表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/131

決断力と行動力

狼の群れの中に置き去りにされた子羊ってこんな感じなんだろうな。動きたくても動けないんだよ…


そうして、1時間弱で「終わったよ~」と言われ椅子から降りた。




「いやー、めっちゃ変わったね! りのあちゃんどう?」


「え、あ…うん…いいと思います……」


「ふふふー、イケメンになっちゃってドキドキしちゃった??」


「し…してません!」


「まぁそれはいいとして、写真撮らなきゃ~」




そう言うと美容師さんはカメラを取りに行くのか、奥に行こうとしてその時に莉乃愛に何かこそっと話して、莉乃愛が「ナイス!」と言っていた。




カメラを持って戻ってきた美容師さんがカメラを構えながら、




「ん~顔は劇的に変わったけど、顔から下がダメね~」


「この後買いに行く予定でーす」


「それがいいわー。んじゃ今日は、初めてで真正面は恥ずかしいだろうから、斜め前と横と後ろでいいかな。はいこっちきて~」




俺は嫌なんだが、もはや借りてきた猫状態で、心ここにあらずだ。




何枚か写真を撮られ、「この書類にサインしてね~」と美容師さんが書類を出してきたので、なんとか記載内容を読もうとしたら、




「おっけおっけー!」




と、莉乃愛が横から書類を取ってサインして渡してしまった。




「ちょちょ…!」


「そんな変な書類とかじゃないから大丈夫だって! ちょっとネットとかに載せる可能性がありますよって感じなだけ!」


「はああああ? いやいや、まじで?」


「ん? そだよ。何か問題?」


「い…いや、問題しかないよ……」


「そう? わたし色々載ってるからなんも思わないけど?」




と、机のわきに置いてあった雑誌を手に取りペラペラめくって、ドンっと見せてきた。

 

それを見た俺は、




「え、これりのあじゃん?!」


「そ」


「え? りのあ芸能人なの?」


「いんや? 読者モデル!」


「ほぼ芸能人みたいなもんでしょ…」


「まぁ結構やってる子いるし、アマチュアみたいなもん!」


「まじか……」


「そんなわけだから、大丈夫でしょ!」


「え、え? ど…どういうこと?」




莉乃愛はそう言うと「ほら、行くよ~」と出口に向かっていってしまった。




ダメだ。


陽キャな莉乃愛の行動力の前に、俺は敗北し続けているし、しかも打開策がない…。




その後も、終始莉乃愛のペースで、あっちこっちと連れまわされた。



こんなに日の光を浴びたら、俺は消えてしまうよ…


そんなことを思いながら、お昼ご飯に入った、レストランで水を飲みながら、はぁと溜息をつく。

 

莉乃愛はそんなのどこ吹く風で、話しかけてくる。




「ねーねーあっくん、あっくんって動画配信してるんでしょ?」


「げほっごほっ…」




急な話題に、水が変なところに入った…




「な…なんでそれを…」


「え、お母さんに聞いた! このチャンネルだよー! って喜んで教えてくれたよ!」


「な…なんと……」


「あっくんてさー、ゲームだと結構普通だよね~」


「オンラインに限るってやつだ」


「リアルでもあのまま喋ればいいのに」


「俺ゲームばっかでリアル人と喋ってこなかったから、正直わからないんだよ」


「でも、最近わたしとは普通じゃん?」


「そ…それは、りのあ限定…だね。」


「…あ…うん、そっか…」


「一応学校の友達でも一人同じぐらい喋れるやつはいるけど、本当それぐらい」


「へーー、そ…そっか~~」




というと、莉乃愛は「なににしようかな~」とメニューを持ち上げて選び出した




お昼ご飯を食べた後も、いくつかお店に連れていかれ、着せ替え人形になり、言われるがままに購入した。


途中、「購入した服に着替えて!」と莉乃愛が言うので、試着したものをそのまま着た。




「お客様、着てこられた服はどうしますか?」




そう、店員さんが聞いてくるので、




「え、あ…」




と、陰キャを発動させていると、莉乃愛が、




「んーーー、捨てちゃってください!」


「ええええええ?」


「だっていらないじゃん!」




と、腕を組みながらドーンって感じで莉乃愛が言いきった。




「ま…まじ?」


「え、逆に、いるの?」


「いや、いるわけでもないんだけど…」


「ということで捨てちゃって下さ~い!」


「かしこまりましたー」




と、店員さんは着てきた服を持って行ってしまった。



その後靴屋にも行き、そこでも言われるがまま購入し、履いてきた靴を捨てられた。

 

決断力と行動力に溢れかえってる!!


