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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
闘簫天
3/70

武器と衣装

 異世界に来て初めて食べた食事は、こっちに来た翌日の朝食だった。カエルとかグロい魚とかが出てきたらどうしようとか考えていたけど、机に並んでいたのは少し形の変わったパンだとか堅い大葉みたいな野菜だとかそこまで変な物ではなく質素な感じだった。カイルさん曰く、昨日話していた内乱の影響で食べ物の流通量が減って食糧不足になっているらしい。


 私たちは食事をしながら状況の確認をすることにした。

 「まず、あの白ローブが話してたことだけど―」

 私たちがこっちの世界に転移する直前、白い光の中、朦朧とする意識の中で白ローブが言っていたことを思い出した。




 『―したがって、これより汝らにいくつかの力を与える』

 「力…?」


 『堕天使は常世の存在ではない。生身の人間では存在の抹消はおろか視認することすら敵わない。よって汝らの堕天使との親和性を高め、闘うための武器を授ける。』

 「武器ってことは直接闘わないといけないってことか…」


 「あの、それと…もしその別の世界で死んだらどうなるの?」

 『無論。1つの魂が同時に2つの世界で存在することはない。故に、第8世界で死んだ場合、こちらの世界での存在も消える。選択を変えるなら今だけだ。』

 「迷いはないよ。私たちは3人で莉里を助ける。」

 『了承した。』

 その後、白ローブはよくわからない呪文のような言葉を言って、気づくと私たちは教会にいた。




 「―で、その力の具体的な内容って言うのが、堕天使を認識できること、身体能力が上がっていること、あと言語が理解できることとか、異様に用意が良いこととかもそうなのかな?」

 「待って、身体能力が上がってるってどういうこと? そんなこと言ってた?」

 「言ってはなかったけど、2人が起きる前、もしかしってって思って試してみたんだよ。廊下の端に置いてあったレンガを軽く握ってみたら簡単に砕けた。発泡スチロールみたいに。」

 そういえば、さっき廊下の端に石の破片みたいなのが落ちてた気がする…。


 「桐香なら割とできそうなんだど。」

 「できるか。」

 ともかく、運動が苦手な私にとってそれは朗報だった。白ローブは抹消と言っていたけど、要は闘って倒さないといけないと言うことなのだろうから、動けるようになっていることは正直ありがたい。そう思考を巡らせていると大事なことに気づいた。


 「そういえば、武器もらってなくない?」

 「そうなんだよ。この教会にあるのか持って思って探してみたけどないし、もしかしたら外に行って探さないといけないのかもしれない。最悪、あいつが言ってた武器って概念的なものでいわゆる武器じゃないのかもしれない。」

 「えー…、それは困るな。」

 実際どうかはわからないけど生身で闘えるものなのだろうか。


 「……その、武器ってもしかしてこれ?」

 私と桐香が武器の行方について悩んでいると恵が少し遠慮したように切り出した。その手には恵の身長ほどある大きな木の杖を持っていた。いや、木製と言うより流木をそのままねじ曲げたような形状で先端が渦巻くような形をしている。


 「恵!?それいつの間に、ていうかどこから持ってきたの?」

 「実は、このバッジ触ってたら急に出てきたの。」

 恵はブレザーの胸元から菱形の黒と黄色のバッジを取り出した。よく見ると私のYシャツや桐香のパーカーもついていた。もちろんこんなバッジは普段付けてないし、付けた覚えもない。


