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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
戯縫天
24/70

傀儡

 ―ツヴァルスフィア地方の森の中

 「桐香、名前呼ばれてなかったね。」

 「う、うるさいな。子供の相手は苦手なんだよ・・・。」

 地下通路で見つけた失踪した子供の1人のドリーちゃんを家に送り届けた後、私たちは再び屋敷に向かって霧の中を歩いていた。

 さっきまでドリーちゃんと話していたこともあり、少し緊張感が和らいでいて、恵はドリーちゃんが別れ際に桐香の名前を呼ばなかったことをからかっていた。


 「そんなことより、どうやって他の子供達を見つけるか、でしょ。」

 「うん・・・、でも、とりあえず屋敷に戻って地下通路に入ることだよね。ドリーちゃんも地下に連れて行かれたって言ってたし。」

 「そうだね。まずは屋敷に。」

 ドリーちゃん達と別れた頃にはもう日が傾いていた。正直、昨日の今日で体力も万全じゃないし、休みたい気持ちもあったけど、ドリーちゃんのあの様子を見てほっとけるはずもない。

 私たちは一度村長さんの家に寄ってからすぐに森に入っていた。


 「まあ、これさえあれば水路の中も進みやすいしね。」

 私たちは地下に明かりが一つもなかったことを踏まえて、村長さんから3本の木の棒と布、油の入った瓶をもらい、松明を作れるようにしていた。

 「でもこれ、また恵の魔法便りでしょ?」

 「それはまあ、仕方ないじゃん?」

 「はぁ・・・、別に良いけど、こんなに働いたんだから、バーリング戻ったら何かお返ししてよ。」

 恵は少し膨れた顔をながら、渋々松明に火を付けた。

 「よし。これで暗くてもお互いの場所が分かる。」

 桐香は火の付いた松明を持って先頭を歩いていく。


 「これでさっきみたいに突然暗闇から変なぬいぐるみに襲われることもないし、いいよね。」

 「あ~、あのときは必死だったけど、今考えると何あれ? 流石に意味わかんないんだけど。」

 恵は腹立たしそうな口調で文句を言っている。

 「あれもまた堕天使絡みでしょ。奉燐天と何かしら一緒に行動してたとか。いくら誘拐犯の人だとしてもあの真っ暗な地下を拠点にはしないだろうし、なにより、ぬいぐるみを動かしたりできないでしょ。」

