わたし決めた
俺は今、なぜか参加することになってしまった莉乃愛のクラスの、文化祭の打ち上げに向かう為に電車に揺られている。
雪菜さんのような莉乃愛から、元の莉乃愛へ戻る逆のギャップで油断した…
莉乃愛の高校の最寄り駅で降り、指定された場所に向かうと、ゲーセンとカラオケが合体したような施設だった。
莉乃愛から「お店の前に着いたら連絡して」と言われていたので、莉乃愛に連絡すると、
「つ、ついたよ…」
「あ、おけ、んじゃ一回店出るね!」
と、なんかコソコソ話してる感じで電話が切れた。
暫くすると、莉乃愛が店から出てきた。
雪菜さんバージョンの莉乃愛だ。
「あっくん、どおー?」
「え、うん、何でも似合うね…」
「えーー、結構すごい盛り上がったんだよー」
「それは見てたから知ってる。すごかった」
「でしょでしょ! 華蓮から連絡来るまでちょっと待って!」
「え、うん?」
「今さっき雪菜達をスペシャルゲストで呼んで大盛り上がりだから、いいタイミングで入る!」
「え、いや俺そんな注目されるの嫌なんだけど…」
「まぁまぁそう言わず! どうせどのタイミングで行ったって目立つって」
「ま、まぁ部外者だしね…」
「あ、華蓮から来た! ほら、行くよ!」
そう莉乃愛は言うと、俺の手を引いて店に入っていった。
カラオケのエリアに行くと、いくつかのドアを莉乃愛と同じ制服を着た人達が出入りしており、どうも何部屋かとっているようだ。
俺、カラオケという場所に来たこと自体が初なんだけど…。
と思いつつ、莉乃愛に引き連れられるがまま、そのうちの1つの部屋に入った。
部屋に入ると、わらわらと女子が群がっている向こうに雪菜さんが見えた。
するとその集団の脇にいた華蓮さんが、
「あ、あっくん!」
というと、その集団がこっちを見た。
俺がギョッとしてると、後ろから、
「幼馴染くーん! 俺の幼馴染くんどうだった?」
と、田原くんが話しかけてきた。
「え、えっと…あんな感じだった俺…?」
と俺が言うと、
「田原再現度高めだな~!」
とワラワラと他の部屋からも男子が集まってきた。
「あーもうほら、お前等あっちいけ!」
と、近くに来た華蓮さんがシッシッとやると、
「おっす、生きてっか?」
といつの間にか近くに来ていた直人が話しかけてきた。
正直直人がいないと、この空間は俺には難易度が高すぎる…
「ん…あ、あぁ。りのあで多少耐性はできてきてる…」
「りのあちゃんのミスコン見た?」
「あぁ、華蓮さんにビデオ通話繋いでもらって見たよ」
「会場やばかったぞ」
「それは画面越しでもわかった」
「なんか頑張って動画作ってよかったわーって思った」
「それならよかった、一応受験前ではあるからさ…」
「気にすんなー、まぁとりあえずこっちこいよー」
と、直人が雪菜さんの近くに連れて行く。
そっちは女子が集まっているじゃないかーーーーー
「湯月くん、こんばんは!」
「あ、うん、雪菜さんこんばんは…」
「あーーー、雪菜が言ってた知り合いってこの人?」
「そう!」
「確かに特徴はとらえてるね…」
「だよね(笑)」
と雪菜さんとその友達らしき人が話してる。
「あ、初めましてー! 雪菜と同じクラスの西田詩織だよ!」
「は…初めまして…湯月新です……」
と、詩織さんと挨拶して、雪菜さんと3人でってか主には俺以外の二人がだけど、中継組で感想を話してた。
「ねーねーあっくんさん! 私の作ったおねーちゃんな菅谷先輩どうだった????」
と、この部屋に入ってきて俺に気が付いた彩春ちゃんが話しかけてきた。
「えっと、正直完成度高くてびっくりした」
「イエーイ! めっちゃ頑張ったもんねー!」
「まじ、いろはちゃんのスパルタ指導!」
「だって菅谷先輩基本堂々としてるからさぁ、フォロー体質なおねーちゃんを表現するのが…」
「もっと自信なさそうに!!! ってめっちゃ言われたーーー!」
「ちょっといろは――――」
「でもさー、雪菜とみてたけど、本当凄かったよねーー」
「あ、直人、あの動画ここで映せない?!?!」
と華蓮さんが、大型モニターを指さして言った。
「んー、あ、新ノート持ってきてる?」
「あ、うん、持ってるけど」
「華蓮ちゃん、たぶん行けるよー」
そう直人が言うと、俺が出したノートパソコンにUSBを接続し、カラオケの配線を外して、ノートパソコンとモニターを繋いで作成した動画の上映会をして、莉乃愛がまた雪菜さんバージョンで部屋に入ってきてと、大盛り上がりだった。
