【中里雪菜視点】本当の自分って
「やっほー!白風あげはです。今日は昨日に引き続きメインクラフトでお城づくりを続けていきたいと思いますー。よろしくね」
バーチャル配信者として活動してもう1年半ほどになる。私、中里雪菜は、バーチャル配信者白風あげはの中の人として活動している。
小学校6年生ぐらいから可愛いと言われることが多くなり、家から近くの公立中学校に上がったら、可愛い可愛いと男女問わず色んな人に言われるようになった。
自分では正直わからないけれど、たまにスカウト?なんかもされるようなり、そういうもんなのかなと思うようになっていった。
元々それほどアクティブな性格でもなかったので、自分から輪を作り出す感じでもなく、話しかけてくれる仲のいい子たちに話を合わせていたら結果的にグループみたいな感じになって、その中心にいるような風に見られていた。
実際の私はグループの外周に引っ付いてるような感じだと思うんだけど…
グループは意見をはっきり言える可愛い子が多くて、外周にくっついてるだけの私はあまりはっきり意見を言えないだけなのに、それがなぜかお淑やかな穏やか性格に変換され、より美少女と言われるようになった。
そういわれても実感もないので自信がつくわけでもなく、基本的に皆に合わせて中学時代を過ごしていた。
ただ、その状態がなんかこう…自分というか可愛いらしい容姿で成り立っているように思えて、自分の意見もあまり言えないので、別に困っているわけではないにせよ、なんだか自分なんだけど自分じゃないみたいな感覚だった。
そんなことを思いながら過ごしていた時、ふと見た動画サイトで女の子のバーチャル配信者の動画を、特に何を思うわけでもなく見てみた。
その方は、事務所に所属していて登録者数も50万人を超える有名な方で、ピコピコ動くアバターと共に動画のコメントと話しながらRPGゲームをやっていた。
見るからに男性の視聴者が多そうで、『可愛い』や『萌える』みたいなコメントが多いけど、『いやそれ違うだろ』とか『その選択はないわ』みたいな否定的なコメントもある。
配信者の方もそんな否定的なコメントにも「私はこれで突き進むんだー!」みたいに返したりしていて、それで炎上するなんてこともなく、なんか一体感を持ってその実況配信が進んでいく様子を見て、純粋になんだかいいなと思った。
私には妹が一人いて、お姉ちゃんなんだからと両親に言われればお姉ちゃんらしくしてきたつもりだし、雪菜は絶対こういう格好似合う! と友達に言われればそんな感じにしてきたし、雪菜は男子の相手なんてしなくていいからね! と言われれば、ありがとうと答えてきた。
そうしてきた結果、一体本当の自分はどんな感じなんだよくわからなくなっていた。
そんな中で見たバーチャル配信者の世界は、アバターなんだから可愛いのは当然。声はまぁ本人の力量によるところもあるだろうけど、結局は中の人次第ですべてが変わる。
中の人がどんなに美人でも面白くなければ見ないし、逆に面白ければ見る人は増えていく。
本当の自分がどんなものなのかは正直わからないけど、私も自分の容姿じゃなくて中身で関わる関係を作っていきたい! と思うようになり、それからは色んなバーチャル配信者の方の動画を見るようになった。
そのうちに事務所に所属せず個人でもできることがわかり、自分でもやってみたいと思ってきた。
ただゲームなんてほとんどやったことないし、パソコンなんてちんぷんかんぷん。
どうすればいいか考えていた頃が中3の進路を決める時期と重なった。
進学しないわけにもいかないので、渡される色々な高校の案内を見ていると、パソコンを集中的にやる高校なんかもあることがわかった。
学校でパソコンを勉強して、個人でバーチャル配信を始めればいいのでは? と考えたが、もう一つの壁にぶつかった。
「私、男の子とまともに喋れる気がしないんだけど…」
同じ部屋にいた妹の彩春がそれに反応した。
「お姉ちゃん守られてるもんね今ー。私も紹介してほしいって言われるもんー」
そう。パソコン系の学科は如何せん男子比率が高い。
高いどころか全員男子の可能性すらある。
そんな中では流石に生きていける気がしない…
「でもさ、別にパソコン系の学科に入らず、パソコン系の学科のある学校の違う学科に入って、先生を捕まえればいいんじゃない? お姉ちゃん可愛いし絶対捕まえられるって!」
「おー確かに! 彩春天才じゃん!」
「てかお姉ちゃん、パソコン興味あったの?」
「え…えっとー、パソコンというかなんというか?」
「えーどういうことー?教えてよーー!」
「えー…えっとねー、バーチャル配信者やりたいなーって…」
「え、バーチャル配信者??お姉ちゃんが??」
「そう!」
「いやいや、その可愛い容姿を活かして、やるなら顔出し配信でしょー!!!」
「いやなんか、自分の容姿じゃない方がいいなーって思ってさ…」
「さては、自分の容姿関係なくぶつかり合える仲間が欲しい! 的なベタな感じ?」
「………」
「まじ…」
「………」
「まぁ私は部活でそういう仲間がいるからわからなくはないけどーー。それお父さんとかオッケーするの? 私お姉ちゃん頭も悪くないし、普通の普通科の高校に行くものとばかり思ってた」
「まーちょっと前の私ならそんな感じだったと思うんだけど、なんかいいなぁと思っちゃってさバーチャル配信者…」
「ふむー、ではここは彩春が一肌ぬぎますか!」
と言って、「お父さーん!!」とリビングに走って行ってしまった…。いつも思うけど彩春の行動力にはびっくりする。これで姉妹なのかというほど性格が違う気がする。
その後、バーチャル配信者とは何たるや。それはどういう未来があるのか等、彩春が熱烈なプレゼンを両親に披露し、私もやってみたいからパソコンの勉強がしたいということを話し、最後にはお母さんが、
「雪菜が何かやりたいっていうのも初めてだしー、いいんじゃない? ね? お父さん?」
という一言で、父は「まぁとりあえずやってみなさい」ということになった。