“推し活”のすすめ
悠貴がゆっくりと話し始める。
「俺と奏は小学校の頃から家も近かったし、ずっと仲良しで、多分幼なじみってこう言うことを言うんだろうな。中学の時、音楽を始めたのも俺が奏を誘ったのがきっかけで、その時の俺はギターとボーカルをやるんだ!なんて夢見てて、だから最初は奏がドラマ叩いてた。そっから、俺も奏もどんどん音楽の虜になって行って、よく、もう何人か見つけてバンド組もうな、なんて話してた。中三の時、やっぱりロックバンドを組むなら、オリジナルの曲がないととかそんな話をして、軽いきっかけで曲を作ってみることになった。最初は俺も作詞作曲全部自分でやってみたりして、奏と俺の作った曲をどっちも合わせて組んで、小さいライブハウスでライブとかもやったりした。でも、俺自身何が伝えたいのか、どうしたら伝わるのか、自分が作りたい曲が段々分からなくなってきて、逆に奏はどんどんその才能を開花させて行った。2人でやってるバンドってなると、比べられることがあって、もちろん、俺と奏も比べられた。ボーカル変わればいいのにとか、ドラムの作る曲の方が良いとか。俺別に気づいてないわけじゃなかった、奏には、才能があって、俺には才能がない。そんなこと、気づきたくなくても、奏が作ったほんの数曲がどんどんどんどん売れて、逆に、俺の作ったたくさんの曲たちは、どんどんあいつの曲に埋もれていっているのを見れば、一目瞭然だった。だから俺言ったんだよ、あいつに、お前が曲作って、お前が歌えばいいじゃんって。別に、その時の俺は、そのほうが売れるからとか、そういう考えじゃなくて、もてはやされている。あいつにちょっと痛い目見させてやろうって、それで、あいつのことをもてはやしてきた大人たちにも、俺の方がよかったって思わせてやろうって。でもそれは間違いで、あいつはボーカルも作詞、作曲も全部自分でやって、それが驚くほどうまくいって、どんどん俺たちのバンドは有名になっていった。でも、俺は有名になればなるほど、俺の存在意義は否定されているようで、どんどん虚しくなっていった。増えていくファンも、どこかの偉いプロデューサーも、みんな見ているのは、奏だけで、俺のことなんか誰も見てなかった。俺はあいつの足手まといでしかなかったんだよ。いつの間にか俺は大好きだった音楽が、自分の存在を否定するこの世で1番嫌いなものになっていた。そこで俺、思ったんだよ。俺が悪いんじゃなくて奏が隣にいるのが悪いんだって。そこで俺思ったんだよ。あいつさえいなければ、俺がこんなに苦しい思いすることも、こんなに空っぽな人間になることもなかったのにって。ずっとずっと作曲のサポートとか、バンドのリーダーとかやってきたけど、俺はずっと生きている心地はしなかった。ずっと奏ことが羨ましくて、妬ましくて、何よりも嫌いだった。」
「悠貴……、お前奏の気持ち、なんもわかってなないな。何が幼なじみだよ、何があいつがうらやましいだよ。そんなセリフお前には、言う資格もねえよ。そが、お前のことどのくらい信頼してるか、そうにとってのお前の存在がどれだけ大きいか、そんなこともわかってない奴が、奏のことあたかもわかったように言うなよ。ずっと近くで見てきて比べられたって言ってるけどな、お前は結局そのことなんか1回も見てない。お前が、自分を見てくれないって言ってる、ファンや偉そうにしてる大人達と一緒だよ。お前もそうのこと、真正面からちゃんと見てやったことねーだろ。奏、前こんなこと言ってたよ。『 悠貴のこと1番近くで見てきて気づいたけど、あいつには作者よりも作曲の才能の方がある。それにリズム感がいいし、音取りがめちゃくちゃうまいから、ボーカルよりも、ドラムとして曲全体を引っ張っていく役割の方が向いてる。だから、作詩は自分が中心でやる分、作曲は悠貴の意見を積極的に取り入れる、何なら任せることもあるし、ボーカル交代の話が来た時も断らなかった。何より俺自身リズム感全然ないから、ドラムにはあんまり向いてなかったんだよな。俺がドラムやってる時よりも断然柚稀がドラムやってる。今の方が直全体が生き生きしてるし、リズムが活かされてる。』って。あいつはな、奏はお前のことを真正面からちゃんと見て向き合って、その上でお前が1番生かされるようにいろいろ考えてんだよ。なのにお前は、自分を見てくれない、奏の才能がすごい、奏のせいで、自分は自分はって。馬鹿かお前。」
