とまらない
部屋に戻り、こんなん俺ができるようなことは何もないし、事務所の人も対処してるだろうから時間が解決してくれるんじゃないか…と思いつつも、一応『言うこと聞く券』の使用を明言されてるし、とりあえず調べるぐらいはしようかな…
券は後で、「今回は事務所で解決できたみたいだから返すね」とでも言おう。
そう思い、俺は軽くネットがどういう反応をしているのか調べ始めた。
暫く調べたところで、スマホのアラームが鳴った。
あ、やばい、今日は個人勢の方とコラボ配信の時間がもうすぐだ。
調べ物は一時中断して、俺は急いで配信の準備を整えてOPEXを起動した。
2時間ほどで配信を終え、俺は再び調べることを再開した。
夕飯の時間だと言うことでダイニングに行くと、既にダイニングテーブルに莉乃愛が座っていた。
「あっくん、どお?」
「んー-、とりあえず調べてみてるけど、なんとも…」
「あの後も雪菜の配信しばらく、コメントされて消しての繰り返しだったよ」
「ふむー」
「なんかコメント欄が定期的に「コメントを削除しました」で埋まるから、びみょーな空気感になってた」
「んーーー、そうなるよねぇ」
「あの人たちって何がしたいの?」
「それはちょっと俺にもわからない…」
「まぁあっくんがなんとかしてくれるでしょ!」
「さっきも言ったけど、今回は俺ができるようなことは本当ないのではないかと…」
「でも、雪菜友達だし!」
「うん、まぁ…でも、りのあ自分のことじゃないのになんか一生懸命だね」
「え、友達だし普通じゃん?」
と、当たり前でしょ! みたいな感じでこっちを見ながら言った。
直ぐメリットデメリットを考えちゃうような俺とは人種が違うな本当…でも、逆にこういうところは見習わなきゃいけない部分だよな。
なんて思いつつ、
「と、とりあずもう少し調べてみる」
「りょ!」
と話し、母さんと3人で夕飯を食べた。
夕飯を食べてすぐお風呂に入り、俺は再びネットを調べだした。
しかし全然わからない…
ゆきはさんだけなら、ゆきはさんのファンとかなんか気に障った人とかなんだろうが、まりんさん含め他に何人も同じ状態になっている。
でも、全員じゃない。
基準が全くわからないが、とりあえず登録者が10万人程度の人は対象になっていない。
女性だけというわけではなく、男性のそれこそロイドさんなんかも対象になっている。
途中まりんさんが配信していたので、調べながらずっとつけていたら、ゆきはさんと同じようなコメントが流れていた。
目的もわからない。
配信を荒らすという目的はあるんだろうが、その先に何かがあるのか、ないのかすらわからない。
動画配信は世界的に大きなプラットフォームなので、個々人に対しての細やかな対応は望めないだろう。
まりんさんの配信もそうだったが、どうも今はホロサンジの人が常時監視をしているようだ。
2時間ほどの配信だったが、最初から最後まで、コメント→削除の流れは続いていた。
こうなってくると、流石に視聴さんも黙っておらず、対象になっている方々のアーカイブのコメント欄は、『頑張れ!』みたいな応援のコメントと共に『まじでうざい』みたいなコメントも多くなっている。
ということは分かったが、だからと言って俺がどうこうできることもない。
そう思いつつ俺は、SNSを色々調べ、そしてバーチャル配信者の人について話す掲示板なんかも見てみた。
結論、全くわからない。
流石にこれだけ複数の人が同時に対象になっているとすると、荒らすだけじゃなくてなんか目的がありそうだが、それが全く見当もつかない。
他の事務所の嫌がらせの線は、そんなこと会社を上げてやろうもんなら、逆にその会社の人がネットに書きそうなもんだ。
ホロサンジへの何かマイナスの感情がある人の線は、企業なんだからこれまで関わった人全員がハッピーということはないだろうが、こんなことやっても別にその人になんのメリットもないだろう。
愉快犯というわりには、対象者が多すぎる気がする。
掲示板も見てみたが、まぁ匿名の掲示板なので好き勝手なことをみんな書いているが、それはいつも通りだ。
本当にわからないが、とりあえず雪菜さんが大丈夫か聞いてみよう。
『雪菜さん、なんかちょっと面倒くさいことになっているようですが、大丈夫ですか?』
『私は大丈夫ですよ!』
『それならよかったです!』
『りのあちゃんからも連絡もらいました!』
『あ、そうだったんですね』
『でも、一体なんなんでしょうか…』
