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親友を救いに異世界に行った話  作者: 祭
奉燐天
14/70

いつも通りの非日常

 ―バーリング教会の裏口

 「お帰りなさいませ。ご無事で何よりでした。」

 アインスを出発し、バーリングに着いた頃にはもう薄暗くなっていた。

 久しぶりに教会に戻ったときは正面玄関の方は長蛇の列ができており、仕方がないので裏口から入るといつものようにクレアさんが出迎えてくれた。

 「ただいまです。あっち、すごい人だかりですね。」

 「はい。カイルさんが戻ってきてからはずっとこの調子で、わざわざ数日かけて遠方から来ている人もいるそうですよ。」

 どうやらカイルさんのアインスでの活躍はカブラルの国中に届いたようで、カイルさんに会おうとする人が各地から殺到しているらしい。

 「そうなんですね・・・。流石カイルさん。」

 カイルさんの話はアインスで何回も聞いていたのでなんとなく予想はしていたけど、カブラルの人たちも行動が早いな。

 「それなら、クレアさん。その人たちから何か妙な相談とか噂とか聞いたりしてませんか?」

 私がそんなことを考えていると、桐香は早速次の堕天使のヒントを得ようとしていた。 

 「妙な相談、ですか?」

 「はい。この間の件みたいな、変な音を聞いておかしくなったとか、そういう話です。」  

 「そうですね・・・・・・、私はそういった話は聞いていませんね。ほとんど仕事に失敗したとか、作物が不作で困ったという話がほとんどですので・・・。」

 「そうですよね・・・」

 「ご期待に添えず申し訳ありません。」

 クレアさんは申し訳なさそうに深々と頭を下げた。

 「いやいや、謝らないでください。変なこと聞いたのはこっちですから。」

 「はい・・・。お詫び、というわけではありませんが、お風呂の用意ができていますのでどうぞそちらへ。」

 「やったー! 久しぶりのお風呂だ!」

 恵は両手を挙げて嬉しそうにしている。私たちがこの時間に帰るなんて伝えていないのになんという手際の良さだろうか。私たちはクレアさんの優しさに甘えてお風呂場へと向かった。


 「はぁ・・・、やっぱり日本人は湯船に浸からないと・・・・・・。」

 アインスにいた頃、シャワーは浴びていたけど、足を伸ばして湯船に浸かるのは格別だ。

 「明日どうする?」

 「そうだねー・・・、他の堕天使の情報もないし、まあそう簡単に進まないか・・・・・・。」

 「とりあえずいつもの草原で練習するでいいんじゃない? 闘簫天の件で少し課題も見えたし。」

 「あー、確かに。正直あれに勝てるとは思わなかった、ほんと桜はすごいよね。」

 「え? いや、2人のおかげだから、急に褒めだすのやめてよー。」

 「あ、照れた。」

 「もー、かわいいなー桜は。」 

 「ちょっ、からかってるでしょ!」

 2人はいたずらっぽい笑みを浮かべて赤くなる私を見ていた。

 「そんなことより、もっと話すことあるでしょ! ほら、あの・・・・・・、そう!闘簫天の笛のこととか!」

 「あれ? 結局あれは笛が弱点だったってことで良いの?」

 「うん、多分。っていうか私は笛が本体だったんじゃないかなって思う。」

 「笛が本体?」

 「あくまで仮説だけど、体よりも笛が先で、体の方は好きに作れるから傷ついてもすぐ修復できる、みたいな話。」

 「なるほど・・・。だから桐香が最初に笛にひびを入れたとき、その後にできた傷はすぐに治らなかったんだ。それで、笛が完全に壊れたら体が消えると。」

 「かも。だから今から会う堕天使もそんな感じで本体が別にあるのかもしれない。」

 「じゃあ、まず会ったら本体を探ることからかー。」

 私は肩から下を湯船に浸かりながら天井を見上げた。

 闘簫天の一件はあまりに現実離れしすぎていて正直実感がない。それどころか今異世界にいることすら夢なんじゃないかなって思うことがある。ただ、それでもここに莉里がいないことは事実で、それなら私のやることは夢でも現実でも変わらないのだろう。 

