表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
''推し活''のすすめ  作者: 雨宮ほたる
33/41

“推し活”のすすめ

episode11 悪者

初めてあったのは、肌寒い11月。フラフラと前を歩く彼女は、綺麗な黒髪を風になびかせながら、今にも倒れるのではないか、と言うほどゆっくりとおぼつかない足取りだった。向かっている方向が同じだったことが一番だったが、何となく、危ないような気がして、道が別れるまでは、と少し遠くから彼女の方を見ていた。大きい交差点までたどり着き、信号を見る。ここ渡って左行ったら、同じ地区に住んでる、ご近所って説が濃厚だな、なんて考えてふと彼女の方にもう一度目を向ける。

「……えっ!」

そこにはふらぁっと赤信号の横断歩道を渡ろうとしている、彼女の姿があった。そして彼女に向かってくるトラック。

「っ!何してっ!!」

考えるよりも先に体が動くってこういうことなんだろうな、と今は思う。いつの間に俺は彼女の体を突き飛ばしていた。


いつの間にか、トラックの運転手が俺達の方に来ていて、何か言っていた。何を言っていたかは覚えていない。いや、と言うよりも理解するほどの余裕はなかった。ハアハアと上がる肩と震える手足に力を入れて、倒れている体を起こす。そして目の前にいる彼女に目をやる。そこにいた彼女は、今までの手の震えを止めてしまうほど、綺麗な顔立ちだった。


そんな彼女が今、自分のスマートフォンの画面に写っている。綺麗な黒髪、透き通った白い肌、長いまつ毛、目を奪われるほどの綺麗な目。それは間違いなく、彼女、一之瀬凪紗だった。

「……っ、なんっ、で……!なぎさ……?」

なんで彼女が……?完全に翔亜の思考は停止していた。

─────ずっとNanashiが炎上してて、その内容自体は俺は別にそんなに興味なかったけど、心配はしてて……。それで、その発端がナナで、そのナナがライブ配信とかですごい騒がれてて、俺も何となくそのライブ配信を見てて、顔出しするとか言い出して、それで、そこから……?


翔亜は今まで自分の中にあった違和感に、考えを巡らす。

─────確かに少し似ている、と思った。凪紗の透き通った綺麗な声と画面の向こうから聞こえてくるナナの声。でも、俺だってまだ凪紗とは出会ったばっかで、なんの確証もなかった訳で……でもこれは……


認めるしかないのだろう、ナナは凪紗である、と。似ている同一人物、と言うには似すぎている。ぶわっと全身から変な汗が出る。鳥肌が立っている。

─────新手のドッキリ出会ってくれよ、マジで。


そんな翔亜とは裏腹に、凪紗はカメラを見つめたまま淡々と言葉を紡ぐ。

「改めて、初めまして、ナナです。もう一度しっかり、面と向かってお話をさせて下さい。今お騒がせしている動画について、あれは事実ではありません。悪質に切り抜かれたものです。南野奏さんは私がプレイヤーの皆さんに対してあの様に言ってしまった事に、怒ってくださっただけです。すべての責任は私にあります。本当に申し訳ありませんでした。」

丁寧な口調で話した凪紗は、深々と頭を下げた。

凪紗は顔を上げてコメントを見る。一番酷い時に比べるとだんだんと、攻撃的なコメントは減ってきていた

。そして、中にはナナのことを庇うようなものや、ナナの容姿に関するようなものも段々と見られるようになってきていた。

─────クソ。

と凪紗は心の中で呟く。

─────さっきまでは言いたい放題言ってたのに、顔を見た瞬間これだ。気持ち悪い。容姿なんて薄っぺらいものに囚われて。もし自分がこの容姿じゃなかったら?もっと不細工だったら?お前らはもっと私のことを蔑み、嘲笑い、酷い言葉を吐き捨てただろうに。


だが今はそんな事を考えている場合ではなかった。

「今後一切、私は彼らに関わるつもりはありませんし、その資格もありません。もう、この業界からも離れます。だからどうか、彼らの音楽を悪く言う事だけは……。よろしくお願いします。」

もう一度凪紗は深く頭を下げる。


凪紗は全てを捨てた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