【菅谷莉乃愛視点】変わらぬクラスメイトと変わる環境
ふふふ、あっくん素材はいいんだから、わたしが活かしちゃう!
そんなことを思いながら、出がけにあっくんに言った、日曜日のデートでどこに行こうか考えていたら、車を運転するお父さんが話しかけてきた。
「新のことありがとねー」
「あ、いえ、うんうん、大丈夫!」
「しかしあの新を、よくこの短期間であそこまで喋れるようにしたね~」
「勢いで強引に押し切った!」
と、親指を立ててバックミラーにニコッとすると、バックミラー越しにお父さんとチラッと目が合って、二人で「あはは」と笑った。
暫くすると、見慣れた街が見えてきた。
ついこの前まで、ここに住んでたのに、もうなんか随分前に住んでたところみたい。
そんなことを思っていると学校についた。
車を降りて職員玄関から入り、担任の先生を呼び進路指導室に移動し、ことの顛末と今後あっくんの家でわたしを預かるということを、お父さんが伝えた。
一通り話を聞き終わると、先生がわたしの方を見て、
「菅谷は本当にそれでいいのか?」
「うん、むしろそれがいいの! ほらわたし家族という家族が小さいときになくなっちゃったじゃん? だからさ、やっぱり家族ってものにいい感情なかったんだ。でも、数日一緒に暮らして、家族っていいかもって思えてるからさ。」
そう私が話してると、お父さんが横でうんうんと頷きながら聞いていた。
「というわけなんで、引っ越しはするけど転校はしないんで、またよろしく先生!」
「そうかそうか。学校の方には私の方からうまく説明しておきますんで。いざって時に親権がどうのとか言ってくる人がいるので…」
と、お父さんの方を向きながら話すと、
「ええ、よろしくお願いします。何かあればご連絡いただければ、こちらでもできることはやりますので」
「はい、わかりました。よろしくお願いします」
「では、いくつか書類を取ってきますので、こちらで少々お待ちください。あ、菅谷。お前はもう教室いっていいぞ」
「りょーかい! んじゃ行ってくるねお父さん!」
「ああ、いってらっしゃい。帰りは電車だから気を付けるんだよ」
「りょーかい!」
そう言って、進路指導室を出て教室に向かった。
なんだかずいぶん久しぶりに感じる教室をみつけ、ガラッとあけると、既に登校していたクラスメイト達がこっちを見た。
「りーーーーーーーーのーーーーーーーーあああああああああああああああ」
と言って、華蓮がダッシュで抱き着いてきた。
「おっつ…。久しぶりだね華蓮―! 会いたかったよー!」
と、抱きしめ返した。
「りのあーーーー、転校とかするのかと思ったーーーーー」
「いやいや、転校しないよ! 引っ越しはするけど! ってか半分ぐらい引っ越し済みだけど!」
「ええ? どこに住むの?」
「んーとね、詳しいことは土曜に話すけど、知り合いの家に住むことになったんだ。」
「んー転校しないならいい!」
と言って華蓮と話していると、クラスメイトが久しぶり~とワラワラと話しに来た。
あ~日常に帰ってきたんだな~と実感した。
その日は、休み時間はずっと華蓮が引っ付いていて、あれやこれやと質問されつつ過ごした。
帰り、前の家に帰りそうになったが、今日から駅だと思い駅に向き直って初めての電車通学を新鮮に思いつつ家に帰った。
そうして、土曜日。
お母さんには、帰りは夜になると思うと話すと、「あんまり遅くならないようにね~」と言われ、わたしは電車にのり華蓮の家に向かった。
華蓮の家には仲のいい子が3人ほど集まっていた。今日は、「一体何があったのか」ということを仲のいい子に話すと約束していた日なのだ。
そして一連の話をかいつまんで話し終わったところで、
「ゆるすまじ……」
と、華蓮がこぶしを握り怒っていた。
「まぁまぁ、もう解決したしさ!」
