【中里雪菜視点】伸び悩む
動画配信を始めるにあたり、配信者名のSNSアカウントをつくり、配信チャンネルもつくり、どうせうまく隠したりできないだろうからJK配信者である旨も記載した。
配信を開始してから4カ月で登録者は5,000人を超えて、1年ぐらいで1万人を超えていよいよ収益化できるところまできた。
その間他の配信者の方の動画を参考にして、色んなゲームに挑戦してきた。私個人としてはまったりじっくり進められるメインクラフトがお気に入りで、これまでに様々な建築を作ってきたり冒険したりした。
しかし、1万人以降は明らかに登録者の伸びが悪くなり、これだとダメかもと思い、今まで手を付けていなかった、何となく私は苦手そうだけどすごく配信で人気のゲームに手を付けてみることにした。
それが丁度高2の夏になろうという季節だった。
その頃の私は登録者の増加の他にもう一つ悩みがあった。それが、
「おー、西の中里さん」
そうやって詩織が学校で話しかけてきた。
「それやめてよ~~」
「西の中里。東の菅谷。なんかかっこよくない?(笑)」
「かっこよくないから~~~」
そう、西の中里、東の菅谷となぜかその頃近隣の高校生の間で呼ばれていたのだ。
それぞれの勢力を守り拡大を画策する組織の長。
というわけではなく、単に私の高校が駅を挟んで西側にあり、東側には公立高校があり、それぞれの高校で飛びぬけて可愛い子がいて、どっちも彼氏がいないということで、いつしかそう呼ばれるようになっていたのだ。
「いやー近隣の高校まで巻き込んで美少女のうわさとは、皆暇よの~」
「はぁ…」
そういう詩織の横で私はため息をついた。更にはそれだけに留まらず、中学時代の友達からも、友達に紹介したいとか、今度グループで遊園地に行くときに一緒に来て欲しいとか、そういう連絡が頻繁に来るようになっていたのだ。
「いやー、可愛いって意外に大変だねぇ! 可愛い雪菜の友達の私も大変になったけどね! この前なんか、中学の元彼から久しぶりに連絡来たと思ったら、『雪菜を紹介してほしい』だよ? 100万年早いって一蹴してやったわ!」
「ありがとねー。私は今、白風あげはしか興味ないんだけどなぁ…」
「まぁ知ってる人少ないしねぇ。最近伸び悩んでるんでしょ?」
「うんー…。やっぱり配信で流行りのゲームにも、手を出さないとなのかなぁと思ってるんだよねぇ」
「配信で流行りのやつってあれ?あの銃で撃つやつ」
「そうそう、OPEX。事務所に入ってるわけじゃないから一緒にやれる人もいないし、苦手そうだからって避けてきたんだけど…」
「あー、確かに雪菜苦手そうだねぇ」
「とりあえず、今日一回やってみようと思ってるんだよね」
「そうなんだー、頑張ってね!」
そう詩織と学校で話して、帰り道にチラチラ高校生ぐらいの人達に見られつつ、家に帰って配信の準備を始めた。
「お姉ちゃん、今日いよいよOPEXやるんでしょ?」
「流石にやらないと無理なのかなーと思ってさー」
「まぁ人気だもんねー。有名な配信者の人みんなやってるもんね」
「そうなんだよねぇ」
「うまくいくといいね!」
「うん、ありがと!」
「そういえば、あの高校って制服のスカートって短くしていいか知ってる?」
「んー、知らないけど、友達は知ってるだろうから聞いてみるね!」
妹は、私が卒業してからも紹介をせがまれ、そして西の中里の話を聞いてからは「やっぱり私がいないとダメだ!」ということで、流石に専門系には興味がなさすぎるのか普通科のある駅の東の公立高校に進学すると決めていた。
一緒に通学できるし、妹がいてくれるのは嬉しい。
リアルの方はとりあえず今すぐどうこうもできないし、まずは初めてのOPEX配信を頑張りますか。
「やっほー、こんばんは! 白風あげはです! 今日は最近流行ってるOPEXをやってみたいと思いますので、皆さんよろしくお願いします! ただFPSが初めてなので、少し大目に見てくれると嬉しいです!」
そんな感じで始まったOPEX配信だったが、散々だった。
操作とか多少は練習したものの、やっぱり今までやってきたゲームとは動かす速度が違いすぎて、全くうまくできなかった。
コメント欄も、
『流石にひどすぎる』
『もう少し練習してからにしたら?』
『パーティーになった人がかわいそう』
『完全な地雷』
と散々な状態だった。
流石にこの配信を続けることはできないと思い、それ以降の配信はいつものゲームジャンルに戻して、特にそれで大炎上とかはしなかったけど、やっぱり登録者も中々増えない。
配信していない時に、ちょっとずつ練習はしてみたけど、到底見せれるレベルではない。
「お姉ちゃん、OPEXうまくできるようになったー?」
「んー…まったく…。このレベルじゃ流石に配信できないよぉー」
「まぁ確かに。ひどかったもんねこの前!(笑)」