 「さっき服に何かついてるなって思って、触ってたら急にこの杖が出てきたのよ。」

 そう言いながら恵がバッジの黒い方を押すと目の前にあった杖が消えた。


 「黄色い方が出す方で、黒い方がしまう方みたい。」

 「なんかRPGじみてきたね…」

 私と桐香もバッジを押してみるとそれぞれ武器が出てきた。私は鞘が木製の刀で桐香の目の前には大きな銃が出てきた。


 「ライフルって、世界観・・・・・・。」

 桐香は銃を手に持ってつぶやいた。さっきまでの恵の杖を見てRPGとか話してたのに、突然現れた現代武器に少し拍子抜けした。


 「え? 桜も桐香もそんな強そうな武器なの!? 私は木の棒なのに。」

 「いや、それ見た目的に魔法とか使えるんじゃない?さすがにただの棒ってことはないんじゃ。」

 「魔法!? ほんと? やった!」

 不満をたれていた恵は桐香の魔法という言葉で一気にテンションが上がった。


 「でも、魔法ってどうやって使えば良いの?」

 「そんなこと言ったら私だってライフルなんてゲームの中でしか見たことない。」

 私も当然刀なんて振ったことはなかった。


 「う~ん、このままじゃ闘うことなんてできないよ。なんとか使い方ぐらいは知っておかないと。」

 恵の言うとおり、武器が与えられても使い方がわからないんじゃ闘うなんてできない。それに桐香はともかく私と恵ははっきり言って運動音痴だ。道具以外にもなんとかしないといけない問題は山積みだった。


 「じゃあ、練習しようよ。武器の使い方とか、あと、動き方は喧嘩慣れしてる桐香教えて。」

 「人を不良みたいに言うな。私だってそんな喧嘩なんてしないから。」

 桐香は持っていた木のスプーンで恵の頭をぽんと叩いた。

 「まあ練習するのは良い案だね。ここでって訳にもいかないし、カイルさんにでもどこか良いところないか聞こう。」


 ということで私たち食器を片付けた後、礼拝の終わったカイルさんに聞いてみた。カイルさんが言うには町の東側にある山の上に開けた草原があるらしい。私たちは支度をして早速向かうことにした。


+++


 昨日、教会で目を覚ましてから教会の外に出るのは初めてで、目に映る町並みはどれも新鮮だった。石と木材で造られた建物が整然と列になって並んでいて、何件かおきに向こうの道とつながる通路があるといった感じだった。

 街の中心部には噴水と広場があり、いくつかテントが出ていて市場が開かれているようだった。ただ、人はまばらでほとんどは何も陳列されていない無人のテントだった。


 「おーい、姉ちゃん達! うちのアクセサリー見ていかねぇか? って、よく見たら見ない顔だな、もしかしてあんたらが例の天使様達かい?」

 声をかけてきたのは金属製のアクセサリーを売っていた商人のおじさんだった。無精ひげを生やし、口調は荒々しいけど、人の良さそうな人だった。


 「いや、私たちは天使ではなくってですね…。確かに別の世界からは来てるんですけど。」

 「天使ってカイルさんが広めてるのかな。」

 桐香はあきれたような顔でうつむいているが、隣にいた恵は楽しそうにアクセサリーを見ている。

 「わぁ~、きれいなアクセサリー! これなんてすごくかわいいよ。」

 恵は猫のような形の装飾がついたネックレスを手に取って目を輝かせている。


 「お! 気に入ってくれたかい? よかったらもらってくれ、天使さんに付けてもらったアクセサリーも喜ぶわい!」

 商店のおじさんは「がはは!」と大口を開けて笑った。


 「いいの? ありがとう! 大切にするわ!」

 「いや悪いですよ。恵も遠慮しなよ。」

 「いいんだ天使さん。見ての通り最近はアインスの内乱のせいで出歩く人が減っちまったから商売あがったりよ。正直並んでんのは売れ残りなんだ。誰かに喜んでもらって使われた方が商品も報われるっともんよ。」

 「見た感じこの町は平和そうだけど、町の人が少ないのも内乱の影響ってこと?」

 カイルさんから首都での内乱の話は聞いたけど、バーリングが戦場となった話は聞いていないし、ぱっと見普通の町でいまいち実感がなかった。


 「そうだな。俺も内乱が起きた後は首都に行っていないし、聞いた話なんだがな、首都が戦場になったせいで兵士が首都に集中して周りの町や村での治安が悪化してるらしいのよ。この町はまだ平和だが、そんなこともあってみんな恐がって外を出歩かなくなっちまった。」

