【菅谷莉乃愛視点】絶妙にかみ合う会話
「ううううううう、寒くなってきたね!!」
と、隣を歩くあっくんに話しかけた。
「いや、もう寒すぎるよ…外に出るべきじゃない……」
と、あっくんはマフラーに顔をうずめながら答えた。
この前、華蓮たちと遊んで、華蓮の家でご飯をご馳走になって帰ってきたら、ちょうどあっくんが部屋から出てきた。
その後着替えて、あっくんの部屋に行った。
「あっくん、今週の土曜日暇でしょ?」
「え、配信の予定があるけど…」
「夜でしょ?」
「……まぁ…」
「わたし土曜日撮影なの!」
「へ…へぇ、そうなんだね」
「来るじゃん?」
「いやいや、俺一体なにしに行くのそれ!」
「ん? んー、付き添い?」
「いや、行かないよ…」
「直人がさ、その後カフェでも行こうって」
「そうなんだね…」
「あっくんいないとダメなルールじゃん?」
とわたしが言うと、あっくんは「はっ!」みたいな顔をした。
「そ…それは直人が誘う前に許可をとる必要があり…」
「ちょーーーーーと順番と聞く人が変わっただけじゃん!」
「いやいや、もはや全然違うと思うのですが…」
「だからー、あっくんに撮影についてきてもらって、そのあと3人でカフェ行って―、冬物買いに行こう!」
「冬物?」
「そう! あっくんの冬物の洋服!」
「いや、一応あるよ」
「夏物買いに行ったときに「今回は」って言ったはず!」
「……確かに…」
「ということで、土曜朝9時に家出発だから!」
「…了解した……」
あっくんは諦めたように、でも少しだけ笑いながら話した。
そして今日がその土曜日。
撮影に向かう為に、今二人で歩いて駅に向かってる。
「てかりのあ、寒いって言うなら、そんな短いスカート履かなきゃいいのに…」
と、あっくんは言った。
今日のわたしは、デニムのミニスカートにボーバリーの白いトレーナーを着て、その上から厚手で大きめのチェック柄のシャツをはおっている。
「えーー、今日の感じだとこのスカートが合うと思ったんだもん!」
「そうなんだね…」
そう言うあっくんは、ずっと顔をマフラーにうずめながらとぼとぼ歩いてる。
そうして私たちは電車に乗り、指定されたスタジオのある中目黒に向かう。
直人も撮影見たいってことで、中目黒駅で待ち合わせして、3人でスタジオへ向かった。
「おはようございまーす!」
と、スタジオに入っていくわたしの少し後ろを「へぇー」と言いながら直人がついてきて、その後ろを、おずおずとあっくんがついてくる。
「りのあちゃんおはよー! って、おおお!」
そう言って、いつもの編集の方が近くに寄ってきた。
「男連れなんて珍しい!」
「この後カフェ行って服買いに行こうと思ってまして!」
「えーーーーいいなーーーーー! 若いっていいなーーーーー! ってかどっちよ? どっち?」
「えー??(テレテレ)」
「あ、いや、わかったわ。流石りのあちゃんだわーーーーー」
「えーーーーーーーーー、わかっちゃいます?! いままで友達にバレてないんだけどなーーーー」
「いやーー、そりゃわかるでしょー」
「えーーー、恥ずかしいーーーー」
「いいなー、おばさんにもそんな時があったよ~」
「まだまだお若いじゃないですかぁー」
「ありがとねー! そしたら、今日はちゃっちゃと終わらさないとねー!」
「はーい!」
「んじゃ、まず最初の服更衣室に置いてあるからー、あ、今日は瑠奈ちゃんと一緒だからねー」
「はーい! 聞いてまーす! るなさん久しぶりだー」
そう言ってわたしは、教えてもらった更衣室に向かった。
ってか、えーーーー! わたしそんなわかりやすいかな…?
確かにあっくんはわたしにとっては特別だけどさー!