「言わないでーーー」
「まぁでも、視聴者さん離れてたりしなくてよかったじゃん!」
「それは本当によかったんだけどぉー…やっぱり伸びないんだよねぇ。何か別の方法ないかなぁ…」
「学校にOPEXうまい人とかいないの? 教えてもらえば? パソコン科とかあるしいそうじゃない?」
「いるかもしれないけど、学校の人にはバーチャル配信者してるってこと、あんまり言ってないし…」
「んー、あ! 今度私行く高校あるじゃん?」
「うん、まだ受かってないけどね」
「偏差値余裕だからそこは大丈夫! んでね、同じ高校に行く人が友達にもう一人いるんだよ!」
「へー、ちょっと遠いのに珍しいね」
「なんかあの高校、テニス部が強いらしく、テニス部の先生に誘われてそこにしたんだって! それで、もうテニス部の練習に時々顔出してるらしいの。んでね、その子のお兄ちゃんがなんとあの、四谷高校に通っているのです!」
「へーー、すっごい頭いいんだね!」
「ということで、そのお兄ちゃんに聞いてもらえば、頭いい高校だしOPEX教えてくれそうな人とか見つけてくれそうじゃない?」
「頭いい人に対する偏見がすごいけど…」
「まぁちょっと聞いてみるね!」
『あかねー、ちょっと相談があるんだけどー』
『なにー?』
『お姉ちゃんがバーチャル配信者してるって言ったじゃん?』
『うん、知ってるよー』
『んでね、登録者が伸び悩んでてOPEXの配信したいんだけど下手すぎて流石に配信できないんだよ』
『流行ってるもんねー』
『それでさ、あかねのお兄ちゃんに誰か教えてくれる人いないか聞いてくれない?』
『なぜ、私の兄貴www』
『頭いいから』
『どういう流れよそれwwwでも、聞いてみる。あのチャラ男もたまには役に立てと』
『確かにあかねのお兄ちゃんイケメンだもんねー』
『顔はいいかもしれないが…『おれはやったことない』だって。ったくお主をあてにはしてねーよっと』
『頭いい高校だったらいそうじゃない?』
『お、ビンゴ!『親友と呼べるやつがゲーマーだ。OPEXをやってるかは知らないが聞いてみる』だって』
『おー、ありがとー!結果わかったら教えてー!』
そして次の日の放課後、私は今日は部活が休みの彩春と電車に乗って家に帰っていると、
『いろはー、兄貴から、親友がデスト帯ってレベルの人だって連絡来たー』
『デスト帯?』
『よくわからないけど、なんかOPEX用語?』
『とりあえずお姉ちゃんに聞いてみる』
「お姉ちゃんーー、OPEXを教えてくれる人探してたやつあるじゃん? なんかデスト帯ってレベルの人が友達のお兄ちゃんの親友らしいよー?」
「えーー! デスト帯って全世界のOPEXプレイヤーでトップ500人の人だよ?」
「うわー、めっちゃガチでうまい人じゃん…流石頭いい学校」
『全世界でTop500人のプレイヤーだって』
『やば、ガチ勢じゃん』
『とりあえずうまいのは確かだろうから教えてもらえそうか聞いてよ』
『おけー、待っててね』
『いいって! うまく教えられなかったら断ってもらっていいから、とりあえず1回やってみるってことになったらしい!』
『あかね流石!持つべきものは同じ高校に進学する友達!』
『あんたまだ受かってないじゃん』
『落ちないので大丈夫です』
『取引することになったけども…』
『取引?』
『前に今度行く高校にめっちゃ可愛い人がいるらしいよって話してたから、その人を紹介してほしいと…』
『おお、東の菅谷か…』
『テニス部の先輩と友達らしいからなんとかなるだろうけど…まぁ無理だったらゴメンネ☆で許してもらう』
『菅谷さんって人そんなに可愛いの?』
『んー、1回練習行ったときにチラッと見ただけだけど、なんかギャルっぽい感じだけどめちゃくちゃスタイルよかった』
『私の敵か…』
『私の敵でもある…』
『お姉ちゃんはDカップあるのになぁ…』
『アカウント教えてくれだってー! Ark0620ってアカウントでフレンド申請するから、承認してもらって後はどうするかそこで決めましょうだって!』
『おけ、おまち』
「お姉ちゃん、OPEXのアカウント教えてだって! フレンド飛ばすから後は直接どう進めるか決めましょうだって!」
「え、教えてもらうってことでいいの? と言うか、いいのそんな感じで?」
「いいのいいの、ほれ教えて」
「sirokaze_agehaCHだよ」
「了解―」
『sirokaze_agehaCHだって!』
『了解ー、任務完了!』
『ありがと! 今度アイスおごる!』
「お姉ちゃんー、連絡しといたから、後は直接決めてー!」
「ええ、いいのかな…」
「いいのいいの」
「彩春ありがとね」
「問題なし! アイスおごる代、頂戴ね! 私の分も!」
「はいはい(笑)」
そうして私はOPEXの配信に向けてArkさんという方にプレイを教えてもらうこととなった。