記憶の中の幼馴染
白風あげはさんの中の人、中里雪菜さんから相談されてから1カ月。
その間もいつも通りに配信は続け、あげはさんのコーチング配信の終わりに状況を聞いたりもしながら、他の女性配信者の方を教えたりもしていた。
流石にゴールドにこの前なったばかりですぐにプラチナへというわけにはいかないが、あげはさんのOPEXは着実に上手くなっていった。
俺も自分がおろそかにならないようにしないと思い、ソロでランク配信をやったりした。
そのおかげか女性配信者の皆様のおかげか、10,000人以降も登録者数は増え続けもう13,000人ぐらいまでになった。
そんなある日のコーチング配信の終わりに、あげはさんから少し話したいと言われた。
「おつかれさまですあげはさん。」
「おつかれさまです! アークさん今日もありがとうございました!」
「いえいえ! そろそろランク的にショットガン上手くならないときつくなると思うんで練習しなきゃですねー」
「ですよねー。接近戦焦っちゃうんですよね…」
「まぁそこは慣れなんで、今度練習しましょう!」
「了解です! それで、お話ししたいことなんですが」
「はい、なんでしょう?」
「……白風あげはは転生してホロサンジ所属になることになりました!!」
「おーーー!! おめでとうございます!!」
「ありがとうございます!」
「でも、転生なんですねぇ。それもそうなのか。転生以外で移籍的なの見たことないし」
「いや、それなんですが、活動中の人の引き抜きは初めてだと事務所の方は仰っていて、転生になったのは同じあげはという名前の人がいるからってのが理由なんですよ」
「あー、なるほど。確かにがっつり活動中の人の所属移動って見たことないかも。そもそも炎上したとか、伸び悩んだとかそんな流れになるから転生するのか」
「詳しいことはよくわからないですが、ただ私今そこまで伸び悩んでいなくて、炎上もしてなくて、転生する理由がないんですよ。」
「確かに、いわれてみたらそうですね。でも同じ名前は流石にどうしようもないですね…」
「そうなんです、それで、ホロサンジの人に一つお願いしたんです。白風あげはの最終配信で転生を告知したい!って。それでオーケーがでたんです!!」
「おー、なんというか斬新ですねーー。転生の告知、転生の告知…ぶふっ」
「なんで笑うんですかーーー」
「いやだって想像してくださいよ。よくあるアニメで転生するときって、魔法陣とかで連れてかれるじゃないですか? あれが、「私今度転生して〇〇になりますー! ××日だよ!」みたいな感じになるとうけませんか? なんて都合のいい魔方陣だと…(笑)」
「いや、それを言われれば、ふふ、面白いんですが、私の場合は純粋にリスナーさんをだましたくないだけなんです!」
「わかってますよー! あげはさんのリスナーさんいい方ばっかりですもんね!」
「そうなんです!」
「あげはさん優しいですし、きっと皆さん受け入れてくれると思いますよ!」
「そうだといいんですが、少しドキドキです!」
「そりゃそうですよねー」
「また、詳しいことが決まりましたらお伝えしますので、アークさんも最終配信来てくださいね!」
「了解です」
「では、今日もありがとうございました!」
「ありがとうございましたー」
そう言って配信を切りゲームを切った。
あげはさんはホロサンジとなると、いよいよ大物配信者に近づいていくんだろうなぁ。
おれももっと登録者数伸ばすかなんかしないとなぁ。そんなことを思いつつ眠りについた。
次の日学校では相変わらずの直人がいて、
「妹に雪菜さんの連絡先を教えてもらう交渉がいよいよ大詰めだ」
「ほー、あの妹さんをよくそこまで引っ張れたね。箸にも棒にもかからなそうだったのに」
「ふっ、なめてもらっちゃ困る。おれはこの為に、投資していた株を一部売却した」
「交渉ってか買収じゃねーかよそれ」
「買収も交渉の一つだ」
「んで大詰めってことは話が進んで来たってことなの?」
「うむ。最初俺からの提示は、絶対欲しがっているであろうベレンシアガのバックだ。」
「うわー、いきなり攻めたな…」
「そう…意表をついて一発着地で決めようと焦った結果で、これはよくなかったと後悔したが、後悔してもしょうがないのでおれはそのまま突き進んだ」
「アホだな…」
「妹はいきなりの一手にビビってたが、どうもおれの予算に余裕があると踏んだらしく、追加でボーバリーのワンピースとベレンシアガの帽子を要求してきた」
「兄弟でなにやってんだよ…」
「流石のおれもびっくりしたが、背に腹は代えられんと悩みに悩んだ末に了承した。そうしたところ、なんと妹がまさかの変化球をもう一球投げてきやがった」
「もうそのまま現金渡せばいいじゃん…」
「「あ、そういえば彩春ちゃんも欲しいものあるって言ってたなー? 雪菜さんって彩春ちゃんのことすっごい信頼してるんだよなー」と」
「お前の妹頭良くねーかそれは。兄貴の金で友情の醸成まで図りに来てんじゃん」
「おれはもう負けを悟り、一つだけ何が欲しいか聞いてくれ…と返し今日にいたる…」
「まぁわかったことはお前がバカだってことだわ。それ総額いくらかかるの?」
「正直30万~40万かかるかもしらん…」
「それで手に入るのが雪菜さんの連絡先だけ。なんかもはや不幸だな」
「いや! 雪菜さんの連絡先にはそれぐらいの価値がある!!」
「いや、俺にそう言われても…俺知ってるし…」
「ぐあああああ、むかつくぅーーーー!」
「まぁご愁傷様です。」
そう言っておれが帰り支度を始めると、直人がそのまま話し出した。
「てか、奢りじゃなくていいからこの後ラーメン食いにいかね?」
「んー、いや今日は帰ったら動画配信するからやめとくわ」
「いや、お前昨日もそういって帰ったじゃねーか…」
「まぁ、そういうことなんでー」
「ったく、ラーメンは彼女が一緒に行ってくれねーんだよ!」
「そんなこと俺に言われても…」
そう言いながらおれは、バイバイと直人に手を振って駅に向かった。
帰りの電車の中で、おれももう少し稼いでおかないとなーと思い、あげはさんがホロサンジに行った後も、お知り合いになった女性配信者の方と配信を続けてみようかなとか考えながら、駅を降り歩いていると家についた。
我が家は、小学校の跡地に作られた低層階マンションだ。
小学校の跡地だから、敷地は広大なのだが、高層階にすればもっと収益性上がったのにと思う。
ただどうも「ゆとりを持った作り」というのがコンセプトだったらしく、広い敷地なのに低層階で広い中庭や平置きの駐車場と言ったなんというか無駄に贅沢な作りになっている。
受付も常駐しており、我が家も4LDKで140㎡ほどある。
まぁ俺が買ったわけじゃないし、エレベーター待ちの時間がほとんどなくて気にいってはいる。
そして、マンションのエントランスホールには、いくつかのテーブルとソファが置いてありウェイティングスペース的な感じになっている。
マンションにこれいるのかなーと昔から思っているが、そんなエントランスホールをいつもの受付の人に会釈し通り過ぎようとしたとき、ウェイティングスペースのソファに座っていた女の子が顔をあげた。
「………あっくん…!」
「助けて…!」
そう言って泣き出してしまった女の子。
その泣き方を見て、ふと思い出した。
「え…もしかして、りの…ちゃん?」
それは、小さいとき近くに住んでいるからとよく一緒に遊んだ幼馴染の菅谷莉乃愛だった。




