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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
奉燐天
16/70

幽霊屋敷

 バーリングから北北西に行ったツヴァルスフィア地方の小さな村では、男の人と子供が消えるという事件が起きていた。私たちは数日前からこの怪事件を解決するためにこの村に来ていた。


 「んで、囮って何すりゃ良いんだ?」

 倉庫から離れた私たち3人とフランカさん、村長さん、ベッツさんの6人は改めて村長さんの家に集まっていた。

 「そう難しいことはない。ベッツにはしばらくこの家の一室に泊まってもらうだけじゃ。」

 「あ? それだけ?」

 「ああ、それだけじゃ。それと儂とともにこの3人もこの家に泊まり、お前がどこかへ行こうとしたらついていってもらう。」

 村長さんは私たちを紹介するような仕草でベッツさんに説明した。

 「つまり、ベッツさんが誰かに連れて行かれないように見張って、夜な夜などこかに行こうとしたら後を追って、村の人たちがどこに消えたのか探るって作戦です。」

 私は事前に村長さんから聞いていた作戦をベッツさんに伝えた。ちなみにこの作戦は安全のためにフランカさんと村長さんは直接参加はしない。

   

 「・・・ってことは、君らもしばらくこの家にいる訳か。」

 「はい。そうですけど、何か不都合ありますか?」

 「ふっ・・・、おいおい! こんな子供が俺と一つ屋根の下なんて刺激が強すぎるだろ!」

 「・・・何を言うかと思ったら、さっさと連れ去られれば良いのに。」

 変わらない調子のベッツさんに桐香は氷より冷たい視線を向けていた。

 「まったく、照れちゃって☆」

 「私この人と同じ家にいるのやだ!」

 「ちょっ、恵! ストレート過ぎるよ!?」

 「こいつがルカさんより年上なのが信じられない・・・。」

 「ははっ! みんな若いね。」

 わかりやすく嫌悪感を示す恵と桐香と対照的に、ベッツさんは脳天気に笑っていた。


+++


 事態が動いたのは作戦を決行してから4日目の夜のことだった。

 私たち3人はベッツさんと同じ部屋で過ごすのは普通に嫌だったので、ベッツさんが寝泊まりしている部屋の扉が見えるリビングで過ごし、夜は3時間交替でドアを見張っていた。


 「桜、桐香、起きて!」

 リビングのソファで寝ていた私と桐香は、見張りをしていた恵に揺すられて目を覚ました。

 「どうしたの?」

 ベッツさんに動きがあったのかと思って、扉を確認するも扉は閉まったままだった。

 「さっきベッツさんの部屋から物音がしたんだよ!」 

 「物音ってどんなの?」

 「それはその・・・、よくわからないけど、なんかおっきい音が・・・」

 「・・・恵、寝てた?」

 「ね、寝てないよ!」

 恵はそう反論しながらも瞼をこすっている。

 「とにかく様子を見に行こう。」


 「ベッツさんいますかー? 開けますよ!」

 私たちはとりあえずベッツさんの安否を確認しようと扉を開けた。しかし、そこにベッツさんの姿はなかった。

 「・・・いない?」

 ベッツさんの部屋に一応小さな窓はあるものの、それはベッドの上の高い位置にあって人1人通れるかどうか位のサイズだった。

 「2人とも、あれ。」

 桐香が指さす先には例の窓があった。そのすぐ下には椅子が転がっていて、窓が割られているのが目に入った。

 「うそ!? あそこから出て行ったの?」

 「なんでこんな脱走みたいな方法で・・・」

 「それにしてもガラスが割れる音ってわかりやすいと思うけど、恵やっぱり寝てた?」

 「う・・・、ごめんなさい。」

 「まあいいや。いや、よくないけどとにかく今は後を追おう。」

 桐香はそう言って玄関の方に向かい、私たちも後に続いた。


 玄関を出て、ベッツさんの部屋の外側に回ってみるとガラス片が庭に散乱している。壁やそのガラス片にはところどころ血がついていて、無理矢理這い出たということが容易に想像できた。

 「ここまでして、どうして・・・?」

 「後を追うって言っても、どうしよう、ベッツさんもういないよ?」

 夜中ということもあり、あたりは真っ暗でベッツさんの気配すら分からない状況だった。

 「いや、これ辿っていけばもしかしたらいけるかも。」

 桐香はしゃがんで地面を見ている。

 「これって?」

 「これ。たぶんベッツさんの血だと思う。」

 桐香が見ていたのは地面に点々とついた血痕だった。体をガラスにこすりながら無理矢理出たときに体中に傷を作ったのだろう。血痕は壁から森の奥まで続いている。

 「よく見つけたね、桐香。」

 「うん。とにかく急ごう。」

 私たちは早速地面の血痕を辿り、ベッツさんの後を追った。


+++


 ベッツさんの血痕を辿ってしばらく森を進むと、村長さんが言っていたように濃い霧に包まれる場所に来た。村にいるときは月明かりで少しは見えていた視界も段々と悪くなり、方向感覚を失ってしまいそうなほどになっていた。

