表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
結録天
27/70

代償

 ―ツヴァルスフィア地方の小さな村落


 「どうして手ぶらで帰ってきたの!?」

 「絶対に助けるって、言ったじゃない!!」

 「・・・この、詐欺師!」


 森から村に戻った私たちを待っていたのは決して労いや慰めではなく、子供の帰りを待つ人々による罵倒と叱責だった。

 

 「ごめんなさい。私たちが向かったときにはもう手遅れで・・・・・・・。」

 「ふざけないで! いくら謝ったって私の息子は帰ってこないのよ!」

 「そうだ! 娘を返せ!」


 やり場のない怒りをぶつけるように広場に集まった人たちは私たちに言葉を浴びせ続けた。


 どうして・・・、一体どこで間違ったのだろう・・・・・・・。


 +++


 ―少し前、森の地下の一室

 「・・・・・・・死んだって、どういうこと・・・?」

 恵が死んだって、そんなこと急に言われても簡単に信じられるわけがない。私は混乱する思考を必死に回しながら桐香に聞いた。

 

 「・・・言葉の通りだよ。恵は戯縫天(シュフクトール)と闘ってるときに死んだ。」

 桐香は感情のこもっていないような抑揚のないトーンで話した。


 「そんな・・・、そんなの信じられないよ!」

 「私だってこんなこと信じたくない!!」

 桐香はこの時初めて私の目を見て叫んだ。その見開いた目は赤く腫れていて、この状況が尋常ではないことは明らかだった。


 「私だって・・・、こんなこと言いたくもないし、信じたくもない。でも、本当なんだよ・・・。恵は、私の目の前で、死んだんだ・・・・・・・。」

 桐香は頭をくしゃくしゃにしながら絞り出すような声で続ける。


 「私のせいなんだ。全部、私の・・・・・・・。」

 「桐香・・・・・・・。」


 何か言わなければいけない。でも、なんて言ったらいいのかわからない。


 嘘だ。こんなの。現実のはずがない。

 私たちは高校で出会ってから毎日のように遊んでいた。4人でいるのが日常で当たり前だった。だから、莉里がいなくなると知ったとき、迷わずこっちの道を選んだんだ。

 

 それなのに・・・、それなのになんで・・・・・・。


 「恵・・・・・・。」

 全身の力が抜け、目の前が真っ暗になっていく。

 大事な親友を失った。隣にいることが当たり前だった大切な、大切な親友を。これからどうやって進んで行けばいいのだろう・・・・・・・。



 「・・・・・・・子供達は・・・、子供達は、どこに・・・?」

 私は壊れそうになる頭を無理矢理にでも働かせて、知らなければならないことを聞いた。

 もう半分訳が分からなくなってしまっているけど、ここに来た以上は子供達を探さなければいけない。


 「・・・子供はもういない。みんな戯縫天に殺された。」

 「そんな・・・・・・。」

 それじゃ、それじゃあ何も・・・


 「それならせめて、その・・・、遺体だけでも・・・」

 「見ない方が良い。村に人たちには私が説明するから。」

 「・・・・・・。」

 力のない桐香の呟くような言葉に私は何も言い返せなかった。


 +++


 ―現在、村の中

 「だから・・・、子供達を助けられなくてごめんなさい。」

 桐香は私の前に出て、集まった村の人たちに深々と頭を下げた。


 「助けるって言って、勝手に来たのはお前達だろ!? 期待させやがって!」

 「居場所が分かるなら私たちを連れて行ってよ! 本当は何もしてないんじゃないの?」

 「馬鹿にしに来たのか!?」

  

 群集の怒りの言葉は徐々にヒートアップして、もはや誰が何を言ってるのかさえ分からない。

 

 一体私たちはこの人たちに何をしたというのだろうか。

 私たちは堕天使を倒して莉里を助けることが本当の目的だったとはいえ、わざわざ遠いこの村まで来て、連日ボロボロになるまで闘って、挙げ句、親友を1人失って・・・。


 何故、その私たちに向けられる言葉がこんな汚いものなのだろう。


 「何もしないならさっさと帰れ!!」


 群集の中の誰かはわからないけど、その言葉とともに深く下げた桐香の頭に小さな石が当たった。

 「・・・・・・・ちょっ!」

 「待って。」

 私はその光景に思わず声を荒げ、前に出ようとした。でも、桐香は私の前に腕を伸ばして私が前に出るのを止めた。

 「この人たちは訳も分からず子供を失っているんだ。今は抑えようのない怒りが限界を超えてしまっているだけで悪気はないんだ。だから、今は・・・。」

 桐香は頭を下げたままどこか他人事のように私を諭した。

 そうしている間にもみんなは鋭く尖った言葉を私たちに向けていた。


 「謝っても済む話ではないことは分かっています。ですから、私たちはこのまま村を出ます。・・・もう二度とこの村に来ないし、関わりもしません。さようなら。」

 桐香はそう言いながら頭を上げて諦めたような視線を群集に向けてから村の出口へと向かった。

 私もその後ろを背中に罵詈雑言を受けながらついて行った。


 