 「そうだったんですね…。でも、おじさんは平気なの?」

 「俺か? 俺に限っては外より家の女房の方が恐くて家にいらんねぇのよ。がははは!」

 おじさんはそんなことを言って笑っていたけど、事態は思っているよりも深刻なようだった。バーリングと首都はそれなりに離れているけど、いずれその影響が来ると考えると恐いのは当然のことだろう。

 

 この内乱に例の堕天使が絡んでいるかどうかはわからないけど、私たちにできることがあればなんとかしたいと思った。

 「じゃあ、そろそろ行くよ。アクセサリーありがとう! 大事にするよ。」

 「おう! 気をつけてな!」

 おじさん別れを告げて、私たちは目的地の草原に向かった。


+++


 ―バーリングより東側に位置する草原

 私たちは草原に到着し、バッジからそれぞれ武器を取り出した。

 「じゃあ、まずそれぞれ試してみるか」

 「待ってよ、魔法使う方法を一緒に考えてほしいんだけど」

 恵は私と桐香の前に杖を突き出して言った


 「まぁ、確かに。魔法か~……、桜なんかある?」

 「え? う~ん…、ゲームとかアニメとかだったら呪文とかが定番だけど。」

 「呪文?」

 「炎の魔神がーとか、水の神よーみたいな?」

 急に桐香から振られて適当なことを教えてしまったかもしれない。ていうか魔法があるなら白ローブも教えてよ・・・・・・。


 「と、とにかく! それっぽいこと言ってみてよ。」

 恵は不満そうに私の顔を見ながら渋々杖を掲げて、咳払いをした後、呪文?を唱えた。


 「ん、んん。天より舞い降りし炎の魔神よ、我の魂に呼応し、大地を紅蓮の炎で焼き尽くせ!」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・ふっ。」

 何も起らず、間が開いて桐香が吹き出した。


 「桐香!? 今笑ったわね!?」

 「恵・・・、この世界でスマホ使えなくなっててよかったね。」

 桐香は必死に笑いを堪えていて、小刻みに肩が震えている。


 「撮影しようとしたの!? こんな黒歴史記録されたら生きていけないよ!」

 「まあまあ、意外と上手かったよ、恵。」

 「桜も何笑ってるの! 桜が言い出したんだから、責任取りなさいよ!」

 恵は赤くなって頬を膨らませていた。


 「もしかして、今の呪文が違うんじゃ。ちょっと他の呪文を・・・」

 「まだやらせる気!? そもそもこんな呪文をピンポイントで当てなくちゃいけないなら一生かかっても無理よ!」

 「じゃあやっぱり恵の武器ってただの木の棒か」

 「ひどい!」

 桐香の最悪の考えを聞いて恵が落胆した。とはいえ、実際に0から魔法の使い方を調べるなんて無理がある。アニメだったら神様的な案内役が教えてくれそうなんだけど、そんなこともなかったし。


 「あーもう、叫んでたら喉渇いてきた。お水飲みたい。水~・・・!?」

 半ば諦めかけている恵がそう言って空を見上げて手を伸ばすと、持っていた杖の先端から噴水のように水が勢いよく飛び出した。私と桐香が驚いて恵の方を見ると、びしょびしょに濡れた恵が口を半開きにして固まっている。


