陽キャなスマホ
そして莉乃愛の高校の文化祭当日、俺は普段通り学校に行った。直人は今日は休みだ。
動画のデータを持って行くという口実のもと、莉乃愛の高校に行き動画のデータを渡し、動画の作成者だからと特別にミスコン的なやつを見れることになっているらしい。
そんな普段通りな俺だが、俺のスマホは普段通りではなかった。
莉乃愛から、
『見てー!』
とたこ焼きと焼きそばを持った莉乃愛の写真付きでメッセージが来たり、華蓮さんから、
『りのあと飲んだ!』
とどこかの出店で二人でカップルストローみたいなやつで、なんか不思議な色の飲み物を飲んでる写真だったりが、実況中継のように送られてくる…
俺のスマホは陽キャだな……
なんて思いつつ、「食べ過ぎないように」とか「飲みにくそうですね」とか、適当なタイミングで返事をしつつ、学校が終わり急いで家に帰った。
華蓮さんが繋いでくる莉乃愛のミスコンは絶対見なければならない。
見ずに質問でもされて、見てなかったのがバレるとスノボらしい。
スノボはなんとしても回避したい。
なんであんな寒い雪山にわざわざ行かなきゃいけないのだ…
そして15時半ごろには家に着き、ミスコンは16時からと聞いていたので、なんとか間に合った…。
俺は急いで部屋着に着替え、パソコンを立ち上げイヤホンをつけてマイクも起動して、華蓮さんからの連絡を待ちつつネットみていた。
暫くすると、着信のポップアップが出たので、応答すると、
「やっほー! 華蓮だよー!」
「あ、こんにちは…」
と、どアップの華蓮さんがパソコンに映った。
「ねーねーあっくんどおー? いつもと髪型違うんだよー!」
「あ、え、すごく似合ってると思います……」
「でしょでしょー! ってか、りのあ髪切ってて色も変わっててびっくりしたんだけど!」
「俺も昨日衝撃を受けました…」
「でも、私も出るならやるから納得だわ!」
「そ…そうなんですね……」
やっぱり俺の思ってる、女性の髪の毛のイメージが違うのかな…
と思っていると、
「お?! 幼馴染くーーーん!!!」
「おっすー!!!!」
と画面に勉強会に来た男子が割り込んできた。
「ど…どうも……」
「あーもうあんたらウザい! どっかいけー!」
と華蓮さんが言うと、カメラが下に向けられたのか体育館の床が映し出された。
「んじゃもう少ししたら始まるから、さっきの男子のどれかにこのスマホ映させとくからー!」
「す…すいません……華蓮さん写真とかは…?」
「ふふふ、今日は一体何台カメラがあると思っているんだい! あたしが撮らなくても、山ほど手に入る!」
ああ、確かに、クラスの子たちもいるんだし後でもらえばいいのか…
「うちのクラス5番目だからー! 先生微妙な番号ひきやがって…りのあがいるんだからどう考えたって最後がいいのに!!」
「そ…そうなんですね…」
「んじゃとりあえず見ててねー! ほら、これよろしくね!」
というと、スマホが男子に渡されたのか、視線が高くなった。
「おーっす、俺が撮影係だよー」
と、微妙に顔を映しつつ話しかけてきた。
OPEXで負けて、華蓮さんに下着の色を聞いた男子だ。
「とりあえずこのままで大丈夫かー?」
「あ、うん…大丈夫」
そう言うと、司会がステージに上がってきた。
司会1:「さーいよいよ文化祭の最後を飾るのは、3年生各クラス代表者によるミス&ミスターコンテスト!」
司会2:「ルールは例年通り! 代表者の普段を撮影した動画を流した後に、ご本人登場いただき、男子女子それぞれ1番普段とギャップがあったと思う人のクラスを、事前にお配りしているアンケートフォームで選択して送信してください!」
司会1:「さー今年はどこのクラスが1位に輝くか!!」
司会2:「もーーーーう少しで準備ができますので、少しだけお待ちください!!」
俺は学校行事とかは直人に連れられて端っこにいるだけだし、うちの学校の文化祭はこういうお祭りみたいな感じじゃなく、どちらかというと研究発表みたいな感じなので、少し新鮮な光景だった。
司会1:「そーれでは! 準備ができましたので、まずトップバッターは3‐3です! ではまず3‐3エントリー男性、水谷圭人さんの日常をご覧ください!」
そう司会が言うと、体育館が暗くなり、前方に設置してある大型スクリーンに動画が流れた。
あぁ…直人……わかってはいたけど……これは動画のレベル差はやばいよ………
まぁ言ってしまえば、スマホで日常を撮影してつなぎ合わせてる感じなのだが、それだけなのだ…。
いや、高校生の文化祭ってそういうもんだと思うけどさ…
動画が流れ終わると、
司会1:「さーそれでは、ご本人にご登場いただきます! 水谷圭人さんステージへどうぞ!」
そういうと一人の男子生徒がハーフパンツのような水着? で、テカテカした身体で入場してきた。
司会2:「おーーーーーー! これはボディビルダーですねーーーーー!」
そういうと、会場がざわついた。
恐らく同じクラスの子たちだろうが、「圭人きれてるよー!」みたいな声が飛んでる。
その後、アピールタイムがあり、司会者と少し質疑応答をして、退場した。
そして次は3‐3の女性の動画の放映が始まった。
それが決められた順番で進んでいった。
3番目のクラスの動画は、エフェクトや効果音も入っていて編集した感じではあるが、やはり直人(直人の親父さんの会社パワー含む)のクオリティとは、とても比べてはいけないような感じだ…
そしていよいよ、莉乃愛のクラスの出番となった。
司会1:「いやー毎年盛り上がりますね!」
司会2:「そうですね! そして次は3‐8です!」
司会1:「このクラスは……あんまり言ってはいけないのですが、流石に言わせてください!」
司会2:「東の菅谷がエントリーしています!」
と司会が言うと、会場から「早く見せろー!」「菅谷先輩―――!」みたいな声が飛んでる。
司会1:「まぁ、このコンテストはあくまでギャップですからね!」
司会2:「そうです! 皆さんもギャップですからね!」
司会1:「決して美人だからとかで投票しないでくださいね!」
司会2:「それではまず3‐8男性エントリーの、田原健さんの日常をご覧ください!!」
そう言うと会場が暗くなった。
そして、流れた動画は………今までで一番クオリティがすごかった。悪い方の意味で…
なんと、つなぎ合わせもしていない、1本動画なのだ…
まぁ日常はわかるけども………逆にリアリティはあるけど……むしろリアル感しかないんだが……確かに、勢いだけでバカやってる感じは伝わってはいると思う……
そして動画の放映が終わり、
司会1:「それでは田原健さん! ステージへどうぞ!」
そう司会が言うと、おどおどした髪の毛が長くなり、制服を一応ちゃんと着てるんだけどなんかヨレっとしていて、いつもの覇気や勢いを一切感じない田原君が出てきた。
司会1:「えーーーーーーっとこれは…?」
司会2:「と、とりあえずアピールタイムどうぞ!」
と司会が言うと、田原君は渡されたマイクを持って、
「…こ……こんにち…わ……田原です……」
とモゴモゴと喋った。
すると会場から、
「田原勉強教えてくれー!」
と声が飛んだ。