【中里雪菜視点】確かめる
この物語はフィクションです。
そうしてその日の配信も変わらぬ状態で、なんか最近不完全燃焼だな~なんて思っていると、湯月くんからメッセージがきた。
『近々ホロサンジの事務所に行く機会はありますか?』
『え、どうしたんですか?』
『今回の件がわかるかもしれないです』
『えぇ??』
『わからないかもしれないんですが、もし事務所に行く機会があるなら雪菜さんに試してほしいことがありまして』
『えっと、丁度明日、イラストレーターさんとの打ち合わせで行く予定ではあるんだけど…』
『あ、じゃあ、今からやって欲しいこと説明するんでディスボできませんか?』
『大丈夫だよ。繋ぐね!』
そう言うと、私はディスボを起動し、アークさんとのチャンネルに入った。
すぐにアークさんもチャンネルに入ってきて、
「急にすいませんー」
「あ、うん、大丈夫!」
「それでお願いしたいことなんですが…」
「あ、うんでもちょっと待って! 今回の件って、今私たちの配信が荒れちゃってる件?」
「あ、はい、すいません! そう言えば、行けるかもーって思って説明足りてませんでした、すいません…」
「あ、うん、大丈夫!」
「一応りのあから頼まれたことはこの前話したと思うんですが、俺自身もゆきはさんが変に悩んじゃったら嫌だなと思って、調べてみたんですね」
「う、うん」
「チャンネルとSNSはどうにもできないんですが、掲示板をちょっと調べまして」
「あ、掲示板ってあの?」
「はい、あることないこと書いてある掲示板です」
「あ、うん」
「それで細かい流れは省きますが、あの掲示板の本当に一部の書き込みがどこからされたのかの、おおよその位置がわかったんです」
「え、まさか…」
「あ、いや事務所と確定したわけではないんですが、わからないものが多いんですがアクセス先がわかるものは港区からのアクセスが多くて、更にその中に気になるアドレスがあったので、その気になるアドレスがホロサンジかどうか確かめたいんです」
「な…なるほど……」
「それで、明日の打ち合わせにノートPC持って行っていただいて、これから画面共有する操作をしてスクショを撮って欲しいんです」
「それっていいのかな…」
「えっと、問題視される方もいらっしゃるとは思いますが、普通に会議室に存在するであろうゲストwifiにログインしてもらい、別に違法でもなんでもないWebサイトにアクセスしてスクショするだけなので、悪いことではないと俺は考えてます」
「な、なるほど…」
「すいません、僕にもっと実力があれば、こんなことお願いせずともわかるのかもしれないんですが…」
「あ、いえいえ! むしろ私達のことなのにそこまで考えてもらっちゃってごめんなさい」
「それは大丈夫です! おかげと言ってしまうとあれなんですが、最近プログラミングの勉強してまして、一気に前に進めた感じなんです…」
「な、なるほど…」
「ということなんで、お願いできますかね…?」
「難しくなければ…」
「簡単です! 画面共有しますね!」
そう言われると、アークさんのパソコンの画面が映し出された。
そしてそのまま、アークさんの解説の元、操作を教えてもらった。
思ったよりというより、普通に簡単だ。
ノートパソコンでゲストwifiに繋いで、アークさんに指定されたサイトにアクセスして、表示された画面をスクショするだけ。
そうして私は翌日ノートPCを持って、打ち合わせに向かった。
「ゆきはさんいらっしゃーい!」
受付で太田さんを呼んでもらい、太田さんが出てきた。
「会議室とってあるから案内するねー」
「あ、は、はい」
「ん?? どうかした?」
「あ、いえ! お願いします!」
そう言うと、太田さんは奥に進んでいった。
別に悪いことじゃないと湯月くんには言われてはいるけど、なんか緊張する…
そして、会議室に案内され、「座ってー」と言われるので、普通に座ってノートPCを出した。
「イラストレーターさんまだ来てないのよね~」
「あ、そうなんですね!」
「しっかし、最近のあれ大丈夫? 私達も必死に原因探してるんだけどわからなくて…」
「はい、大丈夫です! ちょっと長い時間の配信とかはやりにくいんですが…」
「そうだよね~、あ、来たみたい! 迎えに行ってくるからちょっと待ってて!」
そういうと、太田さんは会議室を出ていった。
今しかない。
