“推し活”のすすめ
凪紗が”ファン”に戻ってから1週間、生活は凪紗が想像していたより変化していなかった。変わったことと言えば、ファミレスでのバイトをやめたこと、最近できたプレイヤーの友達と連絡を頻繁に取り合うようになったこと、そしてNanashiとちの直接の関わりが一切無くなったことだった。Nanashiとは、メンバー全員の連絡先を削除し、後日事務所で百瀬さんとしっかり話した上でデュエット相手はナナとして変わらず、ただナナは凪紗ではなく他の有名な女性アーティストにお願いする、という方向で決まり、デュエットが決まった時も書いたような書類に名前を書き、印を押したことで、契約は解除となった。事務所で彼らに会うのではとビクビクしていた凪紗だったが、百瀬さんが気を利かせて、音楽番組の収録に出向いている時に読んでくれたようで、見かけることすらなかった。
ちなみに百瀬さんと さんの連絡先は、2人とも
「もしかしたら凪紗ちゃんが職に付けずにどうしようもなくなる日がやってくるかもしれないから、その時のために消さないでおいて。」
と頼み込まれてしまい、消せていない。
ただ、あのファミレスのバイト辞めた今、凪紗とNanashiの接点はもはや推しとファンということしか残っていなかった。
すぐに受け入れる、と言うのとは難しかったが、これが普通なのだと自分に言い聞かせているうちに、不思議なことにあの時間のことを、”いい思い出”と捉えられるくらい立ち直っていた。
──距離が変わっても、関係が変わっても、やるべきことは変わらない。
Nanashiを支えること、そして、南野奏の残された時間を伸ばすこと。
「そのためには、まず、バイト。」
どれだけ両親の生命保険があると言っても、いずれは尽きるだろうし、自分が掻き乱してしまった分、彼らには今まで以上に投資したかったし、それくらいしか今の凪紗にできることはなかった。だからこそ、今はバイトを探すことが最優先だった。
あとは……
そう呟いた凪紗はいろいろな記憶を遡り、奏が患う病気について、詳しく調べた。
バイト探しが始まってから2週間が経過した頃、凪紗は翔亜くんから呼び出しを受けていた。
特に何をするとは伝えられず、Nanashiのグッズを持って11時に渋谷のタワーレコードの前とのみ言われていたので、凪紗はとにかく家にあったNanashiのタオルやらTシャツやらラババンやらをかき集め、それをバックに詰め込み、タワレコに向かった。
集合場所について周りを見回していると、
「凪紗!!」
という聞き馴れた声が聞こえ、振り向くとそこには手招きをしている翔亜くんがいた。とりあえず招かれるがままに歩いていくと、翔亜くんの他に3人くらいの男女が、Nanashiのグッズを身につけ、中の良さそうに話しているのに気づく。なんとなく察しは付いたが、一応翔亜くんに聞く。
「これ、なんの集まり?」
「見ての通り、プレイヤーの集いみたいな感じ。来てくれてありがとね。ちょっと待って。」
そう言って翔亜くんは、眼鏡をかけて、ライブグッズのトートバックを持った女の人に話しかける。
「ちょっと、瑞希いい?この子、新メンバー候補。」
瑞希と呼ばれた眼鏡をかけ人は、凪紗を見てこの子が、といい、ほかのメンバーに呼びかける。
「みんな!!ちょっといい?この子が翔亜くんの友達だって!!えっと、なぎさちゃん?だよね?」
「あ、はい!」
「ありがとう、凪紗ちゃん!私は、長月瑞希。翔亜と同い年です!よろしくね!凪紗!」
そう言って瑞希ちゃんはにこっと微笑む。優しそうな人だな、それが第1印象だった。
瑞希の隣にいた、 茶髪でピアスをつけた少しチャラそうな男の人が話し出す。
「初めまして、成宮忍です。大学2年で翔亜と瑞希とタメです。呼び方はなんでも好きな様に呼んでね。」
そして、その隣にいた髪が長く、すらっとした背の高い女の人が
「こんにちは、私は太田皐月です。3人の一個上で、大学3年です。よろしくねー!」
といい、凪紗の自己紹介の順番が回ってくる。普段は自己紹介などというものは苦手な上、嫌いな凪紗だが、相手が同じ趣味を持ち、同じ音楽を聴き、同じ人達を推しているという安心感から、特に緊張もなく話始めた。
「初めまして、一之瀬凪紗です。高校2年生です。プレイヤーのお友達がいないので、仲良くして貰えると嬉しいです!よろしくお願いします!」
ワッ!と拍手が起こり、緊張こそしていなかった凪紗も安堵する。
「高二かー!わけーな!!!」
「やだ、歳の差が……5歳差!?」
「ちょっと、忍、皐月ちゃん?静かにね。ということで、3人には前もって話してたんだけど、最近仲良くなった一之瀬凪紗ちゃんです。歳はちょっと離れてるんだけど、仲良くして欲しいなって思ってます!が、どう?」
3人は顔を見合わせる。凪紗はドキッとする。こういうのは、苦手だ。思わず下を向く。
「もちろん!」
驚いて顔を上げた凪紗の目にはピースをしてこちらを笑顔で見つめている3人が映された。それを見た翔亜くんもにこっと笑いピースを凪紗にする。
───彼らはどれだけ私の人生を彩るんだ
凪紗は思わずピースをし返した。
彼らと出会ってから、凪紗の人生はイロドリだらけだ。




