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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
結録天
29/70

人狼事件

 リアが自室に戻った後、私は部屋に荷物を置いてリアが言っていたとおりに1階のダイニングに降りた。

 そのダイニングではリアのお母さんが料理を作っていて、お皿を大きな机に並べている。 

 「あら、あなたが桜ちゃんね。いらっしゃい。」

 リアのお母さんは私に気づくと柔らかく微笑みかけた。

 

 「はじめまして。今日はすみません、突然お邪魔しちゃって。」

 「いいのよ。あなたくらいの年の子が遠慮なんかしちゃダメよ? ほら、温かいうちにいっぱい食べてね!」

 「ありがとうございます。」

 リアのお母さんはそう言って私に食卓に座るよう促した。

 リアのお父さんと違って、この人は明るくてリアに似ている気がする。

  

 円卓に並べられた料理の品々はこの世界に来て初めて見るような豪華なものだった。

 「わぁ・・・、すごい。いただきます!」

 ここに来るまでほとんど何も口にしていなかったのですごくお腹がすいていた。実際、何の食材かはなにも分からないけど、とにかくどれもおいしくて、なんだか日本にいた頃の家を思い出してしまった。

 

 「ん~、すごくおいしいです・・・。」

 「あはは、よかったよかった。それに桜ちゃんはおいしそうに食べるね~。おばさん嬉しいよ。いや~、リアのお友達なんて何年ぶりかしら。」

 食事に夢中になっている私の向かいでリアのお母さんも食事をしながら笑っている。

 

 「ところで、リアとお父さんは来ないんですか?」

 当たり前のように食事が始まっていたけど、今ここにはリアもリアのお父さんもいない。家の中にはいるはずなのだが。

 「あ~、確かに端から見たら変よね。でも、うちはこれが普通なの。お父さんは忙しいからいつも部屋で作業しながら何か食べてるし、リアも勉強が最優先だから一段落してから食べるのよ。」

 「え? じゃあ、お母さんはいつも1人で・・・?」

 「そうだよ~。」

 「・・・その、寂しくはないんですか?」

 「まあ・・・、寂しいか寂しくないかで言ったら、そりゃ寂しいけど、もう慣れちゃったから。」

 「そうなんですか・・・。」

 家庭の事情なんてそれぞれだから、この家ではこれが普段通りなのだろうけど、私には家に家族がいるのに1人で食事するなんて寂しいような気がした。


 「でも、今日は桜ちゃんがいてくれるから楽しいよ?」

 「え? それなら来て良かったかもしれませんね。はは。」

 「ふふ、でしょ? だから遠慮なくいつでも来てね。」

 「ははは、ありがとうございます。」

 お母さんはそう言いながらどんどん私のお皿に料理を盛ってくれて、30分も過ぎた頃には私のお腹はパンパンに膨れていた。


 

 食事を終えた後、私はこれくらいはとお皿を洗う手伝いをすることにした。

 「・・・にしても、お客さんがいる今日くらいは2人とも集まっても良いと思うんだけどね~。」

 「忙しそうですもんね、2人とも。最初にリアのお父さんに会ったとき、追い出されるかと思いましたよ。」

 「あははは。流石にあの人でもそんなことはしないよ。鬼じゃないんだから。」

 「で、ですよね・・・。」

 「それに、例え鬼でも今の街の状況で桜ちゃんくらいの女の子を夜1人にするようなことしないと思うよ?」

 「・・・どういうことですか?」

 「あ、そっか。桜ちゃん今日来たばかりだから知らないのか。」

 お母さんは少し含みを持たせたような言葉遣いで話した。

 「実はね、大体1ヶ月前?くらいかな、リアが通ってる学校の3年生の主席だった優秀な子が殺されたのよ。」

 「え!? それって、殺人事件ってことですか・・・?」

 「そう。それで、容疑者っぽい人はいるんだけどまだ明確な証拠がなくて誰も捕まってないの。」

 「えー・・・。」

 アインスの内乱の時に少し分かったことだけど、この国にはまだDNA鑑定や監視カメラなんて技術はあるはずもなく、こんな感じの事件の犯人を捕まえるには現行犯か状況証拠だけだ。


 「それで終わりじゃなくてね、それから今日まで夜道を歩いていた人が誰かに殺されるみたいな事件が6件も続いているの。それも被害者は色々で、共通点は夜に1人でいる時っていうことと何かで斬られてるってことだけ。そんなだから目撃者もいなくて『人狼事件』って呼んでる人もいるくらい。」

 「人狼事件・・・。」

 お母さんは洗い終わった食器を拭きながら困ったような表情で説明してくれた。

 

