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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
奉燐天
18/70

愛欲

 「っぜぇ、はぁ・・・。」

 「随分疲れてるね。なんかあった?」

 私と恵はあれから奇跡的に人と遭遇することはなく、なんとか2階で桐香と合流できた。とはいえ廊下を全力疾走したこととその間ずっと警戒していたことによる精神的ストレスで想定以上に疲れてしまっていた。

 「ごめん、ちょっとトラブルあって左側の通路しか調べられなかった。」

 「いや、それはいいけど、腕大丈夫? 怪我してるけど。」

 「うん、ちょっと掠っただけだから。さっき恵に治してもらったし大丈夫。」

 1階で短剣を持った村人の1人に付けられた傷は、桐香と合流する前に恵に治癒してもらったおかげで、今は血も止まっているし痛みもない。

 「ところで、桐香の方はどうだったの?」

 「こっちは全部まわったんだけど、結構巡回してるから避けるの大変だったよ。あ、一応言っておくけど村人には手出してないから。」

 「へー、それは大変だったね・・・、って、え? 全部いけたの!?」

 「まぁ、でも1階の半分くらいの広さだと思うよ。」

 「流石だねー・・・。」

 桐香はさらっと言っているけど、この短時間、それも1人でこの範囲は大変だろうに・・・。流石としか言い様がない。

 「それで調べた感じだけど、2階はほとんど寝室とか書斎とか狭い部屋ばっかであいつがいそうな感じはしなかった。こそこそ隠れるような奴じゃないだろうし。」

 「そうなんだ。こっちは広い客間が2つと小さい倉庫、あと最初にみんなで行ったみたいな突き当たりの広間って感じだった。そこに村人が1人隠れてたけど、それ以外は誰もいなかったし・・・。」

 「そうか・・・。やっぱりこの屋敷自体は昔使われてた家の廃墟か。となると奉燐天(ディストール)がいるのは1階の真ん中の通路のどこかってことかな?」

 あくまで奉燐天が最初の部屋から動いていなければだけど、見ていないのは玄関の正面の通路だけなのでそういうことになる。

 「とりあえずそこに向かおう。」

 桐香は手書きの地図の空白を指差し、私たちは1階に降りていった。


+++


 「ねぇ、ちょっと一ついい?」

 「ん?」

 私たちは1階の正面の通路を真っ直ぐ歩いたところにある大きな両開きの扉の前で止まった。意外にもこの廊下に面している部屋は少なく、誰にも遭遇することなくあっさりここまで来ることができた。

 「奉燐天の核って何かなって話なんだけど。ほら、闘簫天(フルーテル)の笛みたいな。」

 アインスの一件で分かったことだけど、堕天使は人の形をしてる部分ではなく本体は別の何かで、むしろ人の部分が不死身だからその核がなんなのか分からないと闘いにならない。

 「確かに。ここの村人達が何を聞いて、もしくは何を見ておかしくなったのか分かれば手っ取り早いんだけど・・・。」

 「でも、私たちが奉燐天を見たのなんて一瞬だったし、身につけてた物だってメイド服とエプロン、カチューシャ・・・・・・、あとなんかあったっけ?」

 アインスの内乱の話はバーリングにいるときから詳しく聞いていたし、今考えればヒントは意外と多かったなって思うけど、奉燐天に関してはそんな情報はない。そこら辺にいる村人に聞こうにも完全に自我を失っていて話し合いができる状態ではなさそう。

 「ん~・・・、現状じゃ断定できないな。仕方ないけど、闘いながら探るしかないかもしれない。とはいえ、人の部分に攻撃しても意味ないって分かってるだけ前回よりもマシでしょ。」

 「まぁ、そうだね・・・。」

 そう言いながら桐香は前の扉に手をかけた。

 「じゃあ開けるよ。覚悟はいい?」

 「うん、頑張るよ!」

 「私も大丈夫!」

 「よし! それじゃ・・・・・・。」

 桐香は深く息を吸い、重そうな扉をゆっくりと押し開けた。



 「あら、戻ってきましたのね。てっきり屋敷の外に逃げていったのかと思いましたわ。」

 桐香の予想通り屋敷の中央には奉燐天がいた。クスクスと笑うそれの周りには男の人が3人の村人がいるのだが、そのうちの1人が四つん這いになり、その上に奉燐天が座っていて、左側にいる膝立ちの男の肩に腕をのせている。奉燐天の右側にいる3人目はこの部屋の唯一の明かりである燭台を持って立っている。相当屈辱的な状況にも関わらず3人とも微動だにしない。