「しかもりのあのおっぱいを触るなんて……りのあのおっぱいに触っていいのは私だけだああああ」
と言いながら、華蓮はわたしの後ろに回り抱き着き、わたしの胸を揉み揉みしはじめた。
「ちょ、ちょっと!」
と言いながら、華蓮を引きはがすと、華蓮はしぶしぶ自分の席に戻り
「しっかし、その幼馴染くんの家に引っ越しかー」
「そうなんだよねー。まぁ今までよりは時間かかるけど学校もそのまま通えるし」
「でも、聞いた感じいい家でよかったね」
「うん、本当」
「しかも、なんかいきなり服装もお金持ちになってるし…」
と、華蓮が言い出した。それに他の友達も「本当、本当―。いいなー」と話している。
今日はお母さんに買ってもらったFANDYの白色の半そでニットに黒のワイドフレアパンツをはいている。
「いや、お母さんがさ、最近はこういうのが流行りでしょって…」
「いいな~~~~。うちのお母さんなんて絶対そんなの高くて買ってくれない~~」
「いや、私も高いからって言ってたんだけどさ…」
と、苦笑いしながら話した。
「その幼馴染くんの家お金持ちなんだね~」
「そうみたい。小さい頃はそんな事全然わからなかったけど、改めて今家に入るとめっちゃ広いし、車も高そうだし。しかも部屋余ってて物置になってたし…」
「いいなーーーー。あたしもお金持ちの家に産まれ変わりたい~~~」
と、華蓮がぶーぶー言っていた。
「でも、その幼馴染くんとは何にもないのー?」
「んーまぁ陰キャだし。ようやく喋れるように戻った感じだし。スーパー強引だったけどね!」
「脂ぎった感じじゃなくてよかったねー」
「どっちかっていうとスラっとしてるかな、ちゃんとすればイケメンだと思うよ」
「おーっと、王子様にはりのあさんも心動かされちゃった系?」
(王子様…死んだお母さんも話してた…)
「いやいや…そんなこと…ないよ?」
「え、まじ? りのあってチョロイン?」
「ちがうわぁぁ!!!」
そう言ってわたしはクッションを華蓮に投げつけた。
「しかし、りのあのお兄ちゃんホストになっていたとはねぇ」
「ああ、なんかでも辞めるらしいよ。お父さんから聞いたんだけど」
「そうなの??」
「うん。なんでもその会長さん曰く「身内のことも他人にけつ拭いてもらうようじゃ、ホストとして大成なんてするわけもない。どこかで甘えてたんだ。性根叩き直す。」ってことで、会長さんの元で別の仕事するらしいよ」
「うわー怖そう」
「まぁわたしもお父さんにそれ聞いたから詳細はわからないけど、なんか昼の仕事するんだって~」
「へぇ、まぁりのあに変なことしなきゃなんでもいいけどさ~」
「ほん、それ。「別に何しててもいいけど、わたしに影響出さないで欲しい」ってお父さんに言ってその会長さんに伝えてもらったらさ、「家族の縁はもう切れて、湯月さんの家と新しい家族の縁が産まれたと思っておいてください。」だってさ」
「え、会長さんイケメンじゃん、ウケル」
その後もみんなでワイワイしゃべって、華蓮が「久しぶりにみんなでゲーセン行こう」と言い出したので、皆でゲーセンに向かった。
ゲーセンについて、皆でクレーンゲームやったりしながらワイワイしていると、
「しっかし、根性ない男子が多いもんだね~」
と、華蓮が話し出した。
「んん? どうしたの?」
「いや、前だったらゲーセンなんかで遊んでたら、りのあ声かけられっぱなしだったじゃん?」
「ああ、確かに。そう言えば今日はあんまり声かけられないね」
そうなのだ。
前なら街中でも、ゲーセンなんかで遊んでいようものなら、かなり声をかけられたのだ。
ただ今日は、思い返してみると、見られてはいるけど、声をかけられた回数はめちゃくちゃ少ない。
同年代の男子に限ってしまえば、ゼロだ。
「りのあが、めっちゃいい服着てるから、手が届かない感が出たんだろうね~」
「ああ、なるほど」
