拷問令嬢は三度の飯より拷問が好き ~婚約破棄するとか何を考えているんですの!?~
3作目の異世界恋愛です。今回はいつもの手癖で書いてみました。
「ファリス! 君とは婚約破棄をさせて貰う!!」
「嗚呼! ルクセン様! どうして!?」
侯爵家子息、ルクセン様より一方的に婚約破棄を告げられ私は泣き崩れました。しかし、私を見て悪びれることも無く彼は言います。
「どうして。だと? 決まっているだろう! 屋敷の地下にこんな悍ましい物を置いておく奴と結婚できるか!」
ビシっと指差した先。そこには、私が趣味で集めた拷問器具がゴロゴロ転がっていました。アイアンメイデンから、三角木馬まで。Hな気分に浸れる物から、HELLな気分を味わえる物まで幅広く取り揃えております。
「ですが、いずれルクセン様と相対する勢力が現れた時に、内助の功がバリバリに輝きますよ?」
「いるか! 兎も角、私はお前の様なイカレ女と結婚するのは御免だ。ついでに、周囲の者達にもお前のイカレっぷりを話しておく」
「酷い!」
「酷いのは、お前の趣味だよ!?」
そんなことをしたら、私のことを嘗め腐った奴らを捕えて拷問にかける趣味が堪能できなくなります。さめざめと泣きながら、私は最後のお願いをします。
「うっうっ。せめて、ここまで付き合いがあったのです。最後のお願いがあります」
「……言ってみろ」
「あちら。三角木馬の上に乗って貰って、シャセイさせて欲しいのですが」
「死ね」
ドストレートな暴言を吐いて、ルクセン様は去って行きました。ルクセン様の悶絶姿を写生したかっただけだったのですが、甚く気に入らなかったようです。
~~
ここはハイドランド王国。貴族や金持ちは程々に腐っており、人々が醗酵してチーズみたいになった街でも元気に生きております。
かく言う私も、しょっちゅう屋敷を抜け出してはみすぼらしい格好をして、奴隷を品定めしたり、安酒を飲んだりしている訳ですが。
「オロェロロロェェエエエ」
往来で安酒を飲みながら、ゲロを吐いている労働者。危険な作業で手足を失い物乞いをしている者達、競売に掛けられている奴隷達を見ながら、私は安全圏で至福を謳歌します。
「ゲフー。堪りませんわぁ」
素行も悪ければ、性根も腐っている。となれば、お父様やお母様達も諦めるのは無理のない話で、ルクセン様に一縷の望みを掛けていたみたいですが、全てご破算となりました。
「って訳で、御破算よぉ。ガハハ!!」
「美味しい…」
物乞いをしていたオジサマに安酒を振舞いながら、私は愚痴を話していました。
相手はお酒に夢中でロクに話も聞いていませんが、家で飼っているインコに話すよりは気分が良くなるのでベラベラ恥を話していると、これまたボロボロの身なりを着た男達が現れました。
「今の話、本当か?」
「あらら~? 貴方達も酒が欲しいんですか? でも、愚痴は吐き終えたので、またの機会ということで」
「いや、用があるのはお前だ」
よく見れば、彼らは体の一部を損傷して居たり、顔に包帯を巻いていたりと。廃兵の様な出で立ちをしておりました。
「私を捕えてどうしようと?」
「この国に産まれてロクでもねぇ事ばかりだったからな。もう、こんな生活とはオサラバしてぇんだよ!」
見れば、隣にいた物乞いの男は尻尾を巻いて逃げ出していました。ただの乞食に立ち向かう勇気を求めるのは酷にしても、1人の女性にこれだけ集るのは止めて欲しい所です。
ですが、私も捕まる訳には行きません。ポケットに仕舞っていた鈍色の鉱石を取り出し、息を吹きかけると高熱を帯びて破裂しました。砕け散ってとんだ破片が、男達の顔面を中心に襲い掛かります。
「がぁあああ!? くそ! 目が! 目が!」
「まぁ、大変! 急いで治療する為にも、御屋敷にお連れしないと!」
襲い掛かって来たのは向こうの方ですし、苦しみから解放することを治療と言うのなら、私の心意気は間違っていません。
これが私の日課。不満を持つ人間をあぶりだして、捕えて、嬲って、嗜虐癖を満たす。人々はこの街を腐っているとおっしゃいますが、私には熟れて、発酵した果実の様に甘ったるく素晴らしい街だと思っております。
「サディストのクズめ」
「え?」
ただ、今日だけは違っていた様で。彼等の中に手練れが混じっていた様で、一瞬で距離を詰められました。手にしていた短剣を、私の胸元目掛けて付き出そうとした所で。その腕を掴み取りました。
「!?」
「まさか、私が道具頼りのボンクラだと思いましたか?」
空いた手で、彼の顎を2,3発打ち据えて気絶させました。私が彼の相手をしている間に、襲撃して来た男達は既に逃げていた様で、仕方なく。私は彼だけを持って帰ることにしました。
~~
「さぁ、吐きなさい。貴方は何者なの?」
拷問部屋の面目躍如です。あらかじめ薬で力を奪っておいて、素顔を露わにした所、表れたのは貧民層とは思えない程に美しく整った顔立ちをした美青年がおりました。明らかに庶民ではありません。
「くっ、殺せ!」
「質問に答えなさい」
「ぐっ。うぅうう……」