 「馬鹿にして・・・、この霧の中闇雲に逃げても迷子になるって分かってるだろ。」

 「ふふ、いいじゃない。流石、神に選ばれし者ですわ。」

 奉燐天は暗い部屋の中で緊張する私たちと対照的に余裕そうに笑っている。


 「その人達から離れて、みんなを元に戻して!」

 「嫌ですわ。たとえ(わたくし)がこの子達を解放して、もうしませんって言ったって貴方たちは(わたくし)を消すでしょう?」

 「それは・・・・・・」

 奉燐天は少し諦めたような顔で言った。

 実際、堕天使がどんなにいい人でも莉里を救うためには倒さないといけない。奉燐天の言うとおりここで素直に村人達を解放したとしても私たちは奉燐天を倒すだろう。

 「なら、何が目的なのか教えてよ。ここの人たちを自由にしてくれるなら、私たちが代わりにその望みを叶えるから。」

 「え!? 桜なに言っているの!?」

 「でも、闘うよりはいいよ。闘簫天より話通じそうだし。」

 「いや、相手は人じゃなくて堕天使だから!」

 私が奉燐天に提案しようとすると桐香と恵が必死に止めようとした。


 「・・・・・・へぇ、意外とかわいいところあるじゃない。了解しましたわ。貴方が私の知りたいことを教えてくれたらこの子達を解放して差し上げますわ。」

 「本当!? ほら、やっぱり話せば分かるんだよ!」

 奉燐天は笑って私の提案を飲んでくれた。最初に出会った闘簫天があまりに戦闘狂だっただけだと、私は桐香と恵に視線を飛ばした。


 「それじゃあ、一つ聞いてもいいかしら。」

 「うん、何?」

 「ねぇ、”愛”って何かしら?」

 「・・・・・・え? 愛?」

 奉燐天の口から出た意外な単語に私はきょとんとした。

 「地上に降りてからの私の好奇心はこれに尽きますわ。他の動物にはない”愛”という人間特有の代謝産物を私はずっと知りたかった。ですから、私はこうしてこの子達を使って”愛”を理解しようとしましたの。でも、どんな痛みも快楽も私の知りたい”愛”ではなかった。貴方たちはこれが何か分かるかしら?」

 奉燐天は立ち上がって、私たちの方に数歩歩み寄って聞いた。

 「地上の人間はよく愛してると口にしますわ。’好き’ではなく’愛している’と。この2つの言葉を人間は明確に区別して使うけれど、誰もこの違いが分からない。そんなことがあるのかしらねぇ。」


 「愛なんて・・・・・・、そんなの私だってよくわからないよ・・・。」

 斜め上からの奉燐天の問に私は困惑した。お母さんやお父さんは私を愛してくれているだろうし、ほとんどの子供はそうだろう。でも、身近に愛なんて言葉を聞くことはない。愛は何かと聞かれて頭に浮かぶのはドラマや小説のような空想のものばかりだ。

 「ごめん、それは私には答えられない・・・。」

 望みを聞くと言った手前、何も答えないのは気が引けるけど、それがきっと今の私の回答なのだろう。辞書やスマホで調べれば言葉の定義くらいは分かるだろうけど、奉燐天が聞きたいのはきっとそういうことじゃない。


 「・・・そう。まぁ期待はしていませんでしたが。」

 奉燐天は吃る私に失望したように肩を落として背中を向けた。

 「恋愛、友愛、親愛・・・、人間には”愛”を表現する言葉がたくさんあるのに、口にする言葉はいつも曖昧なことばかり、やはり本当は”愛”なんてものは都合の良いように欲を美化するだけの言い訳に過ぎないのでしょうね。」

