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プロローグ

ー天上界ー

 「第8世界にて七翼の天使の天上への帰還が確認されていない」

 「被創造界において”堕天”したとみられる」

 時間と距離の概念が存在しない空間で複数の情報(こえ)が響いた。


 「これらの天使を管理下に置く死神は直ちに処理せよ。繰り返す。第8世界にて”堕天”した天使の抹消を遂行せよ」

 何もない真っ暗な空間で白いローブに身を包んだ死神は静かに頭を下げた。



 「我らの為すべきことはただひとつ」

 「不変の秩序と」

 「永遠の世界を」

 「「「創造主の名の下に」」」


+++


 2023年6月18日、徐々に気温が上がり始め、夏が近づいていることを肌で感じるようになった頃、教室の黒板の真上に設置された時計の針は14時を指そうとしていた。

 「さくら……、深並(みなみ)桜!」

 「はっ、はい! 周期表の6番は酸素ですっ!」

 「さくら、今は化学ではなく世界史だ。あと6番は炭素だ。」

 眼鏡をかけた若い教師は私の頭にぽんと教科書を当てた。快晴の陽気に包まれた昼過ぎの教室に笑い声がこだまする。なんと言うことはない、ごく普通の日常風景がそこにあった。



 「さ~くらっ」

 放課後、荷物をまとめる私の机に1人の女の子が走ってきた。ブロンドのサラサラ髪をサイドで白いリボンでまとめた少し小柄なその子は私の前で足を止めるといたずらっぽい笑顔を浮かべて私の顔をのぞき込む。


 「聞いたよ~、授業中に居眠りしたあげく世界史の時間に周期表の話したんだって~? しかもそれも間違えてたって…ふふふ。」

 「ちょっ、(めぐみ)! だってこんな陽気な上にお昼ご飯のあとでおなかいっぱいだったんだよ? こんなの眠くならない方が無理だよぉ。ていうかそれ誰から聞いたの?」

 「ん? 莉里(りり)から。」

 恵は少し席の離れた場所にいる茶髪をハーフアップでまとめた、大きな赤い眼鏡が似合う子を指さした。


 「莉里ぃ~!」

 「え!? あっ、ごめんね、さっき恵ちゃんと廊下でばったり会ってその時に話しちゃった。」

 莉里はこっちの会話に気づき、申し訳なさそうに返答しながら歩いてきた。


 「も~。ところで恵、今日桐香(きりか)はどうしたの? 部活はないって言ってたけど。」

 「あー、そういえば日直で日誌書いてから帰らないとか言ってたかも。」

 「私がどうかした?」

 「うわっ! いつの間に!?」

 気づくと黒髪ボブで表情が薄い、いつも通りの桐香が立っていた。


 「うわってひどくない?」

 桐香はあきれたような顔で私の顔を見る。


 「まあいいや。んじゃ、全員そろったし早速行こう。」

 いつもの教室にいつも4人がそろった。私たちは時間があれば集まって遊び行ったり、誰かが落ち込んでいたらみんなで考えたり、他愛もない話で盛り上がったり、私たちはいわゆる親友だった。


 この日の放課後も4人で近くの水族館に行く予定を立てていた。ただいつもと違うことは今日が莉里の誕生日だということだった。


 水族館は私たちの高校からそれほど離れていないので海沿いの道をゆっくり歩きながら向かうことにした。時刻はもうすぐ午後4時になろうとしていたが、夏至が近いこの季節はまだ明るく、陽射しは夕方より昼に近い。


 「いや~快晴快晴!」

 「最近雨多かったけど、晴れてよかったね。」

 「みんな私に感謝すべきじゃない? このスーパー晴れ女の近衛(このえ)恵に!」

 恵は前に出て、得意げに自分の胸をぽんと叩いた。


 「この前遊園地に行ったときは土砂降りだったじゃん。」

 桐香はテンポよく恵に突っ込みを入れた。梅雨開けがまだ発表されていないこの時期は例年通り雨の降る日が続いた。快晴の空なんて1ヶ月以上見ていないくらいで、心なしかみんなテンションが上がっていた。


