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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
戯縫天
21/70

或る記憶

 ―ツヴァルスフィア地方の小さな村落

 「・・・ごめんなさい。その、私たちは子供達を見ていなくて・・・・・・。」

 ツヴァルスフィア地方の森に囲まれた小さな村落、この村では約1ヶ月ほど前から男の人と子供が次々と消えるという現象が発生していた。

 

 私たちは村に隣接する森の奥の古い屋敷で、囚われていた男の人達を解放することには成功したけど、子供達の行方は未だにわからないままだった。


 「見てないって・・・、どういうことですか? ここに居る人たちと一緒じゃなかったんですか?」

 「・・・はい。実はこの森の奥、濃い霧に包まれる場所に大きな屋敷がありまして、ここに居る男の人たちはそこの囚われてたんですけど、その屋敷に子供達はいなくて・・・・・・。」

 「もちろん中の部屋は全て確認しました。でも、そこまでしてもあの屋敷に子供達の姿はなかったんです。もしかしたら男の人たちを捕らえていた奴とは別の奴が子供達を攫ったのかもしれません。」

 なんと言ったら良いのかわからず、言葉に詰まる私に代わって桐香が言わなくちゃいけないことをはっきりと言ってくれた。

 「なんで・・・・・・、どうしてですか!? ちゃんと探しましたか!?」

 さっきまで嬉しそうな笑みを浮かべていたフランカさんは血相を変えて私の肩を掴んだ。

 「いや、でも私たちは・・・。」

 

 「やめなさい、フランカ。」

 「・・・村長さん。」

 フランカさんに言葉を返せずにいると、騒ぎに気づいた村長さんが制止に入ってくれた。

 「この者達も一生懸命頑張ったんじゃ。見ろ。服も身体もぼろぼろではないか。お前の気持ちもわかるが八つ当たりはよせ。」

 「・・・ごめんなさい。つい、取り乱してしまいました。」

 フランカさんは手を離し、今にも泣きそうな顔で俯いた。

 

 「今回の件はありがとう。疲れているだろう。今日は儂の家で休みなさい。」

 「はい・・・。ありがとうございます。」

 私たちはどうすることもできず、村長さんについて行くしかなかった。ふと振り返ると涙を流すフランカさんを夫の人が慰めている。


 この時の私にはフランカさんになんと言えばよかったのかわからなかった。


+++


 ―村長の家

 村長さんの家に入った私たちはいつもの円形の机を囲んで座った。

 一つの山を越えた達成感など既になくなってしまい、部屋にはただ重苦しい雰囲気が漂っていた。

 

 「ところで、君たちが見たものを教えてくれないか?」

 村長さんは私たちに人数分のお茶を出して、対面に座る。

 「はい。結論から言うと、あの森の奥、霧に覆われている場所にあった古い屋敷の中に村の男の人たちは閉じ込められていました。」

 村長さんの問いかけに、桐香は淡々と事実だけを伝えた。

 「・・・・・・・なるほど、屋敷か。」

 「・・・? 驚かないんですか?」

 「うむ・・・。儂らは昔あの森を通ったことがあると言ったじゃろ? その屋敷というのも直接見たわけではないが、あってもおかしくはないと思ってな。」

 「え!? 知ってたんですか?」

 「いや、知っていたと言うよりも、言われてみればその可能性もあったという話じゃ。何も隠していたわけではない。」

 「ああ・・・、そうだったんですね。」

 村長さんもこれを事前に言わなかったことに悪意があったわけではないのだろう。桐香もそれ以上は追求することなく、落ち着きを払ってお茶を一口啜った。

 

 「それよりも、儂が気になることは、あれほどの人数をどうやって閉じ込めていたかということじゃ。中にはそこら辺の若兵士に負けんくらいの屈強な奴もいたじゃろう?」

 確かに、奉燐天(ディストール)に囚われていた人の中には簡単に誰かに捕まりそうもないくらいがたいのいい人もいた。しかし、これをどう説明したものか・・・・・・。

 「あの・・・、信じられない話だと思うんですけど・・・・・・。」

 これに関しては流石の桐香も言葉を濁らせた。


 「その・・・、実は堕天使って言う悪魔?みたいなのがいて、普通の人には見えないんですけど、私たちにはそれが見えてですね・・・、なんと言えば良いのか、その堕天使ってのが人の意識を侵食しておかしくさせるんですよ。今回の件もそれのせいで村の人たちが狙われたって訳です。・・・・・・・意味わかりませんよね?」