 「・・・それは違う! っと思う。私だってよくわからないけど、愛がないなんてことは・・・。」

 私は反射的に反論した。明確な反論はできないけど、無意識に人ではないものに人の大事なものを否定された気がした。

 「では何故人はこうも醜く、啀み合い、意味もなく命を奪うのでしょう。世界を救うのは愛だなんて綺麗事をあと何人死ぬまで言い続けるつもりですか?」 

 「確かに、みんながみんな普遍の愛を持ってるなんてことはないだろうけど・・・、でも、もしみんながみんなを大事にできたらきっと殺し合うなんてこと・・・・・・。」


 「・・・ふふ、実に浅はかですわね。」

 本気で聞いているのか、私たちをからかっているのかは分からないけど、奉燐天は私の答えを嘲笑した。

 「なら、証明してみなさい。今、この場で・・・。」

 奉燐天は振り返り、手元に火の玉を生み出した。

 それは奉燐天が腕を広げると一気に分散し、部屋中の一つを除いた全ての燭台に刺さった蝋燭に火を灯し、部屋全体が仄暗く照らされた。


 「・・・!? 囲まれてる!」

 視界が開けると同時に部屋の壁際に沿って20人ほどのタキシードを着た男達が整然と並んでこちらを見ているのが露わになった。

 「っ・・・、誘い込んだのか。」

 桐香は奥歯をかみしめて、銃を奉燐天に向かって構えた。

 「盾。」

 桐香が引き金を引こうとしたとき、奉燐天の温度のない言葉とともに、傍で立っていた男が桐香の射程を遮るようにすっと前に出た。

 「撃っても良いのですわよ? この霧の中の屋敷の中じゃ人が死んだって見つかるはずがありません。それに、この子達は貴方にとって赤の他人でしょ? それなら死んだって構わない、寧ろ、邪魔者は殺した方がメリットがあるでしょう?」

 「何言って・・・・・・。」

 奉燐天は私たちを弄ぶように恍惚とした表情を浮かべている。

 「さあ、第2部開演ですわよ!」

 「「「縺翫♀縺帙?縺セ縺セ縺ォ!!!!!」」」

 パンッと手を叩くと、壁際の人の半分くらいが一斉走り出し、もう半数は出口を塞ぐように扉や奥の通路の方にまわった。

 「死にたくなければ殺しなさい! 貴方方にその気がなくともこの子達は迷わず貴方を殺すわよ。」

 「お前っ・・・・・・。」

 相手は堕天使だ。闘うのを躊躇している余裕なんてなかったのに、話し合いなんてできるはずがなかったのに・・・

 「生きるか死ぬか。見せて頂戴、貴方たちの”人間愛”。」

 蝋燭の明かりだけが淡く照らす部屋の中で奉燐天の不気味な喜色が浮かんでいた。


 「流石に無抵抗で躱しきれる状況じゃない! 多少は応戦することも考えて!」

 桐香は向かってくる村人に対して再度銃を構えた。皆錆びているけど斧だの剣だの持っていて出口も塞がれている。

 「でも・・・・・。」

 「何も殺せって言ってるんじゃない! 覚悟決めて! 何もしなかったらアイツの言うとおりこっちが殺される!」

 桐香は前を向いたまま声を荒げた。

 抵抗しなきゃこっちの身が危ないことは分かってるけど、どうしてもさっきの奉燐天の言葉が引っかかる。そうしている間にも男達は迫ってきていた。

 「来るよ!」

 「っ・・・、豆鉄砲(エア)!」

 桐香は村人めがけて数発撃ち込んだ。ボスッと鈍い音がして、一瞬動きを止めるけど、すぐに立ち上がって向かってくる。

 「キリがない・・・、桜もなんとかして!」

 「・・・・・・。」

 「桜!」

 「・・・だったら、止めるだけなら、攻撃しなくてもいい! 桐香ちょっと背中貸して!」

 「は!?」

 困惑した桐香は怒りを滲ませながらこっちに振り向いた。それに構わず私は桐香の背中に向かって走った。

 「桐香しゃがんで! 行くよ、恵!」

 「へ?」

 説明している暇はない。ただの思いつきでうまくいく保証なんてないけれど、私は走りながら恵の体を抱えて、桐香の背中を踏み台にして、男の人たちの頭上にジャンプした。

 「いっ・・・、なんのつもり!?」

 「お願い、頼んだよ!」

 「え!? ちょっ、何!?」

 私はそのまま空中で恵の体を放り投げるように離した。

 「何を・・・・・・」

 奉燐天は私の行動が理解できないように目を見開いている。

 「恵、レイ!」

 「え? あ! そういうこと!?」

 私は落ちながら恵に作戦を伝え、ぎゅっと目を瞑った。

 あまりに簡単すぎる説明だったけど、恵は理解してくれたようで杖を下に向かって構えた。

 「・・・・・・まさか!」

 「閃光(レイ)!!」

 恵の声とともにほとんど明かりのない暗い部屋が強い光に包まれる。

 「「「・・・逵ゥ縺励>;ぁ・・・!!」」」

 フロアにいた村人達はその光を直視し、目を押さえて錯乱した。皆動きを止めて呻きながら倒れていく。

 私は華麗に着地・・・、といきたかったけど、空中で目を瞑ったせいでタイミングをつかめず思い切り尻餅をついてしまった。恵も同じように私の身体の上に落ちて動けなくなったけど、桐香が私の意図を汲んでくれていた。