 くだらない話をしながら歩いていると水族館に着くのはあっという間だった。歩いている道からは白い建物が見え、正面に回ると大きなクラゲのモニュメントが目を引く。

 「へぇ、この水族館ってクラゲが有名なのね。斬新だわ。」

 「え? 恵ちゃん知らないで来たの?」

 「ん? みんな知ってたの?」

 「「「え?」」」

 恵のいつもの天然は今日も絶好調だった。4人で出かけると必ず1回は笑いをくれるけど、今日は入り口で出るなんて何か良いことがありそうだ。


 「と、とにかく中に行こう! みんなも来たのは初めてなんだから!」

 「私は2回目だけど。」

 顔を赤らめ、みんなの背中をぐいぐい押す恵に、桐香は煽るようににやにやしながら言った。ちなみに2回目と言っても1回目は幼いころでほとんど記憶は無いらしい。


 受付を済ませ水族館の中に入ると、水族館特有のひんやりとした空気と幻想的な空間が広がっていた。

 「5時閉館だって。1時間くらいは見れるね。」

 「まあ、放課後に来て1時間見れるなら十分じゃない?」

 「そうだね。じゃあ早速行こう!」

 私たちは淡水魚や地元の海を再現した水槽をあーだこーだ言いながら見て回った。特に後半にあったたくさんのクラゲを展示している部屋は幻想的で異世界に迷い込んだような感じがした。その後、残り少ない時間でお土産を買い、私たちは水族館を出た。


 水族館から出た後、桐香の提案で私たちは帰る前に近くの公園に寄ることにした。


 「ねえねえみんな、ミズクラゲの水槽見てるときの恵の顔見た? 目きらきらさせて子供みたいだったの。」

 「ちょっと、何言ってるの!? 私じゃなくてクラゲを見なさいな!」

 「まあまあ、かわいいなら良いんじゃない? 恵ちゃん。」

 「よくない!」

 公園のベンチに座りそんな話をしていると日が傾き始め、見慣れた海がオレンジ色に染まっていった。


 「ね、莉里、今日は何の日でしょうか?」

 「え? どうしたのみんな、にやにやして。」

 「も~、とぼけちゃって。今日は莉里の誕生日でしょ?」

 私と桐香と恵は莉里を囲むように立ち、鞄から水族館で買ったプレゼントが入った小さな袋を取り出した。


 「莉里誕生日~」

 「「「おめでとう!!!」」」

 予定では帰り際にサプライズで渡す予定だったけど、夕焼けに染まる海を見ながらの方がロマンチックだろうと言うことで私たちはプレゼントを莉里に渡した。


 「わぁ、おそろいのストラップ!」

 袋の中には私たち3人がそれぞれ選んだ3種の動物がデフォルメされたストラップを入れていた。


 「私が選んだのはアシカだよ。ショーは見れなかったけど、前に莉里が好きって言ってたから。」

 「恵はミズクラゲのストラップよ!」

 「私はたこ。」 

 恵はなんだかんだ言ってミズクラゲを気に入ったらしく、結局プレゼントもクラゲにしたみたいだった。


 「桐香? たこって本気? さすがに冗談よね。」

 「え? おいしいじゃん。」

 「水族館の水槽見ておなかすく人初めて見たわ……」

 桐香は相変わらずの斜め上の発想だった。なんにせよ3人とも莉里に喜んでほしくて選んだことには違いない。


 「ありがとうみんな! 一生大事にするよ!」

 心からの笑顔で喜ぶ莉里の目は少し潤んでいるように見えた。前々から入念に用意した、ってわけではないけど、莉里の顔を見れば私たちのサプライズが成功したことは明白だった。



