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''推し活''のすすめ  作者: 雨宮ほたる
35/41

“推し活”のすすめ

─────プルルルルプルルルル

「……あっ!電話鳴った!!」

画面の中から聞こえる電話の音に結が嬉しそうに反応する。

「決まりだな。やっぱり凪紗はあのファミレスにいる。」

悠貴の言った、良い方法とはまさにこれだった。ミュートが解除された後、店に電話をかければ、ナナのライブ配信の中でも電話の音が聞こえるはずだ、と。そうしたら、本当にファミレスにいるかどうかが分かる、というものだった。

「よし、じゃあ向かう」

バン!!

またしても陸の言葉が、勢いよく開いた扉の音に遮される。

「おい!わかったぞ。凪紗の住所とか諸々。どうする?」

入ってきたのは片手に資料らしきものを持った百瀬さんだった。

「じゃあ、俺と陸で家行くから、奏と結はファミレスに……」

必死に頭を回して考えてくれたのであろう、悠貴の話を、奏だけが下を向いて聞いていた。





翔亜との電話が終わった後、凪紗は早足で翔亜くんの待つ公園へ向かっていた。

─────翔亜くんには全部話してしまおうか、いや、全部話してしまいたい。こんな状況になっても、私に向き合おうとしてくれている彼には、本当の事を話すべきなのではないだろうか。

しかし凪紗にはどうしてもそれが、翔亜くんを口実にした逃げのように思えてならなかった。結局は全てを打ち明けて、楽になりたいだけなんじゃないのか、そんな事を自分自身に問いかける。

─────本当のことを話して、翔亜くんに向き合おうなんて、本当は翔亜くんから嫌われたくないだけのくせに。それに、本当のことって言ったって私がナナだったという事実は変わらない。騙していたのは本当のことだ。でも、それでもこれからも仲良くして貰えるのだとしたら。あの4人には話してもいいの、かな?もう一度ちゃんと、話したい。もう一度遊びに行きたい。翔亜くん、忍くん、皐月ちゃん、それから

「……瑞希ちゃん?」

凪紗は立ち止まる。目の前にいる彼女に驚きながら問いかける。あと五分ほどで公園に辿り着くところだった。しかし、その行く手には、彼女、長月瑞希が立っていた。彼女のかけているメガネが街灯の光を反射していて、良く表情が見えない。

「えっ、瑞希……ちゃん、だよね?なんで……?家ここら辺じゃないよ、ね?」

「凪紗?」

「うん。」

「聞きたいことがあって。」

「……うん」

「凪紗って、ナナ、なの?」

「っ!……ごめん。黙ってて、ごめんなさい。」

「そっか。」

沈黙が怖くなり、凪紗は思わず下を向く。今、瑞希はどんな顔をしているのだろうか、何を言われるのだろうか、嫌われたのだろうか、色々な疑問が凪紗の中を駆け巡る。

「なーんだ。よかったー!」

「……へ?」

瑞希ちゃんの想像もしていなかった反応に、凪紗は思わず顔を上げる。

「良かったよ、本当に。ちゃんと凪紗の口から聞けて。」

瑞希ちゃんは笑っていた。凪紗の張りつめていた心が少し緩む。許して貰えたのだろうか、もともとあまり気にしてなかったのだろうか。どちらにしても今の凪紗にとって、その言葉はとても嬉しいものだった。

─────良かった、良かった、良かった、良かった

思わず凪紗も微笑む。

「あの、瑞希ちゃ」

「本当に良かったよ。これで遠慮なく、凪紗のことうちのグループから省けるね!」

「……え?」

凪紗の微笑みは消える。もう一度凪紗は、想像もしなかった瑞希ちゃんの反応に目を向ける。瑞希ちゃんはさっきと変わらず笑っていた。

ゾクッ。凪紗の体が少し震える。

「あの……」

「凪紗はもちろん、もう私たちと仲良くしようなんて考えてないよね?」

「それは、」

「あー、いいのいいの、遠慮とか。私もちょうど思ってたところだったから、凪紗は私たちにはいらないなーって。ナナなんだったもう情けとかもかける必要はないもんねー、だって最初に私たちファンのこといらないって切ったのは、凪紗だもんねー?」

「なに、言って、る、、の、?」

凪紗の鼓動が早まっていく。

「凪紗、あなた顔ファンでしょう?それも南野奏の顔からNanashiのこと好きになった、薄っぺらい、表面しか見てない、顔ファン。しかも、彼らにどうにかして近づこうとする、気持ち悪いリアコ?ありえない。私そういうの、いっちばん嫌い。……凪紗さ、この前聞いたでしょ?もし自分が南野奏を通じて、Nanashiのことを好きになったって言ったら、どう思うかって。私その時思ったんだよね。いいタイミング見つけて、凪紗はうちのグループからは外れてもらおうって。だから本当にちょうど良かったー。」

凪紗を見るその目はもう笑っていなかった。口角は上がっている。しかし、目は凪紗をもはや見ていないのではないのかと言うほどに不気味だった。こちらを1点に見つめている、まるで凪紗を哀れんでいるような、凪紗を凪紗として見ていないようなそんな目だった。川田や今まで見てきた自分への嫉妬や羨ましいという感情が入った「それ」とも違う、初めて見るものだった。凪紗は思わずゾッとする。足が震える。

─────逃げなければ

そう凪紗の本能が言っている。なかなか動かない、震えた足に、動け動けと言い聞かせ、何とか後ろに後ずさりする。

「あっ……」

しかし気づいた時にはもう、瑞希は凪紗の目の前まで迫っていた。


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