 「それでね、被害者の遺体はだいたいこの病院に運ばれてきてお父さんが対応してるのよ。それでいつも以上に忙しくて、少し気が立っちゃってるのよね~。」

 「そんなことが起こってたんですね・・・。」

 一見すると若い人が多く、リアや司書さんのような明るい人がいっぱいいる活気溢れる街のようだけど、案外気づけないこともたくさんあるようだ。


 「さて、洗い物終わり。じゃあ、桜ちゃん今日はゆっくりしていってね。」

 「は、はい! お世話になります!」

 私は終始笑顔でもてなしてくれるリアのお母さんに改めてお礼を言って部屋に戻った。


 約一ヶ月前、人狼事件・・・。これだけ聞くと私の中ではやっぱり堕天使の存在がよぎってしまう。

 「明日、街の人にも聞いてみよう。」

 このまま何もせず止まっているわけにもいかない。そう思いながらこの日はベッドに横たわった。


 +++


 「昨日はお世話になりました。」

 翌朝、私は荷物をまとめ、一晩泊めてもらったお礼を告げた。

 玄関にはリアとリアのお母さんが見送りに出てくれている。一方で、リアのお父さんは今日も忙しいようで私が起きたときには既に家にいなかった。

 

 「もっと泊まっていけばよかったのに~。」

 「流石に悪いよ。今日からはちゃんと宿とるから。」

 「そう? まあいっか。またどうせ会いそうだしね。」

 「はは。確かに。」

 リアは別れ際でも相変わらず屈託のない笑顔で笑っている。

 

 「改めて、ありがとうございました。」

 「うん。気と付けてね、桜ちゃん。」

 「またね!」

 少しい寂しい気がしながらも私は2人に手を振った。


 

 「さて・・・、まずは情報を集めないと・・・・・・。」

 リアの家を出発した私はいの一番に宿の予約を済ませた後、荷物を置いて昨日の図書館に戻ってきていた。剣術の本の続きを読みながら人狼事件の手がかりを探りたい。うまくいけば次の堕天使の情報に繋がるかもしれない。

 私はとりあえず昨日知り合った図書館の司書さんに聞いてみることにした。


 「あ~、最近怖いよね。情報かぁ・・・、う~ん、あんまりわかんないけど、夜に必ず1人でいるところを襲われるから犯人の顔を見たって人がいないらしいわね。」

 「捜査とかってされてるんですか?」

 「まあ、軍と有志の一般人で一応犯人を捕まえようって話は進んでるみたいだけど、まだ成果は聞かないわねぇ。それに自分が捕まえてやろうって意気込んでた腕自慢の人たちも、それどころか軍の兵士まで殺されてるから相手は普通の人じゃないかもしれない。」

 「そうなんですね・・・。」

 「だから桜ちゃんも気をつけてね、かわいいんだから。」

 「あはは・・・、はい。気をつけます。」

 当然と言えばそうだけど、司書さんの持ってる情報はリアのお母さんと同じくらいの概要的なものだった。


 「闘簫天(フルーテル)は人の怒りだとか憎しみだとかを増幅させて事件を引き起こしてた。奉燐天(ディストール)は洗脳で自我を奪って、戯縫天(シュフクトール)は人形を操る・・・。今までは自分から何かことを起こしてるって感じじゃないし、今回は人に憑依してる・・・とか?」

 私は2階で剣術の本を広げながら事件のことに思考を巡らせていた。

 「だとすると、犯人は1人じゃない可能性もあるし、普通の人には姿が見えないから・・・・・・、だぁー! 全然わかんない!」

 こんなとき、桐香がいればもっといいアイデアが浮かんでいたかもしれない・・・。


 「・・・いや、だめだ! 今は私1人で考えなきゃ!」

 今はとにかくもっと情報を集めることが最良だろう。

 今日は本を読んでいても集中できそうもないので街に出て情報を集めることにした。

 

 ―図書館より西側のレストラン

 「人狼事件? ああ・・・、そういえばそんな呼ばれかたしてたっけ。」

 「はい。何か知ってることがあったら教えて欲しくて・・・。」

 図書館を出た私は食事のついでに最寄りのレストランの若い店主にこの事件のことを聞いてみた。

 

 「僕に分かることなんて何もないなぁ・・・・・・。いや、もしかしたら犯人なんていないのかもしれない。」 

 「・・・どういうことですか?」

 店主さんは少し意味深な言い方をした。


 「これは僕の憶測なんだけど、この事件は誰かの呪いで霊的な何かの仕業だったり・・・。」

 「え・・・、はい?」

 店主さんは眼鏡をくいっとあげて震えた声で続ける。

 「カブラルの北の国には戦争で亡くなった人の怨念が集まる土地があるという・・・。もしかしてその怨念がこの街にやってきて無念を晴らしているんじゃないか!?」

 店主さんは何かのスイッチが入ったように早口で語り出した。


 「だっておかしいでしょ! もう6人も殺されてるんだよ? それに全員体を斬られて現場には血痕も残ってる。だったら犯人だって返り血浴びてるはずでしょ! そんなの事件起こしてから帰るまでだれも見てないなんておかしいよ!!」

