【菅谷莉乃愛視点】母の暖かさ
久しぶりに会ったあっくんは、私よりも背が高く、少し細い。昔の面影はなんとなくあるが、前髪も長くてあんまりよく顔が見えない。
でも、すごく優しい。なんかちょっと挙動不審なところもあるけど、あっくんだ。
あっくんに家まで連れていかれる間、手を繋がれた。
男子と手をつなぐなんて、正直小さい頃のあっくん以来だからなんか少しドキドキした。
家に入ると、お母さんが出てきた。
あ、あっくんのママだ。
昔より少し歳はとってたけど、その頃のママの雰囲気のままだ。
わたしのお母さんは、割とサバサバした感じで、男っぽいところもあった。
対して、あっくんのお母さんは、お母さんという感じなのだ。
その上、表情も話し方も柔らかく、なんだかほわっとするような感じが大好きだった。
その後、あっくんに連れられて、あっくんの部屋にはいった。
そんなあっくんの部屋は、なんというか、殺風景。
やたらと机の周りの設備が充実していて、モニターも2つ設置されていて、横にはマイクらしきものもある。
一体何をやってるんだ?
そんなことを思ったが、連れられるがまま、そんな机の前のなんだか大きな椅子に座らされた。
そのあと直ぐに、膝の上にパーカーがかけられた。
あぁ、確かにここに座るとパンツが見えちゃうかもしれない。
その後、あっくんにこれまでのことを話した。
まとまりのない話を、時折質問を挟みつつ、あっくんは真剣に聞いてくれた。
そして全てを話した後、あっくんは対策を考え出した。
「んーんー。」と言って考えるあっくんは、前髪を横に流していて顔がはっきり見えていて、正直カッコよかった。
一体なぜこんな、気を使ってない感満載の雰囲気になっているのか全くわからない。正直もったいない。
そしてあっくんは、自分だけでは解決できないとあっくんのお父さんに相談してくれた。
お父さんが帰ってきた後、一連のこれまでの出来事をあっくんが要約して話してくれた。
そしたら、あっくんのお母さんが泣いて抱きしめてくれるから、なんかその温かさがお母さんが死んで以来本当に久しぶりで、わたしも泣いてしまった。
あっくんのお父さんは、あっくんと少し話した後直ぐに誰かと電話をして、「もう、大丈夫」と言ってくれた。
本当に安心した。
ってかあっくんとお父さんの会話が、もはやお父さんと息子の会話というより、上司と部下みたいな感じで、びっくりした。
あっくんのお父さんから家が危ないからと言われ、しばらくあっくんの家に泊まり、学校も休むことになった。
学校にも一緒に説明してくれると言っていた。
なにより驚いたのはお母さんだ。
「娘が欲しかったのよー」と、買い物に行くことやらなんやら本当に喜んでいる。
でも、それがなんか本当の娘に接してくれるみたいで、嬉しかった。
次の日起きてリビングに行くと、
「おはよ~りのあちゃん。朝ごはん食べるでしょ~?」
とキッチンからあっくんのお母さんが話しかけてくれた。
「あ、はい、いただきます」
「今持って行くからダイニング座って待っててー」
と言われたので、ダイニングに座ってると、焼かれたトーストとコーンスープをお母さんが持ってきてくれた。
「急だったから、大したもんじゃないんだけど~」
と、キッチンに戻っていき、サラダやドレッシングを追加で持ってきてくれる。
「あ、いえ、全然大丈夫です。ありがとうございます。いただきます」
そう言って、コーンスープを一口飲んだ。
こういっちゃなんだが、特になんてことのない普通のコーンスープだったけど、朝起きると朝ごはんを誰かが準備してくれる。ソファーではあっくんのお父さんがコーヒーを飲みながらスマホを見ている。
こういう空間が久しぶりで、なんだかすごく気持ちがあったかくなった。
そう言って、食パンを食べたら、
「え、美味しい」
「あ、本当! よかったー! これわたしも大好きでよくお父さんに買って帰ってきてもらうのよ~。ながみの食パンなのよ~」
「あ、アンスタで見たことある」
そう、ながみの食パンと言えば、高級食パンで有名だ。
食パンにそんな値段出す? とアンスタで見た時思ってたが、普通のスーパーで売ってる食パンとは全然違う。
なんだかもっちりしていて本当に美味しかった。
「りのあちゃんパン派? ご飯派?」
そうあっくんのお母さんが聞いてきたので、
「ん~、正直何でもよくてコンビニばかりだったのですが、パンの方が多かったかもしれません」
「それじゃあ、美味しいパンまた買ってきてもらわなきゃ! あなたよろしくねー!」
そうお母さんがいうので、「ふふふ」っと笑ったら、
「やーっと笑ってくれたわねー! 本当に自分のお家だと思っていいからね?」
「あ、はい、ありがとうございます!」
「ふふふ、そうそう、その調子! それに、敬語じゃなくて大丈夫よ!」
「あ、いや、それはおいおいで…」
と、失笑していると、お母さんもふふふと笑ってくれた。
そうして朝ごはんも食べ終わり、お母さんがわたしの制服を乾かしてくれていると、あっくんが起きてきた。
普通に挨拶をすると、なんと返ってきたのは敬語だ。
一体どういうこと?
と、思ったらお母さんが説明してくれた。
説明によると、あっくんは陰キャらしい。
相当慣れないと会話できないってどんだけ?!
ってか昨日あんだけ喋ってたのに?!?!
ってか、陰キャってお母さんがそんな明るい感じで伝えることだっけ……?
そう思っていると、あっくんのお母さんが追加で説明してくれて、制服が乾いたということだったので、受け取って寝室に着替えに行った。
家を出る前に、あっくんに、「いってくるね」とだけ声をかけて、チラッとこちらを見てくれたが、直ぐに目線を落としてしまったのでそのまま家を出た。
あっくんのマンションの駐車場に行くと、あっくんのお父さんが車を出入り口近くに止めて待っていた。
うわー、この車めっちゃ高そうー。ってかあっくん家ってお金持ちだったんだ…。
「りのあちゃんごめんね~、新あんな感じで~」
車に乗り走り出したら、前の席に座ったあっくんのお母さんが話しかけてきた。
「あ、いえ、ちょっとびっくりしました。昨日あれだけ喋ってて、小さい頃もよく遊んでたのに…」
「昨日の感じだと、小さい頃に遊んでたからりのあちゃんは大丈夫なのかな~と思ってたんだけど、やっぱりダメみたいね~」
「いつからなんですか?」
「んーいつからかしら? 小学校高学年とか? ほら昔からゲームばかりしてたじゃない? その頃にお年玉をためたお金でパソコン買ってから、あんな感じになっていったのかなぁ~」
「そ、そうなんですね…確かにわたしと遊んでた頃からゲームしてましたもんね。しかし、なんかこうあれなんですね、お母さんとかは何も言われないんですね」
そう言うと、あっくんのお父さんが、
「うちは勉強だけちゃんとやったら、基本悪いことじゃなければ何をやるのも自由って感じにしてるからね。」
「そうなんですねー。昔から習い事も結構やってたし、なんかもっとこう厳しい感じなのかと思いました」
「あはは、それはお母さんが人見知りで大勢のところに行きたくない。だけど、あっくんに友達は作ってあげたい。という問題を、お金で解決してた感じだねー」
と、あっくんのお父さんが答えると、「あはは…」とお母さんが苦笑いしていた。