 「もしかして、着ぐるみ・・・・・・。」

 「え? やめてよ。思いっきり吹き飛ばしちゃったんだけど・・・。」

 桐香は少し青ざめて振り向いた。

 「い、いや大丈夫だって、あんなところで普通着ぐるみ着て歩かないでしょ。多分・・・。」

 「まあ、流石にね・・・。血とかも出てなかったし。」

 ちょっと嫌な想像をしつつ、そんな話をしながら歩いていると気づけば屋敷までもう少しというところまで着ていた。


 「さて、そろそろ堕天使想定で対策を考えよう。もう2回闘って勝手も分かってきたし、堕天使以外の犯罪組織だったら、それこそ私たちの出る幕じゃない。」

 「そうだね。警察でも探偵でもないし・・・。」

 「でも分かってることと言えば、ぬいぐるみ動かすことと多分パワータイプってことくらいじゃない? 子供攫う理由もわかんないし。」

 「確かに・・・。子供攫う理由は聞いても意味わかんないかもしれないけど。」

 思い返してみれば、これまでの闘簫天と奉燐天の行動原理は私たちには理解できるものではなかったから、今回もおそらくそうなのだろう。

 「ぬいぐるみ動かすって、奉燐天が村の人たち操ってたのと同じこと?」

 「そうじゃない? あとはドリーちゃんが言ってた子供達を誘導したっていう二足歩行のうさぎさん・・・・・・。」

 2人はドリーちゃんが描いてくれた絵を思い出しながら考えている。


 「・・・・・・それって、あんな感じ?」

 恵と桐香の推論を聞きながらふと道の脇に目をやると、ちょうどドリーちゃんの絵のような30cmほどのうさぎのぬいぐるみが木の陰からこちらを見ていた。


 「うそ・・・・・・、都合良すぎない?」

 「誘い込まれてるよね、これ・・・。」

 淡い月明かりと霧で視界が届くギリギリの位置でそれはこちらを向き、何をするでもなくただゆらゆらと左右に揺れている。


 「・・・ちょっと近づいてみる。」

 「え? 危ないよ、ここから撃っちゃった方がいいんじゃ・・・・・・。」

 「せっかくあっちから出てきたんだ。ここは敢えて乗った方が話が早いかもしれない。」

 そう言いながらも桐香は額に汗を滲ませ、緊張した面持ちだった。

 「桐香・・・。」


 ゆっくりと1歩近づくと、それも1歩退き、一定の距離を保とうとしているようで目的が分からない。

 「こいつ・・・・・・。」

 「桐香、あんまり奥まで行くと道分かんなくなっちゃうよ。」

 私たちはここまで桐香が木に付けた目印を辿り、屋敷までの道のりを歩いていた。なのであまり脇道に逸れすぎると順路が分からなくなって最悪の場合、遭難してしまう。

 

 「・・・・・・そうだね。仕方ない、今は追いかけるのはやめて・・・・・・・。」

 そう言いながら振り向いた桐香ははっと息をのんで青ざめた。


 「2人とも、うしろ!」

 「え・・・?」

 突然の桐香の大声にびっくりしつつ後ろを振り返って私は言葉を失った。


 私と恵のすぐ後ろにいたのは2mほどある手足の長い大きな猿の人形だった。

 大げさに上がった口角と妙にリアルな剥き出しの白い歯。物音一つ立てずに佇むそれのぎろりと見開いた黒いガラスの目玉には私たちの驚愕の表情が映っている。

 「・・・・・・え・・・、あ、え・・・?」

 「フウ、フウ、ヒトノ・・・ヒトガイ・・・・・・。」

 真っ直ぐ私たちを見下ろすそれは突然長い右腕を水平に撓らせた。


 「・・・ちょ、ちょちょっと、待って・・・!」

 「いやぁぁぁぁ!!」

 しばらく固まって閉まっていた私と恵は、咄嗟に身の危険を感じて反対方向に反射的に走り出した。

 

 「2人とも! 止まって!」

 桐香は横を通り過ぎていった私と恵を必死に呼び止めようとしてくれたけど、今の私には恐怖心でとにかくあの猿から離れたいという気持ちでいっぱいだった。

 「待ってって! 本当にこんなところで遭難してたら・・・・・・、!? な・・・!」

 2人が走り去った方向に呼びかけると自分に大きな影が落ちていることに気づき、振り返った。さっきまで数m離れていたところにいたはずの猿の人形が目の前にいて、引っかかる枝を気にも留めずにバキバキと音を立てながら腕を振り下ろす。

 (今なら姿も見えてるし、ここで闘うこともできる。でも、その間に2人が森の奥まで行ってしまったら・・・。)

 「仕方ない・・・。2人とも頼むからどこかで止まっててくれよ・・・。」

 桐香は猿の腕を掻い潜り、2人が逃げた森の中へと入った。


 +++


 「ぜぇ、はぁ、・・・・・・。」

 必死に走り、少し落ち着いたところで近くの木に手をつき、追ってきていないことを確認する。

 「はぁ・・・・・・、まずいな。完全にはぐれちゃった・・・。」

 桐香の制止する声は聞こえていたけど、衝動に駆られて走り続けてしまった。松明の火がギリギリ消えていないことは救いだけど、早く2人に合流しなきゃ・・・。


 「桐香ー! 恵ー!? どこ?」

 視界のおぼつかない森の中で叫んでみるも、まるで返事はない。ただ私の声が何かに反響して谺するだけだ。


 「ねぇー! 聞こえてるなら返事してー!」

 適当に走ってきたせいで歩いてきた道の方角さえ分からない。だんだん不安と焦りが募り、私は早足で歩きながら叫んでいた。

 「桐香! 恵! ねぇ!! どこ・・・。」


 数分の間、そうやって足場の悪い中を歩いていると、ふと左側の草むらから足音が聞こえた。

 「あ! 良かった、桐香たちそこに・・・・・・。」

 やっと合流できると安堵して、その足音に数歩近づいたときにそれが桐香でも恵でも無いことに気づいた。

 霧の中にぼぉっと映った影は明らかに私の身長よりも遙かに高く、頭だけが大きな異様な形をしている。


 猿だ・・・。

 「まずい、まずいまずい! 見つかった・・・!?」

 私は慌てて身を翻し、猿が向かってくる方向とは反対に走り出した。

 「桐香! 恵! 助けて!!」

 怖い。襲われる・・・! 