 「油断したな、クソ天使・・・!」

 私たちが着地すると同時に、桐香は村人を掻い潜り奉燐天に肉迫していた。

 「こんなことで・・・・・・!」

 「銃撃(アサルト)。」

 はっと息をのむ奉燐天の胸に桐香はドンッと穴を開けた。


 「ふふ・・・、無駄よ。こんなもの効かないと知っているでしょう。」

 奉燐天の右胸に開いた穴はみるみるうちに修復されていく。ただ、それでも奉燐天は焦っているように頬に汗が伝っていた。

 「分かってる。でも、お前の本体はこの屋敷のどこかにあるだろ?」

 「・・・だったらどうだというの? まさかこの屋敷ごと壊すつもりではないでしょう?」

 「そうだね。まずはお前の身に付けてる物から絞るよ。」 

 桐香はためらいなく奉燐天に迫り、バンバンと至近距離で何度も引き金を引いた。エプロン、リボン、カチューシャと候補を絞るように放たれた弾幕に、奉燐天は抵抗の術なくぼろぼろになっていく。

 「っ・・・! こんなところで・・・、私は!」

 奉燐天は弾幕から逃れるように壁を伝って走り出した。

 やはり堕天使も身体能力が超人的なようで、その速度は闘簫天ほどではないけど桐香の照準が追いつかないくらいには速かった。

 「まずい、あっち!」

 「逃がさない・・・、(ロドス)!」

 恵は奉燐天の進行方向に向かって壁を作り、奉燐天は行く手を阻まれ、壁に手を突いた。

 「ふふふ。もう十分ですわよ、これさえあれば・・・。」

 しかし、恵の思惑とは裏腹に奉燐天は一転して落ち着きを取り戻したように口角を上げ、その場にあった唯一火の灯っていない蝋燭を手に取った。

 「もしかして・・・・・・。桜、恵、あの蝋燭狙って!」

 「今更遅いですわよ!」

 桐香が私たちの方を振り返ると同時に奉燐天は手から巨大な火の玉を生み出した。

 瞬間的に爆発したように破裂したそれによって部屋中が火に包まれる。


 「うわっ・・・・・・! って、あれ? 熱くない?」

 見た目は火そのものなのだが、全く熱さを感じない。

 「ええ、本物の火ではありませんもの。」

 「・・・!? いつの間に・・・!」

 そのことに一瞬気を取られた隙に奉燐天は私の目の前にいた。

 油断した私の腹を蹴り上げ、私は後ろで杖を構えていた恵のところまで飛ばされた。

 「いっ、た・・・。」

 揺れる視界の中で奉燐天の姿が火に包まれ、また見失う。

 「桜!」

 「まさか、転移者があれで死にはしないでしょう。」

 「・・・な!? 」

 気づけば奉燐天は私の方に走ってくる桐香の真後ろにいた。

 「あちらは揺動ですわ。私の本命は最初から貴方ですもの。」

 桐香が体を翻すと、そこには手元の蝋燭に妖しく照らされた奉燐天の顔があった。

 「・・・・・・! しまった・・・・・・。」

 「ふふふ。さぁ、私に屈しなさい。」

 

 

 「・・・? 桐香? どうしたの!?」

 少し距離があるのと、火のせいでよく見えないず、私たちからは奉燐天と話す桐香の背中だけが見えている。しかし、その直後、桐香はゆっくりと銃を下ろし、こちらに振り返った。

 「桐香? ・・・ねぇ、桐香!」

 何か攻撃を受けたようには見えなかった。それでも桐香は私の呼びかけに一切応じようとしない。

 「桐香!!」

 「呼ばれていますわよ。返事してあげなさい。」 

  

 「・・・ぁ、縺―縺い。」

 

 「・・・! そんな・・・・・・。」

 ゆったりとした仕草で振り返った桐香の目はここに居た村人達と同じような、虚空を見ているような焦点の定まっていない虚ろな目をしている。

 

 「さて、形勢逆転ですわ。ともに闘いましょう? 桐香。」

 奉燐天は桐香の左肩にぽんと手を置き、ぐしゃりと笑った。



お読み頂き、ありがとうございます。


読みづらい点や設定が分かりにくい部分などありましたら、気軽に感想で教えてください。


次回は5/12投稿予定です。

よろしくお願いします。

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