秘め事
「うー、海だ~!」
アインスでの戦争が終息してから2週間ほどが経ったある日、私たちはアインスからずっと南の方にあるカブラル領最南端ウェネット地方のビーチに来ていた。街の復興が進み、少し落ち着き始めた頃にルカさんが連れてきてくれたのだった。
「いぇーい! 一番乗り!!」
「ちょっ、恵! 準備運動しないと足つるよー!」
港町で生まれ育った私たちにとって海自体はそれほど珍しいものではないけど、ここの海は青く透き通っていて見惚れてしまうほど美しかった。ただ、この世界には海水浴の文化がないらしく水着もそれほど発展していないので、私たちは仕方なく撥水性の悪い水着もどきや短パンにTシャツを着て遊んでいた。
「まったく、生身で海に入ってただ泳ぐだけなんて、何が楽しいんだか。」
ルカさんは木陰の椅子に座り、飲み物を飲みながら冷たい視線を送っていた。ルカさんがここまで私たちを連れてきたのは単に海を見れば色々あって疲れた私たちの心が癒やされるだろう思っただけで、海に入るつもりは全くなかったらしい。
「ルカさんも一緒に遊びましょうよ!」
「私は遠慮するよ。」
「・・・ルカさん、もしかして泳げないんですか?」
「っ、泳げるわけないだろ、漁師じゃないんだから。」
ルカさんはコップを置いて視線を逸らした。どうやら本当にこの国には水泳はもちろん泳ぐということ自体がなじみのない行動らしい。
「それなら、これはどうですか・・・?」
海から上がった恵は砂浜に置いていた異様に膨らんだ鞄の口を開けた。
「じゃじゃーん! ジャパニーズスイカ割り!!」
恵は大きな布を取り出し、その上に置いていたのはスイカ・・・ではなく、黒と緑に色を付けたフラガリアだった。以前、収穫を手伝ったときに知ったフラガリアは、確かに硬さや大きさはスイカに似ている。
「スイカ割り?」
「そうです! こうやって目隠しして、ぐるぐる回って方向感覚がなくなったら、このスイカを割るんです!」
「・・・それ楽しいの?」
「やればわかります!」
恵は適当にスイカ割りの説明をして目隠し用の布をルカさんに手渡した。
「ところで棒は?」
恵はスイカや地面に敷くシートを取り出して準備をしているようだが、肝心のスイカを割る棒を持っていない。
「うん。桜、出して。」
「え?」
「刀。」
「やだよ!」
どうやら私の刀をスイカ割りの棒にするつもりだったらしい。当然そんなことに使われたくはないので断ると恵はしぶしぶどこぞで拾ってきた流木を持ってきた。
それがあるなら最初からそうしてほしいんだけど・・・。
「じゃ、ルカさんこれを。」
「ほんとに面白いの?」
「まあまあ、やればわかりますって。」
恵はニコニコしながらルカさんの眼鏡を外し、目隠しをした。
「恵が最初じゃなくてよかったの?」
「みんなでやった方が楽しいし、慣れてないルカさんだったらきっと割れないでしょ?」
恵は口元に手を当てて、悪巧みをするようにクスクス笑っていた。
「・・・またそんなこと言って。」
「準備は良いですか!? いきますよー。」
ルカさんは棒を地面に立てて、ぐるぐると10回ほど回って、準備し終わっていた。
「じゃあ、始めます! ルカさん、真っ直ぐ! 真っ直ぐ、まっすぐ・・・」
ルカさんはまるで見えているようにスタスタとスイカに真っ直ぐ歩いて行き、当然のようにスイカを割った。
「なんで!? ちゃんと目隠ししました!?」
「してるよ。って言うかこれしたの恵でしょ。」
恵はルカさんの不正でも疑ったのか、ルカさんのところに駆け寄っていった。
「で、これの何が楽しいの?」
「思ってたのと違う!」
ルカさんは目隠しを外して呆れたように私たちに視線を送っている。恵は不満そうにスイカの代わりになりそうなものを探しに行った。
それから私たちはフラガリアより少し小さくて堅いココナツのような木の実でスイカ割りをしたり、ルカさんを海に入れようとして割としっかり怒られたり、これまでのアインスでの陰鬱とした日々を塗り替えるように遊んだ。
日も暮れ、海に月明かりがきらきらと反射するようになった頃に私たちはアインスから持ってきた食材や地元に人からもらった海産物を焼いてテーブルを囲んでいた。
