閑話【中里雪菜視点】楽しいチームでよかった
まりんさんにOPEXの大会に誘ってもらい、あと一人誰にするか相談した。
もちろん強さも重要だけど、練習試合みたいなのもあるっていうし、結構みんなで配信することになるだろうから、それなら楽しくやれそうな人がいい。
まりんさんと私はそんな結論にたどり着き、それならとアークさんにお願いしてみることになった。
最初は遠慮してたけど、大会に出てみたかったっていうアークさんの気持ちもあったから最終的には一緒に参加することになった。
そして顔合わせ配信を行って、何度も練習をして練習試合に臨んだ。
1日目が終わった後、アークさんから私の立ち回りが重要になると言われた。
いやいやいやいや、それは流石に無理すぎる! プロの人だって出場してるのに!
そんなことを思っていると、アークさんからキャラ構成の変更案がいくつか出された。
言われた案からいくつか試して、私がまりんさんが得意なスキャンを練習することになった…
まりんさん私なんかよりずっとうまいのに、なんかすごく申し訳ない…
そんなことを思ったが、まりんさんは「皆で頑張ろう!」と言ってくれており、くよくよしていてもしょうがないので、私は必死でスキャンを練習することにした。
それこそ、早起きして朝学校に行く前や、帰ってきてから練習までの間も、練習配信が終わった後も、出来る限りの時間をスキャンの練習にあてた。
大会まであと2日に迫ったころ、アークさんから配信外で相談があると言われた。
そして言われたのは、アークさんが原因で勝てない可能性が高いということだった。
それでも総合優勝するために、キルムーブをしようと。
元々、プロ選手と比べると見劣りするとは言われていたが、私やまりんさんが本気で勝ちに行こうとしていると思ってくれて、私たちができる策としてキルムーブをしようということだ。
その日少し練習したが、キルムーブって本当に疲れる。
ずっと動いてるし、自分から敵に向かっていくのだから当然なのだが、割とずっと戦闘なのだ。
しかし、私たちはアークさんの策を信じて、大会1試合目にキルムーブをすることになった。
そして、大会当日、初戦のキルムーブは大成功し、4戦目では1位、最終戦は2位だった。
4戦目まででポイント差があんまりなかったから、正直全然わからず、集計結果が発表されるまですごくドキドキした。
そして発表された順位は2位。
正直それを聞いた瞬間、残念ではあったが「やりきった!」という思いだった。
大会運営の配信が終わったあと、3人で話しているタイミングで、私はあー頑張ったなぁと思っていたのだが、もしまりんさんがそのままスキャンで出られたらとか、アークさんが次元をやれていたらとか思ったら、自分の不甲斐なさに涙が出てきた。
まりんさんなんてオープンベータからずっと配信してるぐらい頑張ってるのに…。
そう思うと、もう涙が止まらなかった。
そして、そのまままりんさんも泣いてしまい、しばらく大号泣配信になってしまった…。
アークさんが時折少し話してくれて、なんとかまりんさんと私は落ち着いて、最後にまりんさんが締めて、マリンスノーの箱舟は終了した。
私の配信画面では、
『ゆきはちゃん頑張った』
『まだまだこれからだよ!』
『これからも応援する!』
みたいな暖かいコメントを頂けており、投げ銭を読み上げお礼を言って配信を終えた。
はぁと、涙を拭いたティッシュをゴミ箱に捨てて、イヤホンを外して暫くすると、部屋がノックされてドアが開き、彩春が少し目をごしごししながら入ってきた。
「おねぇちゃん…すっごいお疲れ様! …ズッ……」
「あ、う、うん、ありがとう。最後泣いちゃった…(笑)」
「う…うん、私もお父さんもお母さんも大号泣(笑)」
「あ、そ、そうなんだ、皆で見てたんだ」
「うん、でも、本当よかったよ!!」
「ありがとう、また頑張らなくちゃね!」
「うん、頑張ってね!」
そう彩春と話しているとスマホが鳴った。
太田さんから電話だ。
「あ、いろはごめん。太田さんから電話だ」
「あ、おけー」
というと彩春は部屋から出ていった。
「あ、お待たせしましたー」
「ゆきはちゃん! すごい良かったよ!」
「あ、ありがとうございます!」
「まさか、まりんも泣くとは思わなかったから、びっくりしちゃったけど、すごく良い配信だったと思う!」
「そ、それならよかったです…」
「SNSも盛り上がってるし、しばらくは騒がしくなりそうだよ」
「それは嬉しい悲鳴ですね…(笑)」
「そうだね、でもSNSの投稿は、しばらくはこれまで以上に注意してね? 多分初見の人とかが結構いるはずだから」
「了解しました!」
「とりあえず、お疲れ様! また明日からよしくね!」
「はい、よろしくお願いします!」
そう言うと電話が切れた。
ひと段落して、私は久しぶりにゆっくりお風呂に入り、しばらく疎か気味だった髪の毛の手入れなんかもして、部屋に戻るとメッセージが届いていた。
アークさんからだ。
『誘っていただき本当にありがとうございました。本当に惜しかったですが、俺としては全てを出し切れたので楽しかったです。またこれからもよろしくお願いします』
と書かれていた。
正直アークさんじゃなかったら、こんなに楽しいチームにはならなかったと思う。
皆初めての大会だから、コミュニケーションも手探りになっていて、プロ選手とそうじゃない人の間だと、お互いどこまで踏み込んでいいのかわからず、結構沈黙してしまう配信とかも多かった。
その点アークさんは、いい意味で自分にプライドがないので、どういうことをしてどういう結果になっても笑ってくれる。
おかげで私もまりんさんも話したいことが話せたし、すごく明るいチームの雰囲気を作れた。
『こちらこそありがとうございました! アークさんじゃなかったらこういうチームにはできなかったと思うんで、本当によかったです! またよろしくお願いします!』
『いえいえ、ゆきはさんが本当チームの雰囲気を柔らかくしてましたから、ゆきはさんのおかげですよ』
『そうですかね?』
『間違いないです。100%ですね』
『あはは、でもありがとうございます!』
『また明日から配信あるのかと思いますが、これからも頑張ってくださいね!』
『はい! アークさんも!』
そう言ってスマホを私は充電し、久しぶりに早く寝ようと布団に入った。
あー大会楽しかったな!
また出たいかと聞かれると、足引っ張っちゃうからと二の足ふんじゃうけど…
今回は本当に出てよかった!
そしてやっぱりアークさんは頼りになる…
アークさんじゃない湯月くんだって頼りになるし……
私は慣れない大会で疲れていたのか、そのまますぐ寝てしまった。