 「とりあえず、明日はいつもの草原ね。」

 「うん、わかった!」

 「よーし、明日からもまたがんばろー。」

 私は小さく伸びをして湯船を出た。


+++


 ―カブラル領バーリングより東方に位置する草原

 アインスからバーリングに戻った翌日、私たちはいつもの草原に来ていた。

 「さて、今日やることは・・・」

 「はい! 必殺技の開発!」

 「・・・は?」

 草原に着き、荷物を置いていつも通り桐香が何をするか言おうとすると、恵がピッと手を挙げた。

 「恵、遊びに来たんじゃないんだよ?」

 「だって、せっかく魔法が使えるのにいつも火!とか風!とか言ってるんだよ? もっとカッコよく魔法使いたいよ!」 

 「そんなこと言ったって・・・、ねえ、桐香。」

 「・・・いや、意外とありかも。」

 「え? 桐香?」

 てっきり桐香は「ふざけないで。」とでも言うかと思っていたけど、意外にも恵の突飛な意見を肯定した。 

 「もし堕天使が情報共有してるなら恵の魔法が伝わってるかもしれない。だと、恵が何を出すのか言った時点であっちも何かしらの対応をしてくるかもしれない。だから、必殺技はともかく、私たちにだけ伝わる合い言葉的なやつがあれば相手にばれることもないし、私たち同士で巻き込んだりすることもないと思う。」

 「・・・あー、なるほど。」

 確かに桐香の言い分はもっともだった。恵はいつも適当にそのまま叫んでいたけど、言語が通じる以上堕天使もそれが何を示しているのか分かるだろう。恵の杖から魔法が出ることを知られていたらそれこそ答えを言ってから問題を出しているようなものだ。