 私たちははぐれないようにお互いに手をつないでゆっくりと歩を進めていた。

 「う~、よく見えない。風で霧かき消しても良い?」

 「いや待って、血痕も消えちゃうかもしれないから。」

 「え~、でも全然見えないよ?」

 「それでも今は辿れてるから。」

 私たちは桐香を先頭に、注意深く血痕を探しながら慎重に歩いていた。

 「それにこれやっぱり変だよ。」

 「変?」

 「どこに向かうにしたって、この霧じゃ方向なんてわかんないはず。なのにこのベッツさんの血痕は全く迷う気配がない。」

 確かに、血痕はどこかに向かうように真っ直ぐ並んでいて同じところを行ったり来たりしている様子はなく、もっと言えば、こんなに血をボタボタ流しているような状態なのに等間隔で淡々と続いている。

 「誰かに連れ去られてる?」

 「どうだろう・・・、ベッツさんがいた部屋の窓から侵入して連れ去るなんて考えられないし、そもそもあの窓は明らかに内側から割られてた。」

 「じゃあ、やっぱりベッツさんが自力で歩いてるってことか・・・。」

 「多分。まあ、どの可能性を考えても納得いかない点があるのは変わらないけど。」

 「また堕天使の・・・?」

 「いずれにせよ辿っていけば分かるよ! 今は焦らず行こう。」

 道中、犯人は誰か、なんの目的があるのか、色々考えてみたけど結局都合の良い答えは思い至らなかった。


+++


 何もない空間を歩き続けて、もはやどれくらいの時間歩いているのかも分からなくなってきた頃、少しだけ霧が晴れて周りがぼんやりと見えるようになっていた。

 「あれ? 晴れてきた?」

 ずっと下を向いていたのでいい加減首が痛い。私は視線を上げ、少し見えるようになった道の先に目をやると、視線の先に霧の中でぼー・・・っと浮かび上がる大きな屋敷があった。

 

 「・・・・・・!? なんでこんなところに・・・。」

 淡い月明かりに青白く照らされて突然現れたその屋敷の壁や門には蔦が蔓延り、埃だらけで、そこら中に蜘蛛の巣が張ってある。まるでホー○テッド・マンションの一軒家のようだった。

 「こんなところ、立地が悪いどころの話じゃないでしょ。」

 流石に人が住んでいる様子はないけれど、そもそもこんな霧の中に大きな屋敷があるなんて不自然すぎる。

 「こ、こんなの無視して早く先行こうよ! ね?」

 ただならぬ雰囲気に、つないだ恵の右手には力がこもっている。

 「でも、これ・・・・・・。」

 先を急ごうと次の血痕の位置を探ると、それは屋敷の玄関の方へと向かっている。

 当の鉄柵の門は半開きで、入れと言わんばかりだった。

 「嘘でしょ・・・・・。」

 もう十分周りが見えるくらいには霧が薄くなっていたけど、私たちは手をつないだまま屋敷の方へと向かった。

  

 ベッツさんの部屋から辿ってきた血痕は玄関の扉の前で途切れていた。おそらくここで血を拭いて中に入ったのだろう。

 「あ! 鍵かかってるよ!」

 「なんでちょっと嬉しそうなの、恵・・・。」

 「いやでも、これ壊れてる。」

 屋敷の重そうな扉には棒状の鍵がかかっているように見えたのだが、よく見るとどれも錆びてボロボロになっていて鍵としての役割を果たせていない。

 「よし、開いた。」

 錆びた鍵をガチャガチャすると、錆びた部分が崩れて扉が開いた。

 ギィ・・・と軋みながら開いた扉の中は真っ暗で、恵は不安そうにその中を見つめていた。

 「ほんとにここ入るの?」

 「ここまで来て変えるわけには行かないでしょ。」

 反対に桐香は、構わず真っ直ぐ中に入っていった。

 「ちょっと、待ってよ・・・。」

 広い玄関に入ると正面と左右に通路があり、さらに真ん中の通路の両脇に階段があって2階に行けるようになっていた。

 意外にも中はきれいに掃除されているようで、古い家独特のかび臭さはありつつも埃っぽさはほとんど無かった。

 「さて、どこ行く?」

 ベッツさんの血痕は屋敷の玄関で途切れており、どの部屋に行ったのかは分からなくなっている。

 「どこでも一緒な気はするけど・・・。じゃあ、右?」

 「おっけ。行くよ、恵。」

 「あっ、ちょっと・・・」

 私の適当な提案に従って、桐香は恵の手を引きながら右の通路に向かった。

 長い廊下の所々に窓はあるものの、差し込む月明かりは僅かで、屋内である分外よりも暗かった。

 「そういえば、今更なんだけど恵、光とか出せないの?」

 桐香は後ろで手を握っている恵に聞いた。

 「光? あぁ・・・確かに出せるかも。」

 恵は杖を取り出し、構えたとこで止まった。

 「・・・ところで技名は?」

 「今は何でも良いよ、誰もいないし。」

 「えー、せっかく他のは考えたんだから、これもなんか決めようよ。」

 数日前、みんなで名前を考えたときは3人であーだこーだ言いながらも、他の人には意味が分からないけど私たちにはすぐ伝わること、それと簡潔で一言で済むこと、という条件で一通り考えていた。