 ふと振り返れば、猿はあの奇妙な顔を暗闇に浮かばせて走ってくる。


 「キリカ、メグミ・・・」

 「ひっ・・・・・・!」

 それは子供のような甲高い声で私の言葉を真似ながら長い手を伸ばしてきた。


 「・・・な、なんなの!? 来ないで!」

 私は松明を持っていない方の手で払いのけ、後ろ向きになりながら走ろうとしたが、草むらに隠れていた木の根に足を取られ、転んでしまった。


 「キリカメグミ・・・!」

 猿は両腕を不規則に揺らしながら私に向かって一気に距離を詰めてくる。

 「そ、それ以上近づいたら燃やすよ!」

 私は腰をついた状態で松明の火を猿に向けて、これ以上近づいてこないように制止した。

 今まで堕天使と闘ってきたときとは違う純粋な恐怖にあてられて、まともに闘うことはできそうにない。

 

 「コナイデコナイデ・・・。」

 猿は火の手前で足を止め、首を左右に振りながら歯をガチガチと鳴らしている。

 「やめて、喋らないで・・・。」

 「ヒヒヒ、コナイデ、ヤメテ、キリカメグミ、キリカメグミ・・・。」

 猿は私の言葉を理解しているのかしていないのか、さらに首を激しく振って私の言葉を繰り返す。


 「や、やめってって言ってるでしょ!?」


 「・・・・・・。」


 「・・・え? 止まった?」

 私は卒倒しそうな意識をなんとかつなぎ止めながら、半分やけくそで怒鳴ると、今度はピタッと一切の動きを止め、普通の人形のように微動だにしなくなった。

 

 「・・・や、やめてくれたの? それなら、そのまま待ってて、ね?」

 私は意味が分からないとは思いつつ、震える声でそう言いながらゆっくり立ち上がり、数歩後ずさる。

 「い、いい? そのままだよ・・・?」

 まるで行動が読めない。でも、確かにチャンスだ。私は松明を構えたまま距離を取り、再び走り出そうとした。

 「き、桐香! 助け・・・・・・」


 「ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメヤメテヤメテヤメテヤメテ!!!!」


 「・・・!」

 猿は走り出そうとした私に向かって突然飛びかかり、私の首をその長い両腕で絞めた。

 押し倒された形になった私は松明を落としてしまい、火で脅すどころか周りの草むらに燃え移ってしまったせいでより脅威が増えてしまった。

 「ヒ、ヒヒヒヒ・・・」

 「や、はな、して・・・、苦しい・・・・・・。」

 首に絡まる猿の腕を必死に掴み返すも苦しくてうまく腕に力が入らない。

 ただ目の前にはぎょろぎょろとした猿の目玉が魚眼レンズのように私の苦悶の表情を映して浮かんでいる。

 

 「か、刀・・・。」

 私は薄れゆく力を振り絞り、バッジに触れて刀を取り出した。

 「・・・ぃ、やぁ!」

 なんとか刀身を鞘から引き抜き、猿の胸に突き刺す。しかし、まるでダメージなんてないかのように首に伝わる力が弱まることは無い。

 

 「まっ・・・、だめ・・・・・・、死ぬ・・・。」

 段々と視界の端が暗くなり、意識が朦朧としていく。


 ・・・嫌だ、こんな、こんなよくわからないところで、訳わかんないまま終わるわけには・・・!

 「・・・ぅうう、ああ!」

 私は死に物狂いで体を動かし、刀で猿の右腕を斬り落として拘束から逃れた。


 「ごほっ・・・、かはっ、はぁ、はぁ・・・・・・。」

 諦めちゃダメだ、こんなところで。私は莉里と子供達を助けるためにここまで来たんだ。こんなところで私が死んだら誰も救えないまま終わってしまう。


 「けほっ・・・、っそれ以上近づいたら、今度は左腕だよ。」

 私は少し距離を取って、呼吸を整えながら刀を構えた。

 とはいえ、勢いで強気なことを言ってはみたけど、実際はまだ視界がぼやけているし頭もクラクラして、とても走ったりできる状態では無い。また無視して襲ってきたら気合いでなんとかするしか無い。