グラグラと彼の体を揺らすと、三角木馬の頂点が食い込む痛みと快楽から甘い吐息を漏らしていました。どんな上等な酒でも味わえない、甘露とは正にこのことでしょう。
このシチュエーションを堪能するのは悪くないのですが、事情を知らないのは気持ちが悪い。なので、早々に吐いて貰う必要があるので薬瓶を取り出しました。
「さて、問題です。この取り出したる3つの薬瓶は、自白剤、興奮剤、下剤の3つとなっています。好きな物を、選んでくださいまし」
「ふらけるな!」
呂律が回らず、痛みと屈辱で赤面した美顔が何ともセクシーですが、選んで貰わないと3つブレンドした物を渡さざるを得ない所です。
「もしも、選ばなければ上も下もゲロゲロカクテルとして提供するのですが」
「そいつだ。ソイツを寄こせ!」
と言って、彼が選んだのは自白剤でした。この3つの中から、これを引き当てるなんてある種の幸運というか、不運というか。間もなく意識も酩酊して来たのか、利性も働かなくなって来た彼に質問をしました。
「誰の命令で、私を襲って来たのですか?」
「ルクセン、兄上……」
「まぁ! ルクセン様が!? どうして!?」
「ファリスを……拷問令嬢を始末して来いと。アレと交際していたのは、恥だと」
なるほど。婚約破棄とは言いますが、私の素性がどうあれ婚約を破棄すると言う行い自体は、本人の信用にも関わってくることです。
なので、私は不幸な事故に遭って婚約も破談となってしまったと言う方が、本人的に収まりが良いのでしょう。
「おファッキュー! あの野郎許しませんことよ!」
そろそろ体力の限界になって来た弟さんを三角木馬から降ろして、私の寝室へと運んでいきます。
自白剤の投与と拷問を経て、快楽と苦痛で恍惚とした表情はまさに芸術品。このまま額縁に入れて飾りたい、または固めて彫刻にしたいという衝動に駆られますが、仮にも今まで付き合いのあった婚約者の弟をそんな目に遭わせるわけには行きません。
「ふむ。それにしても似ていますね」
自分の弟を刺客として放つなんて、何を考えているんでしょうか。もしかして、私が獲物を無くして寂しいだろうと思って、新たに捕食対象を送ってくれたんでしょうか。ルクセン様も意外とサディストかもしれません。
しかし、こうしちゃおれません。私は荷物をまとめて出立の準備をします。元より、そこら辺をブラブラ歩いている教養も品位も糞もありません。
~~
「うわぁ!?」
荷造りを終えて、ベッドで寝ていた私は弟さんの悲鳴で目を覚ましました。女性が横で寝ているだけで叫ぶなんて、おぼこも良い所ですね。
「あらま。起きましたか?」
「お前! 俺を生かして、どうしようって言うんだ!?」
武器になりそうなものを全て取られていた彼は飛び退こうとしますが、薬の効果が残っていたので床に崩れ落ちました。そんな彼を立ち直らせるべく、私は瓶を取り出します。
「情けない。これを飲みなさい」
「これは、解毒剤か?」
「牛乳ですわ」
「ふざけんなよ!!」
と言っても、大量に汗を流していたこともあり。彼は牛乳を一気飲みしていました。多少力が戻ったのか、ヨロヨロと立ち上がります。
「貴方を生かしてどうするか。でしたわね?」
「俺の家を脅すのか? だとしても無駄だぜ。俺は勘当されているからな」
どうやら、彼も結構な訳ありの人間な様です。パッと思い浮かぶのは妾の子とか、あんまり良い立場ではないと言った所でしょうか。ならば、提案することは一つです。
「私の目的はですねぇ。私と婚約破棄したルクセン様を拷問して快楽メス堕ちさせた後、やはり私と結婚して欲しいと申し出る様に仕向けることです」
「……は?」
「貴方を見て確信しました。貴方達の一族はですねぇ、もう拷問映えが素晴らしい。拷問されるために産まれて来た存在と言っても過言ではありません。なので、これから一緒に旅立ちましょう」
バサっと彼用の衣服を渡します。流石に武器までは渡せませんが、公衆の面前に連れ出す以上。相応しい装いはあります。
「え、嫌だけれど……」
「オォン!? 文句言ってんじゃないですわよ!」
スラッパーで彼の尻を引っ叩いて、食卓へと連れて行きました。冷めたスープにパンを浸しながら、モソモソと食していきます。とてもじゃないですが、令嬢が食う物じゃありませんわね。
「令嬢飯じゃなくて、令状飯ですってね。オホホ!!」
「……お前、いつもこんな調子なのか?」
「そうですわ。どうせ、ロクでもない世界。望まれない者同士。好きに生きてみませんこと?」
不意に。弟さんが真顔になりました。いつもは笑って眺める所なのですが、何故か、正視が出来ずに目をそらしてしまいました。
「アダルだ。俺の名前はアダル」
「そう。アダルさんですか。よろしくお願いしますわ」
かくして、婚約破棄した相手快楽メス堕ちさせる旅が始まろうとしていました。……まぁ、目的がロクでも無いから道中でも碌でもないことが起きるのは分かり切っている事なのですが!
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