 「うーん・・・、じゃあ、レイで。」

 「桐香のそのとりあえず英語で直訳するスタイルなんなの・・・・・・。」

 恵はやや不満そうにしながらも杖を前に突き出した。

 「(レイ)

 恵が唱えると、杖からカッ!と強烈な光が放たれた。

 「うわっ、眩しっ! ・・・ってあれ?」

 放たれた光は一瞬だけ眩く光ったものの、すぐに消えてしまった。

 「光り続けられないの?」

 「ん~、じゃあもう一回・・・(レイ)。」

 今度はぱっと淡い光が杖の先端に現れて、少しの間点灯していたけどまたすぐに消えた。

 「・・・っはぁ~、これ以上は疲れるよ~。」

 恵は構えていた腕を下げ、膝に手を置いた。

 「持続させるには体力消費するのか・・・。 なら次はここの蝋燭に少しずつ火付けていって。」

 桐香は廊下の窓際に等間隔で並んだ燭台を指さした。

 「私だけしんどいって・・・。」

 恵は文句を言いながらも、渋々蝋燭に火を灯しながら歩いた。

 桐香にその意図があったかは分からないけど、恵は今は落ち着いて1人で歩けていた。


 2分くらい歩いていると廊下の突き当たりにあった大きな両開きの扉まで来た。

 「行き止まりかー、引き返す?」

 「・・・待って。なんか物音聞こえない?」

 「え? この部屋の中から・・・?」

 「お、お化けじゃないよね・・・。」

 確かに扉の向こうからは人の足音のような音が聞こえる。

 落ち着いてきていた恵は再び、隠れるように桐香の後ろに行った。

 「開けるよ。」

 桐香がのぞき込むようにゆっくりと押し開けると、そこには異様な光景が広がっていた。

 部屋の中央に置かれた横長の机には白いテーブルクロスが引かれ、その上には銀の皿やキャンドルが整然と並べられていた。その全てがボロボロで汚れているにもかかわらず、今にも食事が運ばれてきそうなほどにきれいに並んでいる。

 

 それだけではない。そのテーブルの周りにはぼさぼさの髪で、しばらく整えていなさそうな伸び放題の髭を生やした5、6人の男の人が食事を運ぶワゴンを押していたり、棚の掃除をしたりしている。

 虚ろな目をした彼らは見た目とは似つかわしくないきれいに仕立てられたタキシードを着ていた。

 「なに、これ・・・・・・。」

 私は目を疑った。風邪を引いたときに夢を見ているような不気味な光景にぞっとした。

 そんなことを思っていると、作業をしている男の人たちはピタッと動きを止めて、一斉に私たちの方に体を向けた。

 「ぉ帰、りナざぃせ雁ーセエ~・・・」


 地の底から響いてくるような、不協和音のような声に私は思わず卒倒しそうになった。

 男の人達は右手を胸に添えて、腰を折っているにもかかわらず、目は見開いていて私たちを見つめている。

 「なんなんだ、これ・・・。」

 「ね、ねぇ! なんかやばいよ、帰ろう!?」

 正直私も今は恵に賛成だけど、足が固まってしまった。

 「人・・・だよね? 流石に幽霊じゃないでしょ・・・。」

 桐香も流石にこれには困惑し、冷や汗を流している。



 「お客さんかしら?」

 私たちが扉の前で動けなくなっていると、部屋の奥につながる通路から、メイド服を着た色白の女の人が現れた。右手には火のついた蝋燭が刺さった燭台を持っており、腰のあたりから大きな黒い翼が生えている。

 「・・・・・・! 堕天使・・・。」

 闘簫天(フルーテル)と同じ黒い翼。明らかに人間ではない、突然現れた堕天使に私たちは絶句した。

 「あら、(わたくし)が見えますのね。ふふ、それじゃあ自己紹介が必要ですわ。」

 それは燭台を傍らにいた男の人に預け、スカートの両端をつまみ上げてお辞儀した。

 「(わたくし)の天名は”奉燐天(ディストール)”。 さぁみんな、あの小娘共を殺しなさい。」

 奉燐天は顔を上げ、妖しく笑った。

 


お読み頂き、ありがとうございます。

次回は4/28投稿予定です。

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