 私たちが村に来たときと同じ、木の囲いでできた門のような所まで歩くと、門の前に誰かが立っていた。

 「・・・・・・フランカさん、ここに居たんですね。」

 私たちが来ることが分かっていたかのようにフランカさんは近くの柱に寄りかかって立っていた。私も村の中にいないことには気づいていたけど、ここにいるとは思わなかった。


 「桜さん、桐香さん、話は聞きました・・・。子供達を助けようとして恵さんが亡くなられたと・・・・・・。」

 「・・・はい。」

 私たちは視線を合わせることなく返事した。

 「その・・・、本当に、申し訳ありませんでした・・・!」

 そのまま通り過ぎようとした私たちに、フランカさんは腰を曲げて頭を下げた。

 

 「私はみなさんが傷ついて、泥だらけになって、それでも私たちのために助けようと必死に頑張ってくれていることを知っていながらあの場にいるみんなを止めることができなかった。貴方たちを責めるのはおかしいって、気づいていながら何もしなかった・・・! 本当に、本当にごめんなさい!」

 フランカさんはぼろぼろ涙を流して声を震わせながら何度も頭を下げた。

 

 「・・・もういいですよ。絶対に助けるなんて言っておきながら手ぶらで帰ってきたのは私たちで・・・・。」

 「違います! 皆さんは何も悪くありません! 悪いのは私たちなんです。大切な子供達がいなくなっているのに自分では何もせず、マルティアス司教の力に頼ろうとした。それどころか、まだ子供のあなたたちに全ての責任を押しつけて、自分たちは罪から逃れようとした。悪いのはどこまでも無責任で、醜悪な私たち大人なんですよ・・・・・・・。」

 フランカさんは膝から崩れるように私の手を掴み、顔をぐしゃぐしゃにしながら訴えた。

 「ごめんなさい。・・・本当に、人としてやってはいけない仕打ちを貴方たちにした・・・。」

 

 「・・・顔を上げてください。私たちは何も村の皆さんが悪いなんて思っていません。ただ、子供を失う悲しみが、私たちに想像できないほどの苦しみなのだと思っていただけです。だから、フランカさんは謝らないでください。」

 桐香はフランカさんの肩に手を置き、静かなトーンで語りかけるように話した。

 「私たちはもう村を出ます。それでは、お世話になりました。」

 

 「・・・待ってください。どうやって帰るおつもりですか?」

 フランカさんは立ち上がり、再び帰路につこうとした私たちを呼び止めた。

 「まあ・・・、近くの街まで歩いて乗り合い馬車にでも乗ろうかと・・・。」

 その話を聞いたフランカさんは少し目を丸くした。


 「はは・・・、近くの街まで歩こうとしたら丸1日はかかりますよ? 馬車は出しますので乗ってください。」

 「でも・・・」

 「構いません。もともと皆さんをここに呼んだのは私ですから。最後まで責任もって送り届けさせてください。」

 そう言ってフランカさんは涙を拭き、私たちに馬車を用意してくれた。

 「そうですか・・・。ありがとうございます。」


 こうして私たちはツヴァルスフィアを離れ、バーリングへと戻った。

 その間、どれほど疲れていようと長い旅路であろうと、眠くなることは一切なかった。


 +++


 ―バーリングの教会 礼拝堂

 「・・・聖郷におわします我らが天主よ。その高き聖寵と導きをもってこの清き魂を鎮め給へ。」


 フランカさんにバーリングまで送り届けてもらった私はカイルさんに事情を告げ、恵のために鎮魂の祈りを捧げてもらった。

 桐香は結局あの後何があったのか詳しく話すことはなかった。私も当然気になっていたけど、とても問いただせるような雰囲気ではなく、そして、どこか聞きたくないような気もしていた。

 

 「桜さん、桐香さん、この度は本当にお疲れ様でした。」

 一通り祝詞を終えたカイルさんは私たちの方に振り向き、頭を下げた。

 カイルさんは深く詮索してくることもなく、あえて少し距離を置いたような言葉を使って粛々と話を進めてくれていた。

 

 「ありがとうございました。カイルさん、これで恵も天国に行けたと思います。」

 私はどんな顔をしたいれば良いのか分からず、カイルさんに目も合わせぬまま軽く会釈した。


 「お二人とも疲れていらっしゃるでしょう。お食事は後で部屋まで持って行きますので、今日はゆっくりお休みください。」

 「はい・・・。ありがとうございます。」

 私はその一言だけを告げて、桐香と2階に向かった。



 「ねぇ、桜。」

 「・・・ん?」

 いつも私たちが3人で寝泊まりしていた部屋の扉の前で桐香は足を止めた。


 「今日は隣の部屋で寝てもいい? 少し一人になりたい。」

 「・・・うん。わかった。」

 「それと、しばらく堕天使を探すのはやめよう? 今はお互い休んだ方が良い。」

 「・・・・・・・うん。」

 「それじゃ。」

 桐香はずっと視線を落としたまま軽く左手を挙げて隣の部屋に入っていった。

 私はそれに返事することなく見送って、いつもの部屋の扉を開けた。


 この先、私たちは闘っていけるのだろうか。次からは二人で、あと五人の堕天使を・・・。

 

 私はぼんやりとそんなことを考えながら赤く腫れた瞼を擦った。


お読み頂き、ありがとうございます。


この話から物語は第4章に入ります。

ぜひ、今後も読んで頂けると嬉しいです。


次回は7/21投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