“推し活”のすすめ
「つまり、そういうこと……だよな……?」
ライブ配信は終了しました、という文字が表示されたスマートフォンの画面を見つめながら、翔亜はそう呟く。結局、ナナのライブ配信は2度の謝罪をした後、すぐに終わった。批判的なコメントが多く見られる中でも、ナナが顔を出してからは擁護のコメントやナナの容姿を持ち上げるようなコメントも見られ、顔を出したこと自体は結果的に見れば良い方向に転んだ、という感じだった。Nanashiにとっては。しかし、凪紗にとってはどうなのだろう、と翔亜は考える。
─────そもそもあれは、本当に凪紗が言ったのか?ぐしゃぐしゃに泣いていた、あの凪紗が?驚くほど綺麗に笑う凪紗が?どういうことだ?俺達のことも、そんな風に思ってたのか……?
「はぁ、もう何が何だか……。」
ドサッと翔亜はベッドの上に倒れる。疲れた、とため息を着く。ふと翔亜の視界にリュックに付けていたNanashiのピンバッチが入ってくる。
「……聞いてみるのが一番早い、か。」
翔亜はベッドから飛び起き、上着を羽織る。そしてその勢いで家を出た。どこに行くか、まだ定まってもいなかったがじっとしている訳にも行かなかったため、とりあえず歩きながら電話をかける。
───プルルルルプルルルルプルルルルプルルッ
「もしもし?凪紗?」
「……翔亜くん?」
翔亜は凪紗が電話に出てくれたことに胸を撫で下ろしながらも、話を続ける。
「今どこにいる?少し話がしたいと思って。」
「っ……!」
凪紗自身も大体はどんな用事の電話なのか、翔亜が何が言いたいのか、わかっているのだろう。言葉を詰まらせている。
「凪紗?今どこに」
「ごめんっ!本当にごめんなさい。私もう……翔亜くんにも、みんなにも……もう合わせる顔がない……。だから、ごめん……。」
「……凪紗、今どこにいる?俺はちゃんと凪紗と話したいよ?凪紗が俺のこと、どう思ってるかは関係ないし、合わせる顔があるかどうかも関係ない。」
「でも私、もうNanashiには関わらないって、だから会う理由もない。会えない。もう仲良くできない。」
「でもじゃない。会う理由はあるよ。俺が会いたい。プレイヤー仲間としてじゃなくて、1人の友人として。だから、凪紗?」
「……今ちょうど家に帰ってるところ。私の家、あの象の滑り台のある公園の近くのマンション。もう少しかかるけど、あの……待っててくれる……?」
「アハハっ」
不安そうな凪紗の声は、さっきまで画面の向こうにいたナナとは大違いで思わず翔亜から笑みがこぼれる。
「……なんで笑うの?」
「ごめっ、ふふ、うん。じゃあ公園で待ってるよ。」
「ありがと」
凪紗の消えそうな声のお礼を聞き、翔亜は電話を切る。
─────もしこの子が何か大きなものを背負っている、背負おうとしているのなら……その時は、自分も手助け位はできるだろうか。
半分くらい背負いたいけどなぁ、なんて考えながら公園に向かう。その中でふとこんな疑問が浮かぶ。世間の反応はどうなのだろう、と。試しにインターネットでナナ、と検索してみると、ついさっきの出来事だと言うのに、既にネットニュースに記事が、ナナの顔の写真とともに掲載されていた。コメントは相変わらず見ていて不快な気分になるようなものばかりだった。一般的なアンチコメントから殺害予告じみたもの、またナナの容姿に対して気持ちが悪いようなものまであった。こんなところに匿名で、こんな気持ちの悪いことを書いて何が楽しいんだか、はぁ、とため息をつく。
─────そもそも俺は、今回のNanashiの炎上だって納得できてないんだよな。ナナという無名の女性アーティストとのデュエットに対する批判、あれ自体嫉妬だ。Nanashiが女性絡み少なかったからこそのものなんだろうけど、Nanashiはあの4人のバンドであって、あの4人にのみ、何をして、どんな曲を作って、誰とどこで歌うか、それを決める権利がある。だから彼らの、やりたいこと、について来れないファンはいらない、芸能なんてそんなもの。なんて、みんなこんな考え持ってたら、炎上なんて起こらなかったわけだしな。実際に過激な感じのファンが多いからこうなってるわけでなぁー……。
ふぅっと翔亜は公園のベンチに座ると背伸びする。
「過激な、ファン……。凪紗、今1人だよな……、っ!やばっ!!」
翔亜は慌てて凪紗に電話をかけた。




