“推し活”のすすめ
───ガチャ
が決心したその時、ちょうど結が戻ってきた。
「まだ百瀬さん色々情報処理中だったけど、住所とか諸々分かったらこっちに来るって!あと、何とかして止めた方が良い、凪紗を守りたかったらだって。」
「わかってるっつーの。」
奏が呟く。止める、守る、とは言ったものの凪紗がどこにいるのかが分からなければ止めようにも止められない。その上連絡もつかないときた。早速行き詰まっている奏に悠貴は問かける。
「奏は凪紗が今どこにいるか、何となく目星はついてないのか?」
「んな事言ったって、家以外にあるか?」
「まあ、普通に考えればな。でも俺ら4人で凪紗の家に押しかけるよりも、手分けして居そうな場所当たる方が効率いいだろ。」
「そうだけど、他にどこが、」
「……お前さ、凪紗がお前の母親に似てるって言ってなかったか?それって外見だけじゃなくて?」
「……あー、まあ……。俺の主観がたっぷり入った上で言うなら、外見も似てるかもしれないけど、雰囲気がというか、なんというか……。これは後ででいいだろ。」
「……じゃあお前の母親がこういう時、どこに行きそうなのか、それを考えれば凪紗にも通づるところがあるとするなら、分かるんじゃないか?」
ここまでの話を聞いていた陸が笑う。
「いやいや、、それは流石に似てるつっても、なぁ?奏の主観がたっぷりだろ?流石に無理があるっつーか。雰囲気が似てるだけで、とる行動まで一緒だったら逆に怖いし……。それで見つかったら、凪紗が奏の母ちゃんの生まれ変わりだって言われても、ちょっと信じちゃうしなぁ、アハハ、ハハ、ハ……。ごめん……。」
奏が何か考えつめた表情をしているのを見て、陸はフェードアウトする。
「……うちのお母さんは、なんでも1人で抱え込んで、ずっとニコニコしてる人だったんだよ。馬鹿みたいに下手くそな作り笑いして。だから、大胆な行動に出る時は、……見つけて欲しい、ってことなんだと思う。もし凪紗も心の奥で、そういう思いがあったとすれば……。」
「俺達に見つけて欲しいと思っている、ってことでいいのか?自意識過剰に考えれば。」
「ああ、このライブ配信をすれば俺達が焦って自分を止めようとすることくらいは、わかってるだろ。あいつは確かに頭は弱いが、流石にそれが分からないほど適当に生きてるやつじゃない。俺らが探しに来ることをどこがであいつが求めていたとしたら……」
「あのファミレスだね!!!」
結が叫ぶ。陸や悠貴も頷く。
「よーし!じゃあ早速行、」
「ちょっと待て。」
「なんだよ、悠貴ー!もう行くしかねーだろ!」
「ちょっと待て陸。これはあくまで奏の推測だろ。あいつが本当にいるのか、確かめる方法がある。」
そう言った悠貴はニヤッと笑った。
ボーっと鏡の中の自分を見つめる。
─────もし私がここで顔を見せて、ナナだと言えばどうなるだろうか。顔を出せば、本名も、通っている高校も、私の存在が事細かに世間に知れ渡るのだろうか。そしたら、私と仲良くしてくれていた人達は、どう思うだろう。清水さんは?笑ってくれるかな?そうだ、翔亜くんは?瑞希ちゃんは?忍くんは?皐月ちゃんは?みんなNanashiが大好きだった。私は今プレイヤーの敵だ。もう仲良くして貰えないな……。いや、最初から仲良くなんて、する資格なかったんだ。あの純粋な気持ちで彼らを応援している、あの人たちと仲良くだなんて、そんなものしてはいけなかったんだ。……全てを捨てる、か。
うっ!突然襲ってきたその吐き気に凪紗は思わず口を抑えて下を向く。これからどうなるかを考えていた凪紗の中に、急に不安な気持ちが押し上げてくる。
─────あの人達に近づいておきながら、平凡に生きたいなんて、我儘が過ぎてたんだ。今までの夢のような時間への代償をしっかり払わなければ。
そう、私に生きててもいいと、そう曲を通じてでも教えてくれたあの人達のためにできることがあるならば、なんでもすると決めたんだ、たとえそれで命を失おうとも。
パンッ!と凪紗は頬を両手で叩く。そしてもう一度顔を上げ、鏡の中の自分を見る。手で前髪を少し治した。手で自分の長い髪を少し整えた。
準備は整った。
凪紗は、スマートフォンの前に座る。そして切っていた音声をオンにする。フーっと息を吐き、口を開く。
「今か
──────プルルルルプルルルル
突然、タイミングを見計らったように、凪紗の言葉を遮って、電話がなる。
「え?何?」
それは鳴り続ける。
──────プルルルルプルルルル
出ようか、出まいか。
……今は、出ない方がいいだろう、と。凪紗はそれが鳴り止むのを待った。
─────こんな時間になんだろう?電話なんて。
結局それは1分も経たない間に鳴りやんだ。それが、時間だ、という合図だった。凪紗は改めて、スマホに向かって座る。もう一度長い髪を少し整える。
─────逃げるな。全てを捨てろ。
「お時間を取らせてしまい、すみませんでした。ここからは皆さんとちゃんと、向き合ってもう一度お話をしたいと思います、もちろん、対面で。」
そう言って凪紗は、斜線を引かれた、カメラのマークを押した。
ドクン、ドクン
心臓がうるさいほど、鳴り響く。この音ですら画面の向こうに届いているのではないか、なんて余計なことを考えてみる。そして、スマートフォンの画面の前にしっかりと座る。顔を正面に持っていく。目線をカメラに向ける、画面の奥にまで届くように。その姿は、これから謝罪を述べるとは思えないほど、凛として、そして何よりも、美しかった。