 「・・・何なのこの仕打ちは。」

 「恵、その・・・大丈夫?」

 恵は固まったままぷるぷると震えている。


 「もうこんな杖いらないわ!!」

 ついに耐えきれなくなった恵は杖を地面にたたきつけた。

 「ちょっ、落ち着いて。」


 叫びながら駄々をこねるように暴れる恵とは対照的に桐香は冷静に何かを考えていた

 「桐香、どうかした?」

 「うん、これはむしろ朗報かも。」

 「どういうこと?」


 「さっき恵が水がほしいって言ったら杖がから水が出てきたわけでしょ? ってことは恵が出したいもの言った出てくるってことなんじゃない?」

 「そんな簡単に? でも、水って言ったら出てきたのは確かにそうか・・・。」


 「恵ちょっと他の言葉で試してみてよ。」

 「うん、えっと・・・‥火!」

 恵が叫ぶと、杖を構えた数m先の草が発火した。


 「おお、すごい! 他には?」

 「え? え~、風!」

 少し得意げになって、続けて風を吹かせた。調子が乗った恵はさらに続ける。


 「雷!」

 杖から稲妻が走り、草原の草に落ちた。


 「もふもふのぬいぐるみ!」

 今度は恵の目の前にもふもふのぬいぐるみ……は出てこなかった。


 「ん? 何も出てこないじゃん。」

 「明確な形があるものは出せないってことなのかな。」

 恵は少し残念そうにしていたが、桐香は相変わらず冷静に恵の魔法の分析をしていた。


 「ところで恵、あれ消さなくて良いの?」

 桐香が指した方向を見ると、草原が燃えて黒い煙がもくもくと出ていた。最初の火で着火した後、風で煽って、雷で追い打ちをかけたのがよくなかったのだろう。


 「うわ! どうしよう、どうしよう!? と、とりあえず水~!」

 恵が慌てて最初に使った水の魔法を火に向かって使ったが一向に消える気配はない。

 「全然足りてない! もっと、大量の水!!」

 恵が叫ぶと杖から大量の水が飛び出し、恵は反動で尻餅をついた。それから何度か同じことを繰り返して、ようやく火は消えた。


 「はぁ、はぁ…、なんかすっごく疲れた……。」

 恵は額から汗を流し、その場に倒れ込んだ。


 「おつかれ、恵。はい、お水だよ。」

 マラソン大会の後のように息を切らし、仰向けに寝転ぶ恵に、私は教会から持ってきた水筒を渡した。

 「いくら何でも疲れすぎじゃない? 恵は叫んでただけでしょ?」

 桐香も恵の横に来て、顔をのぞき込むように言った。確かに、恵は慌てて魔法を連発していたけど、基本は叫んでいただけで、走り回っていたわけでもない。


 「はぁ、はぁ、桐香の鬼・・・」

 恵は考える気力もないといった感じで、水をすすりながら呟いた。

 「魔法を使うのって叫ぶだけじゃなくて、体力も使うってことかな?」

 「桜の言う通りかも。それなら、魔法の使いすぎで倒れたってことも考えられる。そこら辺、恵はどうだった?」

 「え? あー、そういえば大量の水って叫んだとき、少しクラッとしたような…。」


 段々恵が武器として与えられた杖のことがわかってきた。この分だと超常の存在である堕天使と闘うための武器というのも納得できる。ただ、どれくらいの範囲までできるのかとか、もっと他のものは出せるのかとか、調べたいことは他にもあったけど、恵があの様子なのでとりあえず今日は後回しにした。

 

 「じゃ、恵は動けなさそうだし、次は私が試すよ。」

 恵のこともあり、結局私たちは一人ひとりの武器についてみんなで考えることにした。桐香は早速銃を草原にまばらに生えている低木に向かって構え、引き金を弾いた。


 直後、パンっという乾いた音とともに目標にしていた低木が小さく揺れたが、弾が当たったところを確認すると木の皮が少し削れた程度でほとんどダメージはなかった。


 「ん? なんか弱くない?」

 銃の見た目の割には確かに威力が弱い。桐香は訝しげに弾倉を取り出そうとした。


 「え・・・?」

 弾を確認した桐香が何かに気づき、驚いた様子で私たちの顔を見た。

 「弾が入ってない。というか弾を入れるところがない」

 私たちが確認すると確かに弾は無く、多少その手の知識がある桐香によるとそもそも弾を込める部分が無いらしい。


 「でも、さっき確かに弾が発射されたよね?」

 もう一度確認しに行くと、やっぱり木の皮が削れた跡はあるけど銃弾らしきものはどこにも墜ちていなかった。

 「おかしいな・・・・・・。もう一回撃ってみる」


 桐香は同じ木の細い枝に標準を合わせて再び銃を構えた。引き金を引くとやはり無かったはずの弾が発射され、パキッと目標の枝が折れた。でも、やっぱり下を探しても銃弾が落ちているのは確認できなかった。