 「・・・・・・ああ、そういうこと・・・。」

 

 まあ確かにそれは不可解だけど、この人はオカルト脳の人らしい。堕天使とか言ってる私が言えたことではないけど。

 「こほん。まあ何にせよ君も気をつけなよ。この街の人じゃないからって呪いが降りかからないわけじゃない。」

 「はは。そうですね。あ、ご馳走様でした。お料理おいしかったです。」

 「あい! 毎度!」

 私はお礼とお代を置いて店を後にした。やはり出る話題は「1人の時を狙われる」ことと「何かで斬られる」ということが多いようだ。


 ―宿舎併設の酒場

 その夜、私はもう少し情報を集めようと予約した宿の1階部分にある酒場に顔を出していた。もちろん飲んでいるのはお酒ではなくただの水なのだが。

 

 「人狼事件ねぇ・・・、最近物騒な話ばっかで嫌になるぜ。」

 カウンターの私の隣に座っていたおじさんはお酒を片手に憂鬱そうな表情を浮かべた。

 

 「知ってることも何も、俺らみたいな一般人が知ってることなんざ、今まで6人殺されてるだとか誰も見てない夜中に起こってるだとかそんなもんだけじゃねぇか?」

 「やっぱりそうですよね・・・・・・。」

 「まったく、もうすぐ年に1回の祭りだってのに勘弁して欲しいぜ。」

 「祭りがあるんですか?」

 「ああ、祷神祭つってな。日頃見守ってくれてる天使さんに感謝する祭りなんだが、その時だけ開封される酒がうめぇんだよ!」

 おじさんはそう言いながら大口開けてガハハと笑った。


 「へぇ、そうなんですね。」

 「1週間後な。お嬢ちゃんも見ていくといい。」

 「それは楽しみですね。」

 正直それどころではないと内心思ったけど、おじさんの楽しそうな感情に水を差すわけにはいかないだろう。

 

 「おっと。話が逸れちまったな。まあなんだ、俺らみたいなじゃ分かんねぇことだらけだろ。それこそ色々調べてる駐屯兵かホワイト先生に聞くかだろうな。」

 ホワイト先生・・・、リアのお父さんか。そういえば被害者の人の検死をしてるとか言うはなしだった。

 

 「なるほど・・・。情報ありがとうございます。」

 「構わん構わん。それよりもなんで嬢ちゃんはそんなこと知りたがるんだ? もしかして軍の関係者か何かか?」

 「い、いえ、そういうわけじゃないんですけど、個人的にこの事件に興味があって、解決の一助になれたらな、なんて・・・・・・。」

 ツヴァルスフィアでの一件を考えたら犯人を捕まえるなんて宣言はできないけど、下手にはぐらかすのは逆に怪しまれてしまうかもしれない。


 「まあ、ちょっとした好奇心というか・・・。」

 「嬢ちゃん・・・、犯人捕まえるのか!?」

 私がそんな曖昧な返事をすると、おじさんは目を見開いて大声を上げた。

 すると酒場にいた人たちはその声に反応し、一斉にこっちに注目が集まってしまった。


 「え、いや、そんな・・・・・。」

 「おい! 聞いたか!? この嬢ちゃん人狼事件の犯人を捕まえるってよ!」

 「・・・え、ええ!?」

 待って、そこまでは言ってない。と言い返す隙なく酔っ払った人たちが集まってくる。


 「マジかよ! こりゃ大物が来ちまったな!」

 「いやいや、お前ら冗談通じねぇのか? こんな子供に捕まえられるわけねぇだろ。」

 「確かに。実際、軍の兵士も殺されてるしな・・・。」

 「いいや、この子は本物だね。俺クラスになれば目を見れば分かる!」


 おじさんの呼びかけとともに酒場にいた陽気な人たちは思い思いの言葉を吐き始めた。

 「いや、ちょっと待ってください・・・。」

 恥ずかしさと驚きから必死に説明しようとしたけど、酒の入ったおじさんをとめる技量など私にはない。


 「よし! じゃあ、お前賭けろよ!? 俺は犯人確保に10万!」

 「あはは! お前馬鹿だろ! 俺は捕まえられないに3万だ。」

 「おいおい、何ビビってんだ? ワシは15万だ。」

 「お、おお~、流石ゲンさん!!」

 「がはは! 期待してるぜ、嬢ちゃん!」

 「あ、はい・・・・・・。」

 宴会が始まり、もはや手の付けようがなくなったおじさん達の隙を見て私は部屋に戻った。

 明日から少し見回りにでも行ってみよう。


 


お読み頂き、ありがとうございます。


次回の投稿は8/11予定です。

お楽しみに。

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