全く予想していなかったが、お母さんに買ってもらったこれらの服の効果で、相手にされない感が見るだけでわかるようになったのだ。もとから相手にしてなかったけど…
確かに、普通の高校生に手が出せる金額じゃない。
今着てる半袖ニットも、これだけで10万ぐらいする。
「いやー、高い洋服来ただけで散っていく虫けら共は、最初から話しかけてくるなと!」
「まー、それは確かにそう」
「りのあも無視すればいいのに、いちいち反応するからさー」
「いや、だって何? ってなるでしょーー!」
「ま、遊びやすくなって良き!」
「華蓮が喜んでくれて良き!」
と、言いながらキャイキャイしていると、そんなわたしに声をかけてくる猛者が現れた。
「あれ、菅谷じゃーん! ってか、うわ! その服アンスタとかでみたことあるやつ!」
クラスメイトの男子3人組だ。
あーこいつらは男子じゃなくて、バカだったわ。
「シッシッ! りのあはあんたらチープな人間が話しかけていい人間じゃないよ!」
と、華蓮がジト目であっちいけとやっている。
「んでだよ! クラスメイトなんだしいいじゃねーか!」
「まぁあんたら男子ってかバカだしね」
「なんだとー菅谷――――」
と、こっちに近寄ってきたが、ちょっと離れたところで止まった。
「ダメだ。これ以上は近づけねぇ」
「は?」
「その服から発せられるバリアに俺が持ってるポテトが引っかかってる」
「うーーーーけーーーーーるーーーーーー」
と、華蓮も友達も爆笑しだした。
要は、手にポテトを持ってたバカたちは、気にならない雰囲気を出しては見たものの、絶対高いであろうとわかっている為、これ以上近寄ってもし汚しでもしたら大事だということだろう。
「く……だって、その服明らかに高そうじゃん…!」
「んー10万ぐらいだね」
「やーーーーべーーーーー!!! そんな洋服汚しでもしたら、絶対怖い人でてくるだろ!!」
「いや、出てこないけどさ…あはは」
そう言いながら、一人の男子の肩をポンポンって叩いたら、「ヒッ」と言って肩を引いた。
「待ってーーーーー、めっちゃうけるんだけどぉぉ!! 私も頑張ってこういう服買おうかな…」
と、華蓮が言うと、他の友達も「まじで、本当それだわぁ!」と爆笑しながら言ってる。
「ま…ま…待て! 落ち着け! 菅谷は元から別次元だからいいが、お前らまでこんなになっちまったら、俺ら一生彼女出来ねーじゃねーか!」
「はああああーーーーーー? なんでうちらだったら彼女にできると思ってんだよー! お前らの相手なんかぬいぐるみで十分だわーーーー!」
と、クレーンゲームでとったぬいぐるみを華蓮は投げつけた。
まぁ結局その後も7人でゲーセンで遊んだんだけどさ。
わたしが近づくと「こ…こっちに来るな…!」というバカどもは本当うけた。
暫く遊んで、華蓮がご飯食べていきなよ! ということで、毎回華蓮の家に行くとごちそうになっていたので、久しぶりにごちそうになることにした。
華蓮の家に移動しているときに気が付いた。
一人暮らし歴が長くて、そこら辺勝手にやってたけど、危うくお母さんに連絡を忘れるところだった。
家族LIMEに、
『友達の家でご飯食べていくことになったので、わたしの夕飯は大丈夫!』
『わかったわよ~あまり遅くならないようにね~』
『了解!(スタンプ)』
『遅くなりそうだったらお父さんか新に迎えに行かせるから連絡してね~』
『把握!(スタンプ)』
と連絡して、皆で華蓮の家で夜ご飯をごちそうになり、またしばらく喋って20時ごろに電車に乗って帰った。
家に帰り、お風呂に入って、明日のことをあっくんに伝えに行った。
「あっくん、明日11時家出発!」
「りょ…了解…。ど…どこ行くの?」
「秘密! おやすみ!」
そう言ってあっくんの部屋を出て自分の部屋に戻り、華蓮と少しやり取りしてSNSをみてその日は寝た。