『そうですよね…りのあにお願いされて俺も調べたんですが…』
『あ、聞きました! ありがとうございます』
『本当にわからなくて…』
『わたしは全然大丈夫なんですけど、視聴者さんに申し訳ないなと…』
『そうですよね…とりあえず雪菜さんが大丈夫な感じなのは良かったです!』
『はい! 冬休みなんで配信頑張りたいんですけどねぇ』
『そうですよねー…まりんさんとの歌の再生数もすごいですもんね』
『ちょっと恥ずかしいんですけどね』
『マリンスノー人気ですからね』
『箱舟さんが中々登場してくれないのですが…』
『箱舟さんはちょっと、色々と無理がありませんかね…』
『あはは(笑) でも、ありがとうございます』
雪菜さん自身は元気そうだ。
俺は再び掲示板やSNSを調べ始めた。
んー、これを見ててもわかる気がしない。
掲示板が一番荒れているのだが、別にそれは今始まったことじゃない。
ただ少し、配信が荒れてるからか、最近はその荒らしたコメントを拾ったような書き込みがチラホラある。
そこまで調べたところでその日は寝た。
翌日、起きて引き続き調べたが、昨日以上のことはわからない。まぁ昨日も、わからないことがわかったぐらいなのだが…
このまま見ているだけじゃ埒が明かない。
動画配信プラットフォームとSNSは、海外の大企業のサービスなので、俺個人でどうこうできることが一切ない。
しかし、掲示板はそこまで大きな運営母体ではなさそうという運母体がよくわからない感じなので、俺は特定のURLへのアクセス元がわかるようなプログラムはないかと考え出した。
外からサーバー情報とかを読み取ることができるなら、なんかしら方法があるのではないだろうか。
「あっくん」
「あっくん!!」
俺はビクッとして横を見ると、いつの間にか莉乃愛が横に立ってた。
「あっくん、何度呼んでも返事ない! 引きこもったらドア蹴破るって言った!」
と、莉乃愛に言われ、俺は恐る恐る莉乃愛の後ろの部屋のドアを見た。
良かった…ドアはついてた…
「あ、うんごめん…」
「夜ごはんだよ!」
「あ、もうそんな時間なんだ」
「え、ずっとその呪文みたいなやつやってたの?」
と、俺のパソコンの画面を見ながら言った。
「あ、うん。途中調べたりもしてるけどね」
「てか紙に書いてあることも、もはや何語? ってレベルなんだけど…」
「あ、うん、ちょっと難しいかも?」
「これで何するの?」
「雪菜さんのやつ、調べてた」
「あ、そうなんだ、何調べてるのかすらわからないけど、どうなの?」
「んー、まだ何もわからない」
「そっか…。そう言えば今日も雪菜の配信は昨日みたいな感じだったよ」
「ん~…なるほど」
時間が解決してくれるのかと思ったが、そうでもないのだろうか…
「とりあえず、ご飯だからね!」
「あ、うんわかった、ありがとう」
そう言うと、莉乃愛は部屋を出ていった。
俺はとりあえず、上着を着てリビングに向かい、用意されていた夕飯を食べた。
ただ、頭の中はずっと「あそこを変えればいいのか?」「でもあの信号どう解析すると」と、心ここにあらずな感じでとりあえず目の前にあるものを食べた。
「なんか久しぶりね~、新のこんな感じ」
「そうなのお母さん?」
「そうねー、前はいつだったかしら~? あー、あのOPEXってやつ始めた時だったかしら~」
「へぇ…」
「なんか一回集中しだすと、とまらないっぽいのよね~。お母さんは意味わからないけど~」
「そ…そうなんだ……」
そんな事を目の前で話されているが、俺は数学やらプログラムやらで頭の中がいっぱいだった。
そして、俺はとりあえず夕飯を食べ終わると、すぐさま部屋に戻り再開した。
「ブー――――――――――――――――――――」
と急にブザー音みたいな大きな音が鳴り、びっくりして音のなった部屋の入口を見た。
入口には、スマホを持った莉乃愛が立っている。
「お昼ご飯でーす!」
「あ、う、うん…」
「え、てか、あっくん寝た?」
「あ、いや、もうお昼ご飯ってことは徹夜しちゃったみたい」
「みたいってどういうことよ…自覚なく徹夜なんてあり得るの…」
「と、とりあえずお昼行くね…」
と、ヨロヨロと席を立ちリビングに向かった。
「あっくん、まじ大丈夫?」
「あ、うん、OPEX始めた時以来だ、こんなに時間を忘れたの」
「いや、それ昨日目の前でお母さん話してたじゃん…」
「そ、そうだっけ…」
そんなことを話しながら、お昼を食べにリビングに向かった。




