【中里雪菜視点】バーチャル配信者への一歩
それからは、比較的治安の良さそうで、女子もそこそこいるパソコンの学科のある学校を探し、その学校説明を聞きに行きと話が進んでいった。
結果的に、パソコン系の学科もありつつ、イラスト系の学科のある高校に決めた。
そこそこ勉強もできたので、偏差値的には余裕で、学校の先生や友達にはたいそう驚かれたが、イラスト系の勉強がしたいんです!で押し切った。
周りのグループの友達は大体近場のそれぞれに合った偏差値の高校を選んでおり、私と同じ進路の子はいなくて、みんな寂しがってはいたけど、連絡はとれるし遊ぶこともできるよ!ということで納得してもらい、晴れて中学を卒業することができた。
入学した高校は、私の学科のイラスト学科の他にもパソコン学科や国際学科等多種多様な学科が存在する学校だった。
イラスト学科のクラスは8割以上が女子で、とりあえず一安心した。
中学みたいになるのかな? と思っていたが、どうもこういう学科に来ている女の子は少し変わった子というか独自性が強い子が多いみたいで、あんまり多くの人数でグループになるみたいな感じではなかった。
なんなら女子が多いのに、一人で黙々と何かを書いている子も何人かいるぐらいだった。
「やっほー。あたし、しおり。西田詩織。よろしくね。」
と前の席の子が話しかけてきてくれた。
「あ、こんにちは、私は、中里雪菜です。よろしくお願いします。」
「そんなかしこまった感じじゃなくていいよー。あたし、家がこの近くなんだけど、友達ほとんど駅の反対側にある公立の方に行っちゃってあんまり知ってる人いなかったから、なんかこう友達になれそうな子がいてよかったよー」
「あ、そうだったんですね。」
「敬語じゃなくていいって、仲良くしてよ~」
「あ、ごめん。西田さんはイラストが好きだからこっちの高校に来たとか?」
「詩織。し・お・り」
「あ、しおりはイラストが好きなの?」
「いや、まったく」
「え…?」
「いやさー、中3の時に彼氏がいたんだけど、そいつその公立に通ってんだけど、その元彼が浮気しやがってさ、ムカついたから一緒の高校なんか通ってやるか! と思って、急遽こっちの高校に変えて適当な学科選んだ感じなんだよねー」
「おお、そうなんだ。(中々アクティブというか決断力のある子だな…)」
「そんな感じなんでイラストなんて描いたこともない(笑)でも雪菜もあんまりそういう感じに見えないってか、ただ普通の美少女な気がするんだけどイラスト好きなの?」
「んー、私もちょっと違うかな? 興味がないってわけじゃないけど、別に興味があることがあってここにした感じ」
「へー、イラストじゃないものってなにに興味があるの?」
「……パソコン…」
「あーーー、なるほど。あそこ男子ばっかだもんねーー」
「そうなんだよね…」
「確かにあそこに雪菜がいたら浮きまくりってか、周りの男子緊張しすぎて何もできなくなるかもね」
「私、これまであんまり男の子とちゃんと話したことなくて」
「ええ? そんなに可愛いなら、さぞモテまくったんじゃない? 女子校だったとか?」
「ううん、普通に共学の公立の中学だったんだけど、こうなんていうか周りの女の子が男の子の相手は全部やってくれててさ…」
「あーーー、確かにカーストの頂点にいそうなぐらい可愛いもんね雪菜」
「そ…そんなことないんじゃないかな…」
「いやいや、私も知り合いだってバレだしたらめちゃくちゃ面倒くさそうな予感しかしないぐらい可愛いと思うよ。てかどうやったらそんな可愛くなるの?」
「え…わかんないけど…」
「まーいいや! 私あんまりそういうの気にしないからこれから仲良くしてね!」
「うん、よろしく!」
そんな感じで、高校始まってからは詩織と一緒にいる機会がすごく多かった。
詩織は、髪の毛は少し茶色に染めていて、制服も少し着崩していて、顔も可愛いというよりは結構美人系? クール系? な顔立ちで普通にモテそうな感じだった。
ただ、性格はなんかさばさばした感じで、あんまり深く物事を考えたりせず、女の子なのになんか男らしい感じもあった。
そんな性格だからか、「雪菜は可愛い。雪菜は可愛い」とはいいつつも、ただの仲のいい友達みたいな感じで接してくれて私も接しやすかった。
高校が始まって1カ月ほどして、大分高校生活に慣れたあたりで、私はパソコン系の学科の先生を探して放課後に話に行った。
「宮原先生。少しよろしいでしょうか?ご相談があるんですが」
「おお? イラスト科の中里が一体どうした?」
「あ、ご存じなんですね。ありがとうございます。」
「いや、お前先生達にも話が耳に入るぐらい話題になってるぞ。超絶美少女がイラスト科にいるって」
