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''推し活''のすすめ  作者: 雨宮ほたる
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“推し活”のすすめ

episode 9 燃え


それは鑑賞会から2週間ほどがたった頃だった。凪紗がついに新しいバイト先を見つけた頃だった。個人経営の居酒屋で、少し家からは遠くなってしまうがすごく暖かい雰囲気の店だ。4人に報告したところ、瑞希と翔亜は今度ふたりで行くよと言ってくれた。忍と皐月も来たがってはいたが、遠いから難しそうだった。

そんな頃、珍しく翔亜から電話がかかってきた、それも早朝に。凪紗は驚きつつも電話に出る。

「もしもし?どうしたの?」

「あ、凪紗?一大事!!ちょっとネットみて!!Nanashiが!」

「ネット?」

「うん!X!トレンド入りしてる!」

慌てて凪紗はXを開く。トレンドを見るとそこには、Nanashi、南野奏、リアコなどが表示されていた。試しに、#Nanashiを押してみる。

「え、これ。」

凪紗が理解するのに、時間はあまり要しなかった。動画の音声が流れる。画面自体は真っ暗で音声のみの動画だったが、凪紗が状況を理解するのに、時間はあまり要さなかった。


「俺らが作った曲だ。ファンが作った曲じゃない。誰とドュエットするかも俺らに決める権利があって、その事について色々言われる筋合いはこっちには無いんだよ!俺らのやり方に着いて来れないやつは、俺らのことなんかほっとけばいい!別に誰も文句言ってまで応援しろなんてこと、強要してねーんだよ!」


─これ、あの時の

そう言いそうになり、凪紗は口をつぐむ。その動画には、「さすがに調子乗りすぎ」「推してたけどふつうに冷めた」「リアコ多いのにこの発言不味くね?」「もともとこう言う雰囲気あったから嫌いだった。今は死ねって感じ」などファンからのコメントを初めとし、元々奏の事を快く思っていなかった人のコメントまであり、ほとんどは批判の内容だった。

「これ、今めちゃくちゃ拡散されてて、大変なことになってて……。メールでも良かったんだけど、なんとなく凪紗には電話で伝えた方がいい気がして。ごめん、こんなこと伝えられたくなかったよね。

「ううん、伝えてくれなかったら、私めちゃくちゃ遅くに気づいたはずだし、早い段階で誤解をとく手伝いしたいし。」

「なら良かった。でもそもそも、これは南野奏の声なのか?本物?フェイク?このままじゃ誤解かどうかも分からないな。」

当然、凪紗は奏がこの発言に至るまでの過程を知っているため、「誤解」だと言い切れるが、あの切り取られ方をした音声を聞いただけの人達にとっては、あの会話の一部が全てに聞こえてしまい、誰もその前の過程などは考えないのだ。事実は違うのに、表に出ている上方だけで判断されてしまう、凪紗は真実を伝えたい気持ちと葛藤していた。

「凪紗?大丈夫?」

翔亜の声にハッとする。

「うん。びっくりしちゃって……。これどうなるんだろ?」

「うーん、まだこれが本当かどうか明らかじゃないからなんとも言えないけど、今の段階でこのアンチの数だとだいぶこれから燃え広がりそうだね。特に南野奏はリアコのファンが多いから。簡単には事は収まらないってことだけは言えるかな。」

「そう、だよね。」

「なんも出来ないのがくやしいけど、見守るしかないね。」

「うん。」

───見守る、か。

翔亜との電話を切りながら呟く。ファンであるならば、取るべき行動はおそらく、翔亜が言っていたように公式からの発表がない間は、騒ぎ立てずに、なるべく大事にならないよう、大人しく見守っておくべきだろう。だがしかし、凪紗はファンである前に、あの話し合いの当事者、であるだろう。奏にあんな事を言わせてしまったのも自分の責任だ。

───見守るだけでは、ダメだ。

そうは思ったものの、今の自分の立場で何が出来るのか、凪紗には検討も付かず、ひとまずバイトに行くため家を出た。

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