俺は頃合いを見て部屋を出て、廊下に置いてあるベンチで一息ついてると、
「湯月くん」
と横を見ると、雪菜さんが隣に座った。
「あ、雪菜さん」
「なんか人が大勢いるところって疲れるね(笑)」
「本当ですよね…」
「しかも皆さん勢いがすごいね…」
「本当そうなんですよ、びっくりするぐらい」
「でも新鮮だし、なんかいい人達だね」
「まぁそれはわかります…」
「私、中学の時はこういう大勢に囲まれてたんだけど、なんかこういう感じじゃなくて…」
「あぁ……可愛いから的な?」
「んーわからないけど、そんな感じかな…?」
「な…なるほど。でも、確かにそう考えるとこのクラスの人達は結構違いますね…」
「だよね」
「お…俺も勉強教えた時、陰キャとか一切無視して、一瞬で友達の様な距離感に来られたのに、かと思ったら自由にあっちで話し出したり…」
「わかります(笑) なんか本当自由な人たちだよね…」
「そうですね…そう言えば動画良かったですよ!」
「あんな深窓の令嬢みたいな感じではないと思うんだけど…」
「まぁ直人がうまく動画を構成しましたね…」
「本当だよね。クオリティ高くてびっくり」
「まぁ会社の人に手伝ってもらったみたいですからね…」
「撮影の時も一緒に来てたよ」
「もうそこから手伝ってもらってたんだ…」
というと、部屋の中から、
「おねーちゃーんそろそろ帰るよーーーって、あーーー!」
と彩春ちゃんが出てきて、その後ろから出てきた莉乃愛も、
「あーーーーーー、あっくん雪菜になにしてるの!!!!!」
と言った。
え、ちょっと待って。何もしてないよね? え? え???
「あっくん、雪菜達と一緒に帰ろうー! じゃないと抜けるタイミング難しくなるからー」
「あ、うん、え、俺なんかした?????」
と俺が雪菜さんを見ると、雪菜さんは「ふふふ」と笑ってた。
「え、別に?」
「え?」
「いろはちゃんの「あーー」に合わせて言いたかっただけ!」
「どういうこと……」
そして俺達は、部屋に戻りノートパソコンを回収して、また男子にもみくちゃにされながら、部屋を出た。
雪菜さんも、クラスの子達と写真を何枚かとって、詩織さんと彩春ちゃんと出てきた。
そしてクラスのみんなに見送られつつ店を出ると、
「んじゃ私はこっちだからじゃーねー」
と詩織さんは駅と逆の方向に向かっていった。
駅に近づくと、
「んじゃわたしとあっくん電車だからー!」
と莉乃愛が言うと、
「あ、うん、それじゃーね!」
「あ、雪菜、洋服は洗濯して、今度いろはちゃんに渡すねー!」
「りょーかいでーす!」
「んじゃ、あっくん行こうぞー」
「あ、うん、雪菜さん彩春ちゃんそれじゃあ…」
「じゃーねー!」
「湯月くんまたね」
そう言うと、俺と莉乃愛は駅に向かい、中里姉妹はロータリーに止まっていた1台の車に乗り込んだ。
そして帰りの電車に揺られていると、
「ねーねー、あっくん」
「どうしたの?」
「わたし進路決めた!」
「へぇ、どうするの?」
「モデルか女優かなんかそう言った感じの事やる!」
「そ…そうなんだね…決めたという割には幅が…」
「いいのいいのそういう細かいことは!」
「ま、まぁ…」
「ステージ立ってみて楽しかったからさ!」
「そ、そっか…既にモデルやってるし、莉乃愛ならできるんじゃないかな…」
「でもさ、ああいうのってどうやってなるの?」
「え、いや、俺もわからないな…」
「ま、いっか! なんとかなるっしょ!」
「そうかな…」
「あっくんはどうするの?」
「んー…まだ決めてない」
「ちなみに大学行かないってなると、何するの?」
「当面は動画配信かもしれないけど、俺としてはプログラミングやりたい気持ちがあるんだよね」
「プログラミング…?」
「んー……ゲームを動かす仕組みみたいな…」
「あーーー、ゲーム作りたいってことね!!!」
「あ、いや、ちょっとってか結構違うんだけど…」
と言うと、莉乃愛は明らかに頭の上に「?」が出てる感じになってる。
「んーーー、まぁそんな感じだから大学行く必要あるかなと思って…」
「よくわかんないけど、あっくんが帝都にいるならそれでいい!」
「ま、まぁそれは間違いないね…」
「良き良き!」
そう莉乃愛は言うと、ルンルン♪みたいな感じでスマホを見だした。
そんな、なんとなく雰囲気で自分の進むなんとなくの方向性を決めた莉乃愛と、一緒に駅から歩いて帰る俺を、冬の訪れを告げる木枯らしが通り過ぎていった。




