“推し活”のすすめ
「じゃあさっそく、第10回ライブ鑑賞会開幕!!ってことで、とりあえず恒例のタワレコ散策しましょうか?」
翔亜くんが声を少し張ってみんなに呼びかける。
「鑑賞会?みんなで?どういうこと?」
「あ、翔亜!!凪紗ちゃんに説明してなかったの?」
瑞希ちゃんが説明を始める。
「私たち定期的にみんなで集まって、ライブの鑑賞会をするんだよね。みんな住んでるところが、私と翔亜以外は離れてて、なかなか会えないからこういうイベントを作って、会う口実にしてるだけなんだけどね。」
「なるほど……。」
忍くんと皐月ちゃんが付け足しで説明する。
「それでいつも鑑賞会する前に、タワレコに行くんだよな。」
「そうそう、もちろんNanashiもそうだけど、最近自分の中で来てるバンドとかを布教する場でもあるの。凪紗は何か他に好きなアーティストとかいるの?」
「他のアーティスト……。」
「じゃあ、Nanashiを好きになったきっかけとかは?」
「きっかけ……。」
「ほら、2人ともそんな質問攻めしたら困っちゃうでしょ?」
返答に困っている凪紗を見兼ねた瑞希がフォローに入る。
「そうだぞ、2人とも。とりあえず中入んない?」
翔亜くんの意見に全員が賛成し、タワレコの中に入る。並びとしては、前に忍くんと皐月ちゃん、後ろは瑞希ちゃんと翔亜くんが凪紗を挟む形になっている。CDショップにはしょっちゅう行く凪紗だが、タワレコに来るのは初めてだったので、とても浮かれていたが、頭の片隅に皐月ちゃんからの質問が残り続けていた。
───何がきっかけで好きになったか、か。
───そもそも私はNanashiの曲が好きだと言えるのだろうか。Nanashiを知ったきっかけだって、1番最初は奏が助けてくれたことだった。その前まで私は、Nanashiの存在すら気にしたことがなかった。おそらく日常の中で彼らの曲を耳にしていたはずなのに。そもそも、私は彼らの”音楽”を好きになったのだろうか、それとも、助けてくれた、かっこよかった、奏のことが好きになったから、彼が書いたから、彼が歌っているから、だからこそあんなに彼らの音楽に惹かれたのだろうか。
凪紗の中のもやもやが大きくなり、思わず眉間に皺を寄せる。
「どうした?怖い顔してるぞ?」
それを見ていたのであろう、翔亜くんが凪紗に声をかける。瑞希ちゃんもそれに気づき、凪紗に目を向ける。
「もしさ、もし私が南野奏が好きだから、だからNanashiを好きになったとしたら、どう思う?最初、南野奏を知って、彼を好きになって、それまではNanashiのこと何も知らなかったのに、それがきっかけでプレイヤーになって。やっぱり、プレイヤーとして失格かな……。」
「それは、南野奏の顔ファンってこと?」
瑞希ちゃんが食い気味に聞き返す。
「顔ファン、かどうかは分からない。けど」
「私はいい「瑞希ー!!」
と、瑞希ちゃんの言葉を、遠くで忍とCDを見ていた皐月ちゃんの声が遮る。
「あー、ごめん。呼ばれちゃった。翔亜に任せるね。」
そういい瑞希ちゃんはその場を後にする。
「まあ、正直そう言うファンの形に色々思うことがある人も少なくはないし、そりゃ音楽を聞いて、歌詞を見て、Nanashiを好きになりました!って言った方がかっこいい感じはあるけど。でも、だからと言ってそれが正義では無いと思うんだよね。あくまでも俺の意見だけど、顔ファンとかリアコとか、新規か古参かとか、年齢とかFC入ってるかとか、国内か海外かとかその他にも色々ファンの形ってあると思うけど、どんなきっかけで、どんなNanashiが好きで、どんな推し方をしているかは、関係ないと思うんだよね。どんな形のファンだって、みんなNanashiが好きなことに変わりはないんだから、そこをわざわざ区別する必要なんかないと俺は思うんだよね。そこを区別するためにできた言葉は沢山あると思うんだけど、そんなの全部本当はいらないはずなんだよね。”Nanashiが大好き”っていう肩書きさえあれば、充分じゃない?」
「Nanashiが大好き……。」
「そう、顔が好きでも、歌詞が好きでも、リズムが好きでも、バンド名が好きでも、雰囲気が好きでも、特定の1曲だけが好きでも、特定の誰か一人を好きでも、それからもちろん全てが好きでも、それはNanashiの1部に違いなくて、それは間違いなくNanashiなんだよね。うーん、だからまあ何が言いたいかって言うと、別に南野奏先行でNanashiを知ったからファン失格ってことは絶対にないってことだよ。」
「うん、そうだね。ありがと、翔亜くん。」
「まあ、推し活なんか楽しんだもん勝ちだよ。」
「翔亜ー!凪紗ー!」
皐月ちゃんが遠くから呼んでいる声が聞こえる。
「ほら、楽しも?」
そう言って先をゆく翔亜くんに凪紗は着いていく。なんだか彼の背中が大きく見えた。




