舞台俳優
「そ、そうだったんだね…」
「なんかあっくん忙しそうだったからさ~」
と、電車を降りて二人で歩いて家に向かいながら莉乃愛と話した。
「ち、ちなみになんて連絡来たの?」
「え、なんだっけなぁ」
そういうと莉乃愛はスマホをコートのポケットから取り出した。
「えっとー、『高校卒業した後の、お前の仕事を見つけてやったから家に帰ってこい』だってー」
もうこの1文だけで全くいいことじゃないことが想像できる。
「な…なるほど…」
「これ、どうしたいいー?」
「えっと…とりあえず寒いし、家帰ってから話そうか…」
「りょ!」
と少し前を歩く莉乃愛は、俺の方を振り返って手を敬礼みたいにしながらニコっと笑っていた。
なんて楽観的な……。
まぁそこが莉乃愛のいいところでもあるから、何とも言えないが…。
家に帰り、買ったものを各自の部屋に持って行き、部屋着に着替えると、同じく部屋着に着替えた莉乃愛がやってきた。
「それでさー、あっくんこれどうしたらいいー」
と莉乃愛はスマホを見せながらベットに座った。
「と、とりあえず、何も返さずスルーしてくれててよかったよ…」
「だってチャットで戦うなって怒られた!」
あー雪菜さんの時か…
「あ、いや、怒ってたわけじゃなくて…」
「わたしは学ぶんだよ!」
と、エッヘンみたいな感じで莉乃愛が言う。
「と、とりあえず、どうするか考えるね」
「うん!」
「ちなみにりのあがお父さんに、仕事見つけてとかお願いしたわけじゃないんでしょ?」
「あったりまえじゃん! 数年ぶりぐらいに連絡来た感じ!」
「なるほど…ちょっと待ってね…」
「あいよー!」
そういうと莉乃愛は「ふんふん♪」と鼻歌を歌いながら、スマホをいじりだした。
んー…
別にお願いしてるわけでもないのに、仕事を見つけるって絶対何かあるだろ…。
何かが何かはわからないけど。
とりあえず、このまま無視してもいいかもしれないけど、どうせいずれどこかで莉乃愛は向き合わなきゃいけないことなんだよな…。
それだったら、俺やうちの親父が近くにいる今の方がいい。
ただ、ノコノコ出ていって後手に回るのは避けたい。
よからぬことが起こる可能性が高いとわかっているなら先手を打ちたい。
せめて何かがあるなら、その何かが何なのか少しでもわかれば…。
そう思いながら俺は莉乃愛に話しかけた。
いつの間にか、俺のベットに寝そべっている。
もう家族みたいな認識だったからこれまで何も思わなかったけど、いざ冷静になるとやばい…
いや、ほら、トレーナーとかめくれて少し背中見えちゃってるしさ…
「り…りのあ?」
「なーにー?」
「あ、あの、お父さん、家に帰ってきてなかったって言ってたよね?」
「あーうん、そだね!」
「家に帰ってこなくて、どこにいたかとかは知ってる?」
「んーーー全く!!」
ドヤって感じで莉乃愛は言った。
前途多難だ……。
「な、なるほど…どうしようかな……」
「わかんない!」
「り…りのあも自分のことなんだから少しは…」
「お母さんがね、「不得意なことはそれが得意な人に任せればいいのよ!」ってこの前言ってた!」
母さん…。
まぁ確かに母さんも、少し難しくなってくると大体親父にポーイってしてる…。
「ち、ちなみに、お父さんって何の仕事してるの?」
「うーん、最近はわからない! 昔は舞台俳優? だったらしいよ!」
「へ、へぇ、そうなんだ」
「お母さん、あ、死んじゃった本当のお母さんね? も、昔舞台俳優だったって小学生の時聞いた!」
「な、なるほど」
「でも、お母さんは結構早くに運営側の仕事に回ったらしいんだけど、そっちの方が才能あったんだって!」
「あぁ、なるほど、確かに小さい頃もお母さんがすごい働いてるイメージだったね」
「お! 覚えてるんだ!」
「な、なんとなくだけど…」
「知ってるのはそれぐらいかな~」
「なるほど…舞台俳優か……りのあ、お母さんとお父さんの下の名前教えて?」
「お母さんは美乃梨で、父親は雄一だね!」
「あ、うん、わかった。ちょっと調べてみるから、とりあえず俺が言うまでお父さんからの連絡はそのまま無視しといて…」
「りょうかーい! あ、華蓮から電話だ!」
そういうと、莉乃愛は部屋から出ていった。
本名しかわからないから、芸名とかつけてたらネットじゃわからないだろうけど、何もわからないよりはましか…。
そう思って、俺は莉乃愛の両親の名前をパソコンで検索した。
お父さんの方は全くわからなかったが、お母さんは1つだけ、昔開催した舞台のディレクターとして名前が載っていた。
主催事務所がオフィスGで、協賛事務所がからめるスタジオ。
からめるスタジオの方はネットに情報がもうなかったが、オフィスGはまだ存在するみたいだ。
オフィスGの所属俳優を見たが、莉乃愛の父親らしき人はいない。
わかるのはここまで。
後は…。
数日後、高校最後の3学期が始まった学校で、
「おーっす、ちょっとだけ見たぞ10時間配信」
「直人、相談がある」
「え、無視?」
「そんなことより相談があるんだよ」
「そんなことって…んでなに?」
「舞台俳優の事務所につてある?」
「なんだ急に。りのあちゃんが舞台俳優やりたがってるとか?」
「あ、いや、そんなことは全然ないんだが、ちょっと調べ事してて…」
「舞台俳優の事務所を?」
「うん」
「なんでまた」
俺は状況をかいつまんで話すと、
「なるほどねー。しかしりのあちゃんの両親って舞台俳優だったのか」
「俺もはじめて知った」
「でも、確かにお前の言う通り、いいこと起こる気がしないなそれー」
「そうなんだよ。ただ、そうわかってるなら先手を打ちたくて、せめてなんか情報ないかなと」
「まぁそうなるわなー。ただなー、うちの親父がやってる芸能事務所と、その見せてもらったオフィスGってところみたいな舞台俳優専業のところって、もう似て非なるものなんだよなぁ」
「そうなのか」
「もう仕事の仕方も全然違うぞ。多分その俳優さんとかが自分で舞台のチケット売ったりもしてると思うぞ」
「へぇ」
「まぁとはいえ、完全に別ってわけでもないし、もしかしたら親父ならなんかあるかもしれないからちょっと聞いてみるわ」
「頼む」
「おっけー、わかったら連絡する。ところでさー、雪菜ちゃんにさー、初詣行こうって誘ったらさー、もう行っちゃったって断られたんだよー」
「あ、ごめん、それ俺一緒に行った」
「お前………やっぱり協力するのやめていい?」
「いや、それは困る」
「なんでお前ばっかりーーーーーー許せねええええええええ!」
と言いながら直人はヘッドロックしてきた。
「べ…べつの…用事があったん…だよ」
そんな感じで直人にじゃれつかれつつ、協力を依頼した。