そうなのだ。詩織からこの前、「雪菜、気を付けなー。イラスト科に超絶美少女がいると学校で話題になってるよ」と教えてもらった。
詩織は普通に接してくれるのでいいのだが、中学の時みたいに守ってくれるわけでもないので、ちょくちょく他の学科や学年の人から話しかけられていたのだ。
その度に困って逃げてしまっているのだが…。
「先生達まで知っている……」
「先生たちはとりあえず何か起こらない限りは静観してるから、何かあったらイラスト科の担任の先生にでも相談しろよ」
「はい、ありがとうございます」
「んで、相談とはなんだ?別に男子がうざいとかそういう相談ではないんだろ?」
「あ…はい…。実は私、動画配信に興味がありまして…」
「ほー?なんだ芸能人にでもなりたいのか?」
「いえ、違うんです。その、合っているんですけど少し違いまして………私、バーチャル配信者をやってみたいんです!」
「バーチャル配信者? 中里だったら折角なら顔を出した方がいいんじゃないか?」
「それは妹にも言われたんですが…私はバーチャル配信者がやりたいんです…」
「まぁ、理由はよくわからんが、バーチャル配信者をやりたくて、どんな相談なんだ?」
「…私、パソコンとかちんぷんかんぷんでして……」
「あーーー、なるほど。バーチャル配信者をやるにあたって必要な機材や設備がわからないと?」
「はい、そうなんです…」
「なるほどな。いいぞ、そしたら教えてあげるから放課後に先生のところに来なさい」
「あ、ありがとうございます!」
「しかし、それならなんでパソコン科に入らなかったんだ?」
「本当はパソコン科がよかったんですけど…パソコン科はその…男の子が多いので……」
「あーー、なるほど、聞いてはみたが確かにパソコン科に来なかったのは正しい判断だ。中里がパソコン科に来ていたら、おれがすごく大変になりそうだからよかった。とりあえず、明日の放課後は空いてるから、一旦明日の放課後にまた来なさい」
「わかりました! ありがとうございます!」
そうして、放課後に宮原先生の空いているタイミングでパソコンの基礎や、動画配信する上で重要になりそうな部品、モーションセンサーのカメラの使い方等教えてもらった。
結構親身に教えてくれて、なんと休日にお父さんと一緒に実際の機材を買いに行くときもついてきてくれた。
そうして機材は一通り揃い、後はアバターを準備すれば配信できる状況となった。
「あとはアバターを準備しなきゃか」
「あれってなんか特殊なの?」
詩織にランチを食べながら話していた。宮原先生のところに頻繁に通ってることもあって、詩織だけにはバーチャル配信者をやりたくてこの学校に来たと話した。
詩織は「ほー、登録するから始めたら教えてね!」とあっさり受け入れられた。こういうところが詩織のいいところだ。
「モーションセンサーで動く部分があるから少し特殊かな?」
「んーなるほど、学科の子に書いてもらえばいいんだろうけど、言いたくないんでしょ?」
「うん…うまくできるかわからないから恥ずかしい……」
「そうするとどうするかなーー。あ! うちの隣のおねーさんが確かビブリでイラスト描いてるって言ってた! 描いてもらえないか聞いてみる?」
「え…そんなすごい人、いいのかな…?」
「いいのいいの、聞くのはタダだし、酔っぱらって家の前で寝てるのを何回運んであげたことか!」
「そ…そうなんだ…」
「とりあえず1回聞いてみるねー!」
ということで、詩織のお隣さんに聞いてもらったところ、バーチャル配信者みたいなイラストはあんまり描いたことないから逆にやってみたいかも! となったらしい。
お金を払いますと話したところ、会社に所属してるから逆にお金は受け取れないからタダでいいよ!とのことで、本当にいいのかなと思いつつ、詩織が「問題ない!」と言い切り描いてもらえることとなった。
それから少し経って、アバターのイラストができたと詩織が持ってきた。
「雪菜は声がキャッキャしてる感じじゃないから、少し清楚めのイラストにしてもらったよー!」
と持ってきたイラストは、青色の髪の毛で目がクリっとしていてニコッと笑ってる、可愛いい女の子だった。
衣装は少し巫女さんみたいな服装で、ここら辺は流石ビブリのイラストレーターさんだなと思った。
「すっごく可愛い! ありがとう! ありがとうって伝えておいて!」
「もちろん! んじゃこれでいよいよ雪菜のバーチャル配信者人生が始まるんだねー。お姉さんはなんか感慨深いよー」
「なんで詩織がお姉さんなのよー」
「まぁまぁ。んでいつからやるの?」
「んー、アバターの設定とかやってテストとかもしてみたいから、配信する日決まったら教えるよ!」
「おっけー!」
こうして、私はバーチャル配信者白風あげは(妹命名)として、動画配信を始めたのは高校1年生の6月だった。