 「キキキキリカメグミィィィ・・・」

 相変わらず猿は私の言葉を反復するおもちゃのようにぎこちない動きでゆっくりと歩を進めてくる。

 「・・・っ、やっぱり言葉なんて通じないか・・・。」

 

 だいぶ限界だけど闘うしかない。

 私は歯を食いしばり、深く息を吸った。

 「よし、来るなら来い・・・・・・」


 「銃撃(アサルト)!」

 

 応戦しようと覚悟を決めたとき、踏み込んだ猿の右目が弾けた。

 「桜、こっち!」

 「・・・恵! 桐香も!」

 突然後ろに手を引かれ、一瞬驚いたけど、後ろにいたのは桐香と恵だった。

 私は2人の顔を見た瞬間、合流できたことがただ嬉しくて泣きそうになってしまった。


 「まったく、迷子になって泣くくらいなら勝手にどっか行かないでよ。」

 「ほんとだよ!」

 「いや、恵もだからね?」

 後から聞いた話だけど、私と恵が森の奥に行った後、桐香はその跡を追って運良く恵とはすぐに合流できたらしい。

 「うん! ごめん、ありがとう!」

 「うん。とにかく今はアイツを撒くよ!」

 私は二人に手を引かれるまま森を走り、猿の姿が見えなくなるところまで走った。

 

 「はぁ、はぁ、助かった~。」

 私はとりあえず2人と合流し、猿から逃れられたことで安心してその場に座った。

 「まだだよ。完全に居場所が分からなくなっちゃった。」

 私は松明を落としてしまったけど、桐香の松明はまだ生きているし、燃料の入った瓶も残っているからまだしばらくは使えそうだ。

 しかし、広さも地形も分からない上に、ほんの数m先までしか視界が届かない森の中で迷子だなんて冷静に考えて大ピンチも良いところだ。


 「むぅ・・・、どうしよう。来た道なんてわかんないし、屋敷の位置くらい分かれば良いのに。」

 「正直言ってかなりまずいね、これは・・・。」

 桐香も珍しく為す術なしといった様子で腰に手を当てて天を仰いだ。


 「はぁ・・・、遭難したって助けが来るわけでもないし、とりあえず歩こう。」

 「うん・・・・・・。」

 私たちはとりあえず霧の中を抜けようと、村の方かもしれない方向に向かって歩き出した。


 +++


 「それにしても、あれが堕天使の傀儡だとして、あんなに直接的に襲ってくるなんて・・・。」

 「そうだよ! っていうか桜大丈夫だった?」

 「いや・・・、危うく殺されかけました・・・、はは・・・。」

 「え!? 笑い事じゃないでしょ! 大丈夫なの!?」

 「うん。今は呼吸とかも普通だし、桐香と恵が助けてくれたから。」

 「それなら良いんだけど・・・。」

 恵は心配そうに私の肩をさすった。二人はこの状況が不安かもしれないけど、私からしたら2人がいるだけで心の底から安心できるような気がしていた。


 「・・・ん? 何?」

 そんな話をしながら歩いていると先頭を歩いてた桐香が私の方に振り返った。

 「え? どうしたの?」

 「どうしたのって、今私のこと呼んだでしょ? 桐香・・・って。」

 「いや、呼んでないけど。」

 「いやいや、他に誰が私の名前なんて呼ぶの。」

 「桐香の幻聴なんじゃない?」

 「そんなわけ無いでしょ。」

 恵は少しからかうように桐香に言い返したけど、それってもしかして・・・

 「もしかして、その声って子供みたいな・・・?」

 「え・・・、あー、言われてみれば確かにそうだったかも。」

 「それ、さっきの猿・・・・・・!」

 そう気づいたと同時、私は何かに首の後ろを掴まれ、体が宙に浮いた。


 「・・・うっ、な・・・! 猿・・・!」

 咄嗟に上を見上げれば、目の前には何度も見た大げさに口角を上げた気味の悪い猿の顔があった。

 どうやら私たちの頭上にあった気にぶら下がり、左腕で私の首を掴み上げているようだ。

 「キリカ・・・」

 「・・・!? 喋った!?」

 「いやそれより桜っ!」

 私を掴み上げた猿はそのまま木の上に逃げようとして、桐香は猿がぶら下がっていた枝を撃ち落として、私は猿ごと地面に落ちた。

 ただ、その衝撃で私は猿から逃れることができて助かった。


 「桜! 大丈夫!?」 

 「う、うん・・・。そんなにダメージは無いよ。」

 「それはよかったけど、さっき確かに喋ったよね?」

 「そうなんだよ。でも私たちが話してた言葉真似てるだけで多分意味とかは無いから気にしないで。」

 「・・・そうか。」

 私がさっき1人でいるときに分かったことを少し話していると、猿はゆっくりと体を起こし、私たちを見下ろしている。

 

