出会いのお話。
私、ベニカ・ヴィクトーリア・ブライトナーはアティス国の侯爵家の次女として生まれた。
ブライトナー家の長女として生まれたシャロン・ツィツィーリア・ブライトナーはとても優秀で、文武両道、才色兼備を兼ね備えた姉だった。
白を思わせるほどに薄いプラチナブロンドに、アメジストを思わせる紫の瞳。
姉が笑えばそこに花が咲く、と言われる程に可憐な姉。
そんな完璧な姉をもつ次女たる私はどうだったかと言えば…
端的に言えば「お転婆なお嬢様」。
色だけは姉と同じ髪を振り乱して、屋敷を飛び出し。
侯爵家の令嬢でありながら木登りやかけっこが大得意で、よく侍女たちを困らせたものだ。
そんな私は先代の王妹たる祖母に厳しく叱られ、その度に脱走をはかり、また叱られる始末。
厳しすぎる祖母に対して喚き怒る私を見かねた姉はいつも「お祖母様には内緒よ」なんて言いながら甘くて美味しいお菓子をくれた。
それからしばらくして。
優しくて綺麗な姉と共に王城に招かれたのは私が5歳、姉が8歳の時。
今までに無いくらい厳しいお稽古を姉の優しさに包まれながら何とか乗り越えたものの、完璧な姉の隣で少し覚束無いカテーシーを披露した。
『はじめまして。僕はレオナルト。こっちは弟のルヴァスール。君と同じ歳だから、仲良くしてあげてね。』
つやつやと艷めく黒に、柔らかそうなふわふわとした髪。
キラキラと輝く蒼眼を瞬かせて柔らかな笑みを浮かべるその人。
ーーレオナルト第1王子。
アティス国王家の第1王子で王妃様と同じ艶やかな黒髪と陛下と同じ煌びやかな蒼眼をもつ、これもまた優秀な王子様。
姉より2つ上の10歳で、まだ幼いながらもその佇まいは王族らしい風格を出していた。
そんなレオナルト様の後ろにもじもじとしながら隠れるようにしてこちらを見ている、私と同じくらいの男の子が第2王子のルヴァスール様。
同じ5歳といえど、兄王子がしっかりし過ぎているからか少し…年齢よりも幼く見える。
けれど、キラキラと輝くサラッサラの金髪にペリドットの様な碧眼をもつ彼は、兄王子に負けず劣らず美形だった。
『ルヴァスール?挨拶しないのか?』
『…』
『すまないね、小さなお姫様。弟は恥ずかしがりやでね。』
困ったように笑う、レオナルト様。
そんな兄王子の表情に、突然泣きそうな顔をするルヴァスール様。
『ルヴァスール様って言うのね?呼びにくいからルル様って呼んでもいい?私はベニカって呼ばれているわ。ねぇ、あっちで美味しそうなお菓子を見つけたの。一緒に行きましょう?』
咄嗟に掴んだ手に、驚いた様に顔を上げて綺麗な両眼が落ちそうな程に見開いて。
元来のお転婆部分が隠しきれずに、私は不躾にもそう囃し立てて第2王子を真ん中のテーブル席にまで引っ張っていった。
『…ベニカ。』
『はい、何でしょうか?』
『きみは…太陽みたいだね。』
『…太陽?』
『あたたかいけれど…光が強すぎて直接見ようとしたら目が開けられない。』
『…それは良い事を言われておりますか?』
『ほめているよ。引っ込み思案で兄に隠れてばかりのボクを…連れ出してくれたのはきみがはじめてだ。きみは…ボクの太陽だよ。』
初めて話した第2王子は、泣きそうな笑顔を浮かべてそう言ったけれど。
その笑顔は…子どもながらに綺麗すぎて妙にドキドキしてしまったのを覚えている。