 「もしかして、何発でも撃ち放題とか?」

 「私だって魔法だし、それくらいあってもおかしくはないわ。」

 「ん~…、それならありがたいけど、威力がこんなんじゃあんま使い道ないかも。」

 「見た目は敵をだますためで、実際は振り回して闘うとか!」

 恵は閃いたと言わんばかりに人差し指を立てて桐香に言った。


 「えー、さすがにそんなんで闘える?」

 あれこれ考えてみたけど、輪ゴム程度の威力の銃の使い道なんてわからない。桐香はう~んとうなりながら、何度か木に向かって試し撃ちしている。

 「実は剣ですとか?」

 「それだったらもっと別の見た目にするんじゃない?」

 「桜はなんかアイデアないの?」

 「うーん、ブーメランとか?」

 「一緒じゃん」

 私と恵が桐香の後ろであーだこーだ話していると、突然ドンッと地響きのような轟音が響いた。


 慌てて振り替えるとさっきまで桐香が目標にしていた低木が跡形もなく吹き飛んでおり、桐香が膝をつくように前屈みで倒れ込んでいる。 

 「桐香!? 大丈夫!? 何があったの?」


 「・・・ぜぇ、はぁ、ああごめん。さっき恵が水の量変えてたの思い出して、大砲みたいなのイメージして撃ったら、思ってたよりも強いのが出ちゃって・・・、はは。」

 息を切らしながら桐香は苦笑いをしていた。どうやら恵と同じように頭の中でイメージした通りの威力の弾が発射されるらしい。


 「はぁ・・・、でも、ま、威力上げる方法もわかったし、私のこれも恵と同じように体力削るっていことがわかったから、疲れ甲斐もあったってことで・・・、ガクッ。」

 「桐香ああ!」 

 「いや、死んでないから。」

 恵と同様ひどく疲れた様子の桐香はそう言って横になった。


 「じゃあ、次は私の番だね。」

 2人が体力切れで動けなくなったので、私の番になったけど・・・

 「魔法とか銃とかと違って何か出るわけでもないし、見た目は普通の刀なんだよね・・・。」

 私のは見慣れたと言うわけでもないが、2人に比べて使い方がイメージしやすい分他の能力的なものが考えにくい。

 「とりあえず振ってみたら?」

 「握り方とかわかんないんだけど…、ふっ!」

 一旦、細かいことは置いといて2人が言うように振ってみた。

 「ほっ、はっ!」


 刀なんて持ったことすらないし、体育の剣道で数回竹刀を振った程度だったけど、見よう見まねで3回くらい振った。しかし、刃に当たった草が切れた程度で特別なことはないし、普通に動いただけ疲れただけだった。


