“推し活”のすすめ
奏が決心したように顔を上げると、ゆっくりと口を開いた。
「俺が凪紗とデュエットしようと思ったのは、完全に私情が入ってる。もう悠貴は気づいてるっぽいけど、凪紗、うちの母親にそっくりなんだよ。顔もとか雰囲気とか、それから声がめちゃくちゃ似てる。特に歌声。」
「奏のお母さんって、確か、、」
「そう、結にも話したっけ?女優の藍原真佑」
「確かミュージカルもやってたんだよね。奏の歌声は母親譲りだって悠貴から聞いた気がする。」
「うん、俺が声結構高いのはあの人のおかげだと思う。でも凪紗は、たぶん俺よりもあの人に似てる。だから、俺とも合うかなと思ったのも一つの理由。実際にあいつと歌ってて、ブレスのタイミングとか、声の使い分けとか、そういうのがピッタリハマったのを感じたし。でもそれよりも何よりも、たぶん俺は凪紗に、母親を重ねてた……昔、僕さ約束したんだよ。あの人と、バンドをして、ボーカルもギターもして、作詞作曲もして、有名になったら、最初の相手はお母さんにしてあげるねって。バカだよな。そんな小さい頃に冗談のつもりで言った約束に縛られて、母親にも縛られて、なんにも関係の無い凪紗まで巻き込んで、赤の他人だってわかってんのに、ちょっと約束守れた気になって、挙句の果てには1人で突っ走って、今までの努力も、バンドの絆も壊しかけて。呆れるだろ?」
「……そっかー。そういう感じかー。」
俺の話を全て聞き、下を向く結と陸に奏は思わずドキッとする。
───アハハっ!!!!フフっ!!!
「なんだよそれ。深すぎんだろ、理由として。悠貴もずっと眉毛つり上がってっし、奏も気まずそーに話し出すからどんなあっさーい理由かと思ったわ!」
「私もわたしも!めっちゃくだらない理由言われるんだろうなと思って、なんてフォローしようってめっちゃ悩んじゃったよ。もぉー!」
想像の何十倍も軽い反応に奏は目を丸くさせる。
「いやいや、軽すぎんだろ、理由として。だってバンドを壊しかけてんだぞ、その理由が、母親、それも浮気してる中交通事故で死んだ母親との約束を守るためなんて、しょうもなさすぎるだろ。」
「いやいや、泣き身内との約束ほど深い理由はねーだろ。マリアナ海溝より深かったぞ?」
「……陸?今そういうのいいから。でもさ、奏、本当に私と奏はもっともっと浅い理由だと思ってたから、全然納得してるよ?フォロー考えなくて済んだし。」
「じゃあ聞くけど、これより浅い理由ってなんだよ?」
「「一目惚れ」」
「……いや、それはダメだろ。」
「いや、逆に俺らはそれ以外思いつかなかったけどな。奏が凪紗ちゃんのこと好きなのは確定だったし。」
「凪紗のことを好き?まさか。」
「まあ、今になっては確かに好きよりもっと深い雰囲気出てたなって思うけど、完全に凪紗ちゃんを見る奏の目が、キラキラしてたし。」
「……そんなつもりは。だいたいそんなことカミングアウトされたら、なんて言うつもりだったんだよ。」
「私は別にそれでも全然納得出来てたけど、未成年だから気をつけなよって言うつもりだった。これ、めっちゃ悩んでたんだからね?」
───ハハッ
ずっと後ろでことの行く末を見てた悠貴が笑う。
「ガチアドバイスじゃん。陸は?」
「わかるよ、デュエットってなんか、エロいもんな。」
「アホか。」
そう言って奏は肩に置かれた陸の手を振り払ったが、安心で立っているのもしんどいほど力が抜けていた。
───こいつらとバンド組めて良かったな。
改めてそう感じた日でもあり、同時に今まで奏を縛り付けていた母親の愛が少し解けた日でもあった。