「そんな話、1回も、!」
悠貴の表情が初めて崩れる。驚いたような、苦しいような、申し訳ないようなそんな表情だった。
──────ガチャ
3人が音のした方を見ると、そこには奏が立っていた。居ないと思っていた奏が部屋に入って来たことに、結衣と陸は目を丸くする。
「奏、お前……!」
「ごめん、お前らが話してるの聞こえて入るタイミング失って盗み聞きみたいになった。」
悠貴は奏と目を合わせずに話す。
「……はっ、そうだぞ。盗み聞きなんて趣味悪いな。」
「おい!悠貴お前、」
「悠貴、俺はお前のこと、1度も足手元になんて思った事は無いよ。」
奏は、悠貴をまっすぐ見ていた。
「それに、俺自身、才能があるなんて思ってないし、もし、その才能とやらをお前が感じているんだったら、それはお前がいたから、悠貴が俺に音楽の楽しさを教えてくれたからだよ。お前のおかげで俺の今はあるんだ。だから、ありがとうな。」
まさかそんな事を奏から言われるなんて思っていなかった悠貴は、思わず奏から目をそらす。
「ありがとうってお前、俺はお前が死ぬ気で作り上げてきた、このバンドを、Nanashiを台無しにした当事者なんだぞ。」
「そんな事わかってるよ。」
「だいたいお前に今そんなこと言われたら、俺がすごく惨めに見えるだろ。今更謙遜なんかすんなよ。何ならお前が才能認めることで、俺がちょっとは救われるんだよ。分かれ、そのぐらい。」
「ばーか、惨めに見えるなんて言ったら、俺なんか、自分の言う通りにならずに、ファミレスで暴言吐きまくってる、やばいやつってネットで叩かれまくってんだからな。そっちの方がよっぽど惨めだろ。誰のせいでこうなったかわかってんのか?」
「それは、その、」
「なんだよ」
「ちょっとやりすぎたとは思ってる……ごめん、、」
「可愛くねーな、ごめん、が全然聞こえないぞ?」
「やっぱお前のこと嫌いだわ。」
奏と悠貴は目を合わせ、軽く笑い合う。それを見ていた結衣と陸はまだあまりこの状況について行けてないようだった。
「おい、奏!お前、ほんとにこいつのこと許すのかよ。優しすぎるんじゃねーの?」
「私も陸に同感、たとえどんな理由があるかとしても、悠貴がやった事は、人間としてやっちゃいけないことだよ。これから同じバンドメンバーとしてまだ一緒にやろうって言う気持ちにはなれないよ。」
ッ!
悠貴が顔を曇らせる。それを見かねたかのように、奏はニカッと笑った。
「確かに悠貴のやった事は良くないことだと思う。でも、そんなこと言ったら、ファミレスで騒ぎ立てた俺が1番悪い。それに悠貴はバンドのこと、1番に考えているんだ。だから今回の俺の行動も許せなかった。それは俺が1番わかってる。だから、陸、結衣、今回だけ目をつぶって欲しい。」
奏はその、曇り1つない透き通った眼差しで2人を見つめる。
「、、、あぁー!もうしょうがねーな!」
陸が奏と悠貴に背を向けたままそう答える。そのまま陸は結衣の方を向いて
「結衣は?どうすんの?」
と聞いた。ゆいは少し困った表情を浮かべ、その後少し髪をかきあげながら、
「わかったよ、その代わり、ちゃんと悠貴には今の状況を打破する方法、考えてもらうからね」
と、笑った。
「ありがとう、結衣、陸。」
奏が深々と頭を下げる。
「奏、俺、、」
「大丈夫まだやり直せる、だって、あんな小さいライブハウスから、ここまでやってくれたじゃん。やれるだけ、もう1回やってみよう、Nanashi みんなで。」
奏はそう言って、悠貴に笑いかける。
「ありがとう。そして、ごめん。」
悠貴は3人に謝った。ちゃんとそれぞれの目を見ながら。ここからもう一度やり直しだ、このメンバーなら、もう一度やり直せる、そう、4人の気持ちが1つになった瞬間だった。
──────ドンドンドン!!ガチャ!
その時、急にドアが開き百瀬さんが焦った様子で入ってきた。
「奏!!よかった、お前ら3人も一緒だったのか。ちょっとこれを見てくれ。緊急事態だ。」
そう言い、百瀬さんはパソコンの画面を4人に見せた。あるページが開かれた状態のそのパソコンを。