これが陽キャの本気か…



そう思いつつ、買い物を続け、結構な荷物になった。




「んー、今日はこれぐらいでいいかなー!」


「今日は????」


「え、だって夏物しかかってないじゃん」


「あ、いや、そうだけど…」


「そういうこと!」




どういうこと? と思いつつも聞いても、どうせ交渉なんてできないので、はぁ…とため息が出た。




そして家に帰ると、




「ただいまー! お母さーーーん!」




と、莉乃愛が玄関で母さんを呼んだ。




「あれ、おかえりなさーいって、えええええ」




と、母さんが驚いた。




「新、一体何が起こったの…」




と、言いながら笑いを堪えてる。


そりゃそうだよな。

朝家を出た時と、同じものが何もない状態で帰ってくることなんてあるのか?




「…くくく(笑) でもとりあえず、なんか意外にイケメンに仕上がってよかったわ! りのあ、ありがとね!」


「ふふふー、問題なし!」




と、莉乃愛が得意げに言って家に入っていった。


俺も、とりあえず家に入り部屋に荷物を置き、ふぅとゲーミングチェアに座り落ち着いてると、ふと思った。



ああ、なんだかんだ言っても、俺のために付き合ってくれたことは間違いないし、何か莉乃愛が欲しいものも買ってあげるべきだったか。


そう思い、莉乃愛の部屋に向かいノックをした。




「りのあ」


「んー? なーにー?」




と、ドアを莉乃愛があけた。




「その…えっと、言うて今日は俺の買い物に付き合ってもらうことになっちゃったしさ、ちょっとリアルに圧倒されて気が回らなかったんだけど、なんか欲しいものとかあればお礼に買うからさ、教えて」


「………」


「り…りのあ??」


「え…あ…え…か…考えとく!」




と、バンっとドアを閉められた。




まぁ、考えとくって言ってたしそれでいいか。と思い部屋に戻り、部屋着に着替えて、パソコンを付けた。


人生で初めてレベルの陽な1日につかれたのか、俺はそのままゲーミングチェアでうたた寝をしてしまった。



はっ! と目を覚ますと、時間は19時半。


あ、危ない! 日向ゆきはさんの初配信に間に合ってよかった!


そう思って、キッチンにコーヒーを取りに行くと、「あんた寝てたから起こさなかったけど、ご飯あるよ?」と母さんに言われ、「今日はいらない」と伝え、コーヒーだけ持って部屋に戻った。


そして俺は日向ゆきはさんのリマインダーを開き、


いやー、本当なんか一気に雲の上の人になった感じだな。

 

転生告知という、初めてのことがうまく作用した結果ではあるけど、これから雪菜さんは忙しくなりそうだな。


そんなことを思いながら、日向ゆきはさんの初配信を見ていた。





次の日、学校に行くと、直人が、




「お…おまえ…い…いったい、な…な…なにがあった?!」




と、ガバッと肩を掴んできた。




「…聞かないでくれ………」




今日は「折角だから!」と朝、莉乃愛が髪の毛をセットしていたのだ。

コーヒーを飲んでる俺の髪の毛を勝手にだが…




「……お前、意外にイケメンだったんだな……」


「知らん」


「…く…くくく。くはははははははは!」




と言って大爆笑する直人。




「これはウケル! 事件だ! ちと写真撮らせろ!」




と言って、スマホを出すと勝手に撮りだした。




「お…おい! やめろ!」




そう言って、直人のスマホを取り上げようとしたら、ひらっと避けられ、




「送信っと」


「お…おまえ、まさか…」


「お、返事来た。ん? 茜に送っておいた」




と言ってスマホの画面を見せる直人




『アークがモデルチェンジした(撮影した画像)』

『え、なんか頭いいけど暗めの感じの陰キャだって彩春から聞いてたんだけど』

『だから、新アークにモデルチェンジした』

『え、普通にイケメンで反応しづらいんだけど…』

『とりあえず彩春に送っとくわ』




ああ、こうやって中里姉妹にも伝わるのか…。


俺は頭を押さえ、スマホを直人に返し、自分の席に座った。




その日の夜、雪菜さんから、




『髪切ったんですね! 絶対そうしたほうがいいと思ってました!』




と、メッセージが来て、はぁ…と思いつつ『ありがとうございます』と返事をして、俺は久しぶりになってしまったソロ配信を開始した。




『アークちょっと久しぶりだな』

『なにしてた』

『女か』

『ランク行こうぜ』




みたいな感じで、コメントをもらい、俺の生きている世界はやっぱりここだーと、不思議な安心感を覚えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