 「力を込めたらすごい斬激が出るとかない?」

 桐香の助言を受けて、雲を切るくらいのイメージで、上段から思い切り振り下ろしてみる。だが、結果は何も起らず、もちろん上空の雲は変わらずゆったり流れている。

 「・・・・・・うん、普通だね。強いて言うなら、普段の桜なら絶対持てないであろう刀を軽々振り回せるくらいの怪力が与えられれるっとことくらいか。」

 「う・・・、確かにそうだけど、それは現役の女子高生として素直に喜んで良いものだろうか・・・・・・。」

 結局、この日わかったことは私の武器は怪力と言うことだけだった。

 予定では夕方くらいまでゆっくり練習するはずだったけど、恵と桐香が想定以上に早くダウンしたことと、私も刀の振りすぎで疲れたので昼過ぎに帰ることにした。


+++


 帰りは下りだったのだが、私は歩いて帰る体力すら残っていない恵を背負い、桐香の肩をずっと支えながら歩いて帰ったので教会に着く頃には私もくたくたになっていた。


 教会に戻り、扉を開けると昨日はいなかった女の人が扉の前に立っていた。

 「お帰りなさいませ。私はこの教会のシスターを務めております、クレア=カリステと申します。お風呂の用意ができておりますので、どうぞこちらに」

 全身黒の修道女らしい衣装を纏ったクレアさんは無駄のない美しい仕草でお辞儀した。頭から黒いベールを被っており、顔の半分くらいはよく見えないが、彗星のようなきれいな金髪と二重の大きな碧眼から相当の美人であることがわかる。


 「あ、初めまして、私は深並桜で、後ろの小さいのが近衛恵って言って…」

 「私は浅田桐香です」

 「小さいのって紹介やめてくれる」

 あまりの美人さに目を奪われてた私は慌てて自己紹介をした。私の背中でぐったりしていた恵は不満そうに私の肩を叩いた、私たちのやりとりを見ていたクレアさんはくすっと笑って、改めて教会の奥に案内してくれた。

 

 「クレアさんって昨日いませんでしたよね?」

 「はい。本来は住み込みでこの教会にいるのですが、昨日は私用で外出しておりました。これからはカイルさんに変わって私が皆様の身の回りのサポートをさせていただきますね。」

 クレアさんは柔らかい笑顔で私の質問に答えてくれた。クレアさんの笑顔は、この人こそ天使では?と思うほど美しかった。


 教会の奥まで来ると裏口があり、外に出ると、小屋くらいのサイズの小さい建物があった。その建物はどうやらお風呂のようで、建物は小さいけど中は埃一つないほどきれいで、浴場にしては大きいくらいだった。

 「では、着替えを用意して参りますのでごゆっくり」

 クレアさんはそう言って、お風呂と扉を閉め、教会の方へと戻っていった。


 「疲れた~」

 私は湯船に浸かり、目一杯足を伸ばした。ほぼ1日中運動した身体に1日ぶりのお風呂は浸みる。気持ちよすぎてこのまま寝落ちてしまいそうだ。


 「こっちの世界にもお風呂があってよかった~。」

 「街の見た目は中世っぽいけど、電気も水道もあるし、意外と文明水準は高いのかもね」

 横で恵も桐香も足を伸ばして肩まで浸かっている。思えば、こっちに来てからずっと気を張っていた。2日程度の出来事とは思えないほどめまぐるしく状況が変わり、不思議なことが起こり、こんなにゆったりできる時間は久しぶりなような気がして、私たちは随分気が緩んでいた。


 「ねぇ、クレアさんすっごい美人じゃない?」

 「それ! 私も思った!」

 「まぁ、確かに今まで見た人の中では1番美人かも。」

 「桐香が褒めるなんて珍しい。そういうの興味ないのかと思ってた。」

 「別に興味とかじゃなくて、素直に美人だって思っただけだから。」

 「この世界にもメイクとかあるのかな?」

 「どうだろ。あとでクレアさんに聞いてみる?」

 「私も将来はあんな美人に…」

 「え~、恵は小っちゃいままでいてよ」

 「ちょっ! 小っちゃくない!まだ成長途中なだけだから!」 

 恵はからかう桐香にバシャバシャとお湯をかけた。


 「やめっ、このっ!」

 「ひゃっ」

 桐香はやり返すように手で水鉄砲を作って恵の顔にかけた。


 「2人ともー、お風呂で騒がなーい」

 私たちはしばらくそんな他愛もないやりとりを続けていた。いつもの感じに戻ったようで楽しかったけどここに莉里がいないことが寂しくもあった。


 そんなことをしているうちに、一番はしゃいでた恵がのぼせ、介抱するために結局全員同じタイミングでお風呂を出た。脱衣所には寝間着が用意されていて、私たちはそれを着て教会の部屋に戻った。


