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第43話 バイトを探そう

「夏休みだねぇ」

「そうだねぇ」


 夏休み初日。

 春也と秋葉は、夏川家の最寄り駅の近くにあるファミレスでお昼ご飯を食べていた。

 今日は竜馬も蘭もおらず、2人きりの時間である。


「春也は夏休み、何かやりたいこととかある?」

「んー」


 口の中のチーズインハンバーグを飲み込んで、春也は言う。


「いろいろ遊びたいのはもちろんなんだけど、それにはお金がかかるじゃん?」

「うん、確かに」

「実は車の免許も取ろうと思ってて、そうすると教習所に通うのもお金がかかるし」


 今のところ、春也は車を運転できないからと言って何か困っているわけではない。

 バスもあるし電車もあるし、住んでいる地域の公共交通網はしっかりしている。

 ただ、秋葉と一緒にドライブデートなんてできたらいいなーという一塊の煩悩が、免許を取りたいと思わせている理由である。

 母親が教習所のお金を半額出してくれると言ってくれたものの、トータルでかかる費用はおよそ30万円ほど。

 15万円は、自分で用意しなければいけないのだ。


「じゃあ、お金を稼がなきゃいけないんだね」

「うん。だからバイトしようかと思って」


 レンタル彼氏をやめてからというもの、春也は何もバイトをしていなかった。

 そもそも高校時代にバイトをしていた貯金がちょっとあったので、それで遊んでいたのだ。

 しかし、そろそろ限界。

 さすがに新しくバイトを始めないわけにはいかなくなったのである。


「レンタル彼氏はダメだからね?」


 そう言って、秋葉は細い目で春也を見る。

 オレンジジュースを飲みながら、春也は苦笑いを浮かべた。


「まさかまさか。秋葉だけの彼氏ですから」

「うん、私だけの彼氏だもんね」


 によによと口角を上げて、嬉しそうに笑う秋葉。

 かわいいなと思いつつ、春也は会話を続ける。


「まあ、まだ何も決まってないよ。バイトは探し始めたところだし、お金が貯まらなきゃ教習所に行けないから、免許もいつ取れるか分からないし」

「そっかぁ。でも、私も何かしらのバイトしないとだなぁ~」

「秋葉もバイトするの?」

「うすうす、しないといけないとは思ってたんだけどね。でもバイト始めちゃったら、春也と会える時間が少なくなっちゃうじゃん……?」


 秋葉はちょっと口を尖らせて、寂しそうな目をする。

 もし2人の間にテーブルが無かったら、春也はぎゅっと秋葉を抱き締めていたことだろう。

 それにしても、こういう守りたくなるかわいい仕草を無自覚でするのだから、冬月秋葉は恐ろしい人間である。


「そしたらさ」


 春也はふと思いついたように、ぽんっと手を打った。


「2人でバイトするのはどう?」

「2人で?」

「うん、同じところでバイトする」

「2人同時だと、探すの厳しくなっちゃわないかな? でも、もし春也と同じところでバイトできるならそうしたい!」

「とりあえず探してみようよ」


 春也はスマホを取り出して、昨日ダウンロードしたばかりのバイト求人アプリを開く。

 机の上に置いて秋葉も見えるようにしながら、検索条件を絞り込んでいく。


「場所は……大学の近くがいいかな? 夏休みが終わっても続けることを考えたら」

「そうだね。ちょうど2人の家の真ん中あたりが大学だし」

「職種はどんなのがやりたいとかある?」

「レンタル彼氏彼女以外ならオッケーだよ」

「いやいや、そっちの方が特殊過ぎて絞り込みになんないって」

「そういえば、竜馬くんもレンタル彼氏してたんだよね?」

「うん。でもあんま指名来なくてすぐやめたらしいよ。今は彼女もできたことだし、バイトは家の近くのコンビニでしてるらしい」

「そうなんだ」


 ひとまず、職種を飲食店系の接客や調理に絞って、大学の近辺で検索する。

 しかし、なかなかこれはというものはそう簡単に出てこない。

 エリア内にお店はたくさんあるものの、すでにたくさんの大学生たちがバイトで入っているのだ。

 2枠都合よく空いているなんて求人は少なかった。


「なかなかないね……」

「うーん」


 少しトーンダウンしながらも、春也は画面をスクロールしていく。

 秋葉は秋葉で、別の求人アプリを使ってバイトを探し始めた。

 そして数分後、秋葉が「あっ」と声を上げる。


「何か見つかった?」

「うん。ここなんてどう?」


 秋葉が見せたのは、チェーン系ではなく、個人で経営している飲食店の募集だった。

 日中は定食屋、そして夜は居酒屋として営業しているらしい。


「時給1050円のまかないつきで、募集が2名か。条件はぴったりだね」

「うん。それにお店の雰囲気も良さそうだよ」


 掲載されている写真は、店内の様子や料理の写真など。

 THE 街の定食屋という雰囲気のお店だ。


「新しい求人みたいだし、まだ誰も見つけてないかも。応募してみる?」

「してみよっか。秋葉、そのまま手続きお願いできる?」

「うん。任せて」


 えらくあっさりと応募先を決めると、秋葉はアプリから申し込みを始める。

 その間、春也は何となくお店のホームページを眺めていた。


“定食・居酒屋『東』か……。”


 このバイト先選びが、ほんの少しだけ春也と秋葉の夏休みをかき回すことを、2人はまだ知らないのだった。

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