【中里雪菜視点】おじさんみたい
「おねーちゃんカラオケいつぶりー?」
「歌うのは中学以来かも…」
と、私は彩春と2人で街を歩いてる。
この前、急遽アークさんとgoodさんとOPEXの配信を行った。
太田さんからは、「今回はアークさんがいたから大丈夫だけど、あんまり突発的にやりすぎると荒れるから注意してねー」と、配信を始めてから初めて注意されてしまった。
でも、なんか楽しかったな。
goodさんもすごい話やすくていい人だったし。
最後の試合、ハンデ有でダメージ勝負したけど、2人がまさかの超本気で、ハンデがあっても負けてしまった。
だって、私がロングでダメージ稼ぐ前に倒しちゃうんだもん…。
そして萌え声は死ぬほど恥ずかしかった。
でも、視聴者さん達には非常に好評だったようで、『また来る代』と言って、結構投げ銭も投げられた……。
でも、そんな本気な2人について行けたし、私もダメージを与えられた。
OPEX着実に上手くなってるんだなと実感できてよかった。
萌え声は、恥ずかしいからできればもうやりたくないけど…。
今日は休日なので、お昼ごろから夕方にかけて配信をしたので、もう配信の予定はない。
ただ、事務所の人から提案されて、クリスマス前にまりんさんと2人でマリンスノーとして、最近人気の歌を歌ってみて、その動画を投稿することになっている。
もう久しく歌なんて歌っていないので、彩春にお願いして付き合ってもらって、練習のためにカラオケに向かっている。
「しかしついにおねーちゃんが歌を出すのか―」
「歌を出すっていうか、カラオケだけどね」
「でもちゃんとしたスタジオで録音するんでしょ?」
「そうみたい」
「そりゃ、ちゃんと練習しないとねーーー」
「彩春つきあってくれてありがとね」
「ぜーんぜんいいよ! タダでカラオケできるし!」
「それは任せて!」
最近では登録者が30万人を超えていて、まだ伸びている。
大分収益もあがっているようで、高校生にしてはってか普通の社会人としてでも、そこそこもらってるぐらいの、収入があるようになった。
お父さんは「いよいよやばい…」と言っていたが、私自身は特に実感もないので、こうしてたまに彩春にご馳走したり、奢ってあげたりするぐらいだ。
カラオケに入り、彩春が受付をして、言われた部屋に入ると、彩春が慣れた手つきでタッチパネルで曲選ぶ。
「さ…最近はそんな感じなんだね……」
「おねーちゃん……おじさんみたい…」
「いやだって…全然行く機会ないからさ……」
「まぁ配信頑張ってるのは知ってるけど、もう少し高校生がやることもやったらーー」
「んーーーー、まぁもう卒業だし!」
「おねーちゃん卒業したらどうするの?」
「このままバーチャル配信者専業かなぁ……」
「ええ、他に選択肢あるの?」
「あ、いや、そういうことじゃなくて、普通に日向ゆきはをやるんだけどさ!」
「えー、じゃあどういうことー?」
「えっと…いつか顔出し配信やってもいいかなーとか……」
「えええええええ? どうしたの? あんなに嫌がってたのに!」
「あ、いや、バーチャルやってるし逆に難しいことはわかってるから、その予定もないんだけどね…」
「そりゃそうだろうけど…」
「いやさ、文化祭の時のりのあちゃん見てたらさ、りのあちゃんだけど私の真似してくれてたじゃん? だから、なんか悪くないのかもなぁ……なんて……」
「……まじで?」
「いやでも! 日向ゆきはだからさ! もしそういうことがあってもって…」
「いやーーーー、まぁどうやってやるのかとかはわからないけど、あの、おねーちゃんがそう思えたってことはいいことだね!」
「そ、そうかな?」
「そうだよー! 前はバーチャルの方がー…みたいな感じだったのにー。あー、頑張ってよかった!」
「いろはありがとね! とりあえずは、日向ゆきはをもっと頑張る為に練習しないと!」
「よーし、んじゃ指定曲いれるよ!」
「あ、え、いや、最初はいろはが…」
「もーーーしょうがないなー! そしたら私が歌う間に心の準備してねー!」
「う、うん…」
そう言うと、彩春は慣れた感じで曲を入れて、マイクを持って歌いだした。
その後、私も指定曲を入れて歌って、原曲を聞き直して彩春にアドバイスももらいながら、練習した。
3時間弱練習して、家に帰りお風呂に入って、日向ゆきはのSNSを見ていると、湯月くんからLIMEがきた。
『この前急遽一緒に配信になっちゃいましたが、怒られたりしませんでしたか?』
『やりすぎは注意だよ~って軽く注意されたぐらいです!』
『なんかすいません…』
『あ、いえいえ! 私は楽しかったんで本当よかったです!』
『それならよかったです』
『goodさんもすごい話しやすい人ですね!』
『そうですねー、あんまりギスギスしたタイプの方ではないですからね』
『はい、よかったです!』
『それじゃあ、また機会がありましたらやりましょう!』
『太田さんはやっぱり入ってもらいたいみたいですよ(笑)』
『いやいや、ホロサンジはってかバーチャル配信者なんてできませんて』
『あはは(笑) 是非またよろしくお願いします!』
『はい、こちらこそ』
アークさんの中の人、湯月新くん。
りのあちゃんが髪を切りに連れてって、服を変えてから、何回か会ってるけど、すごいカッコよくなった。
それに喋るとやっぱりアークさんと一緒だから、本当に安心する…
同年代の男の子の知り合いなんてほとんどいないけど、湯月くんと後一応直人くんは、普通に気にすることなく喋れる。
やっぱり白風あげはを育ててくれて、日向ゆきはを支えてくれたアークさんは、私にとっては特別なんだなぁ。
そんなことを思いながら、明日の配信について日向ゆきはのSNSに投稿した。