 +++


 翌日、目を覚ますとベッドの脇に大量の服が置かれていた。困惑しつつ服を手に取って眺めていると、私が起きたことに気づいたのか、クレアさんが部屋に来た。

 「おはようございます。本日は町中からお召し物をご用意させていただきました。お気に召すものがあれば良いのですが…。」

 「朝からこんなにたくさん!? ・・・いや何というか、本当にありがとうございます。」

 昨日戻ってきたばかりだというのに何から何までしてくれるクレアさんに頭が上がらない。


 「う~、朝から何騒いでるの…?」

 私とクレアさんが話している声に気づいて恵が目を覚まし、それにつられるように桐香も起きた。


 「え? 何この大量の服」

 「クレアさんが用意してくれたんだよ。好きなの選んで良いって。」

 恵と桐香にさっきまでのクレアさんと私のやりとりを教え、私たちは早速服を選び始めた。放課後にこっちに飛ばされたので私たちはずっと普段から学校で着ている制服を着ていた(持っていたスクールバックはいつの間にか消えていて手ぶらだったけど)。


 「う~ん、いっぱいあって迷っちゃうね。」

 私は普通に店で服を選ぶように鏡の前で見ながら色々試していた。恵もこれがいい、あれもいいと次々と手に取って合わせていたが、桐香は反対にもう選び終わったようで、もう着替え始めている。


 「桐香もう良いの? もっと選んだら良いのに。」

 「こういうのは直感が一番良いんだよ。」

 桐香はショートパンツにシャツを着て、その上に黒いパーカーのようなフードのついたアウターを羽織っていた。


 「桐香…、地味じゃない?」

 「動きやすいから良いんだよ。」

 そういえば桐香は学校でも休日でも変わらず黒系のパーカーを着ていた。本人曰く、選ぶのが面倒だから同系統の服を何着か持っていたらしいけど、そのスタンスは異世界でも変わらないらしい。


 「私はこれにするわ!」

 恵はボタンのところにフリルの装飾がついた白いシャツにピンクのミニスカートで、その上にオーバーサイズの紺色のローブを着ていた。頭にはローブと同じ色の魔法使いのような大きな三角棒をかぶり、その帽子には昨日商人のおじさんにもらった猫のアクセサリーを付けている。


 「どう? 魔法使いみたいでしょ?」

 「似合ってるけど、コスプレみたいじゃない?」

 「異世界なんだからこれくらいでも良いじゃない。桐香こそもったいないよ?」

 どっちもどっちな気はするけど、とりあえず2人とも似合ってはいる。


 「じゃあ、次私ね、どう?」

 私は裾にリースの装飾があるワンピースを選んだのだが、


 「「普通」」


 2人に口をそろえて普通と言われたので、変えることにした。その後、私の服選びは恵と桐香のアドバイス?聞きながら、時々脱線したり、2人そろってふざけだしたりしてかなり難航した。結局、最終的に決まったのは下がスカートで上が浴衣か神社の巫女さんのような和風の服にかなり近いものだった。恵のことを言えないくらいコスプレっぽくてかなり恥ずかしかったが、私のアイデンティティを死守するためにこれに決めた。


 それから私たちは1階で食事を済ませ、今日も昨日の草原で練習することにした。朝食はカイルさんが用意してくれていて、クレアさんは私たちのお弁当や水筒を用意してくれた。草原までは馬車もあると言ってくれたけど私たちは体力を付けるために歩いて行くことにした。


 「んじゃ、今日は体力を調節しながら練習するって感じで。」

 草原に着き、桐香の号令で私たちは練習を始めた。恵と桐香は体力と威力の微調整(恵は火と雷が禁止になり)、私は刀をひたすら振って慣れるという感じだ。 

 

 相変わらず刀の振り方がわかっていない私は動画配信サービスで調べようとしてポケットに手を入れ、スマホがないことを思い出す。普段、知りたいことがすぐ知れるっ改めてすごいな、なんてことを考えながら私は刀を振った。

 

 この日から、朝食を食べたら、草原に行って練習するというのが私たちの日課になった。




 



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