮き出る程顔を赤くしたその人は右手を振り上げ、私を殴ろうとした。

 私はその振り下げられた右手を掴み、軽く力を込めた。

 「私が馬鹿な猿で、あなたがそうじゃないって言うなら、拳じゃなくて言葉で殴って見せてくださいよ。」

 「っ痛・・・!」

 その人は咄嗟に掴んでいた手を離し、数歩後ずさる。


 「・・・ちっ、くそ!」 

 少しの沈黙の後、その人は持っていた教科書っぽい本を地面に叩き付け、隣の人になだめられながら帰って行った。



 「桜・・・・・・。」


 「・・・リア。」

 「・・・・・・。」

 「・・・リア、怖かった~!」

 「え?」

 私は緊張から解き放たれた反動で半泣きでリアに抱きついてしまった。

 「喧嘩なんてちゃんとしたことないから、本当はすごく怖かった~。」

 「・・・あはは。そうだったんだ。でも、桜すごく格好良かったよ。 剣術の本を読んでるだけはあるね。」


 逆にリアは私をなだめるように頭を撫でながら優しい言葉をかけてくれた。

 「それと、ありがとう。桜が私のために怒ってくれてすごく嬉しかった。」

 リアはほんのりと目尻を赤くしたままそう言って笑った。

 

 「・・・気づいちゃったかもしれないけど、私さ、今までちゃんと友達っていたことないんだよね。子供の頃は何人か遊んでくれる子はいたけど、勉強する時間が増えるにつれて疎遠になっちゃって。それから進学とかするうちに同じ年の子もいなくなって、今私の周りにいるのはああやって意地悪してくる人とか、私がお父さんの子だからってぺこぺこしてくる人だけ。頑張って明るく接しようとしてるのに、人と関わる才能ないんだろうね・・・・・・。」

 リアは秘密を打ち明けるように小さな声で吐露した。

 「そんなことない! 悪いのはリアの気持ちもしらないでひどいこと言ってくる人の方だよ! 私はリアと話してて楽しいし、リアに出会えて良かったって思ってる。だから、今友達がいないなら私がリアの友達になるよ!」

 「・・・・・・え?」

 リアは少し驚いたように目を丸くした。


 「明日も明後日もまた会おうよ! それに、今はお互い住んでるところは違うけど、今度はどこかであって他の街にも出かけよう? あ、バーリングにいる私の友達も紹介する。きっと楽しいよ!」

 「ほ、ほんとに・・・? いいの?」

 「約束!」

 私はそう言って小指を差し出した。

 「うん、うん・・・! ありがとう、私桜のこと絶対忘れない・・・!」

 リアは涙を流しながら小指を絡めた。

 今まで相当な我慢をしてきたのだろう。リアは強いからきっと誰にも相談しなかったのかもしれない。その時のリアの笑顔は子供のような屈託のないかわいい笑顔だった。


 +++


 「・・・そろそろ戻って勉強しなきゃ。」

 それから私たちは公園のベンチに座って他愛もない話をしていた。

 楽しい時間はあっという間で、そろそろリアは戻らないといけないらしい。


 「もうそんな時間か~。仕方ないね。」

 「ごめんね。まだ話したいことはいっぱいあるのに・・・。」

 「それならまた明日話そう? 楽しいことは取っておこう!」

 「うん、分かった。じゃあまた明日。」

 「またね!」

 私は夕焼けの街を歩いて行くリアに手を振って別れた。


 「さて、私はそろそろホワイトさんのところに行こうかな。」

 私も腰を上げて、リアの言っていた時間にリアのお父さんの所に行くことにした。

 

お読み頂き、ありがとうございます。


次回は8/18投稿予定ですが、もしかしたら前後するかもしれません。

ご了承ください。

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