 桐香は言葉を選びながらなんとか説明しようとした。

 「堕天使か・・・、よもやそのような存在が実在するとはな・・・・・・。」

 「え? 信じるんですか?」

 予想に反して村長さんの反応は意外なものだった。

 「無駄に長い年月を生きていると人が嘘をついているかどうかくらい分かるようになる。それが真実なのじゃろ?」

 村長さんは驚く私たちの顔を見てにっこりと笑った。


 「いや、そうですけど、私だって急にこんな話されたら何言ってるんだろうなって思いますよ?」

 「ほっほ。確かにそうじゃろうな。じゃが、今言ったことに加えてお前さん達が言った話は儂らの神様の話に通じるところがある。」

 「・・・神様の話?」

 「ああ、正確にはグラナ教という宗教に関わる新世神話の話じゃ。」

 そう言って村長さんは席を立ち、奥の部屋から古い埃の被った分厚い本を持ってきた。


 「アインスを中心としたカブラルで最も主要な宗教はエンゲル教という宗教じゃ。この世界を災いから守る天使を崇めるものでな、そのエンゲル教と関わりの深い古代神話の中の終末紀ではその天使の一部が世界に降り立ち、世界に混沌をもたらすという一幕がある。その中で混沌から人々を救い、世界の夜明けを導いた存在こそがグラナであり、そのグラナを信仰する宗教がグラナ教じゃ。」

 村長さんはその分厚い本の一部を指さしながら説明してくれた。

 「それって、昔にも私たちと同じことがあったってこと?」

 「地上に降り立った天使から人を救った・・・、確かに、だから私たちを話を信じてくれたんだ。」

 「そうじゃな。さながらお前さん達はグラナ様というわけになるな。ほっほっほ。」

 「それは、喜んだ方がいいのかな・・・?」

 外にいるときは刺すような視線に囲まれて気を落としていたけど、ここで村長さんが嬉しそうに笑ってくれたおかげで少し気分が楽になった気がした。

 

 「まあ、さっきも言ったとおり、カブラル国民はエンゲル教徒。グラナ教徒なんてのはこの村を含む北方地域の一部だけじゃがな。」

 「どうして?」

 「さっきも言ったとおり、エンゲル教は古代神話の天使を崇めるものじゃが、グラナ教は言ってしまえばその天使と敵対した者を崇める宗教じゃ。ごく少数ではあるが、エンゲル教徒の中にはグラナ教を邪教として忌み嫌う者達もいる。」

 村長さんはやれやれといった様子で話した。

 「へぇ・・・、起源が同じなのに・・・。そういう話ってこっちの世界にもあるのね。」

 恵は興味深そうに村長さんの話を聞いていた。そういえば恵って世界史とか好きなんだっけ。


 「さて、宗教の話はこの辺で。そろそろ休んだらどうじゃ。疲れておるじゃろ。」

 「確かに。言われてみればすごく眠い・・・。」

 恵はふぁ~と大きな欠伸をして、思い出したかのように机に突っ伏した。

 そういえば夜通し屋敷にいた上に、ここ最近は囮のベッツさんを見張るためにまとまった睡眠を取っていたなかった。それに気づいた途端、急激に瞼が重たくなってきた。

 「儂の部屋を使え。3人は寝れるはずじゃ。」

 「でも、村長さんは?」

 「儂は今日はここに毛布でも敷いて寝よう。村の人々を助け出してくれた恩人達のためならそれくらい安すぎるというものじゃ。」

 村長さんはそう言って私たちを部屋に連れて行ってくれた。


 「なんか、すごくお世話になっちゃって、ありがとうございます。」

 「なに。こんなことで良ければお安いご用じゃ。」

 私たちはそう言って笑う村長さんに甘えて、この日は床に入ることにした。


+++


 翌朝、というより昼間で寝ていたので正午くらいなのだが、私たちは円形の机を囲んでいた。

 「それで、まず考えないといけないのは子供達がどこに消えたのか、なんだけど・・・・・・。」

 村長さんが用意してくれた朝食を食べ、桐香が話を切り出した。

 「最初は男に人たちと同じ件かと思ったけど、屋敷にはいなかったし、奉燐天の口ぶりからしてもどこかに隠してるって感じでもない。」

 「でも、いなくなった時期って男の人たちが奉燐天に連れ去ら始めた時期と同じなんだよね?」

 「うん。まぁ、たまたま被っただけの可能性もあるけど・・・。」

 「手がかりもないし、何から考えれば良いのか・・・。」


 「「「う~ん・・・・・・」」」

 

