’’推し活’’のすすめ
どれくらいの時間が立ったのだろうか。
凪紗はNanashiについてもっと知りたい、という一心で彼らのことを調べ続けた。
’’Nanashi’’は、ギターボーカルの南野奏を始めとする、ベースの西宮陸、キーボードの北原結衣、ドラムの東堂悠貴の四人組ロックバンドであるということから、作詞はすべて南野が行い、作曲は基本メンバー全員で考えることや、悠貴と奏は幼馴染での同い年で、結衣が奏や悠貴の二つ年上、陸が三つ年上であることなど、様々な発見をするたび、凪紗はどんどんNanashiのことが、そして南野奏という人間が、好きになっていった。
そして凪紗は、彼らのことを調べる中である言葉を多く目にしていた。
「Nanashiを推す人が急上昇、南野奏推し、推し活、、、、」
凪紗は「推し」というものがよく分からなかった。言葉自体は知っていたが、「推す」という行為が果たしてどのような意味を成すのか、愛というものを知らない彼女にとっては理解し難いことだった。
しかし、Nanashiを、そして南野奏を好きになってしまった今、凪紗には「推す」という手段でしか彼らとつながることはできなかった。
その日から、一ノ瀬凪紗の’’推し活’’は始まった。
「うーん、、、」
凪紗は少し悩んでいた。
Nanashiという存在を知ってから一ヶ月ほど立ち、凪紗の生活はもはや、Nanashiなしでは語れないほどになっていた。もちろんファンクラブにも入り、CDもいくつか手に入れた。彼らの歌を隅から隅まで聞き、彼らが出ている音楽番組を始めとするテレビ番組は全て見た。 特に、ボーカルである南野奏は凪紗のいわゆる、最推しだった。彼の作る歌詞、高く透き通った歌声、すらっと長い手足と小さい顔、吸い込まれそうな瞳、凪紗は彼の全てに惹かれていた。彼が凪紗の生きる理由となっていた。
その上、凪紗は父親の生命保険金にも手を出していた。母親ですら、それを1円たりとも使うことはなかったと言うのに。凪紗も今までは、それに手を出したらあのクソみたいな父親に負ける気がする、などという変な意地で、なんとかバイトを詰め込み生活費を稼いできたが、そんな思いなどどうでも良くなるくらい、彼女は南野奏という一人の人間に、夢中だった。
それはもう、一つの依存だった。
しかしその一方、そこまでして彼らに貢いでいるにも関わらず、彼と自分の距離が一向に縮まらないことを、凪紗は不満に感じ始めていた。
どれだけSNSの更新をチェックし、過去の投稿までも遡り、いいねを押し続け、呟かれたコメントには全てに素早く返信しても、凪紗の好きという気持ちは一方通行であった。
''推し活''は残酷であると、凪紗は悟った。
''推す側''である人達は、多くのお金を費やし、多くの愛を注ぐ。
しかし、''推されている側''である人達は、同じ愛情を注ぐどころか、自分たちに向けられている愛情、そしてその愛情を向けている存在を認識することさえ、ほぼないのだ。
それが正しい''推し活''なのかもしれない。
しかし凪紗には、そのカタチを受け入れる強さはなかった。どれほど頭の中で、妄想劇を繰り広げようが、満足することはできなかった。
凪紗は、もっと繋がりが欲しかった。
自分が与えた愛と同じくらいの愛を、注がれたかった。
自分という存在を認識させたかった。
南野奏のトクベツになりたかった。
それはもはや、依存を超えた強依存であった。
凪紗に残された希望は、あのファミレスだった。
一応、本業は勉強でやらせてもらっているので、更新がなかなか平日は難しくなるかもしれませんが、ご了承ください。m(_ _)m
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