夏じゃん?
ソロ配信を終えて、俺は部屋の扉のホワイトボードをとり、コーヒーをとって部屋に戻った。
夏休みは結構時間があって、配信も勉強もできるしいいな~なんて思っていると、部屋の扉がノックされた。と思ったら、いつも通り開いた。
「りのあ、もうノックと同時にドアは開けるもんだと思ってるでしょ?(笑)」
「えー、別にいいじゃーん」
と言いながら莉乃愛は、部屋に入ってきて俺のベットに座った。
「ねーねーあっくん」
「んー? なに?」
俺はそう言いつつ、再びパソコンの画面を見ていた。
「わたし補講なくなったじゃん?」
「うん、そうみたいだねー」
「夏じゃん?」
「うん、そうだね」
「暑いじゃん?」
「まぁ部屋はエアコンあるから涼しいけどね」
「海じゃん?」
「……」
「行くじゃん?」
「どうぞ…」
「あーーーー、そう言えば前に、あっくんの買い物付き合ったお礼が残ってた気がするなーーーーー」
「…いや、それは何か欲しいものを……」
「わたし何かお礼に物を買ってとはいってないもん!」
「……確かに」
「海じゃん?」
「…」
俺が莉乃愛の方へ振り替えると、ニヤニヤして莉乃愛はあぐらをかいて座っている。
「…海はまじできつい……」
「なんで?」
「暑い。パソコン使えない」
「そもそも海に行ってパソコン使う発想を無くしなよ」
「それは難しい…」
「あーーーー、そう言えば前に、あっくんの買い物付き合ったお礼が残ってた気がするなーーーーー」
再び莉乃愛がそう言った。
「ぐ…………わかりました…」
「イエーイ!」
「二人で行くの?」
「んー海とか人数多い方が楽しそうだし、友達呼ぼうよ」
「この前の?」
「あいつらいたら楽しいんじゃない?」
「いやいや、それは無理すぎる! もうテンション高そうすぎて俺死んでしまう」
「まー確かにあの鬼テンションはあっくんにはきついか。んじゃどうする? 絶対人数多い方が楽しいってー」
「ぐ……わ…わかった。俺が直人に相談して調整する」
「それ、あり! んじゃよろしくねー!」
そう言って、親指を突き立て、莉乃愛は部屋から出ていった。
『直人、夏休み暇だろ』
『一応受験勉強はしてるけど暇っちゃ暇だよ』
『毎年誘ってくれてるあれに今年は乗ろうかと』
『あれ…? ま…まさか、別荘のやつ?』
『そう』
『海だぞ?』
『理解している』
『一体どうした?』
『りのあが貸しの代償に海に行きたいと』
『そーれーはーーーーー! お前は神か!』
『りのあは大人数の方がいいというが、りのあの友達は陽キャ過ぎて俺が無理すぎる』
『なるほど、んじゃ他にも呼んだ方がいいのか』
『そうなるが、俺はお前以外喋れない』
『んー確かになぁちょっと考える』
『すまない』
次の日、直人から連絡がきた。
『考えたんだがお前が喋れるというフィルターをかけると、ほぼ誘える人がいないんだが』
『知ってた』
『そこで俺は思いついた』
『ほう?』
『茜を誘う→彩春ちゃんを誘う→雪菜ちゃんを誘う』
『そ…それは…』
『いや、もうこれでお前が喋れる人を限界まで探しての結果だ』
『しかし…』
『これが実現すれば、なんて眼福な会に…!! お前が友達いないのが悪い』
『それは確かにそうなのだが…』
『ということで、しばし結果を待たれよ』
いや、確かにそうなんだけどさ。
それ実現したら莉乃愛になんて話せと。
西の中里と東の菅谷が一緒に海って…。
そう思っていると、もはやノックもなしにドアが開き、
「あっくんー、海の話進んでる?」
「うん、まぁ一応」
「華蓮に話したらさー、華蓮も絶対行くって言っててさ、華蓮覚えてる?」
「あ、うん、三好さんでしょ?」
「そうそう、んで、一緒に行けなかったらあっくんの個人情報を闇業者に販売するって言ってるんだけど、華蓮だけ連れてってもいい?」
いやいや、俺の個人情報安売りされすぎじゃない……
しかも闇業者ってなに……
「あ、うん、多分大丈夫だと思う」
「おっけーさんきゅー」
そう言うと、手を振って莉乃愛は出ていった。
これは無かったことにはできないな…そんなことを思いつつ、日向ゆきはさんの配信のアーカイブを開いた。
結構な頻度で、集中的にコーチング配信を行ったこともあり、ゆきはさんのOPEXの実力は着実に向上し、ランク配信も再開していた。
これまでゴールド3とゴールド2のランクの間を行ったり来たりするような感じだったのだが、近接戦闘に慣れてからは一気にゴールド1まであがったのだ。
まぁ元々立ち回り重視で、エイムは後からついてくるだろう思って教えていたので、それが実を結んだみたいで本当によかった。
そしてついに、その日マッチした野良の人が良かったという運もあるが、先日の配信でプラチナランクへ到達したのだ。まさかこんなに早く到達するとは思っておらず、生で見れなかったのだ。