そんなことを思いながら、更衣室で着替えて、別の部屋でメイクとヘアメイクをしてもらって撮影に臨んだ。
そして何回か着替えて、るなさんとも一緒に撮ったりして、その日の撮影が終わったのは15時前だった。
「2人ともお疲れさまー」
「「おつかれさまでーす!」」
「るなちゃんもりのちゃんもすごい良かったよー! りのちゃんは髪も切ってるし、結構春っぽくなりそうだねー」
「この前学校の文化祭のミスコンに出たんで切ったんですよねー」
「へぇー1位だった?」
「モチ! あ、でもなんかギャップ勝負って感じだったんで、かわいい子選ぶとかではなかったんですけどねー」
「ギャップかー、それってどんな感じで出すのー?」
と、横の椅子に座ったるなさんがお茶を飲みながら聞いてきた。
「なんか普段の動画流して、ギャップある感じで登場って感じですね!」
「あーなるほどねー」
「あ、その時流した動画ありますよ? 見ます?」
「見る見る―!」
そう言って、限定公開URLを開いて、るなさんと編集さんにスマホが見えるように置いた。
そして動画を見た二人は、
「やばすぎでしょ…高校生の作るものじゃないよねこれ…」
「いや、うちの会社でもこんなん作れないんだけど…」
「あ、当日の映像はないんですけど、わたしが当日なりきった子の動画もありますよ!」
と、今度は雪菜の動画を流した。
それを見た編集さんは、
「ちょちょちょっと待って! この子紹介して!」
「あーこの子もう事務所所属しちゃってるんですよー」
「そうかああああああああああああああああ、もっと早く教えてよーーーーーーー」
「てかりのちゃんこの子になって登場したの?」
と、るなさんが聞くので、雪菜なわたしになって、
「は、はい! 上手くできてるか自信ないんですけど…」
と、少しうつむき加減に恥ずかしそうに笑いながら言った。
「や……やばすぎ……。惚れた」
「り…りのちゃん、それって仕草とかも変わるの……?」
と編集さんが言うので、わたしは立ち上がって、
「こ、こんな感じですかね…」
と、わたしはミスコンで一番盛り上がった、はにかみ笑顔で少しサイドの髪を持ち上げ、首をかしげる仕草をしながら言った。
それを見た、2人は、
「りのちゃん…やばすぎ……それは破壊力高すぎる」
「こ、これは……り…りのちゃん、今度からこのバージョンのカット構成いれていい……?」
「いいですよー! 結構練習したんでいつでもできるのでー」
「これは負けるわけないねー」
「てか動画は誰が作ったの??」
「あ、あの動画は、今日わたしの付き添いで来た2人のうちの片方がつくりましたねー」
「あーーーーー、確かに動画編集とか得意そうな雰囲気ではあるねーーー」
「えー? あの男の子2人りのちゃんの付き添い?」
「そうだよー、この後買い物行くんだってー」
「えー、それってー?(ニヤニヤ)」
「そういうことらしいよー?(ニヤニヤ)」
「なるほどねーーー、確かにあたし付き添いってか、一緒に撮影するモデルかと思ったもんーーーー!」
「えーーーーーーー、るなさんにもわかっちゃいますかーーーーーーー、どうしよーーーーー」
「ま、そんなわけなんで、今日はこれで終わりだから、2人ともこれであがっていいよー! おつかれさまー!」
「「おつかれさまでーーす」」
そしてわたしは着替えて、3人でカフェに行って、その後3人であっくんの洋服を見に行き、着せ替え人形して、購入した。
もちろん、いつから着ているのかわからない、よれよれなあっくんの着てきた服は捨ててもらった。
そして帰りの電車の中で、
「そういえばりのあ」
「んー?」
「直人が編集さんに、「所属モデルになってくれるように彼氏くんからもお願いしてくれない」って言われてたけどさ…」
「はぁ?! 直人が彼氏なわけないじゃんー! ないない! ありえない!」
「あ、いや、そこじゃなくて…所属モデルって話があるんなら、進路の話進められるんじゃないの?」
「あ、確かに! そんなこと前に言われて断ったこと忘れてた! 言われたっけ?」
「え、いや、俺は知らないけど…」
そう言えば昔そんなことを言われたような気もする。
言われたっけなぁ…
また忘れそう……
そんなことを思いつつ、わたしとあっくんは、大荷物になったあっくんの冬服をもって家に帰った。