 私たちは一昨日まで完全に男の人たちと犯人が同じだと思っていたから手詰まり感が否めなかった。

 「子供ってことを考えれば、単に人攫いにあったってことも考えられるけど・・・、村長さん、この村って人攫いとかあったりします?」

 桐香は少し考えてからキッチンにいた村長さんを呼んだ。

 「人攫いか・・・、昔はたまにあったが最近、少なくとも10年はそんなことなかったがの。近くの森で遊ぶ分には誰かが見とるはずじゃし、何かあれば叫んで助けを呼ぶように良く言い聞かせておるからのぉ・・・。」

 村長さんも完全には否定していないけど、可能性は低いと首を捻った。

 

 「そうですか・・・。」

 「うーん、じゃあみんなで森に冒険に行っちゃったのかなあ?」

 「冒険って・・・、でも子供だったらあり得なくもない?」

 「消えたときの状況的には男の人たちと同じなんだっけ?」

 「うん、確か遊びに行ったっきり戻ってこなくなって・・・・・・、あれ?」

 そういえばフランカさんと村長さん曰く、消えた男の人たちは夜中で、一度に消えるのは1人ずつか少人数だけ。でも、子供達が消えたのって昼間に、しかも十数人が一気にだった。


 「もしかして、本当に森に冒険に行っちゃったの?」

 「いやぁ、村の奥に入ってはならんときつく言っておるしなぁ・・・・・・。」

 もしそうなら子供の好奇心ってことで終わらせることもできるけど、ここまで来てそう結論づけるのはあまりにも無責任すぎる。


 「他の可能性を考えるなら、いわゆる強引に連れ去られる誘拐じゃなくて、誘惑される形で自分たちから村を離れていったってことになるけど。」

 「私たちにできることって絞るなら、その犯人が堕天使って仮定することになるよね。」

 「うん・・・、ちょっと強引だけど、他の犯人なら私たちの出る幕ではなくなるからね。」

 とりあえず、私たちがしなければならないのは堕天使を倒すこと。それに無理矢理当てはめればそういうことになる。


 「それと、本当にそうだとしたらどこにいるのか、か・・・・・・。」

 「え~? あの霧の中でまたあの屋敷みたいなのを探さないといけないのー・・・」

 恵は考えるのも嫌そうに腕を伸ばして机に頬を付けた。

 「うん。そうだよね・・・・・・。」

 桐香の言うとおりあの屋敷の中のありとあらゆる部屋は探したし、他に抜け道みたいな所もなかった。


 手がかりもなく、ふと服のポケットに手を入れてみると丸まった紙切れが出てきた。

 ・・・ん? なんだこれ?

 なんとなく広げてみると、それは奉燐天を探しているときに描いた屋敷の簡単な見取り図だった。

 やはりこの紙に書いてある部屋は全て見て回ったはずだし、これ以外の場所なんて・・・・・・!


 「・・・待って!」

 私はその紙に描かれた小さなメモをみつけ、一つ忘れていたことがあることに気づき、思わず立ち上がった。

 「うぉっ、どうしたの? 急に。」

 「一つある・・・・・・。」

 「ひとつ? 何の話?」

 「ほら! 私と恵が桐香と別れて奉燐天を探しに行ったとき、1階の左側の通路の突き当たりの部屋に行ったこと覚えてる?」

 「あ、あ~・・・、思い出したくないかな・・・・・・。」

 恵は覚えていないというより、中で奉燐天に操られた村人に襲われたことを思い出したようで視線を逸らした。


 「あそこの部屋の隅に置いてあったピアノの下、不自然に絨毯がめくれてるところがあって、それの下が隠し扉みたいになってたの!」

 「・・・! 桜、それ・・・。」

 「確証はないけど、もしかしたら別の場所に繋がってるのかも!」

 「いや、ナイスだよ、桜!」

 「そうだね。まずはそこに行って確かめてみないと。」

 色々重なりすぎて完全に忘れていた。でも、これで確実に事態は一歩前進している感覚があった。




お読み頂き、ありがとうございます。


本日から物語は3章に突入します。

これからもぜひ継続して読んで頂けると幸いです。

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