陽の者の完成形
今日は休みだからと、起きてからもベットで横になりながらスマホを見ていた。
いやー、昨日のあげはさんの転生告知凄かったな。もう今日から日向ゆきはさんか。
登録者も8万人を一気に超えて、今後どうなっていくんだろう、無理しないといいけど。と思いながら、動画サイトを見ると、昨日の転生告知の切り抜きがいくつも上がっていた。
いくつかの動画を見て、そろそろ起きるかと思い、キッチンからコーヒーを取ってきて、デスクに置いた。
今日は、莉乃愛がどっかに行くと宣言していたので、一応外に出れるように着替えて、コーヒーを飲みながらパソコンで色々調べたりしていたら、
「あっくんいくよー!」
っと言いながら、バンッとドアが開いた。
俺は、とりあえずパソコンの画面から入口にいるであろう莉乃愛の方を向き、
フリーズした。
莉乃愛は、ドアを片手であけ、入口の前でドンっと立っている。
ボーバリーのTシャツと少しだけAラインでタイトめの巻きスカートに短めの靴下を履いていた。
ああ、完全な陽の者だ。
陽の者の完成形がここにいる。
似合ってるかどうかなんて愚問すぎる。俺が直視していい存在ではない。違う世界の理にいる人間だこれは。
すると莉乃愛が、
「どお?」
と、聞いてくるので、もはや一つしかない回答をする。
「…に…似合ってます……」
「ふふん! ほら、行くよ!」
「あ、うん」
そう言うと莉乃愛は部屋を出て玄関に向かい、その途中で、母さんに「行ってきまーす!」といいい「新をよろしくね!」と言われていた。
俺をよろしくってどういうことよ…
俺も玄関に向かい家を出て、二人でとりあえず駅に向かった。
新宿方面の電車に乗ったところで俺は莉乃愛に聞いた。
「りのあ、どこ行くの?」
「ん? 表参道!」
「表参道…」
「行ったことある?」
「もちろんない」
「だろうと思った!」
「何するの?」
「髪を切る! あっくんが!」
「ええ、なんで…」
「え、だって長くて邪魔そうじゃん! ってかいつもどこで髪切ってたの?」
「家から一番近いところ」
「えーっとあの駅前の美容室か」
「いや、そこは2番目に近いところ」
「えー? 他にあったっけ……え、まさかあのコンビニの向かいの散髪屋さん?」
「そうそこ」
「まじか…」
新宿について、電車を乗り換えて原宿に行き、そこから歩いて表参道に向かう。
そうして、原宿を歩いていると、驚くほどの人が莉乃愛に話しかけてくる。
それこそ10歩に1人ぐらい、莉乃愛に声をかけてくる。
どこに行くのかわからないので、俺はちょっと後ろを歩いているとはいえ、すごすぎだろこれ。
莉乃愛は、何も気にすることなく完全無視でズンズン歩いていく。
思わず莉乃愛に聞いた。
「りのあいつもこんな感じ?」
莉乃愛はくるっと反転して後ろ向きになりながら、
「うーん、大体こんな感じかな? でも今日はちょっと男うけ良さそうな服着てるからかキャッチなのかナンパなのかよくわからんやつが多いかも」
「やばすぎだろ……可愛いって本当大変だな…」
と、俺が話すと莉乃愛はくるっと前を向いてしまい、少し早歩きになった。
「どうしたの? 知り合いでもいた?」
こんな陰キャと一緒にいるところなんて見られたくないだろう。
「え、いや…」
という莉乃愛は少し耳が赤い。
「え、りのあ大丈夫? 少し赤いよ? 暑い?」
「っ…な…なんでもない!!!!! あ…あ…あっくん! そう言えば髪切るのはわたしがカットモデルしてるところだからタダなんだけど、その後服買いに行こうと思ってるんだけど、あっくんお金ある?」
「りのあなんか足りないものあるの??」
「いや、わたしのじゃなくてあっくんのね!」
「ええ、おれなんでもいいんだけど…」
「だーめ!!! それでお金あるの? 予算に合わせてお店選ぶから!」
「んー、クレカの口座にいれてるのが400万ぐらいあったかな」
「はあああああ? なんでそんなにお金持ってんの??」
「いや、高1なったぐらいの時に、友達と暇だから半年でどっちが稼げるか勝負しようぜってなって、お互い親に50万借りて、投資を色々やってたら増えた」
「いや、どういうことそれ……それでどっちが勝ったの?」
「んー、途中からどっちが勝つとかどうでもよくなって、どうやればもっと効率良く稼げるかって二人で議論するようになって、結局どっちが勝ったかわかんない」
「本当全然意味わからないわ……その遊び楽しいの…?」
「議論はそこそこ楽しかったよ。おかげで結構稼げたし。クレカの口座じゃない口座にも多分400万ぐらいあるから、Maxだと合計800万ぐらいあるけど足りる?」
「いやいや、足りるに決まってんじゃん…何買うのよ……」
「そっか」
「てかなんでカード持ってんの? 未成年作れなくない?」
「あー本当はよくないんだけど、俺ネット通販ばっかりだからあまりにも不便でさ。親父に言ったら、親父名義の使ってないカードを親父が使ってない口座に紐づけてくれて、自分で管理して、支払い漏れとかしないなら使っていいぞってことで借りてる」
「まじで…ゲームの課金めっちゃ楽じゃん……」
「まぁ俺オンラインゲームばっかりだから、あんまりスマホゲーに課金したりしないけどね」
「なんかわたしが今まで生きてきた世界と違いすぎるわ…」
と、話していると、目的地なのであろう美容室についた。
「こんにちは~~!」
と、莉乃愛は店の中へズンズンっと入っていた。
とりあえず、陽キャな空間にビビり散らしながら、オズオズと俺もついていく。
すると、
「あ、りのあちゃん久しぶり~」
と、女性の美容師さんが奥から出てきた。
「おお? 今日は男連れ?」
「そうでーす! あ、彼氏とかじゃないですよ?」
「へーでも珍しいね~。そんで今日はどうするの~?」
「えっと、今日はわたしじゃなくこっちを切ってください!」
「あら、りのあちゃんじゃないのね」
「はい! いい感じでお任せで! タダで!」
と、仁王立ちで腰に手を当ててドヤっと莉乃愛が言った。
なんて横暴な…
「いやいや、流石にりのあちゃんじゃないからタダは~」
「ふふふ、よく見てくださいこいつを!」
「ん? おお? 現状全く1ミリもひかっていないひかる原石?! これは?」
「でしょ! ということでタダで!」
「ぐぬぬ…写真撮らせてね…!」
「おっけー!」
と、莉乃愛が親指を突き出して、ニカッと笑っている。
「え、写真とるの?」
「うん!」
「ええ…嫌なんだけど…」
「もうオッケーしちゃったし~」
と、莉乃愛は足をクロスさせて斜め上を向きながら目を合わせないようにしている。
「さ、そうと決まったらこちらで~す」
と、肩を持たれ俺は抵抗もできずに連れていかれた。