 「も、もちろん私も同じこと考えてたわよ。そりゃあ、ね!」

 もちろんそんなことはないのだが、桐香の横で恵は腕を組んで得意げにしていた。

 「じゃあまず、私たちにできることまとめて、それぞれに名前を付けるって感じで。」

 「「おー!!」」

 今日も桐香のまとめとともに私たちは準備を始めた。


 それから私たちはそれぞれ武器を出し、自分ができることをまとめることから始めた。。

 「私は揺動用のエアガンくらいの威力から、普通の攻撃用の銃弾、逃げか時間稼ぎ用の砲撃レベルの3つかな。調節すれば最も細かくできるけど。」

 「私が闘簫天と闘ったときに使ったのは火と風と、水、雷・・・くらいだっけ?」

 「あと壁も。威力も一応変えられるよね。」

 恵も桐香に続いて、杖先に小さい火や水を出して確認していた。

 「私はただの刀・・・じゃなかった。なんか遠距離攻撃できるんだった。」

 「”賜物”だっけ? それって結局なんなの?」

 「いや、それが全くわかんないんだよね。闘簫天は桐香の銃とも恵の杖とも違う存在、みたいなよくわかんないこと言ってたけど・・・。桐香なんか考えある?」

 「全然。まあ今は便利な刀ってことで考えても良いんじゃない?」

 「う~ん・・・、まぁいっか。」

 これに関しては皆目見当もつかないけど、特別体力を消費するとかそういうこともないし、使ってもデメリットはなさそうだったので、とりあえず今は置いておくことにした。


 「それじゃ早速、私から!」

 恵は待ちきれないといった様子で、自信満々に杖を構えた。

 「すぅ・・・、行くよ! フレイムバーン・恵スペシャル!」

 「・・・・・・え?」

 「長い。」

 「そこ!?」

 おそらく昨日から考えていたであろう恵の渾身の詠唱は、桐香の一言で一蹴された。

 「なんで!? かっこいいじゃん!」

 「そんな長いの咄嗟に撃てないでしょ。ラグがないのが恵の魔法の良いところなのに。あとかっこよくない。」

 「かっこいいのっ!!」

 恵は理屈よりもかっこよくないと言われたことが不満らしい。

 「他にないの? 一言で済むやつ。」

 「ん~、火、炎、めらめら・・・・・・。あ! メラは!?」

 「それは色々ダメだと思うよ・・・。」

 「普通にファイアとかで良いじゃん。」

 「英語にしただけじゃん! そんなの火と一緒だよ! そう言う桐香は自分のやつ考えたの?」

 「考えてるよ。弱い方から、空弾、銃弾、砲弾・・・」

 「待って待って待って、バレバレだよ? 自分で言ってたこと忘れたの? っていうかそんなんでよく私に文句言えたわね!」

 「桐香ってそういうとこあるよね・・・。」

 「え? 変?」

 桐香はしっかりしているようで意外と適当で、変なところが天然なのは出会ったときから変わらない。

 「えー・・・、わかったよ。じゃあ、一番強いのは ’殺傷弾’ とか?」

 「センスが男子中学生なんだけど。」

 なんとなく察してたけどこの話、終わる気がしない・・・。

 「まあまあ、じゃあ3人で案出し合って、くじ引きで決めるとか?」

 「「やだ!!」」

 「え、えー・・・・・・。」

 まさか技名を決めるだけでこんなに難航するとは。今日はこれだけで終わってしまいそうだ。

 「ところで桜はあの遠距離攻撃の技名考えた?」

 「え? うん、まあ一応。」

 「なになに?」

 「えっと、堕天使に勝つための仕様?みたいなものだから、’天墜’ とか、どう?」

 「「・・・・・・」」

 「え? だめ?」

 「・・・いい。普通に良い。」

 「かっこいいよ! 刀の技っぽいし!」

 「ほんと!? やった、じゃあ私のはこれで決定だね!」

 実を言うと、恵に振られてから思いつきで言ってみたものだったけど意外にも好評だった。

 「桜、やってみてよ、’天墜’ !」

 「うん、いくよ!」

 私は恵に乗せられるまま草原の何もない方向に向かって刀を振り上げた。

 「天墜っ!」

 思い切り力を込めて振り下ろした刀は触れていないものまでスパッと斬り伏せる・・・なんてことなく、刃が当たった草が少し斬れる程度のものでしかなかった。

 「あれ? 失敗?」

 「もっと集中しないといけのかな?」

 「じゃ、じゃあ、もう一回!」

 私はもう一度気合いを入れて刀を握った。

 「天墜!!」

 しかし、結果が変わることはなく、特別なことは起らなかった。

 「? 天墜! 天墜っ!! てんっつい!!!」

 私は躍起になって何度も刀を振り回してみたけど、ただただ腕が疲れるだけだった。

 「なんで~、これじゃ最初と同じだよ・・・。」

 「やっぱりただの刀だった?」

 「はぁ、前にも似たようなことあったな・・・。」

 「これも課題の一つか。」

 私は訳がわからず、仰向けになって天を仰いだ。

 「・・・ところで技名は?」

 「「あ」」

 それから私たちは会議という名の言い争いを繰り返して、結局この日に決まることはなかった。


+++


 「いやだから、簡単でわかりやすい方が良いでしょ?」

 「桐香のはわかりやすいんじゃなくて、そのままって言うんだよ!」

 「はぁ・・・。た、ただいま帰りましたー・・・。」

 桐香と恵は帰り道の間も水掛け論みたいなのを続けていた。

 「お帰りなさいませ。今日は随分と楽しそうですね。」

 町に戻り、教会の扉を開けると、クレアさんが2人の様子を見てくすっと笑った。

 「すいません、騒がしくて・・・。」

 「いえいえ。元気そうで、良いことですよ。」

 「あはは・・・、ほら2人とも、お風呂行くよー。」

 私はまだ玄関でやんややんや言ってる2人の背中を押して裏口の浴場に向かおうとした。

 「あ、そういえば、昨日おっしゃっていた妙な話、かどうかはわかりませんが、不思議な相談をされていった方が本日いらっしゃいました。」

 「え? 本当ですか? それってどんな・・・」

 「はい。なんでもその方の村では数日前から人が忽然と消えるそうなのです。」


 突然私たちの前に舞い込んだこの話から私たちの次の目標が見えた気がした。

 


 

 

 



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