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第24話 こそこそトーク

[おつかれ~]


 キノコカート大会が行われた週の終わり。

 日曜日の夜に、蘭からラウィングループへとメッセージが送信されてきた。

 みんなゆったりしていた時間帯だったこともあり、すぐに既読が3つ付く。


[そろそろ真面目に発表のテーマ決めないとヤバいかな~と]

[明日もあの授業あるし、まだテーマ決まってないと思われたらあれじゃん?]

[だから決めたいんだけど通話できる?]


 こういうところは、きっちり真面目な蘭である。

 竜馬ならもうしばらく放置しかねない。


[私はできるよ~]


[俺もできる]


[いける~]


[りょ!]


 全員の同意が得られたことを確認して、蘭が通話を開始する。

 そこへ、3人ともほぼ同じタイミングで参加した。


「お疲れ~」

「おつ~」

「蘭ちゃんありがと~」

「いえいえ! さーて、どうしようか」


 通話しようと言い出したはいいものの、蘭も蘭とてテーマに関しては無策である。

 苦笑いを浮かべながらグループに投げかけると、みんな考え込んでしまった。

 とても4人参加しているとは思えない沈黙の通話に耐えられず、竜馬がおどけた調子で言う。


「そういえば、この間めっちゃ良い雰囲気の喫茶店見つけたんだよ。今度みんなで行かね?」

「いきなり脱線しないでくれる?」

「いやーお言葉ですけどね、蘭さん。こういうのは言い出しっぺがまず何か意見を言うのがいいんじゃないかと」

「だーかーら。それが浮かばないからみんなに聞いてるんでしょ?」

「どうどう。落ち着け落ち着け」

「私は馬か!」

「パワーだけはウ●娘級かもな」

「パワーだけはってどういう意味!?」


“あーあ。また始まったよ。”


“仲が良いなぁ。……良いんだよね?”


 竜馬と蘭が盛り上がり始めたので、春也は一旦ラウィンの通話画面を小さくする。

 そして秋葉との個別トークにメッセージを送信した。


[ほんと元気だよな]


[ねー]

[楽しいからいいけど笑]


[ちなみに何かアイデア思いついた?]


[うーん]

[思いつかないことはないんだけどしっくりこないっていうか]


[分かる笑]

[産業革命とかいろいろ考えてみたけど]

[いまいちこれだ感がないんだよね笑]


[そうそう笑]

[これだ感ない笑]


[竜馬も蘭も無策っぽいしな~]


[みたいだね~]

[『焼き鳥のレバーはタレか塩か』ってこの2人は何の話をしてるの?笑]


[もうほっとこ笑]


[笑笑笑]

[あ、そうだ]

[ふと思ったことがあって]


[なになに?]


[産業革命みたいなテーマがしっくりこないのって私たちが体験してないからじゃないかなと思って]


[なるほど……]

[確かにこういうテーマだと結局ネットとか教科書の丸写しになっちゃうもんね]


[そうそう]

[だから実際に体験したことでやるのが良いと思って]


[みんなにとって身近なテーマかぁ……]


[うん]

[そっちの方向で考えてて思ったのが]

[世界は常に変わり続けてるんじゃないか的な?笑]


[うーんと哲学?笑]


[違う違う笑]

[私たちが生まれた瞬間とか何かを選択した瞬間に世界って変わってると思うの]

[産業革命に比べたらだいぶ小さな変化だけど笑]


“例えば春也と出会った瞬間とか。これは産業革命にも負けないくらい大きな変化だけどね。”


 あの時のことを思い出しながらメッセージを送る秋葉の顔が、思わずにやける。


“俺も秋葉にあった瞬間に世界、変わったかもな。”


 春也も似たようなことを考えて、スマホ片手に笑顔になる。

 穏やかなトークが流れるなか、竜馬と蘭の漫才も長丁場となっていた。

 「もうええわ」「どうもありがとうございました~」までは、もう少し時間がかかりそうである。


[めっちゃ良いかもしれない]


[ほんと?]


[うん]

[身近だし分かりやすいし明るいテーマだし]


[やったー]

[(((o(*゜▽゜*)o)))ワーイ]


[笑笑笑]

[そしたら竜馬と蘭のギャーギャーが止まったら提案してみよっか]


[うん!]

[よろしくね]


[え?]


[ん?]


[秋葉が提案するんでしょ?笑]


[そうなの?笑]


[だって秋葉のアイデアでしょ笑]


「はーい。そこのバカップル~」


 急に通話の雰囲気が変わり、蘭が春也と秋葉に呼びかける。

 いつの間にか漫才は終幕して、元の状態に戻っていた。


「あ、ごめん」

「ごめん蘭ちゃん。何かあった?」


“バカップル否定しないんかい。”


 蘭は心の中でツッコミを入れつつ、せっかくなのでもうちょっと煽ってみる。


「何かあったじゃないよ~。どうせ2人でこそこそイチャイチャとラウィンしてたんだろうけどさ~」


 そうなった原因は竜馬と蘭がイチャイチャ……というよりギャーギャーし始めたことが原因なのだが、まるで棚上げである。


「イチャ……っ!」

「そそそそんなことないよ?」


“あー甘……。砂糖入れ過ぎだって。”


“春也め……どんどん甘くなってくじゃねえか……。”


 蘭も竜馬も糖分過多の表情を浮かべる。

 ただ煽れば煽るほど砂糖が排出されそうなので、ここらでやめておくことにした。


「それで何かアイデア出た?」

「うん。ちょっと考えてみたんだけど……」


 秋葉はぼんやりとした自分のイメージを話す。

 静かにそれを聞いていた竜馬と蘭は、秋葉が話し終えるなり声を上げた。


「あり!」

「秋葉っちナイス~。めっちゃいいじゃん!」

「そ、そうかな。でも良かった」

「生まれた瞬間に世界が変わるっていうのめっちゃエモい。じゃあ明日の授業では……」


 少し間を置いて、蘭が高らかに宣言した。


「各自、赤ちゃんの頃の写真を持ってくること!」

「「「……!?」」」


 春也と秋葉だけでなく、竜馬も口をあんぐり開けて固まる。

 かくして、週のど頭から羞恥の赤ちゃんの頃の写真大放出会が開催されることに決まったのだった。

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