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''推し活''のすすめ  作者: 雨宮ほたる
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“推し活”のすすめ

episode 8 仮面の下


公園からの帰り道今日あった色々なことを思い出す。


───疲れた


それが率直な感想だった。もちろんあのファミレスであったことを全て消化できた訳では無いし、未だに後悔とか、悲しいとか、辛いとか、そんな思いが喉につっかえていることも事実だった。しかし、あの人と話して、色々なことを吐き出したおかげで楽になったのは確かだった。

凪紗は今日、色々なもの失ってしまった。しかしそれと引き換えに1人の友人が出来た。それは凪紗にとって、とても信じ難いことでもあり、同時に飛び跳ねたくなるほど嬉しいことでもあった。おそらく、Manashiとの事がなかったら、泣いて喜んでいただろう。でも、あの事が無かったら、今頃自分は彼と出会っていなかった訳で……、不思議な巡り合わせがあるものだと凪紗はしみじみと振り返る。


両親のことを一通り話した後もしばらく、2人は話をしていた。


「そうだ、あの、お名前は?」

「あ、そうだよね。俺は川端翔亜(かわばたとあ)、大学2年の19歳。」

「翔亜さん、、。」

「ああ、そんなかしこまらなくてもいいよ。呼び捨てとかで。」

「じゃあ、翔亜くん……?」

「うん、わかった。俺も聞いていいかな?」

「一之瀬凪紗、高校2年生の16歳です。」

「16歳ってことは、誕生日まだなんだ。」

「はい、1月12で17歳です。」

「てことはあと2ヶ月くらいか。じゃあその日、どっか行こうよ。カラオケとか。」

「カラオケ、ですか?いいですけど、どうして?」

「ほらさっき俺の周り、プレイヤー全然いないって言ったじゃん?ネット上とか、ちょっと離れたところに住んでる仲間だったらいるんだけどね。だから、普通に友達と行くと、楽しいけどマイナーなとこ、歌えないじゃん?だから結構憧れだったんだよね。プレイヤーの友達とカラオケ行くの。どう?凪紗の誕生日を利用させてもらっちゃってるけど。」

「行きたい!私も全然プレイヤーの友達いないから、楽しみ!!」

「よかったー。じゃあ、決まりってことで!」


そんな、翔亜くん、との会話を思い出す。信号が赤になったことを確認し、凪紗は連絡先に新たに追加された、その電話番号を開き、名前を、翔亜くん、に変えた。

───カラオケ、プレイヤーとだけじゃなくて、友達とも行ったことないのは黙っとこ。


信号が変わり、歩き始めた凪紗の目にある電話番号と連絡先が目に入る。


「奏」


凪紗は歩きながら色々なことを考える。

推しとファンの、奏と凪紗の、Nanashiと凪紗の、あるべき形とは。

もう一度赤信号で足を止める。

凪紗の中では前から答えはでていた。

それをなるべく受け入れないようにしてきた。


───バイバイ。奏。


凪紗はその連絡先を開き、削除という今までどうして踏み出せなかった、その1歩を踏み出す。


推しとファン、一方的な愛。それは何よりも歪で、しかし何よりも純粋な愛である。


正しい愛し方さえも知らない自分が彼らの隣にいていいはずがなかったのだ。


もう、普通の推しとファンに戻ろう。


あなたのその綺麗な声で名前を読んでもらえたこと、目を合わせて笑い会えたことも、毎日ちゃんと既読がつくメールができたのも、録音じゃなくリアルに電話で会話出来たことも、一緒に歌を歌って、ハモって、同じ作品を作っていけたことも全部全部、言うなれば犯罪のようなものだ。そんな禁忌を犯すことを許されてはいけないだろう。


でもどうかわがままがもう少しだけ許されるのであれば、私はもうあの人たちの前に生涯姿を見せないし、ファン以上になることを望まないし、あのファミレスでのバイトももう辞める。

どれだけ一方的な愛でも注ぎ続けるし、貢ぎ続ける。


だからどうか、彼らがもう一度笑って音楽ができるよう、できることなら、私の記憶ごと、存在ごと彼らの中から取り除いてください。


そしてどうか、彼の命をもう少し、彼の夢が叶うまでは、紡いでください。




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