“推し活”のすすめ
バイト中も、凪紗の頭の中はあの動画のことでいっぱいだった。そして、ひとつの解決案が浮かびつつあった。
───でも、そんな方法で夜の中の人たちが納得してくれるのか?
上手くいくかどうか、それは賭けであった。
家に変えるとすぐ、Xを開き何か進展があったかを確認する。
───これ……
見覚えのある店、見覚えのある後ろ姿。朝は真っ黒だった動画が、しっかりと映像があるものに変わっていた。それは、あのファミレスにいるNanashi、百瀬さん、そして凪紗の背中をしっかり捉えた動画だった。その動画は朝出回っていた物よりも長く、奏が立ち上がり声を荒らげている様子もしっかり映っていた。音声も内容がわかるくらいしっかり入っており、そんなに奏の声が通っていたのかと驚くほどだった。しかしあの時は、奏の声がどのくらい周りに聞こえているかなんて気にしている暇はなく、確実なことは何も言えないというのが実際のところだ。コメントを見ると朝は擁護に回っていたファンも、さすがに護りきれなくなったらしく、ますます荒れており、少し見ただけでも気分が悪くなるようなものばかりだった。特に話題にあがっていたのは、凪紗、つまり、ナナの後ろ姿だった。
「やっぱりあれしかないかー!」
凪紗は自分に言い聞かせるようにそういうと、自分の頬を軽く叩き喝を入れた。凪紗はもう腹を括っていた。
「Nanashiの他のふたり誰?」
──1人はおじさんでもう1人は結構若めの女の人?
──多分だけどこのおじさんはプロデューサーとか会社関係の人じゃない?スーツだし。
──じゃあ女の人誰やねん笑
──あり得るとしたら、会社の人かもしくは……
──え、わんちゃんナナ……????
──有り得なくはない、てかある
──それじゃん笑
「やっぱり気づく人は気づくよな。」
百瀬さんに見せられたスマホ画面を見つめながら奏画呟く。
「んな呑気なこと言ってる暇ないぞ?」
「…ごめんなさい。やっぱり俺が自分の口で説明した方が…!」
「それはダメだ。奏、お前の今の置かれている状況ちゃんと理解してるか?お前のやることを全肯定してくれて、着いてきてくれるファンは今はいないと思った方がいい。とりあえず今は大人しくしてろ。」
「でも、」
「奏、これ以上迷惑をかけるな。」
百瀬さんに声のトーンを下げてそう言われてしまうと、奏は何も言い返せなかった。
「とりあえず今はこっちに任せて、お前は何もするな。いいな?」
「……はい。」
事務所の会議室を出た奏は、新曲の練習をするために防音室へ向かった。
──せめて凪紗に謝罪だけでも出来たら
あの日以来、凪紗には電話も通じず、あのファミレスでも会えていなかった。電話はおそらく着信拒否をされているのだろう。ファミレスにも何回か尋ねたが会えず、凪紗と仲の良かった清水と言う定員に聞いたところ、凪紗は既に辞めたのだと聞かされた。自分のせいでバイトを辞め、その上ネットでは言いたい放題言われ迷惑しかかけていない、その上もし今の炎上の中でNanaの顔が特定されてしまったら、もし身元がバレてしまったら、それが拡散されてしまったら、凪紗は……、最悪の状況を想像した奏は身震いをする。守りたい、しかし今の奏に出来ることは何も無い。
──俺ダサいな、まじで
せめて凪紗に一言謝れたなら、そんな思いを抱えながら奏は防音室のドアノブに手をかけた。