そう思い、私はノートPCを開き、テーブルのPOPに記載されているゲストwifiに繋ぎ、あらかじめメモしておいたURLにアクセスして、スクショした。
…
なんならwifiに繋ぐ方が時間かかったかもしれない……
暫くすると、太田さんがイラストレーターさんを案内してきて、これから作るグッズのイラストについて話し合った。
「じゃあ、こんな感じでとりあえず、案をいくつか作ってみましょうー」
「あ、はい、よろしくお願いします!」
「じゃあ、今日はこれで終わりなんでありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
そう言って、イラストレーターさんと出口まで案内されると、なんだか社員の人が何人かカフェスペースでピザとかを食べていた。
「あー、今日一応会社の最終出社日だから、ちょっとしたお疲れ様会みたいな感じかなー」
と太田さんが言った。
「あ、そうなんですね」
「まぁ私達マネジメントの人間はそれどころじゃないんだけどね~」
「いつもすいません…」
「いいのいいの! ゆきはさんも頑張ってくれてるし、私達も頑張らないとねー」
「あ、ありがとうございます!」
「それじゃここら辺で!」
太田さんと受付で別れ、私は配信があるのでそのまま家に帰り、配信前に撮ったスクショをディスボでアークさんに送った。
その後、配信を行ったが、また変なのが途中で少し来た。
ただ今日はいつもよりしつこくなかったので、3時間ほど配信を行えた。
配信が終わりディスボを閉じようとすると、アークさんから返事が来ていた。
『すぐに反応できなくてすいません。寝ていました…』
『そうだったんですね、大丈夫ですよ!』
『そして、あまりいいお知らせではありません…』
『ってことはやっぱり…』
『はい、一部の書き込みがホロサンジ社内から行われたことは間違いないです』
『えぇ…』
『とりあえず、ゆきはさんの担当の方に内密にご相談しましょう』
『そ、それがいいですね…ちょっと連絡します!』
私はそう言うと、スマホで太田さんに連絡した。
なんか少し後ろがうるさいところで通話がつながった。
「ゆきはさん今日はありがとねー! 今新幹線だからちょっとうるさいけどー」
「あ、そうなんですね! 太田さんお疲れ様です!」
「おつかれさま~。親が帰って来いってうるさくてー」
「そ、そうなんですね!」
「それで、どうしたのー?」
「あのですね、詳しいことは会ってお話しできればと思うんですが、知り合いが、今私たちの配信が荒れてることを調べてくれまして…」
「おー、ゆきはさんのファンはありがたいね~!」
「ファンなのかと言われるとちょっとわかりませんが…それで調べた結果、あの掲示板あるじゃないですか?」
「あの、あることないこと書いてあるやつー?」
「そうです! それで調べてくれた結果、最近配信を荒らしてるっぽいコメントと同じような内容の書き込みの中の一部が、ホロサンジの社内から書かれてるみたいだと……」
暫くの沈黙の後、
「本当?」
「私も詳細は分からないのですが、間違いないと…」
「えー――――それは大問題だなー―――――――!!!! ちょっと待ってね! 落ち着いて考えるから! ちょっと待って! えっと、ちょっとえっと、また連絡するね!」
「はい!」
「あ、このこと、まだ他の配信者とか他の事務所の人間とか誰にも言わないで!」
「あ、はい、了解しました!」
そう言うと、通話が切れた。
暫くして、太田さんからLIMEが届いて、『過程を詳しく聞きたいので、調べてくれた方に直接話を聞くことはできますか?』と連絡がきた。
湯月くんに聞くと『大丈夫です』と来たので、太田さんに伝えた。
なんかお墓参りとか、どうしてもやっておかないことがあるらしく、当初の予定より巻きで終わらせて1日の夜には戻るとのことで、2日にアークさんと一緒に会って説明してもらうことになった。
湯月くんに『2日です』と連絡すると、『それまでに書き込みしたPCが特定できないか試してみます!』と返事がきた。
いやいや、一体何をやってるの!
絶対それ普通じゃできないことだよね…。
これがいわゆるハッカーといわれる人なのか? 全然わからないけど…。
とりあえず、私に出来ることは視聴者の皆さんに大丈夫なことを伝えることぐらいなので、2日までは当初の予定通り配信を続けよう。
そんなことを思いながら私は眠りについた。