 「ここまで追いかけてくるなんて・・・、もう逃げられないね。」

 桐香は私に松明を預けて銃を構えた。

 「見た目は悍ましいけど、流石に見慣れたよ。今まで闘ってきた堕天使に比べればこんなの・・・。」

 「桜は一旦下がっててっ!」

 さっきの話を聞いて心配したからか、私が少し震えていることに気づいたからかは分からないけど、恵も桐香の前に出て桐香の隣に立った。


 「時間はかけない。一気に行くよ!」

 「うん!」

 桐香の号令とともに恵は杖を構える。

 猿はそれを見て奇声を上げながら腕を振って走ってくる。


 「「せーのっ・・・」」

 「榴弾(サーブ)!」

 「雷撃(イヴァン)!」

 

 かけ声と一緒に放たれた瞬間の閃光と轟音とともに猿はバラバラになり地面に崩れ落ちた。


 「お、おぉー! かっこいい!」

 私は2人の息の合った一発に拍手を送った。

 「でも、ちょっと体力削りすぎたかも。疲れた・・・。」

 恵ははあ~と息を吐いて私に寄りかかった。

 「お疲れ様。桐香も大丈夫? ・・・桐香?」

 私は桐香も疲れているだろうと声をかけると、桐香は今の衝撃で開けた茂みの奥の何かを見つめていた。


 「あれ、なんだろ・・・・・・。」

 「・・・ん?」 

 桐香が見ていた方向には一部だけ一切草木が生えていない円形の空間があった。

 

 「・・・これ、穴?」

 近づいてみるとそこには植物が生えていないのでは無く、ぽっかりと穴が開いていて、赤黒く錆びた梯子が下に向かって伸びている。

 「なにこれ? なんでこんな所に穴開いてるの?」

 「それ言い出したら今更じゃない?」

 「それはそうだけど・・・・・・・、え!?」

 「びっくりした、今度は何!?」

 あれこれ考察していると、また桐香が何かを察して急に振り返った。


 「・・・まだ、いるの?」

 「は?」

 その桐香の言葉に嫌な予感を感じつつ耳を澄ますと、確かに霧の奥からザッ、ザッっと何かが近づいてくる音が聞こえる。


 「嘘でしょ、まだいるの・・・・って、これ1人じゃなくない!?」

 「勘弁してよ・・・。」

 ザッ、ザッっという足音は1人では無く、私たちを囲むように複数の方向から聞こえてくる。

 

 「待ってよ、囲まれてる!?」

 「落ち着いて! 罠かもしれない!」

 「いや、でもこれ絶対に近づいてきてるよね!?」

 「どうする、闘う・・・しかないよね?」

 「でも、何人いるかも分からないんじゃ・・・・・・。」


 『『『ハハハッハハハハハハハッハハハハハハハハッハハハハッハハハハハハハッッハハハハハハッハハハハッハハハハ!!!!!!』』』


 突然、私たちを囲むように甲高い笑い声が聞こえた。

 それは子供がはしゃいでいるようであり、サーカスでピエロが高笑いしているようでもある、やけに明るい異様な音だった。

 

 「・・・っ、穴の中に!」

 「え!? 入るの!?」

 「ここしか逃げ場無いでしょ!!」

 声を震わせ、怯えた表情の桐香はそう言って穴の梯子に手をかけた。

 わかりやすく冷静さを欠いているけど、それは桐香だけじゃ無い。

 とにかくこの場を離れたい。それしか今の私たちの頭の中には無かった。


 



お読み頂き、ありがとうございます。


よろしければ評価や感想頂けると嬉しいです。

次回の投稿は6/30予定です。

よろしくお願いします。

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