伸びるし
俺は、これまでに接点があった人からの、「一緒に配信しませんか?」っていうご連絡を全て無下にするのはどうなんだろうと思い、配信の予定が結構入ってしまっているので撮影には参加せず、撮影は直人が主導して行うこととなった。
そして2週間ちょっとたった頃に、直人から『動画できたから修正ないか確認したい』と、動画サイトに限定公開されたURLが二つ、文化祭ミスコングループと名前の付けられたLIMEに送られてきた。
俺はりのあちゃんと書かれた一つ目の動画を開き、再生した。
「おっはよー」と莉乃愛がクラスに入ってくるところから始まり、私服で友達とカラオケやゲーセンで遊んでる様子、どこかの公園で撮影されている様子を撮影した様子、と続いた。
りのあは髪の毛をおろしてはいるがいつもと違って全体的にカールが入ってて、この前雪菜さんに着せていたタイトめで短めの少しAラインになった巻きスカートに、ぴったりとした黒色のタートルネックの長袖ニットを着ている。
これでもかってほどスタイルが全面に押し出されている…。
なんなら水着より、なんかこう見ちゃいけない感がある…。
その後いくつかのカットを挟んで、最後に映ったカットがそのまま静止画となり、「東の菅谷 菅谷莉乃愛」と書かれ、雑誌の表紙の様な感じで動画は終了した。
いや、直人、本気出しすぎだろーーーーーーーー!
こんなん高校の文化祭のレベルじゃなさすぎる………………
と思いつつ、もう一つの雪菜さんの方も見てみると、
「おはよう」と雪菜さんがクラスに入ってくるところから始まり、制服で友達と構内を歩いている様子、私服で妹と街でショッピングしている様子、落ち着いた広い公園のベンチで本を読んでいる様子、と続いた。
構成は同じだが、被写体と撮り方でこうも違うものかと俺はびっくりした。
雪菜さんはセミロングの髪の毛をそのままおろしており、白色で袖が少しボワッとした感じのブラウスの上に、茶色のチェックで膝上丈のサロペットワンピースを着ていて、キャメル色のボーラーハットをかぶってる。
清楚ってこういうことを言うんだろうな…。
そして、莉乃愛の構成と同じようにその後いくつかのカットを挟み、最後に映ったカットがそのまま静止画となり、「西の中里 中里雪菜」と書かれ、雑誌の表紙の様な感じで動画は終了した。
これはもうプロの所業と言っても過言ではない。
ちなみにLIMEグループは、
『やばすぎいいいいいいいいいいいいいいいい』
『すごいですね!』
『イメージビデオみたい!』
と感想を全員が口々に言ってる。
俺は直人に個人LIMEで連絡した。
『直人、初見にしてはクオリティが高すぎる気がする』
『気が付いたか。やりだしたら面白くなって、あれもこれもとやりだしたら大変になったから、結局親父の会社の人や編集の人に助けてもらった』
『もうそれ仕事じゃん…』
『まぁおかげで、我ながら結構いいのができたと思ってる』
『それは間違いないとは思う』
グループLIMEでは、
『これは俄然やる気出た』
『私も楽しくなってきました!』
『昨日菅谷先輩にお姉ーちゃんの仕草や喋り方のレクチャーしました!』
『本当彩春ちゃんありがとね!』
『もうすでになりきってる!』
『もう菅谷さんのメイクは私がやっちゃっていいですかね?』
『問題ないよー! むしろそれでお願いしたい―』
『了解です!』
と、全員が俄然やる気に満ち溢れていた。
そして動画も完成し、文化祭まであと1日と迫り、俺が配信を終えてリビングにお茶を撮りに行くと、最近はミスコンに向けて雪菜さんの仕草を練習したり、メイクを試してもらったりで帰ってくるのが遅めの莉乃愛が、夜ご飯を食べていた。
そして俺は莉乃愛を見て止まった。
「り…りのあ?」
「んー?(モグモグ)」
「か…髪…どうしたの…?」
「んー(モグモグ) 切った!!!」
「い…色まで……」
「(モグモグ) 合わせた!!!」
「そ…そうなんだ…」
そうなのだ、長めだった莉乃愛の髪の毛が、それこそ雪菜さんと同じぐらいになっていて、色まで同じになってたのだ。
俺が驚愕していると、ご飯を食べ終えた莉乃愛が、
「だって勝ちに行くじゃん?」
当然! みたいな感じで話してきた。
「え、いや、そう聞いてはいたけど…」
「そりゃ髪型合わせるっしょ!」
「いや、そうなのかもしれないけど…切っちゃってよかったの?」
「え? だめなの?」
「あ、いや別にダメじゃないけど…」
「どうせまた伸びるし!」
「そ…そうなんだね……」
女の人の髪の毛ってそんな軽い扱いだっけ…。
え、俺が陰キャでネットの情報ばっかりだから、俺が間違ってるのか…?
そんなことを思いながら悩んでいると、
「あっくんは明日来てくれないんでしょー?」
「まぁ関係者ではないからね…」
「直人は来るのに―」
「そもそも直人が行けるのだって、動画のデータを持って行くという、超無理やりなあいつの口実があってのものだし…」
「まーねーーー」
「あ、でも華蓮さんがLIMEで繋いでくれるんでしょ?」
「そうだけどーーーーー、絶対見てね!」
「も…もちろん……」
「LIMEパソコンで開いてはいるけど、別のパソコンでゲームとかしてたら…」
「してたら……?」
「スノボ!!!!!!!」
「絶対見ます。死んでも見ます」
「えースノボ行こうよーーーー」
「いや、スノボなんてそもそもできないから」
「わたしもできない!」
「……ところで莉乃愛進路は?」
と俺が言うと、莉乃愛は「後で雪菜に借りた服着てみよ~」とスマホを見だした。
完全に進路は無視しているようだ…。
そしてスノボは流石にきつすぎるって……