 日もほとんど沈み、当たりは薄暗くなってきていた。明日提出の課題もあるし私たちは家路につくことにした。学校の前の道路を通り過ぎ、坂のあるT字路で莉里が一番最初に別れる。その日もいつも通り信号が変わるまで4人は立ち止まってその日最後の雑談を楽しむ。

 そうしていると信号が青に変わり、莉里が横断歩道を渡り始めた。


 「んじゃ、またね莉里。」

 「じゃーねー!」

 「また明日。」

 「うん。みんな今日はありがとね! また明日、教室で!」


 莉里は私たちの方を見ながら笑って手を振った。当然明日も学校で会うに決まっているけれど、私たちは明日も会う約束をして莉里に手を振った。



 そんな時だった。私たちは右側から強い光に包まれた。

 

 その光が車のヘッドライトの光であることに気づくと同時に、制御を失った大型トラックが勢いそのままに莉里に衝突しようとする光景が目に映った。


 「莉里っ!!」


 反射的に声が出た。時間が止まったような気がした。



 …いや、本当に止まってる? 


 ここまでずっと私たちの頬をなでていた潮風はぱったりと止んでおり、空を飛ぶカモメは空中で静止していた。そして何より莉里に突っ込んでいった大型トラックは、驚いた表情のまま固まった莉里の目の前で止まっている。

 「え…、何が起きてるの?」

 私が状況を飲み込めないでいると、隣にいた桐香と恵も同じようで3人は顔を見合わせた。


 『朝日莉里、享年17歳―』


 まるでシャッターを切ったように全てが止まった空間で声が響いた。

 横断歩道の方に目を向けると私たちと莉里の間に白装束のようなただの白いローブのような、見たことのない服を着た「何か」が立っていた。


 その「何か」はフードを目深に被り、ピクリとも動かずそこに佇んでいた。


 「だれ…?」

 声を振り絞るように桐香が言った。だが、「何か」は全く意に介していないように淡々と続けた。


 『―死因、事故の衝撃による内臓破裂。出血多量につき即死。規定に基づき朝日莉里の魂を上界に移送する』

 唐突に告げられた莉里の死に、パンク寸前の私の思考は既に止まりかけていた。しかし、「何か」はそれすらも許さないように間髪入れずに続けた。


 『だが、これはあくまで定められた運命であり、朝日莉里の死の直接的な原因となる事象はまだ生じていない。深並桜、近衛恵、浅田桐香、汝らに2つの選択肢を与える。1つはこのまま朝日莉里の死を受け入れ、この世界での生活を続行する。もう一つはこの世界の時間を凍結させたまま第8世界へと転移し、七翼の堕天使の存在を抹消する。成功した場合、この運命は書き換えられる。』


 「・・・・・・はい?」


 運命? 第8世界? 堕天使? 訳のわからない言葉を羅列する「何か」に私は困惑した。でも、一番気になったのは最後の一言だった。


 「運命を書き換えるって・・・・・・どういう意味?」

 『言葉の通り。朝日莉里の死を取り消し、この世界での時間を解凍する。』


 死を取り消すってことは、莉里を救う方法があるってこと? そんなの考えるまでもない。


 桐香は1歩前に出て、「何か」に向かって力強く宣言した。


 「つまりその第8世界?ってところに行って堕天使を7人倒せば莉里は死なないってことだよな? そんなの後者に決まってる。」

 「そ、そうよ!莉里が助かるならどこにだって行く!」

 恵も戸惑いながらも桐香に同調した。当然私も気持ちは同じだった。


 「私も行く。絶対に莉里を死なせたりしない。」

 『了承した。』

 私たちは白い光に包まれるとともに視界が歪み、気を失った。


 +++


 気がつくと私たちは見知らぬ教会で目を覚ました。



読んでいただきありがとうございます。初投稿作品です。

まだ勝手がわからない部分が多々ありますが楽しんでいただければ幸いです。


面白いと感じていただけた方はコメントと☆の評価お願いします。

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