「ところでルカさん、ルークさんとはどうなんですか?」
恵は持っていたフォークを置き、ニヤニヤしながらルカさんに顔を近づけた。
「どうって・・・、何が。」
「ごまかしたって無駄ですよ? ルカさん、ルークさんのこと好きなんですか?」
「・・・! は、はぁ!? 何言ってるんだよ!」
恵の質問に、ルカさんは顔を赤らめて慌てたように立ち上がった。
(((わかりやすいな・・・)))
「いいか? 私とルークは家が近所で親同士が知り合いだったから小さい頃から付き合いがあっただけだ。だから、ルークは私にとっては弟みたいなものだから、そういうのはだな・・・」
「幼なじみってやつか。」
珍しく慌てるルカさんをみて桐香はフォークを咥えながらぼそっと言った。
「はいはい。それで、好きなんですか? どうなんですか??」
恵は楽しそうにルカさんに詰め寄った。
「いや、だから、本当に好きかどうかって急に言われても正直よくわからないって言うか・・・」
ルカさんは持っていたコップで口元を隠すようにして恥ずかしそうに続けた。
「でも、まあ確かに、監獄に助けに来てくれたときはちょっと嬉しかったよ・・・・・・」
「ふぅ~! ってことはやっぱり・・・! これはみんなに伝えないと!」
「なっ、おい待て! 嘘だ! 嘘!! だからみんなには言うな!」
調子に乗って砂浜に駆け出す恵の後を追うようにルカさんも席を立った。
「あはは・・・。恵、あとで怒られても知らないよー・・・・・・。」
「楽しそうで何より。」
暗い砂浜を走る2人を横目に私たちは手に持っていた肉を頬張った。
+++
「それじゃ、表に馬車用意しといたから。」
「はい。ありがとうございます。」
ウェネットからアインスに戻って数日が経ち、私たちは仲裁組織のみんなに別れを告げてバーリングに戻る準備をしていた。
「もう帰っちゃうんだね。」
「いやー、寂しくなるよ。」
「皆さん、本当にお世話になりました。また会ったらよろしくお願いします。」
私たちがアインスに来て約1ヶ月、色々あったけどなんとか私たち目的は果たすことができたし、ルカさん達に出会うこともできた。なんだかんだここに来てよかったと思う。
「じゃあね! また会おう!」
ルークさんは私たちが乗った馬車に向かって大きく手を振ってくれた。その顔は以前のようににこやかで心身共にだいぶ回復できたようだった。
「はい! また会いましょう!」
私たちは手を振り返して、名残惜しくもアインスを後にした。
アインスからバーリングまでの道のりは全く一緒だった。ただ来たときと違って、空を舞う虹色のきれいな鳥も森に咲き乱れる花々もずっと美しく感じた。緊張がないと言うこともあるけど、こっちの世界に来て最初の目的を達成できたという誇らしさがそう感じさせたのだろう。一つの山を越えた安心感と心地よい疲れで、まるで旅行の帰りのように心が安らいだ。
「はぁ~、色々あったねー。」
「ほんと。まぁ、まだ7分の1なんだけどね。」
「う・・・、あとあれが6回か・・・・・・。」
「でも、ここからはノーヒントだよ? どうやって探す?」
「うーん・・・、多分カイルさんのところに人が集まってるはずだから、その人たちの中からそれっぽい話がないか探すとか?」
「それ良いんじゃない? それなら色んな人の話聞けるし。」
カイルさんはアインスの聖堂にしばらく滞在した後、私たちより1週間くらい早くバーリングに戻っていたのだが、その人気は相変わらずで、バーリングの教会にも連日多くの人が詰めかけているらしい。
「ま、今日くらいは少し休もうよ。どうせ今は何もできないんだし。」
桐香はそう言って横になった。
「それもそうだね。あ~、疲れた~。」
恵も腕を伸ばし、桐香の横に寝転がった。
「じゃあ私も。」
これからも苦しいことや大変なことたくさんあるだろうけど、今3人ともゆっくり休むことにした。まだ先は長いけど、頑張るのは明日からでも良いかな。
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